MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』ゲ
ストは大森靖子ーー満たされることの
ないふたりが、苛立ち、葛藤しながら
も貫き通した美学と表現

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第三十六回目のゲストは大森靖子。これまで接点こそ多くはなかったものの、ほぼ同じ時期に音楽活動を始めて、シーンの中で異端であり続けていたふたりは、お互いに惹かれ合っていたという。流行や周りに流されず、常に己の美学と表現を貫き通してきた両者だからこそ、この日の対談では共鳴する話題が多かった。特に、今回のキーワードとなるのは「消費」という言葉だ。一体、どんな会話が繰り広げられているのか、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』ゲスト:大森靖子
「こんな感情があったんだ」というのを可視化するために
自分ができる表現は何だろう、とずっと考えてる
アフロ:さっき「この企画の対談相手は、自分で考えてるの?」と聞いてくれたけど、そこに着目するのはさすがだよね。
大森靖子(以下、大森):あ、本当?
アフロ:「スタッフじゃなくて自分で意思決定してんの?」ということでしょ。
大森:そうだね。
アフロ:大森さん自身が、自分で舵をとり続けてきた人だから、そこを見てるんだなと思った。
大森:ただ、意外かもしれないけど私は「この人が好きです」とか「この人と対談したいです」とか、最近になってようやく言えるようになったの。基本的に、ある程度は先方にセッティングしてもらって、周りのスタッフだけ固めることが多かったから、ちゃんと自分で行けてすごいなと。
アフロ:言えるようになった理由は?
大森:ライブという現場に足を運ぶには、ハードルがたくさんあるじゃん。今は映像という素材が当たり前にあることとか、フライヤーや写真があることが手軽になっているから、自分からもちゃんと情報を提示しないと。ライブに来てもらうに当たって、ただなんとなく面白いものがあるかもしれないというものに、お客さんはbetできないよね。だから関係性を知ってもらって、そのイベントや対バンで何が行われるのかを、説明する義務があるなって。
アフロ:そこまでのドラマがないと、お客の心が動かんぞということか。
大森:それ以上に、そういう体があれば言えるということだね。やっぱりシャイなところや、カッコつけていたい性格は変わんないんだよ。でも「みんなのため」と思えば行ける。
アフロ:「みんなのため」という大義名分に救われることは俺もあるわ。ちょっと違うけど金のためというのも同じくらいあって。自分の理想を100%追求できない仕事において疲弊してしまった時、「俺はこのクソったれな世界で金を稼いで、強かに逞しく生きていくんだ」というある種、俗物的な気持ちを肯定して地に足がついた感覚があった。ちなみにMOROHAは今年で結成15周年になるんだけど、周年とか打ち出してメモリアルにしようとするのシャバいなと思う?
大森:でも、何か企画を打つ記念と思えばさ。
アフロ:そうなんだよね。どこかで周年を使ってご祝儀もらおうとするのがシャバいなと思いつつ、15周年というタイミングでこっちを向いてくれる人、喜んでくれる人がいるという大義名分を作ればいいなと思った。
大森:それがないと「一緒にやってください」と言いにいけないのはあるよね。普段から言えばいいのにね。「一緒に音を鳴らしたいです」って、それだけなのにさ、それが言えないよね。なんでだろう?
アフロ:フラれた時のことを想像すると、怖いとかあんのかな?
大森:でも、MOROHAは結構2マンをやってるでしょ?
アフロ:仮に向こうが俺らを好きじゃなくても、「俺が好きだから」と。そう言ってる自分が嫌じゃないと思うようになってきた。
大森:それこそ(アフロは)「この人とやりたい」という気持ちが強いし、色んな音楽を知ってるよね? 私はもうちょっと閉じこもってるかも。特定の1人を追い続けるタイプだから、道重さゆみさんの公演が1週間あったら行ける限り行きたいとか、銀杏BOYZのライブも全部行こうとか、そういう感じ。
アフロ:惹かれ続けているアーティストは、道重さんや峯田(和伸)さんとか数えられるぐらい?
大森:むしろ、それだけだね。この前は銀杏BOYZを見るために山形に行ったし、いまだに遠征をガンガンする。
アフロ:ゴイステ(GOING STEADY)の時は、周りの女子が「ゴイステすごくいい」と言っていたのに、銀杏になった瞬間にそういう人達が引いていった。「それを見て、より好きになった」と大森さんの自伝(『かけがえのないマグマ』)に書いてあったんだけど、俺はそのエピソードがめっちゃ好きでさ。みんながそっぽを向くようなモノに対しての好奇心は昔から強かった?
大森:そういう好奇心もあったし、やっぱ天邪鬼だった。あと嫉妬もあったと思う。学校の男の子達がバンドをやってて、それこそ「佳代」をバンドで歌って「めっちゃいい曲!」みたいなことを女の子が言って。その頃から私はバンドをやりたかったけど、それを言うことができなかった。楽器を弾けないし、持ってないしね。それに基本的に好きなバンドは男だったからキーも違う、みたいな。バンドをやってる男の子達はCDの貸し借りとかしていたけど、いわゆる一軍の子達だったから、私も加わったら一軍の女子に怒られる。「やりたいのに」とむしゃくしゃしてた。その共有されていたものがそっぽ向かれたことによって、私のものになった感覚があったんだ。
アフロ:俺は大森さんの曲を聴いてて、端に追いやられた人達を肯定し続けている印象があってさ。音楽のライブは自由に見えて、ジャンルによって鉄板のやり方ってあるじゃん。ここでこれをやれば盛り上がる、みたいなパターン。そういうものに対して「楽をしやがって、絶対に許さんぞ」と思っている気がしたの。同時に同調圧力にハマれない人の居場所になるというか。大森靖子というアーティストは、土俵から作らなきゃいけなかったと思うんだよ。ルールから作らなきゃいけなかった。だから既にルールがあって、パターンが用意されていて、同じような盛り上がり方に安心している人に対するアンチテーゼを、大森さんの歌と存在から感じていた。だからすごくシンパシーを感じていた。この前の『CONNECT歌舞伎町』のライブもまさに、予定調和とか、こうなるだろうなというところに向けての反抗を感じたんだけど、その中で一つの美しき矛盾を見つけたの。コール&レスポンスをしたじゃない? あれはまさに予定調和の代名詞。ただ、そのコールの内容が「私が一番可愛いよ」だった。あのフレーズはコール&レスポンスでお客に言わせる意義があると思ったんだよ。普段それを言うのは、めちゃめちゃ勇気がいる。その勇気を引き出すための装置としての存在を引き受けた大森靖子……と思ったらむちゃくちゃ感動したのよ。
大森:面白いよね? 私が「私が〜」と言ったら大森靖子のことになるのに、客が「私が〜」と言ったらお客さんのことになるんだよ。それこそステージに立ってる時に、自分が装置でありたい気持ちが強くて。誰かの感情を掬いたいんだ。「こんな感情があったんだ」というのを可視化するために自分ができる表現は何だろう、とずっと考えてる。それができたら「やっぱり人生は綺麗だったよね」と言えるなって。それをやろうとすると「これをやったら、ある程度盛り上がるよね」だと成立しない。別にいいんだけど、私じゃない人がやるから要らないかなと。
アフロ:あれが「セイホー」だったらどれだけ楽か。でも、そんな楽はさせてくれないんだよね、この装置は。あの日、隣で観ていた女の子が「私が一番可愛いよ」と言ってる時の横顔が忘れられないのよ。究極の自己肯定じゃん。俺自身、安易なコール&レスポンスが嫌いだからこそ、すごい力を感じて感動した。大森さんのは意味や理由があるし、お客を肯定したい強い気持ちとアイデアが伝わったからすごくよかった。
他を押しのけてでも自分が前に出なきゃいけないシーズンがあった。
その時に一番キラキラして見えたのが大森さんだった
アフロ:振り返ると、初めて会ったのが新代田FEVERで。大森さんはSHIBUYA CLUB QUATTROでやるワンマンのフライヤーを配ってた。その頃、俺は全員を敵だと思ってたし、隙あらばマウントをとってやろうとする弱い人間だったから「大森靖子だ」とわかってたけど「知らないよ? 誰?」みたいに装ってたのよ。
大森:ハハハ、何それ!
アフロ:でも、そんな俺にもちゃんとフライヤーを渡しに来たんだよ。当時の俺の捻くれた考え方で言えば、俺の勝ちじゃん。差し出される方が偉いと思ってるわけだから。でも今思えば大森靖子の圧勝だよ。先手を打った方が、気持ちを先に差し出した方が勝ちなんだから。あの時の俺はカッコ悪かった。アーティストは偉そうにしていなきゃいけないと思ってた。
大森:でも、普通に上だったからMOROHAが。
アフロ:いやいや、そんなことないよ。
大森:本当だよ。MOROHAがカッコいいと周りのみんなも言ってた。
アフロ:そうか。じゃあこっちはこっちで、同じことを感じていたわ。前にあたそさんと対談したよね? その時に「MOROHAが好きで、彼らっぽい曲作ろうと思って「Over The Party」を書いた」と話してくれた。そういう記事も俺はちゃんとチェックしてんのよ。だから、ずっと交わらないんだけど、少し遠目の隣をずっと走ってる人という感じで見てた。
大森:私たちはMOROHAが好きだし、MOROHAみたいな曲をみんな1度はやるんだよ。でもちょっと下の世代で「絶対にMOROHAやん!」というのをやってる人達は MOROHAが好きって言わないじゃん。家でテレビを観てる時も「MOROHAだよ、これ!」とつい言っちゃう。
アフロ:「ちゃんとリスペクトあんのかよ!」って?
大森:ハハハ。「好きって言ってやれ!」ってね。
アフロ:なんかね、俺の中ではとにかく他を押しのけてでも自分が前に出なきゃいけないシーズンがあったの。その時に一番キラキラして見えたのが大森さんだった。
大森:本当? じゃあ、お互いがそう見えていたんだね。みんなギラギラしていたけど、その中でも限られてはいた。「絶対に」という希望でやってるふうにお互いが見えていたんじゃないかな。この人は行くなって。
「若い女の子がロックを歌ってるのが好きなんだろ!」と思っていたけど、
BiSの研究員さんたちと喋って考えが変わった
アフロ:アイドルがライブハウスシーンに進出してきた時があったじゃん。俺の中で事件だったの。それまでロックが好きだった大人達が「今はロックの現場よりアイドルの方が面白い」と言っててさ。それを聞かされるのがめちゃくちゃ悔しかった。
大森:うんうん、私も悔しかった。
アフロ:さらに腹が立ったのは、そこにすり寄っていくバンドマン達。一緒にやること自体はいいけど、戦いに行くんじゃなくて馴れ合おうとしてるように見えてさ。今思えば別にいいじゃんと思うんだけど、その時の俺は許せなくて。アイドルに心許しちゃいけないと思ってた。そんな中、大森さんはシンガーソングライターであり、ロックバンドであり、アイドルでもあるという、いろんな顔を持ってるでしょ。蓋を開ければ、それぞれに大森靖子が集約されているんだけど、その時はそれも分からなかったから「あいつもあっち側に行ったのか、何なんだよ」と思って苦しかった。
大森:ももクロ(ももいろクローバーZ)さんとか韓流アイドルが注目されたあたりから、「女の子がアイドル好きっていいよね」というカルチャーになってきて。その時に優遇される女ヲタもいたけど、私はおじさんの方が輝いて見えたの。要はおっさんのヲタ。ライブハウスに来る以前のライブから通っていた、あの人達こそ真のヲタで、私はヲタクと言える人物じゃない。そこへのコンプレックスがめちゃくちゃあって。おじさんになりたい気持ちで生きていた一方で、のうのうと「ももクロちゃんいいよね」と女子が言い出したことに対して、10代の私は「うわー!」となったのね。しかも、アイドルが私の大好きなロックバンドのライブハウスにも進出したもんだから、「なんてこった、違うんだ!」という気持ちが最初は大きくて、すごくショックだった。
アフロ:でも、そこからBiSとか他のアイドルと邂逅していくよね?
大森:それは本当に偶然で、まさにBiSがキッカケだったの。青森で『夏の魔物』というフェスがあるでしょ? 現地へ行くのに足がなくて、自分のファンだと思って「私も車に乗っけてください」と言った相手がBiSの研究員で。その研究員の車に間違って乗っちゃって、そこで運転手があやや(松浦亜弥)をかけていたの。「あやや、いいっすよね!」と言ったら「大森さん怖い人だと思っていたら、意外とアイドルへの造形が深いんですね」みたいな感じで仲良くなっちゃって。そしたらBiSの研究員が、みんな私のステージを観に来てくれて。そこからなんだよ。
アフロ:運転してくれた人が「大森靖子のライブを観に行こうぜ」と声をかけてくれたんだ。
大森:そうそう。泊まるところがないから前夜の打ち上げというか、研究員の作戦会議の場に私もいて。その場が盛り上がっちゃって、次の日はみんなライブに観に来てくれて「CDないの?」「特典会はないの?」みたいな感じになって、そこからだね。私も「そっちに行きやがって!」とか「結局、若い女の子がロックを歌ってるのが好きなんだろ!」と思っていたけど、研究員さんたちと喋って考えが変わった。面白いことがしたいだけか、とわかった。
いまだに「女にプロデュースは無理だ」とか
「女が次の世代を育てるのは無理だ」とか、いっぱい言われる
アフロ:ちなみにバイトはしたことある?
大森:あるよ。コンビニの夜勤とか高校の頃はガストの厨房。夜勤は相方が一人だけで、その一人と喋れたらしのげるから、パチンコが趣味の相方だったら話しを合わせなきゃいけないと思って、お金がない中で1パチ(1円パチンコ)に通ったりして。野球好きな人がいたら、自分も球場に通うようになったりとか。
アフロ:野球はハマった?
大森:結構ハマったね。西武ファンなんだけど当時は小平市に住んでいたから、よく西武球場に行ってた。球場の売り子さんって、膝を真っ黒にしてビールを売ってるのよ。売れてる売り子さんほど膝をつくから膝が真っ黒。それを見て美しいって何だろう?と思った。野次も面白いし、全部がいいんだよね。おかげでWBCも楽しめた。ストーリーを知ってると楽しめるよね。あと、お客さんを見ちゃう時が結構あって。球場に行ってさ「東京ドームで1公演できるアーティストはどんな人か」と考えたら、超売れてないと無理なわけじゃん? 「選手たちはそこで毎日試合をやってるってヤバくない?」とか、そういうことを考えた。エンタメとしてシンプルに負けてるな、とか。
アフロ:比較の話で言うとさ、ディズニーランドのチケット代とか、ああいうのをめっちゃ気にするんだよね。自分のライブのチケット代と比べた時に、すごい焦ったりする。
大森:この前、とあるアーティストさんと喋ったんだけど「自分の先輩が(チケット代)この値段で、後輩がこの値段だから自分達はこの値段にしなきゃとか気にしてる」と言ってて。私はチケットの金額を気にしたことがなかったけど「なるほど!」と思っちゃった。確かに見え方とか気にするよね。
アフロ:チケット代の情報が出た時に、値段で引かれないような価格帯は考えるかな。逆に貰う話で言うと、昔フェスの主催者で「5人組のバンドに対しては1人頭5万円の計算でギャラを25万払うけど、お前らは2人組だから10万ね。それが公平だ」みたいなことを言った人がいてさ。「メンバーが多いし、その分それを支えるスタッフも動かないといけないから、これだけのギャラになっちゃう」とミュージシャン側が提示するのはいいけど、主催者側が頭数ありきでギャラを決めるのは超腹立つなと思って。バンドが5人がかりでやってるところ、俺らは2人、大森さんは弾き語りであれば1人でステージを作り上げてるわけじゃん。つまり一人につき2.5倍とか5倍も働いてると思ってほしいよね。それでめちゃめちゃ喧嘩した記憶がある。
大森:昔は、普段バンドでいいパフォーマンスができますという人たちの、ソロバージョンとの対バンがめっちゃなかった?
アフロ:俺はそういうの絶対嫌だった。
大森:めちゃくちゃ嫌だったよね。だってバンドでやって100%の人達じゃん。
アフロ:そう! そもそもバンドで演奏する前提で作った曲じゃん。そこにこだわりはないの?と思う。「バンド最高!」とか「このメンバーで鳴らす音こそが」と言ってるくせに。ボーカルひとりがアコギで歌って、完全体の俺達とやりあえんの?みたいな気持ちがそもそもある。案の定、しょうもないもんを見せられたら本気でムカつくよね。しまいには「今度はバンドでやりたいね」と言われた時には、絶対に許さない!と思った。
大森:わかるわかる。そんな毎日だったよね。
アフロ:それこそさ、アコースティック・ステージのスピーカーがショボくて、バンドよりもステージが小さいことにめっちゃムカつかなかった?
大森:ムカついたよ! しかも「転換の時にここでやってください」とか言われて。
アフロ:今思い出してもカッカしてくるもん。フェス主催者に「この人ら(主催者側)はアコースティックをどう解釈してるんだろう?」と勘繰っちゃう時があるもん。
大森:BGMみたいな気持ちで捉えられると、本当に傷つくよね。
アフロ:そんなところから這い上がってきた我々が、ライブで負けていいはずがないよね。だから俺は1人でステージに出て行く人に対して、すごいリスペクトがあって。俺らは2人だから、駄目だった時に責任を半分ずつにわけ合える。もちろん人数でひとつの音を出す素晴らしさもあるんだけど、それは音楽的な話で。人間の勝負として、1人で出て1人ですべてを引き受けるのはすごいよね。
大森:多分、私は向いてるんだよ。人とやる時もあるけど、難しいなって思う場面がいっぱいあるもん。
アフロ:家に帰って、その日のライブを思い返して「うわー!」と叫びたくなることはある?
大森:「ちょっと時間を気にしちゃったな」とか「あそこはもっと行けたな」とかはあるけど、それは人生と一緒で。全部自分で選んでるわけじゃん。自分が選んだ時点で間違いじゃない。もう選ぶという所作自体に間違いなんか絶対ないから「こうしなきゃよかった」は思わないけど「あっちだったらどうだったかな?」とかは、人生でもライブでも同じように考える。
アフロ:人生において、あっちに行ってたらどうなっていたかなと思う場面ある?
大森:あるよ。「この人とは関わっちゃいけない人生だったんだ」は、やっぱりあるなと分かってきた。でも、それは人対人じゃない。人対人として関わっちゃいけないことは絶対にないんだけど、自分が守るべきプロジェクトがあるし、そこにたくさんの人の生活、人生、夢が関わっている。そういう点において、関わっちゃいけない人生っていっぱいある。
アフロ:自らプロデュースもしてるもんね。
大森:それで言うと「これは女にできない」と言われてることって、いっぱいあってさ。最近は女の人がプロデュースすることも増えてきたけど、それでもまだ「女にプロデュースは無理だ」とか「女が次の世代を育てるのは無理だ」とか、いっぱい言われる。だけどさ、全部やりたいと思っちゃうんだよね。言い方が悪いかもしれないけど、嘘つきで成り立ってしまう音楽業界になったらまずいでしょ? やっぱり自分みたいな人間は居続けないと。居続けてくれないと困る。
消費しても消えない自分がいるから、
「この部分は勝手にどうぞ」と思う人が前に出るよね
アフロ:俺はもう1回、容赦なき罵声が飛んでくるような場所に身を置きたくてさ。そこにしか新しい曲を書けるような自分がいないんじゃないか、と思っていて。だから今、テレビのバラエティとかのオファーも積極的に受けようと思っているのよ。大森さんはテレビってどんな印象?
大森:いや、無理だよ。私は向いてない。
アフロ:どうしてそう思うの?
大森:出るたびに凹んで帰る。それに、ある程度の答えが用意されてるじゃん。こういう番組で、こういう流れに持っていきたいから、この人にはこう回答してほしい、みたいな。それを絶対にやりたくない性格だから、うまく行きようがないよね。
アフロ:流れをぶっ壊しちゃおうと思ったことはある?
大森:でもさ、壊すことを望まれてる? 望まれたらやるし、それなら爪痕を残せるかもしれないけど。
アフロ:……望まれるか。あのさ『オールナイトフジ』って番組知ってる?
大森:うんうん、懐かしいね。めっちゃ好きだよ。
アフロ:4月から『オールナイトフジコ』という名前で復活してさ。佐久間(宣⾏)さん、さらば(青春の光)の森田(哲⽮)さん、オズワルドの伊藤(俊介)さんがMCで、15人の女子大生が雛壇に座ってるっていう座組。その番組の初回放送で服を着たまま女子大生がサウナに入ってトークをするって企画があったのね。そうなると案の定「もう暑いから脱ぎます」と言って女子大生がノースリーブ姿になるのよ。脱ぐ瞬間にスタジオにいる男達が「うわー!」「エロい!」と盛り上がってるのよ。俺もいいなぁ!テレビで見るエロはオツだなあ!なんて思ってるわけだけど、どこかで「消費される女子大生」と「それを面白がる大人の男達」という構図が引っかかったりするわけ。だけど女子大生達はさ、そこでキッカケを掴もうとしてるわけじゃん。
大森:「消費させてる」と思う人が出てるだろうね。消費しても消えない自分がいるから、「この部分は勝手にどうぞ」と思う人が前に出るよね。
アフロ:そう! 番組を踏み台にしようと思ってるよね。その逞しさと野心に対してエールを送りたいなと思うの。俺の中には、構図としての違和感とそこで夢を掴もうとする人に熱くなる気持ち、2つが矛盾してるんだけどその中で嘘をつかずにライブしたいなと思ってる。それはこの世の中の縮図な気がするしね。
いい感じに歳を取れてるよね。
ここに行きつけなかったら結構キツかったんじゃないかと思う
アフロ:音楽をやっていて、今までで一番嬉しかった夜ってある? 
大森:やっぱり、道重さんや峯田さんとステージに上がったのは嬉しくて忘れられない。あと、峯田さんとテレビに2回出たんだけど、1回目は峯田さんに頭を噛みつかれて結構やられたなって感じで終わったから、その次は蹴ってみたんだよね。そこで1つやり取りができたと思った。「噛みつかれて蹴る」って、言葉にすると猿でもできる喧嘩みたいに思うかもしれないけど、自分の中では峯田さんがバンドメンバーとやっていたことを、後輩として掻き立てたいから、それを少しできたのかもしれないと思うと、嬉しかった。何より、好きな人との対バンで自分がいいライブをしたら、相手もいいライブをしてくれる可能性があるじゃん。自分の後にいいライブをしてくれたら、一番嬉しいよね。
アフロ:後攻はカウンターを打つ側になるよね? でも、カウンターって先に打つ人がいないとできないわけで。
大森:だから先攻でどれだけ煽れるかが楽しい。
アフロ:昔は先攻で出たら、後攻が俺らに呑まれて崩れていくのを見て達成感を感じてた。でも今は先攻で出て向こうが綺麗に打ち返した時に「そうだよ! そういうことだよ!」みたいな気持ちになる。
大森:「価値のあるライブになりましたな!」というね。
アフロ:そうそう。そう考えたら、いい感じに歳を取れてるよね。ここに行きつけなかったら結構キツかったんじゃないかと思う。
大森:キツかったし、最初にちゃんとバチバチやっていないとこれもできなかったと思う。最初から「お互い楽しみましょうよ」という気持ちだと「自分だけ煽っといたんでヨロシク!」って気持ちになっちゃって。それをやったら、お客さんも引くのが分かんなかったと思うから、全部に間違いはない。
「人生の格を上げるのが仕事」なわけじゃん
アフロ:それでも「今日は後ろのバンドがやる気をなくすぐらい、ボコボコにしてやる」という日もあるでしょ?
大森:あるよ、フェスはそうだね。
アフロ:ちょっと調子こいたことを言うけど、俺達のライブって圧倒するじゃない? ただ圧倒してもお客が「次のライブ行こう」とならないパターンがあるよね。
大森:そこで満足して終わることがあるね。
アフロ:「すごいもんを見た」というのが、次に繋がらないこともある。それは最近めっちゃ感じるんだよな。圧倒したけど、次のライブに行きたい!となるのはあっちのバンドなんだろうなとか。
大森:それは致し方ない。でも「人生の格を上げるのが仕事」なわけじゃん。お客さんの人生を預かってるからしょうがないんだよ。人生を預からないでいい方が楽だったら、そっちに流れるしかないから。そういう人もいるし、しょうがない。
アフロ:人生の格を上げるのが仕事、か。めちゃくちゃ良い言葉だな。
大森:芸術家はそうでしょ? 
アフロ:言うなれば、ボーリングには毎週行きたいけど、座禅は年に1回しか組まないみたいな。我々は座禅を組むようなことをやってるんだ、という解釈だよね。
大森:そうだね。合わないかもしれないし、来てくれないかもしれないけど、やり続けることに意味がある。私は自分にそう言い聞かせてる。
アフロ:なるほどな。でも大森さんがその考え方を持ちつつ、理解者の檻に閉じ籠らないで外に向かい続けたのもすごいね。危うくその考え方に甘えちゃいそうにもなるじゃん。
大森:女だからだと思うよ。女は辞めちゃう人が多いから「自分はそうならないように」とか、そっちに行っちゃうかもとか、その可能性を感じたから沈みきらないように気持ちを持って行ってるんだと思う。
アフロ:「ひらいて」の<共感されなきゃ 感情じゃないかな>という感覚は、ずっと大森さんの曲に流れてるよね。ただ、これに共感する人がいる、不思議が生まれる。
大森:そうなんだよね。
アフロ:バズったりするわけじゃん。それって嬉しい?
大森:どうだろう? 別にキラーフレーズのつもりで書いてないけど、バズったりとかして。「そこなんだ、分からないもんだな」という気持ちかな。
アフロ:「共感なんかされない」と言ったことが共感されて、みんなと一緒になりたいんだけど、一緒になったらなったで一緒になっちゃったな、みたいな。ずっとその感じがあるじゃん。それは居心地が悪い?
大森:ずっと居心地悪いね。
アフロ:今は結婚して家族ができたけど、それによる変化はあった?
大森:それとこれとは関係ないかな。家族ができたところで、この満たされなさは別のポケットにある。それで満たされる人間の方が楽だったと思うよ。
アフロ:そのポケットが発生した原因は何だったの?
大森:もともとだね。それで幸せになれる人間じゃないから、恋愛は暇つぶしでやってるだけだという感覚がずっとある。全然ロマンチックじゃないでしょ?(笑)。でもね、こっちがあるから、いくらでもブーストをかけられる。フルテンで行っても死なないからさ。私が恋愛でいくら傷つこうが「死んでやる!」と言おうが、同じように「絶対死なないぜ!」と思ってる。
アフロ:テレビに出てる女の子たちと同じ感覚だ。そこを消費されたとて、自分には別に揺るがないものがある。
大森:うん、その感覚で生きてる。
アフロ:それを世間に知ってもらうのは、めっちゃムズイね。
大森:そう。絶対に消費されないモノがあると分かってるから、「どうぞ消費してください」とやってる人の気持ちなんて分かられようがない。だから「傷つけられてる」とか「消費されてかわいそうと見られるの嫌だ」って気持ちがあるわけじゃん。そこを考えると、システム的にはぐちゃぐちゃだよね。私はその気持ちを持ってる人を、好きになることが多くて。だから19、20歳くらいの頃はグラビアアイドルの子ばっかりを推して、よくイベントにも行ってた。
アフロ:「消費されない軸がある逞しさ」に惚れるということか。それを象徴的に表したのは小池栄子さんだと思ってるの。あの人はグラビアから始まって、だんだん服を着てバラエティタレントになって、今では大河ドラマ(『鎌倉殿の13人』)で北条政子を演じて、『クレイジージャーニー』では松本(人志)さんと設楽(統)さんの間に座り、『カンブリア宮殿』で村上龍さんの横に座り、その成り上がり方たるや見事としか言いようがないよね。でもあの生き様の強さに憧れはするけど強すぎて共感されづらい、と考えると結局エンタメは強い人間たちのモノなのかもしれないね。
「若さという価値」じゃないモノでちゃんと評価されることができるから、
早く30代になりたいと思ってた
アフロ:この前、俳優の斎藤工さんと話す機会があって。工さんは映像監督もやっていて、ある作品の現場にフードコーディネーターの方が必要だったらしいの。でも、お願いした方に「子供が産まれたばかりで、参加するのは無理です」と言われて。前々から工さんは、女性が映画関係の仕事について、子供が理由で「仕事か子供か」を選ばなきゃいけない状況はおかしいと思っていたらしくて。それで、意を決して撮影所に託児所を作ったんだって。その時は子供を持つ女性スタッフさんが3人いたから、結構予算はかかるけど3人のシッターさんをつけた。でさ、打ち合わせの時に子供が後ろではいはいをしてるんだって。その光景を見て「新しいページを見てるような気がして、自分のモチベーションがすごく上がった」と言ってて。これは俺たちにも通ずる話だなと思うのは、お客に子供ができたら、どうしてもライブに来づらくなるじゃん。自分は年を取っていくのに、ライブハウスに来る10代20代に向けて曲を作っていかないといけないとなるとさ、どうしても無理が生じてくるでしょ?
大森:うんうん。お客さんと一緒に歳をとっていけたら良いよね。
アフロ:そのためには、子供が産まれたお客も来れるような……例えばライブハウスのフロア外の安全なスペースにマットを引いたりして、子供がそこで遊べるようにできたら、子供を連れてライブハウスに来れるようになるのかな?とか。大森さん、この前のライブにお子さんを連れてきたでしょ? それも俺はすごくいいなと思ったの。
大森:アイドルグループもやってるんだけど、いつも楽屋で子供とメンバーが普通に遊んでるんだよ。その光景がめっちゃ良いなと思ってて。メンバーに子供がいるのを、みんな普通に受け入れている。「今日来ていいよ! 来た方が楽しいじゃん!」と言ってくれるのがありがたいなと思う。
アフロ:まさに人生の格を上げる行為だよね。みんなもそうだし、お客さんにとっても「子供がいるアイドルを推すってアリなんだ」という前例を作れる。
大森:私のファンの人に「結婚するから引退するというタイプの人じゃないことは、もう分かってるから。安心して推せます!」と言われた。
アフロ:いいよね、新しい前例ができていくことはさ。年を取ることに対しては、どんなふうに感じてるの?
大森:20代の頃は、年齢を重ねれば「若さという価値」じゃないモノでちゃんと評価されることができるから、早く30代になりたいと思ってた。早くおばさんになりたいと思っていたら、おばさんにはならなくて、どんどんメンタルがおじさんになった(笑)。でも、よく考えてみると、アイドルを応援していて「ああなりたいな」と思ってたヲタク像にはなれてるかもしれない。それこそ自分の大森靖子性を、自分のおじが必死に守っている感覚があるんだよね。今の年齢になって、おじになった自分が昔の自分を頑張って守ってる。
アフロ:肯定してあげているということ?
大森:「君がいなくなったら歌えないんだよ」みたいな。
アフロ:この部分は消費させないぞ、ということだね。おじの部分だったらいくらでも消費して良いけど。
大森:そうそう。
アフロ:「30代だったら本質を見てもらえるんじゃないか?」と同じように、規模がでかくなればなるほど、流行りで「好き」と言われるんじゃない?と思うことがあるんだよ。武道館(『MOROHA日本武道館“単独”』)に立った時、「今拍手してくれてる人達は、武道館のステージに立ってる俺たちだから拍手くれてるんじゃないか?」と。同じ曲をお客の通勤途中、路上で俺らが歌っていたとして、MOROHAを知らない状態でも同じように拍手が貰えるか? それぐらいの演奏ができてるか?という疑いが自分にある。それが行き過ぎるとデカい会場で盛り上がってるお客の反応を、信じきれない時があるんだ。
大森:すごいひねくれてるじゃん! 羨ましいと思ってたけどね。ソロで武道館をやったことないから。
アフロ:あえて立たない人だと思ってるけど。
大森:超立ちたいよ。ただ、無理にやってもしょうがないから。
アフロ:そうなんだよね。俺らも武道館をやったけど、少なからずご祝儀的な思いで来てくれたお客もいてくれて成功した。本来はそういう武道館は不本意だったんだけど、それもいいんだよ、やってみた人間として言うけど。それもいいよ!
大森:それだってカッコいいよ。私なんて卒コン(『NEVER TRUST ZOC FINAL』)というブーストをかけたからね。
アフロ:一番カッコいい武道館はさ、チケットが即完して、やれて当然の武道館じゃん。
大森:意外とそれができなかった自分が嫌いじゃないというか。夢に描いてるモノは絶対にあるわけじゃんか。センターステージに1人で立って、全部弾き語りでやったりとか。そんな夢があるのに、初めての武道館がそうはいかなかったとか、実力が足りなかったとか、人間的に劣ってたとか、何かが欠落していた自分がいたとか。でも立ったぞという。「理想の形じゃないと立ちたくない」というプライドをへし折ってでも立ったぞ、という自分が嫌いじゃない。
アフロ:それは最近の感覚じゃない?
大森:立ってみて思った。ZOC(※現在はMETAMUSEに改名)のライブでメンバーに「私の時間を作らせてください」とお願いしてさ。終わってみたら、そうした自分もいいなと思えた。
アフロ:いろんなモノに対して、「これも伏線だ」と思ってるところもあるだろうしね。うまくいかないところから始まってる自分が、未だにうまくいかないなと思いながらやれてることの幸せさに、俺も幸か不幸か気づき始めてる。
大森:本当にそうだね。「自分にはここが足りない」を続けていくと糧になる。「足りない続ける」ことも必要なんだよ。
ーー対談から2日後、MOROHAは『オールナイトフジコ』に出演。彼らの代表曲「革命」を披露し、ラストでUKが演奏を続ける中、アフロはひな壇に座る女子大生たちの視線を背中に受け止めて激を飛ばした。「欲望渦巻くフジテレビに、誰もがキッカケを掴みに来てる! 道を開こうとしてる! フジコガールズが、今日も何かしらの未来を開こうと、テレビに、カメラに、しがみついてる! 俺も負けたくないと思うよ! 佐久間宣⾏を踏み台にして! 掴め! 掴め! 掴め!」。笑いの現場で、その歌は間違いなく違和感だった。でも、ひな壇に座る女性達の涙を見た時、彼女達の心のファスナーが開く音がした。
取材・文=真貝聡 撮影=森好弘

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