なきごと、初ワンマンに見た漲る自信
「あなたがいつまでもついてきたくな
るようなロックバンドでいます!」

1st Full Album『NAKIGOTO,』Release Tour2023

2023.4.30 渋谷CLUB QUATTRO
「聞かせて!」
1曲目に演奏した「憧れとレモンサワー」のラスサビの直前に水上えみり(Vo,Gt)が観客に呼びかけ、1曲目からシンガロングが起こった。しかし、極端なことを言ってしまえば、シンガロング云々はどうでもよくて、微塵の躊躇いもなく、「聞かせて!」と呼びかけた水上の自信に満ちあふれた姿に筆者は、いきなり気持ちを持っていかれたのだった。
今年1月11日にリリースした1stフルアルバム『NAKIGOTO,』――新曲10曲に代表曲12曲を加えた全22曲をCD2枚に詰め込んだボリュームを、この日、水上は「1stフルフルアルバムみたいな感じなんですけど」と表現したが、その『NAKIGOTO,』をひっさげ、全国各地を回った計13公演のリリースツアーがこの日、東京・渋谷CLUB QUATTROで、なきごと初のワンマンライブとしてファイナルを迎えた。
初のワンマンライブを渋谷CLUB QUATTROで開催するにあたって、客席が埋まるのかちょっと不安だったと水上は正直な気持ちを語ったが、蓋を開けてみれば、そんな杞憂とは裏腹に見事ソールドアウト。この日、渋谷CLUB QUATTROには700人以上が駆け付けたという。ぱんぱんになったフロアを見ながら、「ソールドアウトしてびっくりしたでしょ?」と尋ねた水上に対して、「当たり前!」「実力!」という観客の声がフロアから飛んだ。
コロナ禍の中でも止めなかった活動が実り始めたようだ。そして、なきごとは自分たちだけを見にきた700人に終始、ライブバンドとして格段に成長した姿を見せつづけた。今回のリリースツアーがいかに充実していたかが窺える。
観客のシンガロングとともに作った熱気をさらに熱いものにしようと、頭打ちのドラムと岡田安未(Gt,Cho)が掻き鳴らすギターがそれぞれに聴く者の気持ちを駆り立てる「ぷかぷか」「連れ去って、サラブレッド」と繋げ、ライブの流れを一気に加速させたところで、「今日、ここにいる人はみんなニンゲン’ s(なきごとのファンの愛称)です。よろしくお願いします!」と水上が声を上げ、披露したのが、言葉をたたみかける水上のラップ調の歌と岡田の小気味いいカッティングがリリース当時、新境地をアピールした「D.I.D.」。リリースから約1年7ヵ月、その「D.I.D.」がいつしかライブに欠かせない曲になっていたことを、サビ直前の「行けますか!?」という水上の言葉に観客全員がワイパーで応える壮観な景色を見た筆者はこの日初めて知る。
そこから、ワウとチョーキングを駆使したエモーショナルなギターソロがバンドアンサンブルに熱を加えたグルーヴィーな「おまじない」、音色にコーラスを掛けたスピーディーな単音リフをはじめ、オルタナ風のギターサウンドも聴きどころだったアップテンポのロックナンバー「ユーモラル討論会」と岡田のギタープレイが際立つ2曲を繋げ、フロアを揺らしながら、さらに熱気を作りあげていく。そんな前半戦の流れをダメ押しで盛り上げたのが、ラテンロックな魅力もある「Summer麺」だ。
「ジャンプできる!?」と観客のアクティブな反応を引き出す水上の言葉の投げ方もすっかり板に付いてきた。
鳴りやまない拍手が今一度、なきごとを大歓迎する。
「ちょっと不安だったけど、私たちの音楽があなたに届いている様子を見ることができて、QUATTROでワンマンやってよかったと思います」(水上)
前半戦の熱狂から一転、一息つくように、いや、ストンと印象を胸の内に落とすように中盤は「アノデーズ」と「春中夢」というじっくりと聴かせる2曲を披露。「春中夢」はバラードと言える楽曲ながら、スリリングな休符を大胆に生かしたり、アカペラパートを交えたり、奔放なギターソロを轟かせたり、終盤、拍子を変えたりと、王道のバラードに差を付ける、ある意味エキセントリックともプログレシッブとも言えるアレンジで圧倒したという意味で、ハイライトの一つだったと記しておきたい。
「声が出せるようになったら、一緒に歌いたいと思っていた曲です。その約束を、せっかくのワンマンだから今日えてもいいですか?」(水上)と観客と一緒に歌った「ひとり暮らし」、「ツアー中、各地で愛をいただきました。東京のバンドだから、東京でもいただきたい。手を叩くことで愛を伝えるってことでいかがでしょう?」(水上)と手拍子を求めた「私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない」。その手拍子がやまないまま、水上が伸びやかなハイトーンボイスで歌うメロディが胸を焦がした「メトロポリタン」――。
後半戦は観客を巧みに巻き込むステージングがライブバンドとしてのスキルアップを印象づけながら、前半戦以上の熱気を作っていった。しかし、単に楽しいの一言だけで終わらないのがなきごとだ。《ハレモノになった ハレモノになった》というリフレインに駆り立てられ、溢れ出てきた激しい感情に突き動かされるように水上が歌い、それに呼応するように岡田のギターが高熱を放った「ハレモノ」。そして、フォーキーな魅力もあるポップソングながら、リバービーなサウンドでサイケデリックな音像を作り出した岡田のギターをはじめ、《悲しみの輪廻(サイクル)が いつか僕の番も来る その時に迎えに来るのは luna… 君がいい》という歌詞のストーリーを表現することを重視したアレンジが「春中夢」同様、なきごとが持つプログレッシブな魅力を印象づけた「luna」。その2曲でバンドが持つ熱量を今一度アピールすると、そこからさらにノスタルジックな「Oyasumi Tokyo」に加え、メランコリックな「癖」とスローテンポの2曲を繋げたところになきごとが持つ底力みたいなものを感じずにいられなかった。
特に後者は歌詞、曲調ともにバラードとも言える曲ながら、演奏に熱を加えるようにトレモロピッキングでかき鳴らした岡田のギター、「最後の曲だからしっかりあなたに伝えたい」と、別れた恋人に対する未練を込めた《あなたがいつ帰って来てもいいように 部屋を片付けて待ってる》という歌詞を、観客との再会の約束に変えながらぐっと思いを込めた水上の歌声ともにバラードと言うには、あまりにも圧倒的なエネルギーに満ちていたのである。
「最高の時間をありがとう! あまりにも終わらせたくなさすぎる。重大発表があります!」(水上)
なきごと史上最大キャパとなる7月29日の恵比寿LIOQUIDROOMワンマンを含むリリースツアーの追加公演『おわらせたくないツアー』を、7月に名古屋、大阪、東京の順番で開催することを発表したアンコールは、「おわらせたくない」「シャーデンフロイデ」の2曲に加え、時間が巻いたため、予定になかった「深夜2時とハイボール」の計3曲を披露。その「深夜2時とハイボール」は「歌えたら一緒に歌ってもらえる?」と言った水上に応え、サビのシンガロングから始まった。これまでライブでこの曲を聴くたび、コロナ禍中のライブだったこともあるせいか、なきごとの凄みみたいなものを感じていた筆者はこの日初めて、この曲が幸福感に満ちたなきごとのライブアンセムであることを知る。楽しそうにこの曲を演奏する水上と岡田を見られたことも、個人的にはこの日の収穫の一つだった。
「色々動きが決まってきてるので、あなたがついてきてください。あなたがいつまでもついてきたくなるようなロックバンドでいます!」(水上)
明らかに成長を遂げたリリースツアーと、そのツアーファイナルのソールドアウトという成果が最後の最後に導いたのは、来るべき大きなブレイクの予感。なきごとはここからどんどん大きな存在になっていきそうだ。

取材・文=山口智男 撮影=ニッタ ダイキ
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