意地と人情と仁義を貫く男たちの「人
生劇場」~舞台『仁義なき幕末 -令和
激闘篇-』ゲネプロレポート

2023年4月27日(金)サンシャイン劇場にて、舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』が開幕した。映画『仁義なき幕末 –龍馬死闘篇-』のその後を描いた本作は、脚本・演出の毛利亘宏が完成した映画から受けた衝撃に従い当初の構想を全て捨てて新たに筆を執ったという意欲作。それは、正統派の任侠モノの匂いに包まれた、意地と人情と仁義を貫く男たちの熱く燃える「人生劇場」であった。
初日前に行われたゲネプロと会見のコメントをレポートする。

派閥闘争の最中に突如仲間たちと幕末へタイムスリップ、死闘の果て、ひとり令和の世に舞い戻ってきた大友一平(和田琢磨)。不在の間に守るべき村田組は敵対する錦旗会の勢いに押され今や組員もまばら、解散の危機を迎えていた。一平は誰にも言えない喪失感を抱えながらも恩人である亡き組長に報いるべく現状の巻き返しを誓うが、今度はなんと坂本龍馬(松田 凌)と中岡慎太郎(赤澤 燈)が “時の旅人”として目の前に出現! さらに土方歳三(石黒英雄)、沖田総司(本田礼生)、原田左之助(小野健斗)、桂 小五郎(岡 宏明)らも後を追うように令和へと降り立ち、敵味方に分かれての命がけの抗争が激化していくのだった——。
舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
登場人物たちはとにかく一触即発、暴れまわることで生きている実感を享受しているような男たちだ。銃と刀、刀と刀、拳と拳……と、バリエーション豊かなアクションシーンの迫力とスピードは凄まじく、序盤から一瞬たりとも目が離せない。もちろん、ただ暴れているのではなく、その痛ましい躍動にはヒリヒリとした命のやりとりが刻み込まれ、一人ひとりが背負う生き様が映し出されている。グレーを基調としたセットは直線的でシンプル、小道具などもほとんどなく舞台上はほぼ俳優たちのみという潔いスタイルもまた、この世界観に非常にマッチしていた。
舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
松田の龍馬は明るくおおらかで感情豊か。登場するたびにグッと観客の目を引きつけて離さないパワーがある。赤澤演じる中岡の芯の強い軽妙さとも相まったコンビ感も心地よく、ふたりは劇中における陽だまりのよう。一方、石黒の土方・本田の沖田・小野の原田という新選組は「誠」で結ばれたチームワークと令和においてもブレない武士道、命への向き合い方のなんたるかを見せてくれる風情がある。また、令和の裏稼業で生き生きと立ち回る岡の桂も策士で、タイムスリップも瞬時に受け入れてしまう幕末の人間たちの適応力の強さ、自分を生きる迷いのなさに胸がスッとなる瞬間も。
舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真

舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
一平の部下・尾崎水月役の木津つばさの若さだけを武器に突っ走りすぎてしまう三下感、錦旗会のボス・北園郷蔵役の吉田メタルの怖さと猥雑さがない交ぜとなった存在の強さ、密かに下克上を企む錦旗会・若松総太郎役の柏木佑介の読めない生き様も、それぞれが異なったスパイスとしてヤクザ社会の人間模様をプンプンと匂わせてくれる。映画に引き続き一平と龍馬の前に立ちはだかる“狂戦士”・伊達唯臣を演じるのは鈴木勝吾。独特の高貴さと美意識を漂わせるその姿はまさにラスボスだ!

舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
そしてカオスとなっていく物語の真ん中を担ったのが、一平を演じる和田。存分に荒ぶりつつも、拭いきれないスマートさと悲哀を纏った孤独なファイターを熱演。乾いた心、飢えた魂を持て余しながらもがく愛おしさと人間臭さを私たちの胸に魅力的に焼き付けてくれた。
冒頭こそ「ヤクザ✕幕末✕タイムスリップ」というファンタジー要素に目を奪われそうになるが、物語が進むにつれそのミスマッチの面白さよりも「今、目の前に生きている人間たち」の汗だくの生き様に一点集中して心奪われていくのが本作の真骨頂。だからこそ、戦うことしか知らない男たちの中で凛と立つ水谷果穂演じる小夜、荒川ちか演じる謎に包まれた人物・蘭月童子は、いわば、命のやりとりに翻弄されていく男たちの哀しさや愚かさを写し出す鏡のようにも思えてくる。
舞台『仁義なき幕末 -令和激闘篇-』舞台写真
逃げ道や言い訳を用意せず、自分が見つけた「仁義」に従って生きる男たちの姿は不器用だし、時代遅れだし、昔気質かもしれない。でも時にはそこにしか生まれない“『仁義なき』”ロマンを追い求めてみるのも悪くないのではないだろうか。
囲み会見コメント
■大友一平役:和田琢磨
僕自身、若い頃から憧れてきた任侠の世界に自分が演者として携われることをうれしく思います。演出の毛利さんとご一緒するのは今回が初めてだったのですが、稽古序盤から自分の感じたことや思ったことを遠慮せずお聞きし、毛利さんも一生懸命耳を傾けてくださり、すごく対等な作品づくりができました。もちろん舞台だけでも十分楽しんでいただけますが、映画とセットでご覧いただくことで、より楽しめる作品になっているんじゃないかなと思います。大阪の千秋楽までひとりも欠けることなく全員で完走したいと思いますので、お忙しい中かと存じますが、劇場まで足を運んでいただき、僕らの熱量を感じていただければ幸いでございます。
■村田恭次(坂本龍馬) 役:松田 凌
俳優をやらせていただいていると、自分が幼い頃より夢見てきた世界を演じさせていただくことがあります。それは、大きな責任を伴うものではありますが、そのプレッシャーとは各々の俳優陣が超えていかなければいけない壁であり、本作においても全員が熱き心を持ってこの『仁義なき幕末』に臨んでいます。任侠と幕末が重なり合った世界を、我々俳優陣がどう演じるか、ご来場いただいた皆様に刮目していただければ幸いです。映画から始まった東映ムビ✕ステ『仁義なき幕末』もこの舞台をもって終わりを迎えますが、ここから幕が上がり、公演を重ねていくことで、さらに見出せるものがある気がしています。皆様に楽しんでいただけるように最後の最後まで板の上に立ちますので、ついてきてくださるとうれしいです。
■大友小夜役:水谷果穂
私は今回が初舞台になるので、どんな感じになるのか、初日を迎える今もまだドキドキしています。見どころは、何と言っても殺陣です。ただ激しいだけではなく、それぞれのキャラクターの個性が出た殺陣になっていますし、お兄(和田琢磨)と恭次さん(松田 凌)が揃って戦うシーンは最強感があって、稽古場で見ながらすごいなあと圧倒されていました。私自身の見どころとしては、歌うシーンがあるのですが、その中の1曲に毛利さんが「自分の中の精一杯のセクシーを出し切って歌詞を書いた」とおっしゃっている曲があります(笑)。私も最大限の色気を出せるように頑張りますので、ぜひ楽しみにしていてください。
■作・演出:毛利亘宏(少年社中)
本作の見どころは俳優の一言に尽きると思います。『仁義なき戦い』シリーズの菅原文太さんや田中邦衛さんのように、これからの演劇界を背負って立つ俳優たちと意見を出し合い、一緒に頭をひねりながら作品をつくることができました。その光景はまさに“仁義なき稽古場”と呼んでいいと思います。そんなクリエイティブな稽古場から劇場へと場を移し、今こうして初日の幕が上がりました。これから俳優それぞれのぶつかり合いによって、どんどん作品の可能性が膨らんでいくことを楽しみにしています20歳の頃、『仁義なき戦い』シリーズにどハマりしていた身としては、東映さんのもとで『仁義なき』と名のつく作品をつくれることが何よりの光栄です。その名に恥じぬ作品ができているのではないかと思いますので、ぜひご期待ください
取材・文=横澤由香

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着