独断と偏見で選ぶカワカミー賞発表!
 [Alexandros]川上洋平、2022年のベ
ストムービーやベストアクターを語る
【映画連載:ポップコーン、バター多
めで PART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は独断と偏見で選ぶ「2022年カワカミー賞」を発表。いくつかのジャンルに分けてのそれぞれのベスト作品やベストアクター、そして新設させた偏愛特別賞を発表します!
予想外に良かったで賞:『バイオレント・ナイト 』
最初はさすがにB級感が過ぎると思ったし、クリスマスシーズンでもないので、観る気分にならなかったのですが、公開された時期に観たい映画がそんなになかったのと、とにかく周りの評判がすごく高くて。既に続編が決定しているっていうこともあって観たんですけど、予想外に面白かったんですよね。観る前は『バッドサンタ』に近いのかなと思ったんですけど、もっとエグかった(笑)。かなりブラックでグロいけど笑える。『バッドサンタ』の主人公は仕方なくショッピングモールのサンタになったけど、『バイオレント・ナイト』は本物のサンタが主人公。いかにしてサンタがサンタになったかが説明されたりするので勉強にもなったりする。元々は海賊みたいなことらしくてかなり強い(笑)。でも強すぎないし、超能力的なものはそこまで持ち合わせてなくて、なかなか見応えがありました。ぶっ飛んだサンタをモチーフにした映画の中では最上位です。
『バイトレント・ナイト』より
この映画の製作会社が87ノース・プロダクションズっていうところで、最近だと『ブレット・トレイン』とか『Mr.ノーバディ』とか、破茶滅茶なんだけど、どこか可愛げのある作品を作っている印象がありますね。A24がマジの良作を提供する会社なら、87ノースはとにかくぶっ飛んだ作品を作る会社のイメージ。『バイオレント・ナイト』で完全にそのイメージが付きましたね。でも上記の2作よりも面白かったので、“予想外に良かったで賞”にしました。
『バイトレント・ナイト』より
ベストロマンス賞:『コンパートメントNo.6』
これは本当に素晴らしい映画でした。大きな事件が起きるわけじゃないロードムービーで、ぼんやりした雰囲気が良かったなあ。あからさまなラブストーリーも良いけど、好きではないけど好きになりかけの手前の手前の手前を行ったり来たりする絶妙な距離感が新しかった。大人というより、青年期手前のラブストーリーですね。舞台は90年代のモスクワで、主人公はフィンランド人の女性。僕からするとあまり馴染みのない地域がベースになっているところも非日常感が味わえて個人的に好きでした。フィンランドのアカデミー賞と言われるユッシ賞を7冠取っていたり、その他にもたくさん賞を取っているのにも納得ですね。近年の中で一番のラブ手前のストーリーです。
『コンパートメント No.6』より
ベストホラー賞:『呪詛』
かなり怖いっていう評判だったんで、「ホラー好きとしては観ておかないと」って思ってNetflixで観たんですけど。いやー久々に目を逸らしましたね。怖かった!(笑)。『パラノーマル・アクティビティ』みたいなPOV(撮影者がひとりの人物として物語に登場することにより、視聴者がまるで疑似体験しているかのような錯覚を覚える作品のこと)ホラー系ということは予告で知っていたのでそこが躊躇したポイントだったけど、観て良かった。あの手の映画、多すぎるので……。Netflixの予告って、割と続きがあまり気にならない動画になってるっていうか、「なんでこのシーンを抜粋するんだろう?」みたいなところがあるんだけど、『呪詛』の予告は「これはヤバそう」という内容になっていて、そして予想を超える怖さで参りました(笑)。
『呪詛』より
台湾の映画ですけど、日本の恨み呪い系のホラーとはまた微妙に違って、得体の知れない不気味な怖さがあるんですよね。正体がわからない対象物に恐怖を感じる人と感じない人がいると思うんですけど、日本人からしたら例えば遊園地みたいなノリがあるスプラッター系のホラーはびっくりはするけど、「後味悪いなー」とまではいかなかったりする。あと、悪魔が出てくるホラーに対して、「かわいい」と思う人もいると思うんですが(笑)、僕の場合、触れたことがないので逆にすごく気味が悪いんですよね。アル・パチーノとキアヌ・リーブスの『ディアボロス/悪魔の扉』とかデンゼル・ワシントンの『悪魔を憐れむ歌』とか。他にもいっぱいありますが、どれも怖いですね。一方、日本の呪い系のホラーの多くは恐怖の対象物が元々人間なんですよね。何かを恨んだまま亡くなって悪霊になる、という流れで。変な話、よく考えるとなんで取り憑いたり、悪さをしてるか気持ちはわかるんですよね。でも悪魔の何が怖いって、悪事を働くことに対して理由がないところだと思うんです。純粋に悪だから、恨みや怒りという感情で動いてない。病原体みたいなものですよね。だから鎮めるには神の力を借りなくてはいけなくて、そうなってくると宗教が多分に絡んでくる。こうなるとさらに怖くなるんですよね。『呪詛』もそういう怖さがあります。アジア系ホラーなのに馴染みがない恐怖が終始忍び寄ってくるから、本当に怖かった。是非ご覧ください(笑)。
『呪詛』より
ホラー賞の次点は、2022年上半期のカワカミー賞の“ベストやりすぎで賞”に入ってた『哭悲(こくひ)/THE SADNESS』。これも台湾の映画ですが、疫病の感染者たちが暴れるスプラッター系。いわゆるゾンビもの映画と捉えれば良いと思います。ただ、そのゾンビが少し風変わりで、人間の心が残ってるから人を食べてる最中に泣いているという。なんとも不気味な設定だなと思いました(笑)。だからタイトルが“THE SADNESS”なのかなと。そしてもうとにかくグロくてグロくて爆笑しました。これはほとんど目をつむってるか、爆笑してるかのどっちかですね。私は後者でした(笑)。モラルゼロの映画で最高でした。
※2022年上半期カワカミー賞はこちら
『哭悲/THE SADNESS』より
ベストサスペンス賞:『ナイトライド 時間は嗤う』
これは2022年上半期にも紹介しましたが、ずっと心に残っていました。かっこいい映画。好みです。ロックダウン中の北アイルランドを舞台にワンカットで撮影されていて、ワンカットだからこそ途中でちょっとしたトラブルも起きて、それもそのまま収められているところにもグッとくる。映画制作魂がビシバシと伝わってきます。レビューを見ると「退屈なシーンが多い」って書かれてたりするんだけど、こういう映画の醍醐味はひとりの人間の人生を垣間見る面白さにもあるので、そういう声を取っ払うぐらい他の場面が良かったですね。あと、ショートフィルムっぽかったです。ショートフィルムの良さって説明をかなり省いて物語の大事な部分に集中させると同時に、省かれている部分を視聴者に対して強制的に想像させるところだと思っているのですが、まさに通ずるところがあると思いました。表現したいことを突き詰める潔さがあるっていうかね。「余計なことを考えないでここを楽しんでください」と、暗黙の了解で訴えかけている感じ。近い時期に公開されていた同じワンカットものの『ボイリング・ポイント/沸騰』は、割と緻密に流れを作って伏線を回収したりするんですけど、『ナイトライド』は粗さがある。でもそれこそがハードボイルドな魅力にも繋がってる気がします。あと、音楽がすごくかっこよかったです。エンディングが特にね。94分間という時間を感じさせないぐらい、疾風のごとく過ぎ去る感じがかっこよかったな。
※『ナイトライド 時間は嗤う』を取り上げた回はこちら
『ナイトライド 時間は嗤う』より
ベストサスペンス賞の次点は『NOPE/ノープ』。元々ジョーダン・ピールが大好物なので。シャマランもそうだけど、不思議で不気味な映画を作りますよね。そして「頼む! 面白くあってくれ! いいオチであってくれ……!」という謎の気持ちで新作を迎える両監督でもあります。特にシャマラン(笑)。『NOPE』はこれまでの作品と比べて差別問題がそこまで前面に出てなくて、SFが強めでユニバーサルな作品に仕上がっています。ジョーダン・ピールはコメディアン出身で、昔のコントを見たこともあるんですけどすごく面白い。それでいて皮肉がものすごく効いているので、映画作品に活かされているなと思います。キーガン=マイケル・キーっていう同じくコメディアンの人と一緒に『キー&ピール』っていう番組をやっていて、そこでのコントもすごく面白いので是非観てほしいですね。
※『NOPE/ノープ』を取り上げた回はこちら
ベスト助演女優賞:ドリー・デ・レオン(『逆転のトライアングル』)
『逆転のトライアングル』で一番印象に残った人がこの方でした。セレブを乗せた豪華客船のトイレの清掃員役ですね。その豪華客船が無人島に漂流して、魚を取ったり、料理ができるのが彼女しかいない、ということでいきなりメインキャラクターとして浮上してくる。そこでヒエラルキーが逆転するわけですけど、その展開にびっくりしました。イケメンのモデルを手玉に取り、性的にも従えていく様は見応えあったな。演技も良かったけど、インパクトがとにかく強かったです。
※『逆転のトライアングル』を取り上げた回はこちら
『逆転のトライアングル』より
べスト助演男優賞:セス・ローゲン(『フェイブルマンズ』)
『フェイブルマンズ』というと、アカデミー賞ではミシェル・ウィリアムズが主演女優賞、ジャド・ハーシュが助演男優賞にノミネートされてました。ただカワカミー賞はあくまでも個人的な独断と偏見で選んでいるので、受賞はセス・ローゲンです! 『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』とか『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』とか、ブラックコメディ映画を作ったり出演したりしている印象が強いですが、『フェイブルマンズ』ではそのお調子者感が抑え目になっていて素敵でした。あの憂いのある雰囲気は、実はお互い想い合っているミシェル・ウィリアムズの演技力の功績もあるんでしょうけど、セス・ローゲンの新境地を知りました。スピルバーグのセンス抜群だな。キャスティングはしてないかもしれないけど。あと、単純に『フェイブルマンズ』は本当に良い映画でした。
『フェイブルマンズ』より
ベストアクトレス:アンドレア・ライズボロー(『To Leslie トゥ・レスリー』)
日本での公開は6月なんだけど、僕は海外行きの機内で観ました。わかりやすいぐらいの感動作ではありますが、「ここまで来たらもう感情委ねます」っていう気持ちになります。それぐらいストレートに泣かせる映画。アンドレア・ライズボローはアル中のシングルマザーの役で、這い上がり方さえもわからないほどボロボロな状態。アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされてましたけど、この役のアンドレア・ライズボローは狂気じみていて本当にすごかった。今回のアカデミー賞は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が完全に主役で、主演のミシェル・ヨーが主演女優賞を取ったのも良いとは思うし、同じアジア人として誇らしかったですが、個人的なことを言うとアンドレア・ライズボローが一番良かった。でも『TAR/ター』はまだ観れてなくて、あのケイト・ブランシェットもすごそうだなって思ってます。
ちなみにアンドレア・ライズボローがノミネートされたことについて、アカデミー会員へ直接作品をプッシュしたことがルール違反なんじゃないかっていう声が上がっていて。僕としては、「キャンペーンに使う予算がないインディーズ映画がそういうことをやるのがそんなに悪いの? 別に良いんじゃないの?」って思ったりもしました。そんなちょっぴりいわくつきの作品ですが、本当に良い映画なのでいろんな人に観て欲しいですね。
『To Leslie トゥ・レスリー』より
ベストアクター:コリン・ファレル(『イニシェリン島の精霊』)
僕は昔からコリン・ファレルのことが好きなんですけど、10代の頃からアルコールと薬物に依存していて、所謂不良俳優だったんですよね。役としても『マイアミ・バイス』とか『S.W.A.T.』とか『フォーン・ブース』とか『リクルート』とか、悪そうな雰囲気を活かすような役柄が多かったんですが、ある時期干され気味で。その後、『ロブスター』とか『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』とかインディー系の映画に出るようになって、その数年後に『THE BATMAN-ザ・バットマン-』に特殊メイクをした悪役で出た。「主役じゃないところにいくんだ」っていう驚きがあった上での『イニシェリン島の精霊』っていう流れがあって、かつてのコリン・ファレルのイメージからしたら想像がつかないような作品に出るんだなと、驚きと嬉しさを持って見守っていました。
『イニシェリン島の精霊』より
『イニシェリン島の精霊』での彼も素晴らしかったです。それこそ昔のコリン・ファレルだったらできなかったんじゃないかなと思います。良いカムバックをした俳優のひとりですよね。同じくカムバック俳優のロバート・ダウニー・Jr.も薬物中毒でとんでもない不良で何度も逮捕されたけど、「このままだと本当にヤバいことになる」って気付いて薬物を断って。その後『アイアンマン』やら『アベンジャーズ』やらで子供たちのヒーローになったわけで、コリン・ファレルとはまた別の復活劇ですよね。今年のアカデミー賞の主演男優賞は『ザ・ホエール』のブレンダン・フレイザーが取って、あの演技も素晴らしかったのですが、あの受賞は役柄と彼のバックボーンが後押ししている部分もある気がしました。なのでちょっと物足りないなと思ったんですよね。まあ去年のアカデミー賞が平和じゃなさすぎたっていうのもありますけど、僕としては刺激を求めてしまいます。
『イニシェリン島の精霊』より
ベストムービー:『イニシェリン島の精霊』&『コンパートメントNo.6』
『イニシェリン島の精霊』は映画としても本当に良かった。ただ変わった映画ではあります。「結局何なの?」「何も起こらなかったじゃん」って思う人も多いと思うけど「どうなっていくんだろう?」っていう緊張感と不理屈のおかしみを楽しむ作品だなと。そういう意味では『コンパートメントNo.6』もラブストーリーとは言い難く、「このふたり、結局くっつくの? くっつかないの?」と終始曖昧な感じで大きな事件は起こらない。でも、はっきりとした理由がないっていう人間関係のおかしみと哀愁ってあると思うんですよね。そういうわかりにくいところを描いたこの2作品が僕としてはベストでした。だから、今回のカワカミー賞のベストムービーは、『イニシェリン島の精霊』と『コンパートメントNo.6』にあげたいです。『NOPE』みたいなある種エクストリームな「こんな映画観たことない!」っていうのとはまた違って、絶妙な感情をうまく突いてきた映画。『To Leslie』はとてもわかりやすい泣きのカテゴリーの映画だけど、『イニシェリン島の精霊』と『コンパートメントNo.6』は「このカテゴリー何だろう?」みたいなね。だからこそ新鮮でした。
『コンパートメント No.6』より
曲作りでも、人間の絶妙な感情を描きたいなあというのは常々思っていて。「これは赤です」っていう曲も存在するけど、例えば赤から緑になるグラデーションになってるところを描いているっていうか。何色か説明できない、むしろしなくてもいい、みたいなね。だから共感もできて、まさにかゆいところに手が届いたっていうか、「俺こんなところがかゆかったんだ?」っていう。自分でも知らなかったかゆいところに手を届けてくれた、「この感情を初めて言い当てられた!」みたいな。理由なくいきなり人を好きになることもあるし、理由なくいきなり人を嫌いになることもある。そして好きか好きじゃないかわからない、絶妙な感情を持つこともある。この2作品は、そんなはっきりとはわからないけど、日常に潜んでる感情を描いた作品になっています。味わい深いですね。

『イニシェリン島の精霊』より

偏愛特別賞:カレン・ギラン
過去2回は“特別賞”だったんですが、今回からよりわかりやすく“偏愛特別賞”にしました。もう仕方ない。タイプなんだもの。大好きですね。『ガンパウダー・ミルクシェイク』を観て虜になったのですが、最近だと『デュアル』も良かった。他にも『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』とかにも出演していて、東京で開催されたコミコンに出てましたね。行きたかったです。
『デュアル』より
2022年はちょうど100本観ました。上半期で50本いってなかったんですけど、100本は死守しようと思って頑張りました。今年こそ150本は観たいなと。ぐほほと。では引き続きいい映画人生を。

文=川上洋平 構成=小松香里
撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)
アレキ像制作=しげたまやこ

※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!

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