【フジファブリック
ライヴレポート】
『フジフレンドパーク2023』
2023年3月29日
at Zepp DiverCity(TOKYO)
同公演はタイトルでも謳っているとおり、フジファブリックが友達のアーティストを迎え、開催する2マンライヴ。2019年と20年は開催しなかったため、8回目となる今回は、東京公演のくるり、福岡公演はフレデリック、大阪公演は緑黄色社会を迎え、それぞれに見応えある全3公演を開催したのだが、中でもくるりとの対バンが、山内はよっぽど嬉しかったのだろう。“正気じゃいられないですよ、今日は。リハから本番まで、僕は涙があふれていました”と語った彼の感激は、この日のアツいパフォーマンスからもしっかりと感じ取ることができた。なぜ、山内はくるりとの対バンがそこまで嬉しかったのか? 歴の長いフジファブリックのファンならご存じだとは思うが、それについては後述する。
■ くるり ■

2023年3月29日 at Zepp DiverCity(TOKYO)/くるり(Photo by 森好弘)
“新しい曲をやります”と岸田がコードをかき鳴らしながら演奏になだれ込んだピースフルなロックナンバー「愛の太陽」は、ドンタッタと三拍子で鳴らすドラムの力強いキックとスネアのリズムを、グルーブを作る隠し味として利かせたところが心憎かった。岸田がエレクトリックシタールを弾きながらスタンディングのフロアーを揺らした「Liberty & Gravity」は、サイケとファンクと日本の音頭がひとつに溶け合ったくるり流のプログレナンバーなんて印象も。
フジファブリックが10年7月17日に山梨・富士急ハイランドコニファーフォレストで開催した『フジファブリック presents フジフジ富士Q』で、フジファブリックの「銀河」を一緒に演奏した時の裏話をはじめ、岸田と佐藤征史(Ba&Vo)が軽妙なトークを繰り広げる曲間のMCでは、彼らとの思い出の数々も飛び出した。この日、楽屋で談笑している時に最近、運転免許を取得したことを山内にびっくりされたと語った岸田の“車にはウーハーを積んだんですか?”と山内から訊かれたから、まだと答えたら“頑張って積んでください!”と言われたという言葉に笑った人は山内同様、くるりの大ファンに違いない。
そのまま“そんな曲です”(岸田)と《俺は車にウーハーを》という歌詞を持つ「ハイウェイ」を絶妙のタイミングで披露。サポートギタリストの松本大樹が奏でるスライドギターも含め、往年のウエストコーストロックを連想させるバンドサウンドが心地良い。
最後を飾ったのは、くるりのバラードの名曲「Remember me」。The Beatlesを思わせる王道のアレンジで、曲の良さをストレートに、かつダイナミックに聴かせる演奏は佐藤がファルセットで加えるハーモニーも聴きどころ。さっきまで手を振ったり、体を揺らしたり、飛び跳ねたりしていた観客がこの時ばかりは曲が持つ叙情にじっと聴き入る光景を見ながら、バラードでステージを締め括る、くるりの堂々たる姿に今年メジャーデビュー25周年を迎えるバンドの円熟を感じずにいられなかった。
■ フジファブリック ■

2023年3月29日 at Zepp DiverCity(TOKYO)/フジファブリック(Photo by 森好弘)
“くるりのみなさんに出演してもらえて嬉しい!”と快哉を叫んだ山内は、“岸田さんの車にぜひともウーハーを積んでもらいたい(笑)”と岸田が張った伏線を回収することも忘れない。そして、“もはやジンクスと言ってもいいのでは。我々がテーマ曲をやると、日本が優勝するんです。次回もぜひ!(笑)”と侍ジャパンのWBC優勝に言及してから、J-SPORTS『2023 WORLD BASEBALL CLASSICS』の中継テーマソングとして書き下ろした「ミラクルレボリューションNo.9」を披露。演奏前に加藤慎一(Ba)がレクチャーした振り付けを観客も一緒に踊りながら、オリエンタルな魅力もあるダンサブルなロックナンバーでフロアーを盛り上げると、金澤と加藤がウッ! ハッ!とコーラスを加える「LET’S GET IT ON」を畳みかける。まるでくるりの「Liberty & Gravity」に呼応するように演奏したフジファブ流キテレツ・プログレ・ファンク・ナンバーにフロアーがさらに揺れる。そして、ここまであえてギターの手数を控えていたと思しき山内はこのタイミングで、ここぞとばかりにアーミング、スウィーピング、トレモロピッキング、チョーキングといったテクニックを駆使して、エモーショナルなギターソロをキメたのだった。
いつになく攻めたセットリストに少々面食らったが、“変な曲が続いてますけど、大丈夫ですか?”(山内)と観客に尋ねるくらいだから、バンドにもその自覚はあったのだろう。
“くるりが大好きです!”と改めて言った山内は、くるりが99年にリリースした1stアルバム『さよならストレンジャー』を聴き、めちゃめちゃカッコ良いと思ったこと、以来ずっとくるりの大ファンであること、そして、自分がヴォーカリストとしてフジファブリックを続けていこうと固めた決意に対して、くるりのメンバーに背中を押してもらったことなどを語った。
“恩義を感じているというか、特別な思いのあるバンドがくるりなんです。道しるべみたいな存在だと勝手ながら思っています。フジファブリックがこうしてバンドとしていられるのは、くるりのみなさんのおかげです”(山内)
そして、山内がサポートギタリストとして、くるりのツアーに参加した時、アンコールで急に何か歌えと岸田から無茶振りされ、作りかけていた「普通II(仮)」という曲を歌ったところ、いい曲だと言いながら岸田に抱きしめられ、音楽をやっていってもいいんだと思えたというエピソードを語ってから、“その「普通II(仮)」を演奏します”と「ECHO」を披露。志村に語りかけているようにも思える歌詞はもちろん、胸を焦がすようなメロディーがファンの間でも特に人気の高いバラードに、そんな秘話があったとは。激しい感情を迸らせながら、山内が弾いたギターソロで曲を締め括ると、それまで身じろぎもせずに耳をそばだてていた観客が堰を切ったように拍手喝采する。
その熱気のままなだれ込んだ後半戦は、「徒然モノクローム」「星降る夜になったら」とストレートな演奏に巧みな技を詰め込んだ2曲をつなげ、観客のアクティブな反応を引き出していく。そして、“最高の『フジフレンドパーク』になりました。大成功です!”と山内に加え、金澤も轟音のギターを鳴らした「破顔」の白熱した演奏で観客を圧倒するように本編が終わると、アンコールでは即興のブルースセッションからくるりとフジファブリックの共演が実現!
くるりの「ロックンロール」、フジファブリックの「Sunny Morning」。もちろん、「Sunny Morning」は前述の『フジファブリック presents フジフジ富士Q』でフジファブリックがくるりと演奏した曲だ。くるりの岸田と佐藤、フジファブリックの山内、金澤、加藤の5人が重ねるハーモニーを聴きながら、山内が言った“歴史的な一日”の意味を噛みしめたのは、筆者だけはなかったはずだ。

2023年3月29日 at Zepp DiverCity(TOKYO)/コラボ(Photo by 森好弘)
撮影:森好弘、百恵/取材:山口智男
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