遠藤正明『(e)7』20代のクリエイタ
ーとの楽曲制作はすごく刺激的だった
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オリジナルアルバム『(e)7』が発売され、引っ提げてのツアー、そしてbambooとのユニットのライブ、さまざまなイベントへの出演と2023年はまさにライブ中心になる遠藤正明。そんなツアー前にアルバムについて訊いてきた。
遠藤正明オリジナルアルバム『(e)7』アルバムジャケット写真

――やっとライブを含めイベントが戻ってきました。コロナ過でも遠藤さんには僕らの配信イベントSongfulldaysへの出演もそうですが、Streaming+で頻繁に配信をされていて、積極的に動かれているイメージがありました。
東日本大震災の時に「僕らエンタメ業界って何ができるんだろう?」ってすごく悩んだ時があって。「今こんなのんきに歌ってていいのか?」とか、そういうことをすごい考えたんです。でも結局はみんな「歌いにきてほしい」と言われることが大半で、その時にやっぱり歌、音楽しかできないし、求めている人がいるなら、やはり歌うべきだなっていうのに気付かされたんです。そしてコロナ禍になって、その時もやっぱり色々考えて。でもやっぱり届けなきゃいけないっていうのがすごくあって、だからコロナ禍になって配信っていうのがすごく世の中に普及したので、積極的にやりたいっていうのがありました。
――遠藤さんのような方が配信を積極的にやってくれる、というのは凄く嬉しかったです。
やっぱり配信は配信の良さがやっぱりあるなって思ったし、逆に配信の弱点も分かって、すごく勉強にもなりました。
――とはいえ遠藤さんの歌の魅力ってやはり生のライブならではのところもあるじゃないですか。
そう。やっぱり生でしか伝わらないことってあるし、空気感だったりっていうのはライブの良さなんだなって。これは何事にも代えられない。
――遠藤さんの生の歌を聴くと、感動するというか、もう体が痺れるんですよね。だからSongfulldaysに出演していただく時は、あの痺れる感じをどうしたら配信で伝えられるのかっていうのは、ものすごく僕らも悩みました。
配信でいろんなことをやらせてもらったけど、Songfulldaysはやっぱり、自分の中ですごく思い出に残ってますね。
――ありがとうございます。
気持ちよく歌わせてもらったし、Songfulldaysの映像とナレーションで作られた物語に入れてもらって、音楽を伝えられる場所をちゃんと整えてもらったのはすごく嬉しかったですね。
――とはいえ配信で遠藤さんのあの素晴らしい歌声が伝わるのかっていうのは、まだ模索中です。
配信ならでは聞こえ方、声質っていうのは難しい所ではありますよね。
――またぜひ何かでご一緒できたら嬉しいです。そして、今度はライブの話になりますが、ニューアルバムをひっさげて4月8日、4月22日に公演があり、5月はbambooさんとのライブもあり。更にバンドもやられて、これも多分ライブあると思いますが、今年そうとう忙しい感じなのではないでしょうか。
今年はライブをいっぱいやりたい年にしたいなと思いまして。やっぱコロナ禍のうっぷんもあるので。なので自分から足を運んでいろいろな場所に積極的に行こうと思っているんですよ。
――2023年は早めに動かれている、という印象があります。
去年はJAM Projectが大きいツアーというか、アルバムのツアーがあったので。今年はツアーの動きはないだろうなと踏んだので、去年から今年のライブを入れといたんだよね(笑)。来年はこういう年にしようっていうのを。
――なるほど。bambooさんとのユニットでのライブは長く続いてますしね。
bambooとのライブはコロナ禍の前からやり始めた企画なんですけど、bambooに癌が見つかって、まあ治ったんですけど、初期に発見できて。その時に飲んでいて、俺もいつ何が起こるかわかんないしって、お前の願いえてやるよって酔っぱらいながら言ったら、あいつがちょうどアコギ始めたころで「遠藤さんとツアーやりたい」って。俺一人で弾き語りでのライブはなぜかずっとやってこなかったんですけど、まあ言ったからにはやんなきゃなって(笑)。じゃあいこーぜ! って。その時はツアーいっぱい組んでたんですけど大きい台風で中止になったりしてる間に今度コロナ禍になって全部飛んだんです。だからライブは徳島で1本しかしてないんですよ。元々6本入れてたのが1本しかできなくて。それがコロナ禍を経て三年もできなかったっていう。だからこれも一回ちゃんと片づけなきゃなって(笑)。
――なるほど。bambooさんとのライブは配信もあるので楽しみです。ではそろそろ…話は戻りまして、まずはアルバムをひっさげてのツアーがあります。そのアルバムですが新しい要素がふんだんに盛り込まれていると感じました。
今回はバンダイナムコミュージックライブのプロデューサーが、俺が震災後に出した『 (e)-STYLE』っていうアルバムの時にお世話になった斉藤君っていう人の下についてた新人の人で、俺のレコーディング見て育ってた人が10年経て、今回プロデューサーとして俺のアルバムを担当してくれるっていうのに時代の流れをすごく感じて。これは次の世代にもうなってるんだなあってすごく感じたんです。
――アシスタントだった人がプロデューサーになって、遠藤さんのアルバムを作るって、それは嬉しいですね。
今回のアルバムはだから新しい世代の子達と一緒にセッションできたらなあと。今までお世話になってたいたクリエイターの下の世代の人たちを紹介してもらって、今回は20代のクリエイターと多く一緒にやらせてもらっています。すごく刺激的でしたよ。
――今回の曲はどれも遠藤さんらしさがありながら、今っぽさが盛り込まれているというか。
そうならいいですね。彼らと一緒にこう切磋することによって飲まれちゃうかもしんないし、どうなんだろうっていうのはあったけど、彼らのフィルター通しても自分節が、自分の色が出てるんだったらよかった。
――今回のインタビューに合わせて、アルバムの音源をいただいて、何度も聴いていたんですが、では1曲目「(e)7 Must Be Heaven」からお話をお聞きしたいです。
一曲目はライブ前提、ライブのために毎回作っているSE的なものです。今回はそれも毎回もったいないなって思っていて。2曲目の「ジャスティスマン〜偽りのヒーロー〜」につながるように作っていただいたんですけど、これはいつもお世話になってる宮崎君とかR・O・N君とかのまた下のクリエイターさんに、好きなように俺をイメージして、そして2曲目につながるように、っていう感じでオーダーしかしてないんですけど、これができて来ましたね。だから俺のイメージってこうなんだなって(笑)。

――遠藤さんと一緒にお仕事できるってなった時に「やってやろう!」って気持ちは間違いなくあると思うんですよね。それが思いっきり入ったのかなっていうのを感じました。これがライブが始まる前にかかったらめちゃくちゃ盛り上がるじゃないですか。楽曲的には90年代ロックと、2020年代のロックテイストが融合されたものが展開されてるっていう。すごくバランスのとれたSEですよね。そして2曲目「ジャスティスマン〜偽りのヒーロー〜」ですが。
楽曲制作は「ジャスティスマン〜偽りのヒーロー〜」から始めたんですけど、オリジナルアルバムなので、今回はコロナ禍を経た気持ちを、思ったことをみんなに届けたいな、メッセージにしたいなと思ってここから取り掛かりました。
――遠藤さんの熱さがあるのですが、ラップっぽいところがあったりすごく挑戦的な曲ですよね。そのうえでこの曲だけではなくてアルバム全体にどこか憂いがあるというか、そういうのがあるのが心に響くというか。
今回、本当に色んな若手の方を紹介してもらってデモテープたくさんいただいて、その中からそういうのを無意識に選んだのかもしれないですね。
――どこか憂いというか、熱くなるだけじゃないちょっとほろりと来るまではいかないけど、心に違う響きがある楽曲が展開されていると感じました。
そう感じてもらえるのは嬉しいですね。
――そして歌詞は今のヒーロー像ですよね。
そうですね。なんか今は、Z世代が色々とムチャをしたりとかありますけど、本当にそういうSNS上の問題というか、叩く人が果たして正義なのか、という。面白がってる人もやっぱりいるんだろうけど、どっちが正義なんだろうっていうのはこのコロナ禍でより思いました。前もマスクをしない人を叩いたりして、そういうのがきになっていたんですよね。
――今、Z世代の人が叩かれていますけど、僕が個人的に会うZ世代の人たちってみんな頭がいいし、丁寧だし、超優秀なんですよ。
そうですよね。ミュージシャンもなんかすごく上手だしスキル高いし、ちゃんと音楽を分かっていて。うちらみたいになんか邪な気持ちで音楽を始めてないなあっていう(笑)。
――分かります(笑)。僕らの世代のように「女にモテたい!」とかそういう気持ちで始めてる感じじゃない。
だからすごいですよね、優秀ですみんな。
――「ジャスティスマン〜偽りのヒーロー〜」の歌詞を見て、本当に一括りにして言っていいのかっていう気持ちになりました。一部の人達じゃないですかそんなの。そういう社会問題的、というか今の状況への気持ちも盛り込んでいるのも凄いと思いました。
せっかくのオリジナルアルバムなので、そういうことを届けたいなと思って。

――初っ端から遠藤さんの思いを感じました。では次の曲は「濃厚接触マジック」です。
これはElements Gardenの若手である日向(勇輝)君にお願いしたんですけど、この歌は結構、自分にはないメロディで手こずりました。「サビメロを少し変えていい?」「こういうのでどうだろう?」とか結構やり取りしながら作らせてもらって、やっていて面白かったですね。
――これも歌詞というかタイトルから思いが伝わるというか。
濃厚接触って本当は素敵な言葉なのに、コロナ禍ですごくマイナスなイメージになったじゃないですか。そういう言葉って実はいっぱいあるなって思って。だから素敵な言葉だっていうことをもう一回取り戻す、いい言葉なんだよ、というそういう意味を込めたんです。
――先ほどお話させていただいた、生じゃないと、接触したいよねっていうのをものすごく感じました。実際に会って話さないと伝わらないものがあるよねって。
そうなんですよね。生身の温もりは伝わらない、やはりネットで見ただけで分からないことっていっぱいあるのになって凄く思います。

――遠藤さんらしさがあるというか曲を聴くと嬉しくなりました。では次は「MONSTER」です。
これは前に一緒にやっていたギターのTAKEOと一緒に作りました。前のアルバムも一緒にやっていたんですけど、今回は作り方を変えて、TAKEOのギターのリフから作ってみようって。それにインスピレーションもらってメロディラインを作って、やり取りしながら作ったんです。その時に今回は新しいクリエイターの方達と一緒にやらせてもらって、コロナ過で表に出てきてないモンスターたちがいっぱいいるんだなっていうのをすごく感じたので、そういうことを歌にしようと思って。
――クリエイターは今はネットがありますし、ボーカロイドとかもあるので、前より表に出てきやすくなっていますが、まだまだ埋もれているというか、世間に知られていないクリエイターは多いですよね。
だからこそそこから生き残っていくのも大変だなと思うけど、でもせっかくコロナ禍を、まだ完全には経ているわけではないけど、ここからみんなに暴れて欲しいなあっていう意味合いも込めています。
――なるほど。若い世代への応援歌というか、何かを始めようとしている人たちの背中を押すような楽曲になっていると思います。次は「さよならしてグッバイ」です。

これはやっぱりコロナ禍で悲しい別れをした人がいっぱいいる。そういう気持ちを伝えたいと思って書きました。
――バラードなんですけど、なんか恋愛ではないなと思いました。
そうですね。なんか水木一郎兄貴とかが亡くなったこともあって、まあ兄貴の為に作ったわけではないんですけど、そういう大きな愛というか、大きい別れというか、送る側の気持ちをちょっとでも慰めてあげたいという気持ちが入っています。
――バラードなんですけど、応援歌と感じました。こうやって遠藤さんの想いを訊くとさらにこの曲が好きになりました。
ありがとうございます(笑)。
――特に『「さよなら」はまた逢えるその日までの合言葉』の部分がぐっときました。
人って、さよならするために生きてるところあるじゃないですか。別れってつきものだし。でもさよならの繰り返しでやっぱり生きていかなきゃいけない。でもいつかまた…兄貴の話になってしまうけど、兄貴が亡くなったけど、全然俺は居なくなった気持ちがないというか、いつも居るような感覚があるんだよね。
――水木さんの話になってしまうのですが、やっぱり40代以上の世代は結構喪失感がありました。
確かに結構きましたね。俺もこんなに来るんだって。俺は親父を早くに亡くしてるんですけど、小さい頃だったので、あまり実感がないまま育ってきたですね。それが兄貴が亡くなって、親が死んだらこんな気持ちなのかなって。
――やっぱりアニソンの第一人者ですから、あの道筋をそのまま引き継ぐというのは、難しいですよね。
でっかい人だったなあ。太陽みたいな人だったと思います。
――僕は世代的に「ルパン三世愛のテーマ」が水木さんのイメージなのですが、ああいう叙情的に歌い上げる楽曲も、もう聞けないのかっていう。
兄貴が亡くなる二週間前にあった一番最後の地方ライブに、5日ぐらい前に兄貴がちょっと歌うの困難なので手伝いにきてくれないかって言われて、手伝いに行ったんですけど、その「ルパン三世愛のテーマ」を一緒に歌わせてもらいました。ずっと会いたかったんですけど、コロナ禍だしもし俺がうつしちゃったら…とか、そういうの考えて、会いにもいけてなくて。でも兄貴からなんかそうやって会う機会もらえて、その時に楽屋にも呼んでくれて話すことが出来たんです。
――それは嬉しいですね。水木さんの性格からして、あまり悲しんじゃいけないんだろうななんて勝手に思っています。
派手な事好きだったし、明るいことが好きでしたからね。
――ステージでのあの明るさって底抜けじゃないですか。本当に周りの人たちも元気になる。
やっぱり太陽だったんですね。だからな亡くなられた方を一番リスペクトするのはやっぱり悲しむことじゃなくて、いつも忘れないことなんだろうなってすごく思うんですよ。

――そうですね。楽曲の話からずれてすいません。次は「もしも世界が終わるその日が来ても」です。
これはコロナ禍に入った時に、本当に自分たちはライブもできず、家から出るななんて言われて、本当に「このまま世界って終わっちゃうのかな」って考えた時があって、その時にどうすればいいのか自問自答してた時に、やっぱり俺は歌うだろう、っていうさとりじゃないけど、答えという。
――この曲は本当に遠藤さんらしさがある。
そうですね。これは作詞作曲もさせてもらったので、今回のアルバムにバラードを入れるのには、どういうバラードを入れようかねっていう話をしたんですけど、ほっこりするような、暖かい優しい感じのバラードもいいねっていうことで作った曲です。
――遠藤さんが作られる曲は、どこか人生賛歌というか、人間臭さを感じます。
嬉しいですね。やっぱり人間臭くていいかなって思って。ていうかね、やっぱり経験しか歌えない。

――そして最後が「ハニハニ」です。
これは新しいバンド名義、Buzzed Monkeyというバンドをやるということで、新しいアプローチとしてこの曲を入れさせてもらったんです。コロナ禍の中でやり残したこと、新しいことにもチャレンジしていかなきゃいけないっていう。アニソンを歌わしてもらって今年で28年目に入るんですけど、イコールソロ活動になっていて、今後活動していく中で足りないものはなんだろう?ってすごく考えた時に、もう一回バンドっていうのはありだなって。バンドって面倒くさいんですよ、本当に(笑)。
――確かにバンドになるとソロ活動のようにできなくなりますよね。
本当面倒くさいんだけど、音楽、楽曲について一緒に考えられるっていうのはバンドの強みだし、そういうのもう一回やってみたい、多分最後だろうなと思って。今のこの時期を逃したら、たぶん俺バンドやんないなあと思ったんです。
――最後の曲がバンド名でちょっとびっくりしました。ちょっとこじゃれたっていうか、大人な楽曲ですよね。
そういう今までに俺の中になかったものに挑戦したかったし、たぶんそういうのだったらバンドでやってみたいなと思って。それでうちのバンドのベースの三宅博文と、マニピュレイタ―をやってもらってる八代新平でやろうということになりました。みんなで歌うバンドにしたかった。
――前にARGONAVISの二人(伊藤昌弘、日向大輔)と対談された時に、よくケンカしないよね?って聞いていましたよね。
ただ今後どうなっていくか分からない、また別れるかもしれないですけど、このBuzzed Monkeyでは、この「ハニハニ」しかないので、今年はアルバムも作ろうと思っています。それでそのアルバムを引っ提げてライブがしたいなと思っています。
――なるほど。では最後に今回のアルバム『(e)7』を引っ提げてのライブ、こんなことをやってやるぞみたいなことありましたらいただけないでしょうか。
去年はベストアルバムを出させていただいていて、アニソン縛りという初めてのライブをやって、結構アニソンに特化したライブが多かったんですけど、今回オリジナルアルバムを出させていただいたので、アニソンでは伝えられない俺の中にあるロック魂というか、そういうものを伝えられるライブにできたらいいなと思います。あとやっと声出しが解禁になって、もう一回ライブで暴れたいと思っています。
取材・文:林信行

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