第3回【名古屋女性演劇賞】を、俳優
・劇作家・演出家として幅広く活躍す
る川村ミチルが受賞

〈名古屋市文化振興事業団〉が年に一度、名古屋市域の演劇振興に貢献した女性演劇関係者の功績を讃えるべく、2021年に創設した【名古屋女性演劇賞】。その第3回受賞者に、俳優・劇作家・演出家として名古屋を拠点に各地で活躍する川村ミチル(劇団そらのゆめ主宰)が選ばれ、2023年3月14日(火)に「名古屋市青少年文化センター」内の「7th Cafe」にて授賞式が行われた。
【名古屋女性演劇賞】は、2018年に他界した俳優で劇団主宰者でもあった江崎順子の遺志を受け継ぎ、ご遺族から寄付された1,300万円を基金として実施している賞だ。名古屋市出身の江崎は、「名演会館」が主催していた俳優養成所「名古屋演劇アカデミー」を卒業後、1984年に〈劇団・夏蝶〉を女性メンバーで結成。日本の女性の生き方を描いた作品を中心に舞台で上演してきた。自劇団での活動に留まらず、他劇団への客演や、テレビ、ラジオドラマ出演、司会や朗読の講師など多岐に渡って活躍する中で、夏蝶 第13回公演『女の庫』(作:麻創けい子/演出:木崎祐次)が平成5年度名古屋市民芸術祭賞を受賞。第17回公演『マンザナ、わが町』(作:井上ひさし/演出:木崎裕次)でも平成10年度の同賞を受賞。平成16年(2004年)には、一人芝居『花いちもんめ』(作:宮本研/演出:わらしべ長者)の演技で名古屋演劇ペンクラブ賞を受賞した。
また、当地における多くの演劇人らが稽古場として活用する「名古屋市演劇練習館」(愛称:アクテノン)の運営にも貢献。1995年の開館時に運営委員を務め、長年に渡って同練習館を支えてきた経緯から、当初は【アクテノン記念 江崎演劇賞】の名称で賞が創設され、初回の2020年(令和元年度)には、俳優の小嶋彩子(劇団エーアンドエーダッシュ)が受賞した。これを契機として、より一層、故人の生前の活動と遺志に寄り添う演劇賞にしたいと話し合いが重ねられ、俳優・スタッフなど演劇のあらゆる分野で活躍している女性演劇関係者を表彰する【名古屋女性演劇賞】として継続されることとなったのだ。
以降は賞の対象を、近年の継続した演劇活動が特に顕著な女性演劇関係者(俳優、劇作家、演出家、舞台スタッフ)とし、名古屋市域の演劇の振興に貢献のあった個人と定め、毎年度原則として1名を選考することに。受賞者には、正賞(賞状)及び副賞として賞金30万円を授与し、2021年(令和2年度)の第1回 【名古屋女性演劇賞】は、俳優・演出家のおぐりまさこ(空宙空地)、2022年(令和3年度)の第2回は、照明デザイナーの花植厚美(flower-plant)が受賞している。尚、今年度の選考委員は、麻創けい子(劇作家・演出家)、桐山健一(演劇ジャーナリスト)、坂下孝則(照明家)、内藤美佐子(俳優・演劇人冒険舎代表)、筆者(編集者・ライター)の5名が務めた。
【川村ミチル プロフィール】
京都府生まれ。1991年に劇団うりんこに入団。俳優として活躍するとともに脚本や演出も手がける。2010年に退団し、翌2011年2月に劇団そらのゆめを立ち上げ、代表を務める。幼児から大人を対象とした演劇ワークショップ、学校の表現教育授業等の講師も多数務める他、オペラやミュージカル、朗読劇などの脚本・演出も手がけるなど幅広く活動している。

【授賞理由】
俳優・劇作家・演出家として多岐にわたり活躍する気鋭の演劇人である。1991年から2010年にかけて、児童劇を得意とする劇団うりんこにて数々の舞台に出演するとともに、脚本や演出の経験を積む。2011年に劇団そらのゆめを立ち上げ、名古屋を拠点に巡回公演を行う他、各地の公共団体から依頼を受け、市民参加型の創作劇を数多く手掛けている。また、レクチャーにも評価が高く、演劇ワークショップの講師や教員を対象とした演劇指導、高校演劇大会の審査員などの依頼が後を絶たない。
近年の活躍も顕著であり、コロナ禍にありながらも2021年には劇団そらのゆめ創立10周年記念公演『新見南吉のきつねの話』を成功させ、上演レパートリーとして再演を重ねている。2022年には、くも膜下出血を患うが、無事に快復してすぐに活動を再開。2023年には文化芸術関係者の横断的団体である愛知芸術文化協会(ANET)の30周年記念公演として演劇や舞踊、音楽といった様々なジャンルの出演者が多数参加する『雨あがりの宴』の脚本・演出を担った。明るく前向きな性格で、文化芸術関係者からの信頼も厚いことから、多才を遺憾なく発揮して演劇界を牽引できる人材として、高く評価した。

劇団そらのゆめ 創立10周年記念公演『新見南吉のきつねの話』出演(2021年6月/天白文化小劇場)
名古屋市芸術創造センター連携企画公演 愛知芸術文化協会30周年記念舞台企画『雨あがりの宴』脚本・演出(2023年1月/名古屋市芸術創造センター)

第3回【名古屋女性演劇賞】を受賞した川村ミチルには、〈名古屋市文化振興事業団〉の杉山勝理事長より賞状と賞金が授与され、以下の通り祝辞が述べられた。
「第3回【名古屋女性演劇賞】の受賞、おめでとうございます。この賞は〈劇団・夏蝶〉の代表を務められました、亡き江崎順子さんのご遺族からいただいた多額の寄付を元に創設されたものです。名古屋地域で活躍されている演劇関係者の皆さん、特に女性の方にスポットを当てた全国的にも非常に珍しい賞となっております。
川村さんは、俳優で劇作家で演出家で、〈劇団そらのゆめ〉という劇団を立ち上げられて精力的に活動されています。今年の1月には、名古屋を中心とした文化芸術関係者の方が集まっておられる「愛知芸術文化協会(ANET)」の設立30周年記念公演の脚本と演出を任されるなど、演劇人としての才能が高く評価されて、今回【名古屋女性演劇賞】を受賞していただくことになりました。名古屋の演劇界にとって欠くことのできない優れた逸材として、今後ますますのご活躍を期待しております。
新型コロナウイルスの流行が始まって3年、未だ終息したわけではありませんが、少しずつ活動しやすい環境が整ってきているのかなと思っております。当事業団としましては、事業の展開をコロナ前の状況まで早く戻して、多くの文化芸術をより多くの方々に届けて参りたいと考えております。川村さんにもぜひご協力をお願い申し上げます。また、今後ますますのご活躍を祈念いたしましてお祝いの言葉とさせていただきます。本日は誠におめでとうございます」
そして、川村ミチルからは以下の受賞コメントが述べられた。
「皆さん本日は、このような大切な賞を私にいただきまして、ありがとうございます。私は本当に大した能力もございませんけれども、ただ周りの人に恵まれているということだけは誇れることでございまして、今までさまざまなことがありましたけれども、その度に助けてくれる方々が周りにいらっしゃいまして、そのおかげでこうやって演劇をずっと続けてこられたな、という風に思います。コロナの間も、そのようにして乗り越えてこられたかなという感じがいたします。改めまして、本当に皆さまありがとうございます。
この度の賞は、江崎順子さんの賞で【名古屋女性演劇賞】ということですけども、今日つけているネックレスは、3年前に亡くなった衣裳デザイナーの中矢恵子さんのものです。中矢さんがお亡くなりになるふた月ほど前に私に、「ミチルちゃんもそろそろこういうものをつけられるといいんじゃない」と言って渡してくださったんですけども、私はつけることができず、今日初めて身につけて参りました。中矢さんは、私の劇団の旗揚げの時からずっと衣裳デザインとして、全作品を一緒に考えて創ってきてくださったスタッフの方です。たくさん支えてきてくださった方のお一人で、特に中矢さんにはお世話になったので、今日はつけてきました。
かつては、女性というだけで参選権もないような時代がありました。それが当事者の運動によって選挙権が与えられるようになり、私が演劇を始めた30数年前はまだまだ男性優位と言われていた演劇界に於いて、演出家もほとんど男性で、「俳優」と「女優」という言い方があるように、女性は結婚して子どもを産んだら女優は諦めるか、もしくは女優を続けるなら家庭を持つことは諦めるかという、二択を迫られるような時代もありました。そんな中で、私は全部やりたいということで、3歳、4歳の幼児を抱えて、本当に周りに迷惑をたくさんかけながら演劇活動を続けてきたわけなんですけども、江崎順子さんはそういった女性の生き方に視点を当てた作品をたくさん創ってこられたとお聞きしておりますので、そういった意味でも有難いな、という風に思っています。
今ではジェンダーの問題も、男女のみならず、さまざまな性があるということも当たり前になってきつつあります。またこれも、これからの社会の中で変容を遂げていくことなのかな、と考えております。私は創りたい作品は幾つも幾つもありますので、これからも皆様に支えていただきながら、ご迷惑をお掛けしながらですけれども、精進して参りたいと思いますので、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました」
尚、授賞式後にもお話を伺うと、以下のとおり演劇にかける熱い想いと共に、今後の活躍ぶりも思わせる展望や目標が次々と飛び出した。
「コロナの時にはやっぱり落ち込みました。半年間全く仕事が無くなってしまって、舞台の機会が無くなって、そこから復帰をするために創った作品が『相思~或る DEATH DANCE~』なんですけど、舞台がやっぱりいつも困った時には助けてくれて、舞台に立つこと、表現すること、というのが私の生きる源になっていると実感した瞬間ですね。私はいつも芝居のことばかり考えていて、24時間体制というか、公私があまりないんです(笑)。舞台を創るということがすごく好きなので、これからもそうだと思います。
去年(2022年)の8月にくも膜下出血で倒れて、みんな私が死んでしまうんじゃないかとか、後遺症が残るだろうと心配をして会議をだいぶしていたそうなんですけど、私は全く知らなくて、全然降りる気もなくて。ICUに2週間いたんですけど、9月7日に小屋入りの〈劇団天白月夜〉の公演があったので、その間ずっと稽古の動画を見てダメ出しをして(笑)。「7日に退院させてください」と病院の先生に無理を言って頼みました。幸い今は運転も出来るようになって、何の差し支えもなく本当に運が良かったので、これからは恩返しの人生です(笑)。
創りたい作品もまだまだたくさんありますし、今年も新作が目白押しです。それと、コロナの自粛期間中に「CHILL HOUSE」という小さなアトリエも作りました。20~30人も入ったらいっぱいのところなんですけど、そこで今年の1月には寄席をやって、ちょっとした発表…朗読だとか歌だとか、マジックショーとか、そういったものが出来るといいなと思って、これからそこも動かしていきたいなと思っています」

第3回【名古屋女性演劇賞】授賞式
取材・文=望月勝美

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