特別展『東福寺』レポート 修理後初
公開の明兆筆《五百羅漢図》をはじめ
、禅宗美術の宝庫が誇る文化財200件
以上が東京へ

京都を代表する禅寺・東福寺(とうふくじ)と関連する寺院の寺宝200件以上が公開される初の大規模展、特別展『東福寺』が、2023年3月7日(火)に東京・上野公園の東京国立博物館 平成館でスタートした。東福寺の寺宝をまとめて紹介する初の機会となる本展では、伝説の絵仏師・明兆による記念碑的大作《五百羅漢図》現存全幅を修理後初公開するとともに、巨大伽藍にふさわしい特大サイズの仏像や書画類も一堂に展観。大陸との交流によって育まれた禅宗文化と東福寺の全容を紹介する内容となっている。ここでは内覧会の様子を交えながら、本展を訪れる前に知っておきたいポイントをお伝えしていこう。
日本の禅宗美術発祥に大きな役割を果たした「東福寺」
京都市東山区の南部にある東福寺は、公家である九条道家の発願によって、嘉禎2年(1236)から建長7年(1255)にかけて造営された寺院である。奈良の名刹、東大寺の「東」と興福寺の「福」を取って名付けられた寺院は、その名にふさわしい立派な七堂伽藍(塔や講堂)を擁し、室町時代には「東福寺の伽藍面(がらんづら)」と讃えられ、京都五山のひとつに数えられた。釈迦如来を本尊とし、二度にわたり消失した旧本尊は、いずれも立てば約15メートル近くの高さを誇った坐像だったといい、「新大仏寺」とも称された。現在は紅葉の名所としても有名な禅寺である。
第3章の会場風景
「第1章 東福寺の創建と円爾」「第2章 聖一派の形成と展開」「第3章 伝説の絵仏師・明兆」「第4章 禅宗文化と海外交流」「第5章 巨大伽藍と仏教彫刻」の5章から成る本展。会場に入って初めに展示されているのは、東福寺を拠点に活躍した伝説の絵仏師・吉山明兆(きっさんみんちょう)による重要文化財《円爾像》だ。

《円爾像》 吉山明兆筆 室町時代 15世紀 東福寺蔵  ※展示期間:3月7日〜4月2日

この絵に描かれた円爾(聖一国師)(えんに[しょういちこくし])は、寛元元年(1243)に東福寺開山として招かれた禅僧だ。建仁2年(1202)に現在の静岡市に生まれ、若き日に京都の三井寺などで禅と密教を学んだ後、34歳の時に宋(現在の中国)へ留学。そして6年にわたって禅寺で修行を重ねた後、帰国後は博多に承天寺を建立。その後、九条道家の知遇を得て東福寺を開き、宋から持ち帰った貴重な経典や書物を同寺に納めた。さらに彼の教えに学んだ「聖一派」と呼ばれる僧たちもしばしば中国に渡り、大陸の禅風や膨大な知識、文物を持ち帰った。東福寺周辺には彼らの書や、面影を伝える肖像画・彫刻、袈裟などが多数存在し、いずれも禅宗美術の優品ぞろいだ。
禅にも密教にも精通していた円爾。描表装を含めて縦は267.4cm、横は139.7cmの肖像画は日本の頂相作例のなかでも最大級の法量を誇り、古くから禅宗の一大拠点であった東福寺の規模と円爾の偉大さを今に伝える。
偉大な禅僧たちの肖像画と、見る人によって姿を変える“謎の虎”
初めの2つの章は、円爾と聖一派に関する展示。最初から見るものは尽きないが、円爾の師を描いた《無準師範像》と、悟りを得たことの証として無準師範(ぶじゅんしばん)が円爾に与えた《円爾宛印可状》などの国宝や円爾像ともいわれる《僧形坐像》、そして円爾直筆の品々は特に見ておきたい。
右:重要文化財《僧形坐像》 鎌倉時代 13〜14世紀 東福寺蔵 ※通期展示
そもそも宋で作られた《無準師範像》のような「頂相(ちんそう)」と呼ばれる禅僧の肖像画を描く文化を日本に定着させ広めたのは円爾とその仲間の僧だとされる。円爾は13世紀に最も肖像画に描かれた日本人ともいわれ、本展でも冒頭の一点含む全期間で計8点の《円爾像》が展示される。
重要文化財《度牒》 鎌倉時代 承久元年(1219) 東福寺蔵  ※展示期間:3月7日〜4月2日
そのほか、《白雲恵暁像》や《山叟慧雲像》など、重要文化財に登録される聖一派の禅僧たちの威厳あふれる肖像画も見ものだ。それぞれの肖像画の近くには、白雲恵暁所用の《木印》や癡兀大慧所用の《七条袈裟》などゆかりの品々も並べられ、尊敬を集めた僧たちの存在が、より強いリアルさを持って伝わってくる。
第2章の展示風景
同じ空間で多くの人が足を止めていたのが《虎 一大字》の展示だ。
《虎 一大字》 虎関師錬筆 鎌倉〜南北朝時代 14世紀 京都・霊源院蔵  ※通期展示
これは聖一派の学僧・虎関師錬が「虎」を大書した作品というが、全体を眺めてみると「虎」の字を崩して書いた書であるように見えつつ、座り込んだ虎を描いた絵にも見える不思議な印象。虎といっても上部の線は角にも見え、尻尾のような垂れの部分は異様に長く跳ね上がっており、個人的には虎よりもっとおぞましい何かにも見えなくもない……。何に見えるかは、ぜひ会場で本物の前に立ち、それぞれの目で判断してほしい。
圧倒的なオーラを放つ「伝説の絵仏師」の大作
第3章では、先に触れた絵仏師・明兆の代表作が見られる。
文和元年(1352)に淡路島で生まれた明兆は円爾の孫弟子にあたる大道一以に師事し、東福寺では仏殿の清掃や荘厳 (仏像や仏堂を飾りつけること)などを行う殿司職に就いていた。そのため「兆殿司」とも呼ばれ、生涯にわたって寺内で画道を追求。仏画や肖像画など、壮大な伽藍を飾るにふさわしい数々の大作を残した。
重要文化財《三十三観音図》のうち右5、左10、左13 吉山明兆筆 室町時代 応永19年(1412)  ※展示期間:3月7日〜4月9日
日本における水墨画の開拓者といわれ、江戸時代までは同じ禅僧の絵師であった雪舟と並び称されるほどのを受けていたという明兆。その画風の特徴は、中国の仏画に学んだ卓越した技術と鮮やかな色彩感覚、そして自由闊達な描線にある。室町将軍・足利義持にまつわる《三十三観音図》や巨大な《達磨・蝦蟇鉄拐図》を見れば、言葉で説明せずとも凄みが伝わってくるはず。特に《達磨・蝦蟇鉄拐図》の真ん中に描かれた禅宗の初祖・達磨の表情は、こちらを睨み何かを語りかけてくるような、圧倒的なオーラを放っている。
《達磨・蝦蟇鉄拐図》 吉山明兆筆 室町時代 15世紀 東福寺蔵  ※展示期間:3月7日〜4月9日
一方で、繊細な墨絵の表現は晩年を迎えるにつれて荒々しさを増した明兆の画風は、狩野永徳をも凌駕する“スーパー恠恠奇奇”と呼ばれるような表現に至った。最晩年に描かれた《白衣観音図》には、その集大成を見ることができる。
若き明兆の代表作《五百羅漢図》が修理後初公開!
そして次の空間に展示されているのが、本展のハイライトのひとつである明兆筆《五百羅漢図》だ。
《五百羅漢図》の展示風景
若き明兆の超大作全50幅のうち現存する47幅が、平成20年(2008)から行われてきた修理後、本展で初公開(会期中展示替えあり)。正面と左右を囲むように置かれたそれらには、仏教修行の最高位に達した五百人の羅漢たちが一幅に十人ずつ描かれている。
《五百羅漢図》の展示風景

漫画風の解説

修理によって極彩色の色彩を取り戻した作品は、百人百様の羅漢の表情もよりわかりやすい形に復活。作品自体、一人一人の動きや各々の親密さから羅漢たちの思いやおしゃべりが伝わってくるようなコミカルさを帯びているが、各所には漫画風に表現された解説パネルが添えられており、作中の出来事をわかりやすく伝える工夫がなされている。作中に描かれたストーリーと修復完了に至るまでのストーリー、そして修理で新たに得られた知見をじっくり鑑賞しよう。
高さ2メートル以上! “神々しいビッグハンド”が伝える東福寺の歴史
第二会場へ移る第4章では、東福寺に残る禅宗文化と海外交流の記録を数々の寺宝とともに紹介。途中には東福寺の紅葉名所である通天橋を模したフォトスポットも用意されていて、本展に来た記録を写真にして持ち帰れるというお楽しみも。
第4章の展示風景

通天橋の再現空間

そして終盤の大空間には、東福寺と周囲の塔頭が誇る重要な仏像を一堂に展示。本尊の脇侍である《迦葉・阿難立像》、見上げる高さの《二天王立像》、筋骨隆々の《金剛力士立像》など、重要文化財クラスの作品が集められているのだが、その中で一際大きな存在感を放っているのが、高さ2.1メートルを超える《仏手》だ。
第5章 展示風景
これは14世紀に造られた2代目本尊の左手。明治14年(1881)の大火で惜しくも大部分を焼失したが、この本尊も立てば約15メートル近くの高さを誇った初代本尊と同様の大きさを誇っていたといい、今は左手だけがそのスケールを示す証となっている。与願印を結ぶ手はそれだけでも神々しく、東福寺が「新大仏寺」と呼ばれた所以を肌で感じることができる。
《仏手》 東福寺旧本尊 鎌倉〜南北朝時代 14世紀 東福寺蔵  ※通期展示
日本における禅宗美術のルーツと中世に造られた多くの名品が見られる本展。会期中、展示替えが行われるので、二度・三度と訪れるのもいいだろう。特別展『東福寺』は3月7日(火)から5月7日(日)まで東京・上野公園の東京国立博物館・平成館で開催中。

文・撮影=Sho Suzuki

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