アルバム『shámbara』

アルバム『shámbara』

【DEAD END特集 vol.3】
唯一無二の世界を確立した
傑作アルバム『shámbara』

DEAD END~The first four works~Vinyl Collection』と題して、DEAD END の初期 4 作品が6月30日(水)に アナログ盤で再発されることからスタートしたOKMusic企画『DEAD END特集』。その第三弾は『shámbara』! 前年の9月にリリースした『GHOST OF ROMANCE』でメジャーデビューし、東京を含む各地でのライヴも大成功させたDEAD ENDは、着々と人気を全国区のものにしていく。そんな彼らの存在をさらに幅広い層に知らしめたのが、1988年5月にリリースされた本作であった。作詞:MORRIE、作曲:YOUを基本体制としつつ、CRAZY“COOL”JOEが作曲した「Night Song」も存在感を放ち、MINATOのドラムプレイの多彩なニュアンスも冴えわたっている本作は、DEAD ENDの圧倒的なオリジナリティーが開花しつつある様を、リリースから30年以上経った今も鮮やかに示してくれる。

このアルバムに関して、まず注目させられるのは、岡野ハジメ氏がプロデューサーである点だ。後にさまざまなバンドのプロデュースを手掛けることになる岡野氏だが、当時はPINKのベーシストとして活動している時期であった。PINKはニューウェイヴ、ファンク、プログレ、ワールドミュージックのエッセンスを取り入れたバンドであり、ハードロック/ヘヴィメタルの界隈に関わるミュージシャンとして岡野氏をイメージする人は、殆どいなかったのではないだろうか。彼がプロデューサーとして招かれた経緯に関して、MORRIEは次のように語る。
「全体をまとめるプロデューサーがいなかった前作の反省から、次作ではプロデューサーをつけようということになり、当時のマネージャーがバラバラな個性のこのバンドをまとめられるのはこの人しかいないだろうと紹介されたのが岡野さんです。メンバーそれぞれの関心を共有できる稀有な存在として、このアルバム制作においては微に入り細に入りお世話になりました」(MORRIE)

岡野氏との作業が刺激に満ちあふれていたことは、MORRIEとCRAZY“COOL”JOEの言葉から明確に伝わってくる。
「メタルからの脱却というような暗黙的合意があったようにも思いますが、ジャンルに関係なくクオリティーの高い音楽を作ろうという意志はあったはずで、岡野さんも初めてのDEAD ENDのプロデュースということで、かなり入れ込んでかかわっていただき、全ての曲の全てのパートについて岡野さんと作っていきました。リズムの構築の重要性とか、具体的なレコーディングの手順とか、曲の目指すところの明確なイメージにいかに近づけていくかとか、いろいろと学ばせてもらいました。アルバムの完成度、世界観の構築ということでは最高の作品だと思います。これを作ったことにより次作の『ZERO』であそこまで変わったというか、変わらざるを得なかったようなところがあると思います」(MORRIE)
「いろんな要素が入っているアルバムやと思う。バンド的には分からんけど、自分としては、音色的にも作品的にも、すごく身になったアルバムやと思う」(CRAZY“COOL”JOE)

本人たちも大きな手応えを感じている『shámbara』。本作の魅力を端的に紹介するならば、“緻密な構築美”というのがしっくりくるように感じられる。豊かなアイディア、さまざまなニュアンスを使い分けた各楽器の演奏、幻想小説の世界に迷い込んだかのような言語表現、艶やかであると同時に殺気も漂わせる歌声…これらが融け合った曲の数々が生々しく迫ってくる感覚は、堪らないものがある。オープニングを飾る「Embryo Burning」が鳴り響いた瞬間、非日常の世界の扉が開かれるような気がしてくるこの感じは、何と表現したらいいのだろうか? 昭和の頃に神社のお祭りで見世物小屋を体験したことがあるリスナー層ならば、薄暗い空間でさまざまな異形に触れながら背徳感交じりの胸の高鳴りを味わったことを、ふと思い出すのかもしれない。

先ほど引用したMORRIEの言葉でも示されている通り、ハードロック/ヘヴィメタルの類型を超越した世界がさまざまなかたちで広がっているのも、『shámbara』の深い魅力だ。約5分にわたる展開の中で多彩なメロディーと音色が連なり合い、甘美なクライマックスへと突き抜けていく「Psychomania」。80年代のノリを感じるビートと音色が際立っていて、“DEAD END流ダンスミュージック”とでも称したくなる「Blood Music」。ギターの旋律や音色を含むサイケデリックな響きが、不思議な酩酊感を誘ってくる「Heaven」。…などなど、オリジナリティーにあふれた曲が並んでいる。全篇のラストを飾る「I Can Hear The Rain」の人気は、ファンの間で非常に高い。特にギターサウンドが好きな人にとっては、痺れずにはいられない曲だろう。イントロを皮切りに多彩な表情を浮かべ続ける音色、プレイの豊かなフィーリング、狂おしく繰り広げられるソロ、穏やかなトーンなのに興奮を誘って止まないアウトロ…ギターで表現し得る世界の極限を突きつけるかのようなこの曲は、本当に素晴らしい。ギターの演奏テクニックとして着目されがちな“速弾き”のみに限定されない幅広い表現が満載されている。

『shámbara』はリリース当時、ハードロック/ヘヴィメタルの愛好家以外からも評価され、幅広い音楽メディアでも取り上げられていた記憶がある。DEAD ENDが国内音楽シーンで一際異彩を放つに至る大きな一歩となり、幅広い層の心をとらえたという点でも重要な作品だ。今後も愛され続けるに違いない。

text by 田中 大
LPアナログ盤『shámbara』2023年6月30日(金)発売
    • LHMV-2005/¥6,000(税込)
    • ※完全生産限定アナログ盤
    • ※180グラム重量盤
    • ※1988年作品
    • <収録曲>
    • ■SIDE A
    • 01. Embryo Burning
    • 02. Junk
    • 03. Night Song
    • 04. Psychomania
    • ■SIDE B
    • 01. Blind Boy Project
    • 02. Blood Music
    • 03. Heaven
    • 04. I Can Hear The Rain
アルバム『shámbara』

OKMusic編集部

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