ReoNa 2ndフルアルバム『HUMAN』で歌
う「人として生きるということ」そし
て未来の物語

ReoNaが待望の2ndフルアルバム『HUMAN』を3月8日にリリースした。
“絶望系アニソンシンガー”としての彼女の4年半は、出会いと別れの繰り返しの日々だった。「怪物の詩」で「愛をもっと」と叫び続けたReoNaがたどり着いた「I'm Human」という言葉の意味とは?全12曲にこめられた思いと、ReoNaが語る「生きる」という命題について。ロングインタビューでお届けする。

■私の人生はもう”私だけ”の人生ではない
――待望の2ndフルアルバム『HUMAN』がリリースされます。最初にまずどんなアルバムになっているかっていうのを、ご自身からいただければ。
今回デビューから4年半というところで、この2枚目をリリースさせて頂くんですが、まず全部出来上がって思ったのが、『unknown』とか『NAKED』とかでは、自分がアニソンシンガーになるまでに得てきた絶望や経験、歩んできた人生っていうものをお歌にしてきたことが凄く多かったなと思って。
――それはそうだと思っていました。
はい、それこそ「絶望年表」だったり「Someday」だったりに対して、この『HUMAN』というアルバムは、全体を通してデビューしてから歩んできたこの4年半があったからこそ出来上がったものになったと思っています。
――前回の『unknown』もそうなんですけど、ReoNaのアルバムって構成が面白いと思ってて。
構成ですか。
――そう、1曲目に答えの曲を持ってくるんですよね。普通のアルバムって、こうでこうなったから、結論として言いたかったことがこれです! っていう作りなんですけど、1曲目に「このアルバムで言いたいことはこれです」って先に言っちゃう。その後に結論を肉付けするように曲が押し寄せてくる。結論ありきで語られる備忘録みたいなアルバムという印象が凄くあるんです。
確かにそうかもしれないですね。
――だからインタビューも最初に結論を聞くべきなんじゃないかと思いまして。あらためてReoNaさんにとって「人として生きる」ってどういう事でしょうか。
人として生きる……これは私もまだ正解は見つけられていないものですけど、ただ自分が生きていく中で小さな正解みたいなものはいくつかあるなと思っています。
――是非お聞きしたいです。
例えば「SWEET HURT」の時に「わたしの命をあげよう」っていう言葉に対して考えた時に、私にとっての命って時間だと思ったんです。私の時間を捧げることが、命をあげるっていう事につながるんだなって、その時は私の中の答えが見つかったと思っていたんですけど……過ぎ去った過去ってどうしても変えることができなくて……起きてしまった出来事も変えることができなくて、不幸とか絶望ってきっと避けては通れないもので。
――はい。
私は不幸や絶望って雨みたいだと思うんです。前触れもなく降り注いでくるもの、自分の力ではどうしようもできないもの。避けようがないもの。挫折だったり苦労だったりって、きっと何かに立ち向かった代償だったりすると思うんですけど、不幸ってそういうものじゃないと思っていて。
――そうですね、避けようと思っても避けられないもの。
そういう理不尽は生きていく中で小さいことも大きいことも普通に起きている。人それぞれ色々あると思うんですけど、そういうものに対して“人として生きていく”……。改めて言葉に出すと難しいですね。
――初のアーティストブック『Pilgrim』も読ませて頂きましたが、「しょうもない人生ではなくなった」って仰ってるじゃないですか。デビューからの5年間で人生がドラマティックに変わったでしょうし、関わる人間もどんどん増えて変わっていく。「HUMAN」で歌ってるのが「どうしようもなく 生きていく」なのだとしたら、生きるって何だろうって話がしたいと思ったんです。
そうですね……私は人に生かされているなと凄く感じるんです。私の人生が私だけの人生じゃなくなったというか。これまでは生きるも死ぬも、自分がどうしていくかというだけだったんです。ReoNaとしてデビューする前は凄く孤独だったし、一人ぼっちで自分の人生をどうにかしようとし続けてきた中で、人に出会ったからお歌を紡ぐことができて、人に出会ったからこうしてアニメ、ゲームっていう作品に寄り添わせていただくことができて……凄く人に生かされているなって。
――それはそうだと思いますね。ReoNaさんの周りには善き人が集まっていると思います。
私の人生ってもう私だけの人生じゃないから、私が“しょうもない”と言ってしまうことによって、一緒に人生を歩んでいる人たちのことまで“しょうもない”って言いたくないなぁっていうのが「しょうもない人生じゃなくなった」っていう言葉の芯の部分です。
――ああ、なるほど……。
私は人生っていうものを独りよがりでどうにかしようとした時間が長かったと思っているんです。誰にも頼らず自分の道なんだから自分でなんとかしなきゃいけないっていう意識が凄くあったんですけど、その果てで今これだけの人に巡り会えて、これだけの人と一緒に歩ませていただいているからこそ「怪物の詩」から「HUMAN」にたどり着くことが出来たのかなと思います。それが「人として生きる」ということに繋がるのかもしれないです。
――ReoNaさんのお歌に乗っている人の数も本当に増えましたよね。
そうですね。本当にReoNaのものでもあり、ReoNaだけのものじゃないっていうのは凄く思いますね。
――アーティスト「ReoNa」とReoNaさん本人という部分に関しては、そんなに乖離していない気はしています。
変えているつもりはないです。多分私はそんなに器用ではないので「ここはアーティストReoNaだったらこう言うよな」とかの嘘は何一つないです。それはずっと変わってないです。
――そういうところが信頼なのかなっていう気がするんですよね。
ありがたいです。私も今回の楽曲たち、特に「HUMAN」に関しては、作詞作曲がハヤシケイさんなんですけど、ケイさんが本当に素直に人に対しての思いを込めてくれたからこそ出来たものだと思います。まさに信頼と言うか。
■この曲は私にはまだ早かったんじゃないかなとか思う瞬間もあった
――では「HUMAN」のお話も聞いていきつつ進めていければ。最初にこの曲のプロトタイプが来たのはいつ頃なんですか。
移動の車の中でした。確かドイツに向かう羽田への車中。
――半年ぐらい前ですかね。
そうですね、最初は歌詞とか見ずに耳で聴くだけにして。最初に思ったのがケイさんの事でした。ケイさんからもらうデモを聴くのは凄く久々だったんですけど、「HUMAN」っていうテーマで楽曲を書いてもらって、本当にここに描かれているのはケイさん自身なんだろうなと思いましたし、ピュアで純度が高い言葉だからこそ、私自身だけじゃなく、色々な人に当てはまる思いというか。
――それは感じます、曲全体の印象としてはどうでしたか?
まず思ったのが、ここ近年人と会いたくても会えない期間が長かったので、そこであらためて自分という存在を省みる時間が多かったなと感じました。ケイさん自身もきっとそうだったんじゃないかなという風に思いました。
――ReoNaさんってポイントポイントでとんでもない曲が出てくると思ってるんですけど、その中の一つのような気がしています。
とんでもない曲かもしれないですね。
――面白いなと思った部分としては、前作『unknown』では「unknown」と「絶望年表」という二つの曲を聴いた時に、どこか対になっているというか。アルバムの中での背骨と神経みたいな曲だと思ってたんです。でも今回の「HUMAN」ってこの一曲で全部を担うようなものを内包した曲になっている。この一曲で全部言いたいことが伝わるというか、一曲入魂というか。
そう受け取っていただけるお歌が歌えているなら、本当に良かったなというか。一曲の中に込められた想いの深度や純度が凄い高いので、歌うのは簡単じゃなかったです。この言葉と想いを伝えるのに今まで通りじゃ無理だったというか。
――レコーディングはいかがでしたか?
実際にレコーディングするまでに何回かプリプロっていう形でお歌を歌わせていただいてるんですけど、最初の方は何故か分からないけど歌ってて伝わらないというか。
――うまく行かなかった?
今までのように言葉を歌詞を読まずとも伝えられるように、感情を伝えるようにっていう風に歌ってても、どこが薄っぺらく感じるというか。この曲は私にはまだ早かったんじゃないかなとか思っちゃう瞬間もあったぐらいでした。
――そんなにですか。
楽曲のパワーに対してまだ歌のパワーが追いついてないのかもと思ったんですけど、もう歌わなきゃいけないからどうしようってなった時に、ボーカルのレコーディングのタイミングを凄く大幅に遅らせてもらったんです。秋の『De:TOUR』の前には曲自体はおおむね出来上がっていたんですけど、「HUMAN」はツアーで全国回り道をして、色んな人に会った後で、あらためてボーカルのレコーディングをしましょうって言ってもらって。
――人に関する歌ですもんね、人と出会って人と全国を回って、その後に収録することになったのは結果良かったですか?
言葉にするのは難しいんですけど、「HUMAN」っていう楽曲と一緒に『De:TOUR』するんだという気持ちで2カ月間全国を回って、「この声だったら届くんじゃないか?」っていう声が一つ見つかって、あらためてボーカル収録をさせてもらって出来上がりました。回り道の果てにこの「HUMAN」に辿りついたという感じですね。
――ReoNaさんの歌の印象って力強さと消え入りそうな儚さの両立だと思うんですが、この曲の歌唱には今までにない力強さも感じます。ロードムービー的というか。
そうですね。ロードムービーです。
――2カ月間の回り道を踏まえて、更に5年間のシーンが浮かんでくる曲だと思います。
本当に具体的に思い浮かべる人がいるぐらい、色々な出会いと人が詰まってます。人として生きていたら、きっとこれからも出会いと別れがきっと待ってるだろうし……。
――ReoNaにとって、「人として生きる」とは出会いと別れ、ですかね。
出会いと別れ……はい、確かにそうですね。
■「さよナラ」は不幸を雨だとしたら、傘をさしてくれるような曲
――では改めてアルバムの話に入っていきましょう。シングル「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」「ライフ・イズ・ビューティフォー」「生命線」「Alive」以外の新曲のお話を中心にお聞きできれば。まずは「Weaker」です、ファンファーレから始まる曲ですが、正直、アルバムはここからスタートという印象すら受ける曲です。
そうですね、「HUMAN」は壮大な序章かもしれないです(笑)。
――この楽曲はダンジョン攻略体験施設「THE TOKYO MATRIX」の企画『ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-』のテーマ曲となっています。デビューしてからずっと『ソードアート・オンライン(以下SAO)』の曲に関わられていますよね。
はい、色んな形で関わらせていただいてます。
――TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』『ソードアート・オンライン アリシゼーション』に関わり、ゲーム『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』の曲もやり、「Till the End」っていう原作小説刊行10周年記念テーマソングもやり……書ききれないくらいですね。ReoNaさんは作品のタイアップだったり作品を背負う時っていうのは、作品を自分の中に透過させて歌うと思ってるんですけど、『SAO』というタイトルに関して、まだ歌いきれてない作品の余白みたいなものってあるんでしょうか?
はい。本当に『SAO』っていう作品の幅広さと深さがとんでもないんです。今回この「Weaker」で寄り添わせていただく作品は、我々がいわゆる“無理ゲー”に立ち向かう物語。今までは絶対的なビーターであるキリトが切り開いていく物語に寄り添ってきたんですけど、今回はあくまで『SAO』のリアル型体験イベントのテーマソングなので、そこに来るユーザさん達がいかにして立ち上がるのかっていうのがテーマなんです。非常に難易度が高いって聞いているので、その絶望への立ち向かい方というか。
――なるほど。
この曲は間違いなく『SAO』に対するリスペクトそのものなんです。今まで「ANIMA」や「虹の彼方に」など色んな楽曲で引き継ぐものとして寄り添わせていただいたんですけど、チームReoNaが抱いてる初期の『SAO』楽曲のイメージっていうものが「Weaker」なんです。広がる草原だったり、お城が浮かんでる風景とか、アインクラッド編を感じさせるというか。『SAO』ってこういう楽曲じゃない? という私たちなりの思いを今回のサウンドに込めました。
――作品に対するリスペクトを感じる一曲ですね。
この楽曲と共に約1年間、開催されるゲームに対して、弱いぼくらで絶望の中で歩んでいけるんだなっていうものを表現できていれば嬉しいです。
――アルバムの構成として、『SAO』の楽曲の後に『シャドーハウス』の「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」が来るのはいいなと思いました。ReoNaさんのアニソンシンガーとしての一面をちゃんと見せるパートになってる気がしてるし。その後来るのが「さよナラ」っていうのがいいですよね。
お好きだと思ってました(笑)。
――MVも絵本を使っていて印象的でした。傘村トータさんの描く世界観が伝わりやすいというか。
傘村トータさんは凄く優しい人なんです。優しくて繊細だからこそ、誰かに背負わせ過ぎたくないというか。
――それは感じました。楽曲としては狼と人間という異種族の友情と別れの物語になっています。
傘村トータさんはご一緒する前から、ボカロPとして楽曲をずっと聴いてきたんですが、傘村トータさんにしか表せない世界観っていうのがあると思っていて。今回の「さよナラ」を受け取ったとき、何か形にして届けたいと思ったんです。楽曲の世界を受け取ってもらうために、何か形にしてお歌と一緒に届けたいって、私だけじゃなくチーム一同で感じたんです。その想いが絵本ということで実現するんですけど。
――とても効果的だったと思いますね。
私も小さい頃「はらぺこあおむし」っていう、絵本のセリフがまんま楽曲の歌詞になっているものと育ったので、長く誰かの心に残るものになるんじゃないかなと感じました。
――「ごんぎつね」を感じさせるような部分もあって、僕も子供の頃を思い出しましたね。
あれもそうですよね、友情の物語だし、取り戻せない後悔の物語だし。
――「ごんぎつね」と決定的に物語として違うのは、「ごんぎつね」って相互理解が得られてない話じゃないですか。与平はごんの気持ちがわからない。「さよナラ」は意思疎通ができている二人なのに、それが引き裂かれてしまう。とても傘村トータ的だなと思いました。
凄く悲しい物語なのかもしれないけど、さっきもお話した「不幸や理不尽は自分が悪くなくても訪れる」という部分につながっている気がします。自分の力ではどうしようもできないことってきっとある。それがもし雨のようなものだとしたら、傘をさしてくれるような曲というか。
――傘ですか。
この物語の結末は、理不尽で不幸なものだと思うんです。だからってこの二人がお互いのことを思いやってた時間や思い出って、なかったことにはならないんです。だから二人の名前をとって「さよナラ」って言葉になったじゃないかなって思っていて。絶望を歌っている悲しい物語のはずなのに、なにか暖かさが残る楽曲だと思います。
――キャラクターが達観していますよね。「何もうらまない 何もにくまない」って言い切る精神性って、とても傘村トータさんっぽいって思ったんです。そんな曲をReoNaさんが歌うからこそ、切なさも際立ってる気がしました。
歌にすることでこの物語が想いのままに伝わってくれたらいいなって考えていて、今回演奏を担当してくれた荒幡亮平さんと、せーのでクリック音とか聴かずにレコーディングさせてもらったんです。私はいつもレコーディングする時、部屋を薄暗くというか、真っ暗にするんですけど。
――コンセントレーション的な部分でそうするんですか?
そうですね、楽曲によって明るさ違うんですけど「さよナラ」は結構暗くて。そうしたら荒幡さんも「じゃあ、俺も部屋暗くしよう」って言って、二人のブースだけほぼ真っ暗になっちゃって(笑)。 でもピアノの音に耳を澄ませて物語を紡ぐように言葉を置いていくみたいな感覚でレコーディングしました。
――この曲は荒幡さんの編曲ですけど、アルバム通して編曲が凄く良いというのも印象の一つです「Weaker」も堀江晶太さんの音を感じるし、「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」の小松一也さんも凄いReoaNa用にしっかりチューニングされた曲の集合体になっていますよね。
そうですね、そういう意味では音を形作るアレンジャーさんは、この楽曲はこの人しかいない! っていう想いでお願いしています。
――贅沢ですよね。「HUMAN」もaikoいきものがかりback numberなどを手掛けるサウンドプロデューサーの島田昌典さんが担当していますし、コレは驚きました。
贅沢ですね……島田さんは引き受けていただけると思ってなかったです。ダメ元でお声掛けしたら、まさかの快くお引き受けいただいて。
――なんかこのアルバムの話って度々「HUMAN」に立ち返っていかないと行けない感じになってきましたね(笑)。
そうですね(笑)。
――島田さんが担当した「HUMAN」から始まることで、「ReoNaはアニソンシンガーであり、ポップスシンガーです」ってちゃんと銘打ってる気がしました。
確かにそうかもしれないです。
■この曲順が、アルバムに対する最大公約数なんじゃないかと思ってる
――次は6曲目、「FRIENDS」はruiさんが担当している楽曲ですが、アメリカンロック・ポップスの空気を感じる曲です。そこにReoNa的なワードが凄い入ってくるのが良くて。「ヒールはあんよが痛い」とからしさを感じました。そのアンバランス感がすごく面白かったし、最初にこれ聴いて思ったのは神崎エルザに対するリスペクトでした。
あ、そう感じてくれましたか。
――ある意味原点的というか。
凄く原点だと思います。まずruiさん✕ReoNaっていうところがそうですよね。神埼エルザとの出会いがアニソンシンガーReoNaとしての一つの原点なので、「ピルグリム」だったり「レプリカ」だったり、そういうところから始まって歩んできて今こうしてここにいるというか。実はここまで作詞をReoNaがさせていただいたのもほぼほぼ初めてに近いぐらいなんです。
――ruiさんと共作となっていますけど、結構ReoNaさんが担当している?
日本語部分は全部私なんです。英詞をruiさんにお願いしました。
――神崎エルザを感じさせるような楽曲のテーマが「FRIENDS」ってとてもいいですよね。
そうですね。「I love you」って言ってるけど最後に「Friends」って言ってる部分とか。
――5年経ったReoNaにエルザからの手紙のような曲だなと思いました。
正に手紙っていうのはキーワードでした。楽曲を書くにあたって具体的に思い浮かべた友人がいるんです。デビューすることになって会えなくなった。それまで週に3~4日一緒にいるぐらいの友達だったんですけど、デビューするにあたって連絡先も消して遊びに行くこともなくなって。
――そこまでですか。
それくらい真剣に音楽と向き合わないといけないと思って……事務所の社長さん経由でライブとかには来てもらってるんですけど、会話するのもはその終演後の数分間。
――その友達への思いが詰まっている。
具体的な思い出だったり、その友達に対する想いだったりは歌詞に載せています。歌詞を書くとなった時に、どうしても大層なことを考えようとしてしまって。
――大層なことですか(笑)。
ケイさんや毛蟹さん、トータさんっていう一流の作詞家さん達が周りにいる中で、そんな人達が紡いだくれた言葉と一緒にお歌をお届けしていくとなったら、凄いこと歌詞に書かないといけない! みたいなイメージが最初あったんですけど、事務所の社長に「手紙でいいんだよ」と言ってもらったんです。例の一つとして、ビートルズの「HEY JUDE」はジュリアン・レノンに対して「ヘイ ジュード」って語りかける楽曲なのに、今世界中の誰もが知ってて、みんながシンガロングできる楽曲になって。
――たしかにそうですね。
誰か一人に向けたお歌が、たくさんの人に自分事にしてもらえて、届いていくっていうのが良いなって。そこから「ヒールはあんよが痛くて」とか、普段使ってる飾り気のない言葉で作詞できたと思います。
――「朝帰りヒールは あんよが痛くて コンビニで買ったお揃いのスリッパはダサくて」ってめっちゃリアルですよね。
100円ローソンでスリッパ買いました(笑)。 「ここからめっちゃ下り坂だけど二人ともヒールじゃん、無理じゃない?」とか言って。スリッパ買うかって(笑)。
――ReoNaの始まりはさっき仰ったように「神崎エルザstarting ReoNa」として始まったわけじゃないですか。それも相まって比較的謎が多いアーティストだったと思うんです。
あまり私生活とかは詳らかにしない方だなと思います。
――その人が書いた歌詞が自分の過去を思い出している内容で、歌詞にも楽曲にも凄いこだわりがあるチームReoNaの面々が「手紙でいいよ、これで行こうぜ!」ってこの曲を作り上げたというのは、ReoNaさんに対するチームの信頼かなって思いました。
でも、いざ歌詞をはめてみてドキドキはしたんですよ。大丈夫かな? 通じるかな? とか。楽曲出来上がってからもずっと「本当に受け入れてもらえるんだろうか?」みたいな不安があったからこそ、ラジオでオンエアがあったり、インタビューでいいねって言ってもらえて。自分の言葉で作詞したことに対するアンサーを頂いている最中です。
――ずっと言ってる言葉も散りばめられていますよね、「懐かしいは優しい」とか。歌詞でも「狭すぎる世界で」って言ってますけど、10代後半とかって親と、友達とっていう、あれが世界の全てなんですよね。
そう、あれが世界の全てでした。
――そのミニマムな関係値がすごくリアルでした。「さよナラ」の後に配置されてるのもいいですよね。トータさんの書くいい意味で狭い世界と、ReoNaちゃんの狭い世界の“果て”が違うから面白い。
このアルバムって凄い妙な作りになってるって思うんです。一つのものに対して一つの絶望だったりとかに対して視点が一つじゃないというか。「シャル・ウィ・ダンス?」と「ないない」もどっちも『シャドーハウス』の曲ですけど、向き合う視点が違ったりとか。全部を通して人について歌ってるんですけど、その人間というものに対しての目線が違ったりとか。
――ああ、なるほど……それはそうかもしれないですね。
「さよナラ」と「FRIENDS」も、誰かとの関係に対する絶望に対する向き合い方が違うんですよね。届ける側としてはそういう部分も受け取ってもらえたらいいなと思っています。
――凄く狭い世界の話が二つ続いた後に「ライフ・イズ・ビューティフォー」。ここにしか置けないと思いました。この前でもないし、この間でもない。
ぜひ加東さんにも考えていただきたいんですけど、このアルバムって曲順の直しようがなくないですか?
――ああ……ないかもしれないですね(笑)。
この曲順って、私アルバムに対する最大公約数なんじゃないかなって思ってるんです。なので順に聞いてもらえたら嬉しいです。
■物語や作品が終わってしまうことが得意じゃない
――その「ライフ・イズ・ビューティフォー」があって「メメント・モリ」。毛蟹さん作詞作曲ですが、100%毛蟹さんというか…聴けば聴くほど良くなるというか。
わかります。
――その毛蟹さんが「死を忘れるな」という意味の曲を作ってきたのが凄いなと。
これは全部毛蟹さん全開ですね。何ならギターも毛蟹さんが弾いてますし。
――本当に100%ですね。最初の印象はどうでした?
私の中にいるアニメ・サブカル好きの少女が「あ、もう好き!」って言ってました(笑)。たぶんこの楽曲にデビューとかする前の10代の時に出会ってたら、この曲を聴きたいがためにライブ行くだろうなって思うぐらいの楽曲です。
――毛蟹さんとの関係値も長いですよね。
そうですね。「怪物の詩」が初めて貰ったオリジナルの曲なので。
――そういう意味では一番タッグを組んでる。
そうですね、一番多いです。
――毛蟹さんはTYPE-MOONの楽曲も多く担当されてますし、そういう空気も感じるような一曲ですね。
多分その軸も毛蟹さんの中にあるんだと思います、「生命線」があったからこそ頂いたものかもしれませんね。
――それはありそうですね、この曲は毛蟹さんが自分はこういうものが好き! というのをあんまり隠してないというか、自分の好きなものをちゃんと出してきたというか。
凄くわかります。毛蟹さんが純度100%だった時に生まれる爆発力みたいなものって、結構今までの歩みの中でも要所で感じているんです。「生命線」はReoNaのこと1ミリも考えないで作ったとおっしゃってたんですけど、毛蟹さんが真っ直ぐ曲を描いたからこそ、心揺されるものって凄く凄くあるなと思っています。
――「まっさら」とかもそういう楽曲ですよね。良い意味で毛蟹さんの我が出ている曲を、ReoNaさんがちゃんと乗りこなして、自分の物にしているのが曲の良さを引き上げていると思います。
毛蟹さんはReoNaに挑戦状を叩きつけてくる人でもあり、ReoNaのことを研究し続けてきた人でもあると思っているんです。最初の頃、私の歌のレンジが今より狭くて何も歌えなかった頃に、私が歌いづらいって言った一言をずっと気にしてるみたいで、どうしたら歌いやすいだろうか、どのレンジだったらReoNaの声を生かしていい歌を歌えるんだろうかっていうのは、とても研究して楽曲を作り続けてくださっているのが毛蟹さんです。だからこそ毛蟹さんも自分の好きなものを入れつつ、ReoNaっていう一つのスピーカに対して挑戦を叩き付けてきているというか、そういう関係値なんだと思います。
――そういう意味では真にオタク気質を持っていますよね。
そうなんです、だからずっと博士だと思ってます。毛蟹博士。
――この5年でReoNaさんが凄く成長したと感じるのは、この曲がどういう作品なのか、どういう想いなのかというのを受け取る感受性はもともと凄く優れてると思うんです。ある意味マイクとしての性能というか。それに対する表現力、スピーカーとしての性能も上がっていると思っていて、それを「メメント・モリ」からは感じられたんです。
スピーカーとしての性能は上げていきたいです。最初は確かに感受性の方が強かった気がするんですけど、声のレンジが広がるというのも含めてスピーカーとしてのReoNaをもっと強くしたいですね。
――そして「SACRA」です。cAnONさんが作詞、澤野弘之さんが作曲されています。SawanoHiroyuki[nZk]の「time」の時は澤野さんの世界にReoNaさんが入っていった感がありましたが、今回は澤野さんがこちらに来たというか、その交換が良かったです。
ありがとうございます。
――澤野さんから見たReoNaの絶望を書いてるというか、桜が舞う卒業や別れを感じさせてくれました。
春って出会いと別れの季節だと思っていて、その中でも数々日本に「さくら」という名前の名曲が残されてきてますけど、ReoNaと澤野さんが描く桜だったらこの「SACRA」。
――所属レーベルの名前でもありますからね。
澤野さんとReoNaの共通項でもありますし、きっとこれはReoNa一人では背負えない「SACRA」。澤野さんとだからこのタイトルにできたと思います。
――澤野さんの持っているダイナミズムだったりエモーショナルな部分というのを、極力押さえ込んでReoNaのために作ってるというか。
私もアニメ好きの一人として、いろんな作品で澤野さんの楽曲と出会ってきて、澤野さんの音楽って、分厚く荘厳なサウンドのイメージがあったんですけど、このピアノの旋律が美しいはかなげな音にしてくださったのは、ReoNaのことを思い浮かべてくださってたのかなって。
――曲が3分ちょっとで終わる短めなのもなんか素敵でした。気になった時には終わってるというのも儚さを感じました。コーラスも美しい。
今回最後の混声になる所は五人で歌ってます。私を含めて五人のコーラスが、桜の花びらみたいだなと思いながらレコーディングしました。
――ラスト前に持ってくるのは洒落てるし、素敵だなと思いました。そして最後「VITA」です。さっきのアルバムの対担っている曲という話をすると「Weaker」と『SAO』のつながりがある曲ですが、なおかつこれは裏に「ANIMA」の影を感じます。
アルバムを飛び越えた話になりますが、「ANIMA」という魂の物語があって、「Scar/let」という情熱の物語があって、命……「VITA」っていうところに辿りつく。
――「Weaker」とは『SAO』でつながっていますが、この曲で歌われているテーマって、「HUMAN」の対になるとも思えるんです。「VITA」の最後の歌詞が「HUMAN」の「I'm human」「どうしようもなく生きていく」と、なにかつながっているようなものを感じました。
一つキーワードとして、この楽曲をお届けする前後に武道館ワンマンがあるんです。それが楽曲を作っていく中でヒントになっていて。
――やはり武道館というものは意識にあるんですね。
武道館のことをずっと新たな一つのスタート地点という言い方をしてきたんですけど、まだまだこの先にも紡いでいきたいお歌もあるし、みんなと見ていきたい未来があるので、「まだ終われない」って歌詞は私自身の事でもあるし、『SAO』に対しても終わって欲しくないという思いを「Till the End」の時から持っていて。そういうものが楽曲に込められています。
――ああ、『SAO』に対する思いというのもあるんですね。
私は元々物語や作品が終わってしまうことが得意じゃないんです。ReoNaのアーティスト人生の中でも凄く重要な作品になっている『SAO』はまだまだ続いて欲しいし、まだまだ終わって欲しくない。そんな『SAO』に対する想いとReoNa自身の想いが凄く重なっています。「HUMAN」とも重なってくる部分としては、「アリシゼーション」の物語って、魂や記憶がテーマの一つで、人間とAIの違いってなんだろう? とか、人として生きるというのが物語の芯になる部分だと思っていて、そういう意味で「HUMAN」と対になってるかもしれません。
――ご自身のターニングポイントに対する思いだけではなく、作品への思いを込められるという意味では、本当にReoNaさんはアニソンシンガーですよね。
そうありたいですね、アニソンシンガーでいたいです。
■武道館のその先もずっと「1対1」で
――そういう軸としても見てくださいと言えるじゃないですか。それはアニソンシンガーだからの武器だし、そこも考えて曲を作って紡いでいかなきゃいけないのは大変な事になるなと。アニソンシンガーでいたい?
アニソンシンガーでいたいですね。アニソンシンガーっていう言葉がある時点で、きっとそれを望んでる人たちがいるんだろうなと思ってるんです。この言葉があり続ける限り、楽曲で作品に寄り添う人がいて欲しいし、私はそうありたいと思います。
――更に今回完全数量生産限定盤には、昨年6月10日に行われた『ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 “Naked” Lie at Zepp Haneda』の同録ライブCDも収録されますね。
かなり気合の入ったライブCDになってると思います。本当に豪華だと思います。
――ReoNaさんはライブで録ったものをCDとして聴いてもらうって、どういう印象を持たれていますか?
つい先日「unknown」のライブ音源が配信でリリースされたばかりなんですが、やっぱりオリジナル音源とライブバージョンはちょっと違うのが面白いと思います。ツアーを回ってきて、ミュージシャンがもう一歩楽曲への理解を深めて演奏してくれているところとか、私自身も歌ってく中で変化していった部分だったりとか、それを受け取ってもらえるのは凄く特別だと思います。
――ReoNaチームってはライブを大事にしてると思いますし、本数も多いですもんね。
今回「unknown」のライブ音源が配信されて、「Let it Die」に反応してくださっている人が多かったんです。今回も「Let it Die」入っているので、ライブことに同じ曲を聴き比べたりとかできるのも良さだと思うので、ぜひ聴き比べていただけたら。
――僕も「猫失格」とか「生きてるだけでえらいよ」とかはライブアレンジが素敵だなと思います。
「絶望年表」とかも違いを楽しんでもらえたら嬉しいです。
――アルバム『HUMAN』、改めてすごい魅力的な一枚だと思いました。ReoNaさんのことが好きでこのアルバムを手に取ってくれる人って、12曲目が終わったらもう一回頭に戻って『HUMAN』を聴くんじゃないかな、と。
是非ループしていただきたいです。まずはシャッフルじゃなくこの順番で! ライブのセットリストみたいな感覚で受け取ってもらえたら嬉しいです。全部が「HUMAN」に集約していくという感じを味わってもらえたら。
――このインタビューは武道館まで一週間ちょっと、というタイミングでお話を聞いています。その5月には全国7箇所を回る『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”』も発表されました。
“武道館が新たなスタート地点になる”というのは、今まで歩んできた道筋みたいなものを武道館でお届けして、5月の『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”』では初めてライブでお届けできる曲をたくさん披露できるのではと。武道館に向けて集中していく中ですけど、だからこそその先の未来のことも考えながら日々を過ごしてます。まずは日本武道館での1対1、そしてその先もずっと1対1をお届けできればと思っています。
――凄くそれを楽しみにしています。ある意味第二章のスタートでもありますしね。どう絶望を伝えるか、どう絶望に寄り添うか、寄り添いながらどう生きていくかっていうのをより表現していくターンになっていくのかなと、勝手に思ったりしています。
より深くなっていきますね。
――死ぬまで人間生きなきゃいけないですからね。
死ぬまで生き続けなきゃいけない……本当にそうですね。今日も明日も。
インタビュー・文=加東岳史

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