【この2.5次元がすごい】ミュージカ
ル「SPY×FAMILY」の「わくわくっ」
なキャスト陣、シリアスとコメディの
緩急が楽しい芝居

製作:東宝 (c) 遠藤達哉/集英社 今回取り上げるのは帝国劇場で上演中のミュージカル「SPY×FAMILY」です。このコラム内では普段2.5次元作品をピックアップしていますが、私も大好きなこの作品がミュージカルで上演! ということでその感動をぜひ紹介させてください。原作漫画はシリーズ累計発行部数2900万部を突破し、テレビアニメ化でも大きな注目を集めています。スパイ&超能力者&殺し屋というそれぞれ秘密を抱えた3人が仮初めの家族となり、シリアスとコメディを絶妙にブレンドした物語を展開する同作がミュージカル化ということで、発表当時から大きな注目を集めていました。特に昨年末に「FNS歌謡祭」でアーニャ役が発表されると、そのかわいらしさも話題に。私も原作が好きなひとりとして、アーニャのように「わくわくっ」と劇場に向かいました。
迫力の舞台装置と漫画原作らしいギミックで世界観を作り上げる
 ミュージカルは音楽で世界観やキャラクターの心情が表現されるのが大きな特徴であり、おもしろさと言えます。今作ではキャッチーな楽曲「よりよき世界のために」が印象的な場面で披露され、物語全体を引っ張っていきます。心躍る楽曲でありながら、それぞれの世界や関係性を守るためにも人には裏の顔があるという「SPY×FAMILY」ならではのメッセージが伝わってきました。
製作:東宝 (c) 遠藤達哉/集英社 迫力のある舞台装置とその使い方のうまさも、原作が漫画である本作を魅力的に描いている要素のひとつ。スパイである〈黄昏〉が幼い頃に瓦礫の中で泣いている場面や、場面を移動しながらのアクションシーンではセットがくるくると回転するように変化し、舞台全体が動いているような雰囲気を感じます。また、頭上のモニターでは時折キャラクターの心の声やト書きが映し出され、漫画的な笑いを生みだしていました。スタイリッシュで豪華な舞台装置やセットだけでなく、例えばイーデン校の受験日に暴れる牛はアナログに登場するなど、その緩急も楽しく、シリアスとコメディの両方をもつ物語から目が離せません。
ダブル&クアトロキャストで演じる魅力的なキャストたち
 そして「SPY×FAMILY」の世界を生きるのが魅力的なキャラクターたち。〈黄昏〉が任務のために扮するロイド・フォージャー役は森崎ウィンさんと鈴木拡樹さんが、殺し屋の裏の顔を持つヨル・フォージャー役は唯月ふうかさんと佐々木美玲さん(日向坂46)が、そして、シスコンでありながら秘密警察であることを姉に隠している弟のユーリ・ブライア役は岡宮来夢さんと瀧澤翼さん(円神)がダブルキャストで演じます。忘れてはいけないのは超能力者で娘のアーニャ。アーニャ役は池村碧彩さん、井澤美遥さん、福地美晴さん、増田梨沙さんのクワトロキャストです。どの組み合わせもみたくなってしまうのが悩ましいのですが、天然で少しずれているヨルさんに、シスコンすぎるユーリ、そしてそのなかで冷静なツッコミをしながらも大胆な嘘で話を合わせるロイドと大好きなキャラクターに出会うことができました。まだ鈴木さんのロイドしか見られていないのが残念ですが、原作では比較的淡々と読み取れるロイドの心情も、舞台の上では少し人間的なツッコミのようでテンポよく客席に笑いを届けてくれました。客席とも会話するようなこの雰囲気は舞台ならではで、鈴木さんらしいお芝居だと感じます。
製作:東宝 (c) 遠藤達哉/集英社 アクションや世界のためにという物語の軸がシリアスとするなら、それを彩るのがコミカルな場面でしょう。ユーリがフォージャー家を訪れる場面では、ドラマティックな歌とコントのような会話がおもしろく、イーデン校の受験で出会う第3寮寮長・ヘンダーソン先生のエレガントな佇まいは圧倒的。
 面接試験の場面では、ロイドやヨルがアーニャを合格させるために力を合わせる姿が印象的。仮初めの家族でありながらも、父として母として面接官に挑む姿には思わず涙が出ました。一家の行く末が気になりつつも、自分自身や私たちを取り巻く社会のことも考えさせられる作品でした。人はみな、愛する人のため、世界のために誰にも見せない顔をもっているのかもしれません。それでもフォージャー一家を見ていると、どちらが本物でどちらが偽物ということではなく、どちらも自分自身なんだということがわかります。
 公演前の会見で鈴木さんが「アーニャの入学も描かれ、この季節にぴったりな作品」と話したように、新しい一歩を応援してくれるようなミュージカル「SPY×FAMILY」。帝国劇場で3月29日に千穐楽を迎えたあとは、5月21日の大千穐楽まで全国ツアーが行われます。

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