アニマルズ解散後、
エリック・バードンが挑んだ新境地

ウォーとの出会い

自分のバンドもなくなってぶらぶらしていたエリック・バードンだったが、ある日、クラブに飲みに行った彼は店に出演していたナイト・シフトというローカル・バンドのライヴを観る。あとで聞くと、バンドのベーシスト、ピーター・ローゼンから招待を受けていたのだそうだ。会場には他に白人のプロデューサー、ジェリー・ゴールドスタイン、当時は無名だったハーモニカ・プレイヤー、リー・オスカーも来ていて、彼らもローゼンの招待を受けてのことだったらしい(何の意図だったか分からない)。

「ナイト・シフト」の演奏が気に入ったエリック・バードンは、すぐに彼らに声をかけ自分とバンドを組んでくれないかと懇願する。プロデューサーまでその場に居合わせたわけだから話が早い。トントン拍子にレーベル契約の話がまとまり、レコーディングまで決まる。そして時世はベトナム戦争の最中なのであり、多国籍軍のような自分たちには相応しいだろうと、バンドはエリック・バードン&ウォーと名乗ることになった。メンバーはバードンをリーダーにビー・ビー・ディッカーソン(Ba)、ディー・アレン(Con&Per)、 ハロルド・ブラウン(Dr)、ハワード・スコット(Gu)、リー・オスカー(Hmc)、チャールズ・ミラー(Fl&T.Saxe)、ロニー・ジョーダン(Org&Pf)、そしてプロデューサーのジェリー・ゴールドスタインというラインナップでスタートする。ベースは本来、バードンを焚きつけたピーター・ローゼンがつとめるはずだったが、レコーディング直前にドラッグのオーバードーズで急死。急遽B.B.ディッカーソンが呼ばれるという慌ただしい交代劇が起こっている。それもあってか、結成からレコーディングまで充分な時間がないどころか、超特急で済ませたのではないか。このあたりは推察するしかないのだが、結果、これが偶然か化学変化か、バードンの意図したものだったのか、面白い結果となって現れているのだ。

ウォーのメンバーはなかなかテクニシャン揃いである。ただ、超短期間でのレコーディングで凝ったことはできるわけがなく、それぞれの持ち寄ったアイデアで曲想を練りながらセッションを重ねたと思しき音源は、基本はシンプルなリズムトラックをベースとし、ずっとリフレインで繰り返し演奏しながらグルーブを作るというスタイルだ。そこに随所にジャズ、ソウル、ラテン風味のパーカッション、管楽器を加えるなどの工夫をしている。バードンの意見もあったのだろう、ロックっぽさも充分に生かしたエッジのきいた音というのも感じさせる。これが当時は非常に斬新に聴こえたのではないか。黒人だけのファンクバンドほど粘りを感じさせることなく、クールなところがあるのだ。コラムの冒頭でこのアルバムを選ぶにあたり「内容が今日的で〜受け入れられやすいのではないか」としたのは、ちょっとしたレアグルーヴ好きには、彼らのサウンドやノリは受けがいいのでは? と、ふと思ったからだった。

OKMusic編集部

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