マシュー・ボーンの『くるみ割り人形
』1週間限定上映中~目くるめくよう
な愛と冒険の物語に胸躍ること必至

マシュー・ボーンの『くるみ割り人形』が、2023年3月10日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋/大阪ステーションシティシネマ/TOHOシネマズ ららぽーと福岡にて1週間限定公開されている。舞台好きならずとも見逃したくない珠玉の一本である。

■これぞ鬼才ボーンの原点といえる名作!
英国が生んだ鬼才振付家・演出家マシュー・ボーンの代表作といえば、男性たちが白鳥を踊る『白鳥の湖』があまりにも有名だ。英米の権威ある舞台芸術賞・演劇賞を総なめにし、日本でも2003年以後、来日するたびに旋風を巻き起こしている。でも、1992年初演の『くるみ割り人形』もボーンの原点といえる出世作で、輝きを失わない。初演から30年を迎えた2022年に新収録された舞台をスクリーンで堪能すれば、誰もがそう感じるだろう。

MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
バレエ『くるみ割り人形』は、1892年、帝政ロシアのマリインスキー劇場で初演された。チャイコフスキーの音楽が名作の誉れ高く、数々の振付家が新版に挑み、設定や時代背景を読み替えた新たな解釈も少なくない。ジョン・ノイマイヤー版(1971年)、モーリス・ベジャール版(1998年)などが知られるが、バレエによってバレエを語るという構造を備える。いっぽうのボーン版では、バレエのテクニックも用いるが、しばし称される「言葉のない演劇」のように鬼才独自の手法で物語を進めていく。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson

■鮮やかな舞台展開、往年の映画やミュージカルへのオマージュ
ボーン版の舞台は孤児院。少女クララたちはドクター・ドロス夫妻に抑圧されている。クララはくるみ割り人形を愛し、二人は孤児たちと共に夫妻と戦う。二人は雪の国へと向かうが、そこでプリンセス・シュガーにくるみ割り人形を奪われる。クララはやがて、お菓子の国へ――。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
孤児院でスリリングに繰り広げられるダークなバトル、雪の国でクララとくるみ割り人形と戯れる際の透明感あふれる感情の機微、巨大ケーキなどが登場し豪華絢爛なお菓子の国での数々のキャラクターダンス。どん底の世界から淡い恋に目覚め、総天然色の絢爛たる世界へと誘われる。クララのワクワクする恋と冒険の物語には、ボーンの、古き佳き時代の映画やミュージカルへの愛が満載である。第2幕でドクター・ドロスがキング・シャーベットとして、ミセス・ドロスがクイーン・キャンディとして登場するといった趣向にもご注目を。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson

■チャイコフスキーの音楽とダンス、物語が混然一体に
テンポよく奏でられるチャイコフスキーの音楽とダンス、仕草が混然一体となって、物語が、登場人物の感情が、手に取るように伝わる。ボーン作品を見慣れていると、それがさも当たり前のように思ってしまいがちだが、驚異的なこと。そして、本作の幕切れの後味は悪くない。ボーンならではの毒やシュールさもあるが、多幸感に包まれ映画館を後にできる。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson

教育施設を舞台に読み替え若い出演者を生かした『ロミオとジュリエット』(2019年)、同題の名作映画に取材しバレエ愛にあふれた『赤い靴』(2020年)といったボーンの近作が日本でも映画館上映され好評を博したのは記憶に新しい。鬼才は巨匠となっても、ユーモアと機知に富み、時にピリッと辛い視点を忘れない。今回は出世作をリバイバルした舞台の上映で、間口も広い題材・造りでもある。ジェットコースターに乗っているかのような目くるめく展開、色彩豊かで異彩を放つ美術や衣裳がシナジーを起こし、「マシュー・ボーン史上最も楽しい作品」「観たことのない至福の世界へ」という今回の惹句に偽りはあるまい。くれぐれもお見逃しないように。
3/10(金)公開 マシュー・ボーンの『くるみ割り人形』予告編
文=高橋森彦

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