上白石萌音、屋比久知奈、井上芳雄ら
が心揺さぶる名作を新たな演出で魅せ
る ミュージカル『ジェーン・エア』
会見&公開稽古レポート

『レ・ミゼラブル』や『ナイツ・テイル―騎士物語―』、『千と千尋の神隠し』を手がけた世界的演出家ジョン・ケアードが演出するミュージカル『ジェーン・エア』。1847年に刊行されたシャーロット・ブロンテの長編小説『ジェーン・エア』を原作に、1996年にカナダ・トロントにて、ジョン・ケアードが自ら脚本を担当。『ダディ・ロング・レッグズ』や『ナイツ・テイル―騎士物語―』などでもタッグを組んでいるポール・ゴードンが音楽を担当しミュージカル化された作品だ。 2000年にブロードウェイにてロングラン上演されると、トニー賞で作品賞など主要5部門にノミネートされた不朽の名作が、11年ぶりに日本で上演される。
さらに今回の上演は新演出版。ジョン・ケアード作品への出演経験もあり歌手としても活躍する上白石萌音と、多くのミュージカルで抜群の歌唱力を誇る屋比久知奈が主人公ジェーン・エアとその親友ヘレン・バーンズを役替わりのWキャストで務める。ジェーンが家庭教師として訪れる屋敷の主人、エドワード・フェアファックス・ロチェスター役は井上芳雄。さらに春野寿美礼、仙名彩世、樹里咲穂、大澄賢也、春風ひとみといった実力派が顔をそろえた。
初日を前に、上白石萌音と屋比久知奈、井上芳雄による会見と公開稽古が行われた。
ーーまずは初日に向けた意気込みをお願いします。
上白石:すごく緻密に、素敵なお稽古を積み重ねてきたので、その成果を皆さんにお見せしたいです。私は見ていて本当に素敵な作品だと感じるので、早くお客様に観ていただきたい気持ちです。
屋比久:いよいよ初日ですが、実感があるような、ないような感じでドキドキしています。今回はオンステージシートもあるので、お客様が入って初めて完成するのかなと特に感じます。お客様のエネルギーをもらいながら楽しめるように頑張りたいです。
井上:渋滞に巻き込まれていたので、辿り着いただけでも今日は良かったなと(笑)。少しずつ状況とルールが変わり、劇場も変わっていくのかなと思います。コロナ禍が3年ほど続いているのでにわかには信じ難いですし、手放しで喜んでもいけないのかなと思いつつ、変化を噛み締めながら、気をつけるところは気をつけて進んでいきたいです。日々変更がある稽古だったので、確固たるものがまだないんですよ。ふわふわしていますが、固まったものをお見せするのがいいとも思わないので、このまま生きた舞台をお見せできたらいいのかなと思っています。『ジェーン・エア』は観ているのとやるのでは大きく違う作品だと感じましたね。
上白石:どう違いますか?
井上:やってみると観ていた以上にすごく複雑な作品。楽しみながらやりたいなと思います。
ーー今回役替わりでのWキャストを務める上白石さんと屋比久さんですが、お互いのリスペクトできるポイントを教えてください。
上白石:ここまで来られたのは知奈のおかげです。
屋比久:同じ思いです。
上白石:稽古場でたくさん話し合ったし励ましあったし、褒め合いながら、心身ともに一緒になってやって来た感じがあります。生涯の宝だなと思っています。知奈の素敵なところはアスリート気質なところ(笑)。
井上:酸素が薄くても大丈夫みたいなところがあるよね。
屋比久:どう言うことですか(笑)?
井上:それくらいストイック。
上白石:笑みを絶やさずにストイックに己を磨き上げていて、「こういう人がいるんだ」と思いながら刺激をもらっています。
屋比久:この作品は特に、2人で話して2人で一緒に考える時間が多かったんです。作品を深める段階から色々なことを共有できたので、大変さが軽くなりました。萌音という人間は常に地に足がついていて、周りを穏やかに、安心させてくれる人。それがジェーンとしてもヘレンとしても現れていて、刺激をもらいながらやってこれました。一緒に舞台に立てるWキャストは珍しいと思うので、ここからまた2人で支え合いながら頑張っていきたいです。
ーー井上さんはそれぞれのジェーンとの稽古で楽しかったことや苦労したことを教えてください。
井上:2人は本当に仲が良くて、僕が知る限りミュージカル史上一番仲良しなWキャストですね。共鳴しあっている感じがありました。僕の入る隙はないくらいひとつになって稽古をしていましたね。相手の僕はひとりなので、稽古大変だろうなと思っていたんです。もちろん回数は2人よりやることになったんですが、この2人はひとりがやっている時にもうひとりが見ていることで一緒にやっている、分かち合っているような感じがあって。稀なことだと思いますし、キャスティングをしたジョンやスタッフさんの目のつけどころの確かさを感じますね。それでいて出てくるものは全然違うので、人間って面白いなって思いました。
上白石:しれっと変わっていたので困惑されたと思います。
屋比久:さっきと違う人がいるから。
井上:遠目からはほとんど一緒なんですけどね(笑)。
ーー稽古中の印象的なエピソードを教えてください。
井上:髪型が全然決まらず、実は今の髪型も今日初めてです。もしかしたら本番ではまた変わっているかもしれません。でも、全編通して固まらないというか、ジョンの演出もどんどん膨らむし「毎日同じことをしないで」と言われていて。ドキドキするし不安だけどそれを楽しめる稽古場であり作品なのかなと思います。
上白石:芳雄さんはお稽古が終わってから家に帰るのが早いなと思っていましたが、知奈はさらに早かったです(笑)。
屋比久:そのまま来てそのまま帰る。
井上:ちょっと走ってるよね。何に備えてるんですか(笑)?
屋比久:何が起きるかわからないから(笑)。私が印象的だったのは、えーと……。
井上:特にないと(笑)。
屋比久:たくさんあって選べないんです(笑)。でも私と萌音は背格好がそっくりなので、自分たちも周りも稽古場で誰が何をやっているか分からなくなるという。本番では衣装を着ているので分かっていただけるようになるかなと。
上白石:後ろ姿を撮った写真、そっくりだったもんね(笑)。
【あらすじ】
1800年代ビクトリア朝のイギリス。ジェーン・エア(上白石萌音/屋比久知奈)は孤児となり伯母のミセス・リード(春野寿美礼)に引き取られるが、いじめられ不遇な幼少期をおくる。プライドが高く媚びることをしないジェーンは伯母に嫌われ、寄宿生としてローウッド学院に行くことになる。そこは規則が厳しく、自由もない。ジェーンは教師たちに反抗的であったが、ヘレン(上白石萌音/屋比久知奈)いうかけがえのない友に出会い、「信じて許すこと」を学ぶ。しかし彼女は病気で死んでしまう。成長したジェーンはローウッド学院で教師をしていたが、自由を求めて家庭教師として学院を出る。ジェーンは、広大なお屋敷の主人、エドワード・フェアファックス・ロチェスター(井上芳雄)の被後見人・アデール(岡田悠李/萩沢結夢/三木美怜)の家庭教師となる。
主人のロチェスターは孤独で少し皮肉で謎めいた男だが、ジェーンは自分と共通する何かを感じる。この出会いが自分の人生を大きく変えていくことになるとはまだ知らない。夜になるとこの屋敷には女性の幽霊が現れ、そして大きな運命の歯車が動き出す——。

公開稽古レポート
この日の公開稽古では、上白石萌音がジェーン・エア、屋比久知奈がヘレンを務めた。
物語はジェーンの語りからスタートする。両親を亡くし、引き取られた叔母の家で辛い日々を過ごしながらも自分を貫く幼いころのジェーンの純粋でまっすぐすぎる姿と、過去の自分を見つめるジェーンのどこか物悲しい瞳の対比に胸が締め付けられた。
多くの魅力的な楽曲で彩られている本作だが、中でも印象的なのは家庭教師として自立することを決めたジェーンによるナンバー「自由こそ」。上白石は凛とした表情で堂々と歌い上げる。幼少期からの辛さを跳ね除けるような力強い歌唱と晴れやかな笑顔に、観ているこちらも励まされる。
また、頑なだったジェーンがヘレンとの出会いで“赦すこと”と信仰心を知り、ロチェスターに出会って愛を理解していく中での変化と成長を、上白石は実に瑞々しく演じる。自立した人生を選び、身分や年齢といった常識にとらわれることなく己を貫いたジェーン・エアという女性の強さと魅力を見事に見せてくれた。
孤独な幼少期の支えとなる親友・ヘレンを演じる屋比久は、ジェーンとはまた違う頑固さと純粋さを繊細に表現。辛い境遇にあっても神を信じ、赦すことを諭す彼女の強さとあたたかさが、ジェーンに大きな影響を与えていることが2人のやり取りからひしひしと感じられた。登場シーンこそ少ないものの、彼女が与えた影響を通して全編にわたり存在感を放っている。まだ幼いジェーンに語りかける声や慈愛に満ちた表情、彼女のメッセージは、本作において明るくあたたかい光となっている。
そして、井上はロチェスターが抱える弱さ、それを隠そうとする強がり、ジェーンに惹かれていく心の動きを丁寧に見せる。ロチェスターが、ジェーンとの語らいで少しずつ心を開き、素直な感情を見せるようになるのが可愛らしい。意外と子供っぽい一面、ジェーンを見つめる優しい瞳、そばに居てほしいと懇願する幼子のような姿などを井上は巧みな芝居と抜群の歌唱力で魅力的に表現している。
彼の本心が垣間見える表情や声、それを受けて揺れるジェーンの心。傷を抱える2人の出会いと共感、理解したいと思う気持ちが深い愛情へと変わっていく過程ともどかしい距離間に惹きつけられるはずだ。
ジェーンの幼き日から大人になってからの日々までが約2時間30分に凝縮されているものの、厳しくもあたたかい大人としてジェーンとロチェスターを見守るミセス・フェアファックス(春風ひとみ)、物語を大きく動かす役割を担うリチャード・メイスン(大澄賢也)をはじめ、登場するキャラクターはいずれも印象深く、短いシーンのみでも大きなインパクトを残している。
ほとんどのキャストがひとり2〜3役を演じており、役によって全く違う表情で楽しませてくれるため、ジェーンの人生に様々な痕跡を残す個性豊かな人々にも注目してほしい。
1840年代に書かれた小説が原作、1996年初演でありながら、現代でも通用する普遍的なメッセージや愛が描かれている本作。上白石と屋比久がジェーン・エアとヘレンを役替わりで演じるため、それぞれのアプローチを楽しむのもいいのではないだろうか。
本作は3月11日(土)より東京芸術劇場プレイハウスにて上演された後、4月7日(金)からは梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演が行われる。また、4月1日(土)、2日(日)の公演は配信も決定している。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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