MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』ゲ
ストは葉山翔太ーー声優としての原点
と現在の姿勢、『ヒプノシスマイク』
で声優がラップを歌うことについて

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第三十五回目のゲストは、声優の葉山翔太。2021年にリリースされた『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』のCD『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 2nd D.R.B Bad Ass Temple VS 麻天狼』内で、ナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”による楽曲「開眼」の歌詞を手掛けたのがアフロで、葉山はBad Ass Templeのリーダー・波羅夷空却(はらい くうこう)を演じ、この楽曲を歌唱した。そんな2人の対談は、幼少期の思い出や上京当時のことまで遡っていく。そして「開眼」の話題へと繋がり、ラストはアフロから「声優がラップを歌うことに対して伝えたいことがある」というが、それは一体?
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』ゲスト:葉山翔太
声優になりたいと思ったのは、声変わりがキッカケ
アフロ:「今日みたいに対談の前に撮影をする場合は、あんまり喋らない方がいいかもね」と話をしたでしょ?
葉山翔太(以下、葉山):はい。テープレコーダーを回していないから、そこで話が弾んじゃったらもったいないですもんね(笑)。
アフロ:その分、俺の中で撮影中は「この人はどんな人間かな?」と観察する時間だったりするんだよ。
葉山:なるほどなるほど。
アフロ:結果発表だけど……めっちゃ優しい人だと思いました。
葉山:アハハハハ! 本当ですか? 
アフロ:特筆すべきは、街中で撮影してる時に人が通ったじゃん? で、葉山くんが通行人が行き来する度に「撮影させてもらってます。すみません」と言ってお辞儀していたでしょ。ああいうのは大事だなと思って、気が引き締まりました。
葉山:いやいや、そんな(笑)。アフロさんもやってらっしゃるし、自分もしっかりしなきゃと思ったんです。
アフロ:そういう礼儀は誰かに教わったの? もともとそういう気質?
葉山:挨拶をしっかりするとか、礼儀を欠かないようにする姿勢は、親がやってるのを見て自然と身についた気がします。
アフロ:声優業界で礼節に厳しい先輩がいたわけじゃないんだ。
葉山:ではなかったです。あ、でも声優の養成学校に通っていたんですけど、職員室みたいなところがあって、毎朝挨拶をしなければならないルールがあったんです。あと、「身なりをオシャレにしてきてください」という授業もありましたね。
アフロ:声優の学校で?
葉山:他にもファッションの勉強をする授業もあって。
アフロ:その話はショックだ! もちろん今は声優さんが顔を出す場が多くなっているけど、声のお仕事は「自分の姿を出さない」のが前提だと思っていた。でも、ファッションという真逆の授業があったんだ。
葉山:そうですね。「外見も最低限は意識しようね」と教わってきました。最高値までやればいいのに、とは思いましたけど、最低限のことを教わった結果、帽子を被ったまま挨拶をして怒られてしまって(笑)。自分でもダメだとは思っていたんですよ。でも、ファッションの授業があったから「じゃあちょっとやってみるか」と思って臨んだらNGで……それはそうですよねと(照笑)。
アフロ:それは質のいい失敗だね。
葉山:ふふ、そうですか?
アフロ:だって、うっすらダメかなと思いつつ、ファッションの授業があったのを踏まえて、自分なりのトライをしてみたら結果間違っただけじゃん。
葉山:そうですね。自分がダメだと思ったことは、やっぱりダメなんだと学びました(笑)。

葉山翔太

アフロ:ファッションを学ぶ意図はなんだったの?
葉山:「個性を出していきなさい」とよく言われていて。「個性とは?」みたいな感じで、みんな悩んでいましたね。今だったら、素直な自分であればそれが個性だと思うんですけど、当時はそこまで汲み取れなかったです。
アフロ:どんな格好していたの?
葉山:えっと、今では着ないような感じの(笑)。
アフロ:自分の好きな服装だったの?
葉山:好きな服でしたけど、ファッションは色やシルエットとか、いろいろ考えた上で合わせるじゃないですか? 当時はどれが自分に似合うかを考えず、ただ好きな服を組み合わせてましたね。それも楽しかったですけど、あとで写真を見ると「あー……」となっちゃいます。東京に来たばっかりだったので、9年前の話ですけど。
アフロ:声優さんも身なりを教わる時代なんだね。俺が子供の頃、アニメを観ていて「声優さんってどんな人なのか?」を知ろうとも思わなかったし、そもそも知る機会がなかった。ドラえもんの声をされていた、大山のぶ代さんの顔だけ知ってるぐらいの感じだったかな。どの辺を境に、声優さんが表に立つ文化が生まれたんだろう?
葉山:新人の自分が話すのも恐縮ですけど……ベテランの先輩方がバラエティ番組に出られたり、僕が所属するアクセルワンの社長でありプレイヤーの森川智之さんがイベントを手掛けたりとか。そういうことを、先駆けて表に出られたのが大きいと思います。そこから『涼宮ハルヒ』とかライトノベルが爆発的な人気となり、さらに『けいおん!』とか音楽を扱ったアニメがヒットして、ライブイベントが行われるようになったのが、ポピュラーになった要因かなと思います。そのくらいから、声優さんが表に出て番組を持つようになり、声のお仕事以外でもどんどん活躍されるようになって。
アフロ:葉山くんは表に出ない声優と、表に出ていく声優のどちらを志したの?
葉山:どちらでもないです。というのも、アニメや映画の吹き替えとか、特に好きな作品があったわけではなくて。僕が声優になりたいと思ったのは、声変わりがきっかけだったんです。小学生の頃から音楽の授業がすごい好きでした。でも、男の子はどうしても声変わりをするじゃないですか。それがショックで、なんとか自分の高い声を取り戻そうと思ったんです。親が撮影した運動会のビデオを見ると、自分の声がすごく変に聞こえることがあって。それが嫌でなんとか高い声になりたいと。
アフロ:高い声を取り戻したくて声優を目指したんだ。
葉山:そうなんですよ。僕の好きなアニメ『うみねこのなく頃に』のOPテーマを歌ってる志方あきこさんというオペラ歌手の方がいらっしゃるんですけど、よく真似してましたね。キー的に出せないんですけど、雰囲気とか歌い方の癖を自分なりに練習してました。
アフロ:取り戻せたと思う瞬間は来たの?
葉山:なかったですね。でも、お芝居の勉強をちょこちょこ始めたら「低い声の自分も楽しいじゃん」と思えて。今も高い声に執着みたいなものがあるんですけど、自分の低い声も受け入れられるようになりました。
いいことを言う時、その裏側にある自分の不都合とか、マイナスな部分もちゃんと出す
MOROHA アフロ
アフロ:話を聞くと、始まりは歌だったんだね。
葉山:はい、音楽の授業ですね。田舎にいた時は合唱団にも入っていました。
アフロ:声優になりたいと言った時、親は肯定的だった?
葉山:ありがたいことに、肯定的でした。姉とは14歳離れていたのと、僕は三兄弟の末っ子なのもあってすごく甘やかされていましたね。あと、ウチの親が自営業なので「勢いつけて行ってこい」と送り出してくれました。
アフロ:上京して東京の生活はどうだったの?
葉山:すんなり馴染めました。
アフロ:マジ? そこはつまづいてよ!
葉山:アハハハ! というのも、高校時代に親元を離れて寮生活をしていたんですよ。その頃もホームシックなんて言葉は頭の中に浮かばなくて。
アフロ:田舎から東京に来たらさ、最初は人の多さに怖気付いたり、逆に肩肘張って自分を大きく見せようとしたりするのが、音楽をやる奴に多いような気がするんだよ。例外なく俺もそうなんだけど、そういう感じではなかったんだね。
葉山:ではなかったですね。アフロさんは東京に来てどのくらいなんですか?
アフロ:ややこしいのが、俺は1回千葉に行ってんのよ。高校卒業してすぐに東京の専門学校へ行きたかったんだけど、親父が「東京は授業料が高いから無理だ」と。ウチの親も自営業だったんだけど、決して裕福ではなかったから、東京ではなく授業料の安い学校がある千葉に行ったのね。それを上京と言っていいのか?という。このグレーな期間をカウントしていいなら、18歳で地元を出てるから17年目だね。
葉山:ほぼ人生の半分ですね。
アフロ:最初は千葉の幕張本郷という辺ぴな街に行ったもんだから、都会に住みたい欲求が満たされなくて「俺の思っていたのと違う」みたいな感じだった。あのお預けされた2年間が、俺の人格形成にすごく影響したね。最初はどの辺に住んだの?
葉山:僕は神奈川でした。
アフロ:じゃあ上京してないじゃん。
葉山:ハハハハ。でも学校は東京にあって、住んでいた場所も一駅越えれば東京でしたからね。
アフロ:駆け出しの頃はバイトしてた?
葉山:それこそ上京して最初につまづいたのがバイトでした。実家は宿泊施設をやっていて、小さい頃から掃除とか手伝いをしてお小遣を貰っていましたけど、でも“働いてる”ではないんですよね。アルバイトを通して仕事の厳しさを学んだのはあります。
アフロ:何をしていたの?
葉山:和食の居酒屋です。僕は一つひとつ丁寧にやりすぎる性格で「早くして!」と何度言われたことか(笑)。1回先輩にどギツイ喝をもらって……険悪になって辞めました。
葉山・アフロ:アハハハハ!
葉山:あるあるですよね(苦笑)。
アフロ:今巡り巡って「あの時のあいつだ」と気づいてもらえたらいいね。
葉山:知ってくれていたら嬉しいですけど、バイト仲間と連絡先も交換しなかったので、どうなのかな? 働いていた時はこんな感じではなかったですし(笑)。
アフロ:へえ! どんなだったの?
葉山:あまり人と喋れなかったですね。この業界に入って、お話をさせていただく機会が増えたので、徐々に喋れるようになりました。
アフロ:仕事で培われたコミュニケーション能力なんだね。
葉山:そうですね。「喋っていいんだ」「自分を出しても大丈夫なんだ」と思えて、とにかく環境に助けられています。
アフロ:バイトをして「これは声優に活かせるな」と思ったことはある?
葉山:あります。居酒屋の他に、百貨店の販売とパチンコ店でも働いてたんですけど、大きい声が出せる出せる!(笑)。「いらっしゃいませー!!」とか、商品をお勧する時にアピールポイントをスラスラ喋れたので、そこを買われてましたね。
アフロ:そう言えば、俺が洋服屋で働いてた頃、お客に対してプラスのことを言うのがいいと思って一生懸命褒めたの。でも、褒めてばっかりだと信用してもらえなくて。ちゃんとデメリットも伝えるのが大事なんだと気づいた。例えば「この服はシワになりやすいので、洗濯したらアイロンをかけなきゃいけないんです」ってなるべく自分も面倒臭いの嫌だなぁって、寄り添うようにするの。そしたらお客はその服ではなくて、まず俺のことを信用してくれる。それってライブのMCや作詞にも通じる気がする。いいこと言う時、その裏側にある自分の不都合とか、マイナスな部分もちゃんと出すことによって言葉に体重が乗る。それは接客業で身につけたことかもしれない。
葉山:合点が行きました。アフロさんの書かれる言葉達は、セリフのように、単語一つひとつに意味が込められているなと思っていたんです。僕たちも台本に書かれてるセリフの裏側を考えて台本に書き込むので、同じようなことをしてますね。喜怒哀楽もそうですし、嬉しいとしたら何で嬉しいのかの理由も書く。そうすることで、よりキャラクターの理解を深められるんです。イメージを膨らませる作業を僕らに求めてくださる時もあれば、キャラクターの設定などの資料が送られてきて、それを読み込んで噛み砕いてやらせていただくこともあります。あとはキャラクターだけじゃなくて、作品全体がどういうお話なのかのイメージも膨らませます。
アフロ:物語全体を見た上で、このキャラクターがどういう人間で、その物語に描かれてない背景までも自分の頭の中で作ってくんだ。
葉山:そうです。基本的には「どうやって生まれたのか?」「どんな環境で、どういう家族構成なのか?」みたいなところから考えていくように教わりましたね。他には、その作品がアクションなのかコメディなのか、リアル寄りのヒューマンドラマなのか? 息の作り方はどうなのか?とか、考えることはたくさんありました。
アフロ:息の作り方って何?
葉山:驚くお芝居で「うわー!」とオーバーにするのか「……え?」と静かなリアクションをするのか、それも作品、監督、色々な要因によって全然違いますね。
「緊張感を持って、毎回本番のつもりで練習しろ」の真意はそこかもね

MOROHA アフロ、葉山翔太

アフロ:例えば、同時に複数の作品をやっていて、演じるキャラクターが混線することってある?
葉山:声の質とかキャラクター性が違うなら問題ないかもしれないですけど、同じだとあり得ますね。要は柄が悪いキャラクターだと、声の出し方が似過ぎちゃうとか。
アフロ:そう言えば、葉山くんは柄の悪い役って多い?
葉山:ある一定の時期から増えました(笑)。1つでも柄の悪いキャラクターの声で認識していただくと、そういう役を振っていただくことが多くなるので。
アフロ:『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』の(波羅夷)空却もそうだし、『REVENGER』(リベンジャー)の惣二も悪いもんね。
葉山:惣二はその日暮らしてみたいなズボラな性格で、どちらかと言えば柄が悪いですよね。確かに、僕の中では空却方面のキャラクターではあります。でも、より大人というか渋い感じ。
アフロ:酒を飲んでるもんね。
葉山:そうなんですよ。酒も飲むしタバコも吸うし。
アフロ:それも役を掴む上でポイントになる?
葉山:なります。あと体格によって声の響かせ方が変わってくるから、よりレンジは広がりますね。
アフロ:俺も「体格が変われば声も変わるからな」とラッパーの先輩に言われたことがあって。変わっていくことが悪いわけじゃないけど、俺の中では自分のこの声が好きと言ってもらえてるし、俺は俺の役しかやっていないから、体格が変わることによって歌の聴こえ方が変わっちゃうのは怖いなと思う。体型維持は気をつけてる?
葉山:自分の性格上、きっちりし過ぎるとストレスになるので、そこまで気にしないです。
アフロ:喉のケアは?
葉山:それはバッチリです! 喉は仕事道具でもありますし、自分の中の大切なモノなので。加湿とか飴とかいろいろと。
アフロ:俺にはすごく尊敬してる2人の先輩がいてね。先ず1人の先輩と喋った時に「俺は喉のケアはしない。弱っちくなるから」と言っていたんだ。例えば、いつも舐めているのど飴が手に入らなかったとして、その状態でステージに立たないといけないとする。そしたら喉よりも、心のクオリティが下がってしまう。それが怖いからこだわりを持たないってことらしい。「だから酒も飲むし、好きなように生きて、その日に出た声がその時のベストの声だ」と。それを聞いてなるほどな、と思った次の日、もう1人の尊敬してる先輩とライブが一緒でね。その人が会場入りした瞬間にビッチビチのガンダムみたいなマスクをしてたの。それ見た時に0か100なんじゃないかなって思った。とにかく自分のパフォーマンスが安定する方法を持つ。それこそがプロなのかもしれないね。
葉山:自分なりの流儀を持つということですね。
アフロ:葉山くんも自分なりのケアを選んでいるんだもんね。ちなみに、毎回舐めているモノはある?
葉山:いくつかありますけど、プロポリス入りのど飴と、漢方が入ってる蜜だけは絶やさないようにしてますね。
アフロ:俺はね、コンビニにあるカリン味ののど飴を買ってる。あれ美味しくない?
葉山:ふふ、美味しいです。僕も小さい頃に、おばあちゃんからもらって舐めてましたね。森川健康堂ののど飴はいいですよ。なんと言っても、殺菌能力の高いプロポリス含有量が一番多いんです。緑色パッケージで1袋600円ぐらいします。
アフロ:いい値段するじゃん! コンビニでも売ってるの?
葉山:薬局でたまに見かけます。高いのでそこまで置いてるお店は多くないですけど、品川駅前の薬局にはありました(笑)。僕、扁桃腺が腫れやすくて普段から赤く腫れぼったいので、菌が入りやすいんですよ。だけど森川健康堂ののど飴を舐めたら喉のイガイガが簡単に取れたので、めちゃくちゃオススメです。
アフロ:扁桃腺が弱点なんだね。
葉山:それはありますね。
アフロ:弱点繋がりで言うと、挫折したことはあるの?
葉山:挫折ですか? 言うたら毎日何かしらの後悔はしてます(笑)。番組で喋らせてもらった帰りに「うまくできなかったな」もそうですし、お芝居でも収録後に「こうしたら良かったのかもな」と気づくことはあります。許されるなら、収録を2回やりたいっていつも思うんです。「これはいいな」と思っても、終わった瞬間に「あれ?」ってなる。それがほぼ毎回ですね。
アフロ:「緊張感を持って、毎回本番のつもりで練習しろ」の真意はそこかもね。うまくなれってことじゃなくて、歌やセリフを真剣に言うことで自ら放たれたセリフが自分の耳に入る。それによって、曲なりキャラクターなりの理解度が高まる。全部録り終わった瞬間が、一番理解度が深まってる時だもんね。
葉山:書き下ろしていただいた曲がまさしくそれでした。レコーディングの段階って、言わば生まれたての状態で。そこからライブを重ねることによって、自分でも成長を感じますし、聴いてくださってる方達の反応も自然と良くなっていく。
アフロ:確かに、本番を重ねれば重ねるほど歌はよくなっていく。ライブを通して成長過程を見てもらえるって考えたら、音源から変化していくのはいいことなのかもね。かつ、俺がライブに関して好きだなと思うのは、お客が曲の真意や核を受け取ろうとしてくれるところ。そして物語やライブの現場を共有して、演者と曲の理解が深まっていく。「ディビジョンバトル」はナゴヤが負けたことによって「開眼」という曲の意味が一つ深くなった。その瞬間をお客も一緒に体感しているんだよね。だからお客にとっても、負けたからこそ「開眼」が完成したと思っているんじゃないかな。Bad Ass Templeが「負けた後、こういうふうに立ち上がるんだ」と魅せた時に、また「開眼」に意味が1つ乗っかるというかさ。
葉山:僕たちだけじゃなくて、聴いてくれてる人たちの力もあって楽曲の強度が増していく。そういう場所はすごく尊いですよね。
Bad Ass Templeとしてライブをする中、俺らが出ることによって3人の素の人間性を引き出そうと思った

MOROHA アフロ

アフロ:最初に人前で歌ったお仕事は?
葉山:『美男高校地球防衛部HAPPY KISS!』という温泉地が舞台の作品に参加しまして。そこで初めてキャラクターソングを歌わせてもらいました。すごいヒラヒラした衣装を着させてもらったんですよ。僕はピンク担当で羽みたいなマントを着けてフードを被って、厚底で踊りながら歌う感じでした。僕が演じた道後一六しかり空却しかり、赤髪になるとスイッチを入れられるし、テンションも上がるので助かってますね。
アフロ:その時から歌うのは楽しかった?
葉山:はい。特に、ライブはステージ上を動いて、お客さんの前で歌ったりアピールしたり、その度に反応が返ってくるのが楽しくて好きです。
アフロ:名古屋で一緒にライブした時(「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 8th LIVE ≪CONNECT THE LINE≫ to Bad Ass Temple」)、俺らの後にBad Ass Templeの3人が出てきてさ、しばらく後ろを向いてメソメソしてたでしょ?
葉山:アハハハ! あれはズルい演出ですもん!
アフロ:すごくありがたかったよ! MOROHAの曲を初めて聴いたお客がそんな葉山くんを見て「自分の心の動きも間違ってないんだ」って実感出来たと思う。
葉山:だって、いい曲に間違いないですから! 素晴らしかったです、本当に。
アフロ:俺は達成感があったし、ドキュメンタリーを差し込めた気がしたんだ。というのも、もちろんBad Ass Templeとしてライブをしてるんだけど、俺らが出ることによって3人の素の人間性を引き出そうと思っていたの。
葉山:まんまとでしたね(笑)。
アフロ:葉山くんが後ろ向いてる時の2人(榊原優希、竹内栄治)の寄り添い方とか、あれって完全に素だったでしょ? それを見て1つのイレギュラーを起こせたなって。それをお客も肯定的に見つめてるのが分かったから、すごく良かったね。
葉山:いやぁ、あの日は感極まっちゃったな。
アフロ:DVDにも収録されるしね。
葉山:ハハハハ、なんとかカットできないですかね? 裏でずっと思ってたんですよ。あ、無理だって。そしたらやっぱり我慢できなかった。まさかチームのソロで、しかもゲストにMOROHAさんがいらしてくださって、本当にありがたかったです。
アフロ:なんかさ、お客に「力をもらってます」と言ってもらうことがあるじゃん。それも嬉しいんだけどさ、自分が好きになった音楽であれ、アニメであれ、誰かがそのコンテンツをめちゃくちゃ楽しんでいる姿を見た時に、自分の存在をすごく肯定された気持ちになるのね。『ヒプノシスマイク』のコラボカフェに行って、そこで楽しんでる人たちを見て、仮に自分が関わってないコンテンツだったとしても、ちょっと元気をもらった気がするの。
葉山:その場にあるエネルギーというか。
アフロ:そうそう! コロナ禍になって、こういう娯楽みたいなものって真っ先に切り捨てられた感覚だったけど、ちゃんと人が喜んでいる姿を見れたのは嬉しかったな。
葉山:僕はアニメ作品のイベントとかに出ると「いろいろと吹っ切れて、次の一歩を踏み出せそうです」と書かれた手紙をいただくことがあって。その度にやってよかったというか、これから先も自分は頑張れそうだなって思えますね。
アフロ:誰かに喜んでもらいたいって至極人間的な気がする。ただし、こと創作の場合はそれを切り離さなきゃいけない。「人に喜んで欲しい」って感覚が残っていると、つい迎合しに行っちゃうというか、喜んでもらうための作品を作ろうとする。それをした瞬間、皮肉にも世間はそっぽを向くんだよね。やっぱり「俺は俺のためにやってるんだ」という軸足も持っておかないと、立つ場所も変わるような気がして。それも最近は実感しているな。
葉山:まるで恋のような話ですね。
ニュースをいろんな視点から見て「正義と悪……isなんだろう?」と考える
葉山翔太
アフロ:アハハハ、そうだね。今27歳だっけ? やっぱり年齢とともに、もらう役って変わってくる?
葉山:僕はそこまでは変わってないと思いますけど、目指したいところではあります。自分の年齢が上がった時に、新人の人たちから頼られるキャラクターは憧れますね。
アフロ:ちなみに、高校生の役を40代や50代の方がやることもある?
葉山:ベテランの方がやられるケースもありますし、20代前半の方がお父さんとかおじさんを演じることもあります。
アフロ:これまで演じた中で最高齢は?
葉山:5歳から80歳までやりましたね。
アフロ:それは声優ならではだね。自分と通じるところがないキャラクターを演じることもある?
葉山:あります。事件や事故を起こした人を演じることもあって、そういう時の心理は自分の中だけでは緻密に作り出せない場合もあるので、参考資料を読んだり見たりして取り込むようにします。
アフロ:今の話で思い出したのがあって。ミュージシャンにおけるフィジカルは、人生経験や人間性だと思う。で、スキルっていうのは「ないけど、ある」と見せることな気がするのね。つまり今回演じるキャラクターは自分の人間性とは違うけど、情報を入れてそういう人に見えるように作り上げる。しかし、それをライブに置き換えた場合「ないものを出す」って嘘ついてるみたいだよね?
葉山:そうですね。
アフロ:もちろん俺たちのライブに関しては、嘘はあっちゃいけないと思ってるのね。だけどスキルでライブする日もある。なぜかっていうと、曲ってその時々の感情で書いてるわけで。曲を書いた感情じゃない時でも、ライブで歌わなきゃいけない場面もあるんだ。
葉山:はいはい! そこはどうされているのか気になっていました。
アフロ:その時に活きるのがスキル。今日はその気持ちじゃないとしても、スキルでラップをするわけ。そうするとスキルがフィジカルを引っ張り出してくれる時がある。それを引っ張り出す装置としてスキルは存在してる。作品を読んで、犯罪者の心理を学ぶとする。知識をインプットして、スキルのお芝居で犯罪者になつた時、自分の中に眠っていたものが引っ張り出されてきて、フィジカルとなる時があると思うんだ。そう考えると、自分の暴力性だったり温かいところだったり、どんどん膨よかになっていくよね。
葉山:そうですね。だからテレビで悲しいニュースが流れたとしても、いろんな視点から見るようになるんです。「正義と悪……isなんだろう?」みたいな。
アフロ:どっちの役も来るかもしれないから、多くの視点を持つようにしてるんだ。
葉山:はい。最近の作品とか漫画の傾向もあるかもしれないですけど、悪を悪のまま描かないところがあるじゃないですか。そういう意味でも、複数の立場から物事を捉えるようになりましたね。
アフロ:Aの視点、Bの視点、その関係性を見てるCの視点があって、それを取り締まる警察の視点とか、あらゆる人の視点でニュースを見て感情を動かすのか。それは職業病になりかねないし、生活を蝕んでいきそうで怖いね。
葉山:アハハハハ、そうですね。
アフロ:あのさ、疲れたらサッカーとか見るといいよ。
葉山:スポーツということですか?
アフロ:そう。最近スポーツを見始めたら、すごく癒しの時間になったの。どうしてか考えてみたら、スポーツにはメッセージがないんだよね。ただただ、そこで全力を出してる人がいる。バラエティ番組とか「笑わせよう」って見てる人に対しての意図があるでしょ?
葉山:テロップでも「ここで笑っていいですよ」みたいなサインがありますしね。
アフロ:ドラマだったら物語やセリフでメッセージを投げかけている。だけど、スポーツはそうじゃない。選手はただただ全力を出して、目線をこっちに向けることもない。それを見ている時間は、情報を押し付けられてない感じがしてすごくいいんだよね。
葉山:己がためですもんね。なるほど!
アフロ:情報を入れ過ぎて疲れた時にはオススメかも。
何か言ってくる人達に対して、中指を立てるんじゃなくて、しつこく抱き締めに行ってほしい
MOROHA アフロ、葉山翔太
葉山:スポーツは何かされていたんですか?
アフロ:野球をやっていたんだけど、ずっと補欠だったからベンチで声出しをしてたの。それがここ(音楽活動)に繋がってる。だから、やってることは変わらないんだ。葉山くんは?
葉山:ウチの父親がソフトボールの監督をやっていたんです。僕も試合に出ていましたけど、外野を守ってる時は妄想ばっかりしましたね(笑)。
アフロ:どういうこと?
葉山:「今こんな魔法を使えたら」とか「今ここで怪獣が出てきたら」みたいなことを、ずっと考えていました。
アフロ:それは今の仕事に活きてるよね。キャラクターを見る時の想像力と繋がってるはず。
葉山:ですね。小さい頃から妄想を働かせるのはすごい好きでした。
アフロ:ソフトボールはいつまでやっていたの?
葉山:小学生の間だけですね。中高は吹奏楽部でトランペットを吹いていました。ただ、高校の吹奏楽部は人数が少なくて、僕が1年生の時だけコンクールに出場しなかったんです。なので、僕は吹奏楽部に所属しながら合唱部にも入ってました。
アフロ:音楽とか歌うことが本当に好きなんだね。
葉山:声を出すのが一番の快感だと思ってました。
(ここでスタッフが対談時間の終了を伝える)
アフロ:最後に葉山くん、Bad Ass Templeに俺が勝手に期待してることなんだけど。声優がラップをするのって、下手したら古典を大事にしてるHIP HOP好きから、とやかく言われることもあると思うのね。それって、アコギとラップでやってきた俺たちと近い気がするの。「なんでアコギなの?」「ビートないの?」「それって違くね?」って散々言われてきた。
葉山:そんなのはラップじゃないと。
アフロ:でもね、そういう声と向き合えるということは、時代の横っ面を引っ叩こうとしてる人の特権な気がする。それさえも醍醐味としてやっていけば、もっと熱量は上がってくるし、お客も興奮する。そして何か言ってくる人達に対して、中指を立てるんじゃなくて、しつこく抱き締めに行ってほしいと思うんだ。これはアドバイスではなくて単なる願いなんだけどね。 俺はその姿勢こそが自分自身も作ってくれた気がするから。中指に対して中指を立てて背を向けるのは、簡単すぎて面白くないし色気がない。いつだって「いや、こっちはあなたにも分かってもらいたいぜ」ってスタンスで挑み続けて欲しい。これが、今日の対談で俺がどうしても伝えたいことでした。で、自分自身もそうやって生きていくんだっていう決意表明。
葉山:ありがとうございます。楽曲をいただいた時から、ずっとアフロさんのメッセージに引っ張られてきました。これからも大事に歌わせていただきます。
MOROHA アフロ、葉山翔太
文=真貝聡 撮影=suuu

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着