新国立劇場 2023/2024シーズン ライ
ンアップ説明会レポート【舞踊部門】
~吉田都 舞踊芸術監督「いま、新国
立劇場バレエ団はとても充実している

新国立劇場 2023/2024シーズン ラインアップ説明会が、2023年3月7日(火)午後に行われた。登壇者は大野和士 オペラ芸術監督、吉田都 舞踊芸術監督、小川絵梨子 演劇芸術監督。本稿では舞踊部門(バレエ&ダンス)に焦点を絞ってレポートする。

■吉田都 舞踊芸術監督「歴代の芸術監督へのオマージュのシーズンに」
冒頭、新国立劇場運営財団 理事長の銭谷眞美が挨拶した。2023/2024シーズンについて、各部門において一部演目が延期になること、オペラ、バレエのチケット代金を改訂する旨を明かした。コロナ禍で公演中止や客席の収容率制限によって収入が減り、感染予防対策などの支出が増えたと説明。経営努力を重ねてきたが、戦争による世界的な物価高、エネルギー価格高騰を受けて財政状況は厳しいと話す。「将来にわたってお客様にご満足いただけるような公演を展開するにはチケット料金を改訂せざるを得ず、お客様にご理解を頂きたいと思います」と述べた。
小川、大野に続いてマイクを手にした吉田は「先ほど理事長からお話がありましたように、立て直しのシーズンとなります。バレエには新制作がなく、おなじみの作品が並びました」と話す。しかし、それに続けて「でも、劇場が25周年でバレエ団も25年が経ちますが、いま、バレエ団はとても充実していると思います」と胸を張る。
2020年9月より芸術監督に就いた吉田は、コロナ禍で数々の難局と戦いながら新国立劇場バレエ団の実力と注目度を高めている。だが、それに対し「ひとえに歴代の芸術監督のおかげだといつも感謝の気持ちになります」と謙虚だ。そして「ここまで育ててくださった感謝をこめて、来シーズンは歴代の芸術監督へのオマージュのシーズンといたしました」と方針を話した。
(左から)小川絵梨子 演劇芸術監督、大野和士 オペラ芸術監督、吉田都 舞踊芸術監督
■2023/2024シーズン バレエ&ダンス ラインアップを語る
2023年10月、新シーズン開幕を飾る『ドン・キホーテ』(オペラパレス 10回公演)は、1999年の新国立劇場初演時に当時、英国ロイヤルバレエのプリンシパル(最高位ダンサー)だった吉田が客演し主役のキトリを踊っている。「まずはじめは初代舞踊芸術監督の島田(廣)先生の選ばれたファジェーチェフ版『ドン・キホーテ』でスタートします。私が就任してすぐのシーズン(2020/2021シーズン)でも『ドン・キホーテ』を上演いたしましたが、ダンサーと何年か一緒に仕事をしてきて、また違う『ドン・キホーテ』が生まれるのではないかなと思っております」と話した。なお、11月3日、4日、愛知県芸術劇場でも上演される。
2023年11月には「DANCE to the Future: Young NBJ GALA」(中劇場 2回公演)を行う。近年の「DANCE to the Future」では団員の創作を取り上げる機会が多かったが、今回は若手ダンサーに焦点をあてる。「古典バレエのパ・ド・ドゥなどにチャレンジしてもらいたいと思って機会を作りました。若手のダンサーたちは、なかなか主役を踊る機会がないので、この機会に未来のスターを育てたいですし、チャンスを生かしてもらいたいと思っております」と説明する。併せてナチョ・ドゥアト振付『ドゥエンデ』を再演する。
2023年12月~2024年1月はウエイン・イーグリング振付『くるみ割り人形』(オペラパレス 17回公演)。このシーズンは年始恒例の「ニューイヤー・バレエ」が無くなったと説明。その分、『くるみ割り人形』を延長して上演する。年末年始をまたぐ上演は3シーズン目となるが、昼夜続けての公演を少し見直すなどする。「ダンサーたちの体に優しいシーズンにしました。回数も少し増やしましたので、ダンサーたちは「ニューイヤー・バレエ」が無くなったとしても、公演回数・出演回数としてはそこまで減らないような形にいたしました」と説明した。
2024年2月のピーター・ダレル振付・台本『ホフマン物語』(オペラパレス 4回公演)は、2015年、大原永子 前舞踊芸術監督時代に制作した英国バレエ。大原は女性の主役(オリンピア、アントニア、ジュリエッタ)を全部踊っている。その大原を招聘し「ドラマティック・バレエの表現とか芸術性をダンサーたちに伝授していただきたい。喝を入れていただきたい」と述べた。
2024年4月~5月の『ラ・バヤデール』(オペラパレス 7回公演)は、故・牧阿佐美 元舞踊芸術監督が2000年、新国立劇場バレエ団のために改訂振付した古典名作。島田に続いて大任を務めバレエ団を飛躍させた牧が新国立劇場で手がけた最初の古典改訂であり、インドを舞台にした劇的な物語だ。「古典バレエの様式美をできる大きな作品となっていると思います」と話す。
2024年6月の『アラジン』(オペラパレス 8回公演)は、牧の後を継ぎカンパニーに刺激をもたらしたデヴィッド・ビントレー 元舞踊芸術監督が2008年、新国立劇場のために創作した「大人からこどもまでが楽しめる作品」(吉田)。今年1月の「ニューイヤー・バレエ」でデヴィッド・ドウソン振付『A Million Kisses to my Skin』を振付家本人から指導された経験は貴重だったという。「やはり振付家に直接指導いただけるとダンサーたちは成長するし、刺激になるんだなと実感いたしました。デヴィッド(・ビントレー)さんに来ていただけるのを楽しみにしています」。
2024年6月の森山開次『新版・NINJYA』(中劇場 3回公演)は異才・森山が忍者を題材に、日本文化の綾を描き出したダンス作品。「2019年に初演され2022年にスケールアップして上演したものの再演となっております」と紹介した。
2023年7月に行われる「こどものためのバレエ劇場 2023」ではエデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』(オペラパレス6回公演)を上演。吉田の師ピーター・ライトが手がけたバージョンで、2021年に新制作した『白鳥の湖』の美術・衣裳を使い、1時間くらいにまとめた演目だという。「英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で上演が行われているプログラムですが、そちらを新国立劇場用に訳したものを上演いたします」と話す。
ラインアップの紹介後、吉田は以下のように話した。「2月の終わりに『コッペリア』が終了しましたが、前回(2021年5月)は無観客(無料ライブ配信)だったので、今回はとてもたくさんのお客様と一緒に観ることができ、それだけで胸がいっぱいになりました。劇場が厳しい状況のなか、ライブ配信でいただいたご寄付によって上演が可能になりました」。PCR検査協力を続ける株式会社木下グループへの謝辞も含め「本当に皆さんの支えのおかげでバレエ団がここまで辿り着けたこともあるので、この場をお借りして感謝申し上げます。そういう支えなしにはここまでこられなかったと振り返ってみて実感しております。劇場が厳しいなか、試練は続きますが、バレエ団は引き続きチャレンジをしていきますので、どうぞよろしくお願いします」と語った。
(左から)小川絵梨子 演劇芸術監督、大野和士 オペラ芸術監督、吉田都 舞踊芸術監督

■環境改善の強化を推し進め、若いダンサーたちを激励する
ジャンル別記者懇談会の会場は中劇場 ホワイエ。暖かな陽も差す開放的な空間で行われた。
吉田は、はじめにゲストダンサーの可能性について問われると、先日(2023年1月)の「ニューイヤー・バレエ」でアリーナ・コジョカル(イングリッシュ・ナショナル・バレエ リードプリンシパル)らを招いたことは団員の刺激になったという。「機会があれば、またどこかでいろいろな方にいらしていただきたいですが、新国立劇場のダンサーたちは、いま育っていて、皆にたくさん公演(の機会)をあげたいんですよ。今回の『コッペリア』にしても、1回で終わってしまうキャストもいたので、できるだけ多くの機会をあげたいということもあります」。
吉田都 舞踊芸術監督
コンテンポラリーダンスへの取り組みについては質問が相次ぎ、吉田も真摯に答えた。来季は「DANCE to the Future: Young NBJ GALA」に限られるが、「特に減らしたいという意図はなかったですね」と話す。「ダンサーたちにはそういう機会を持ってもらいたいと強く思っているので、徐々に様子を見ながらまた入れていく。あえて減らしたのではない」と説明した。
「世界のオペラハウスにおいては、コンテンポラリーと古典作品を両輪でやるのがスタンダード」との指摘を受けると、同じ認識を示す。と同時に「ただ、古典を踊ることができるバレエ団も、とても貴重といいますか、やはり全幕作品をやるには人数も予算も必要です。だんだんコンテンポラリーに移っていくバレエ団も増えるなかで、こうして全幕物をたくさんできる今の環境はありがたいという意味もありますね」と述べる。そのうえで「ただ、やはり、ダンサーたちのためにも、コンテンポラリーにもう少しチャレンジしてもらったらいいな」と展望を語った。
「コンテンポラリーダンスとバレエは別物でなく、バレエで培ったテクニックを、今の時代の人間と対話できる身体へとアップデートできるのでは」といった意見に対しても首肯する。2022年11月の『春の祭典』(演出・振付・美術原案:平山素子、共同振付:柳本雅寛)の演技を評価され令和4年度(第73回)芸術選奨文部科学大臣賞(舞踊部門)を受賞した福岡雄大らを引き合いに出し、「私自身もああいう作品にチャレンジしているダンサーたちを見るのはとてもうれしいですし、そういう機会を作れたら」と意欲的だ。とはいえ、クラシック・バレエとは異なる体の使い方をしなければいけないので、ダンサーたちの身体のことも考慮する。「もし取り入れるのであれば、時期とかタイミングを見極めなければいけない」と述べる。そのうえで「コンテンポラリーを経験することによって、クラシックに生かせる部分が大きかったりするので、それは皆に経験してもらいたいなという気持ちはとてもあります」と語った。
吉田都 舞踊芸術監督
ラインアップ発表に際して公表された吉田の文書メッセージにおいて、ダンサーの環境整備強化の前進が明らかになった。「医療体制の充実」のほか、報酬システムを変更した点が注目点だ。「報酬は固定報酬と、公演ごとに支払う出演料の二層構造になっておりますが、固定報酬の割合を増やすことで、公演中止や怪我、体調不良などがあっても一定の収入を得ることができるようになりました」と記されている。懇談会に同席した舞踊チーフプロデューサー伊東信行の説明によると、クラスレッスンの出席に応じて1回いくらという支払いの部分を無くし、ある金額を年間4回に分けて支払うようにしたという。そうすることによって、ダンサーが無理をせずレッスン、リハーサルに臨める。吉田は「怪我とかで公演に出なかったにしても、ある程度は収入が得られるように徐々に変えていきたいと思って、報奨金の割合を上げていただきました。これだけ劇場が厳しい状況にあるなかで、今シーズンから変えてくださり感謝しています」と述べた。
吉田都 舞踊芸術監督
吉田は「DANCE to the Future: Young NBJ GALA」において若いダンサーに機会をあたえたいと表明したが、彼ら彼女らへの期待を問われた。若いダンサーにとって「本番の舞台に立つというのが大切」で、本公演でも若手にチャンスをあたえるようにはしているが、パ・ド・ドゥなどを踊る機会がないと顧みる。「私が気になるのは踊りだけではなくて、立ち居振る舞いであったりします。そういうところは経験を積み重ねてこないと、自然にできるものではないんだなと思いつつ、新国立のダンサーって、もう少しできると思うんですよね」と指摘する。「もっと役柄のことを考えたりとか、なぜそこでその振りなのかとか、若いダンサーたちには、もっともっとそういうことを考えてほしい。リハーサルをして、体を使って、体を強くするというのも大事なんですけれど、どうしたらお客様に伝わるのかももう少し研究してほしいなと思います。海外からゲストでいらした方からも、どんどん盗んでほしいんですよ」と熱をこめて語った。
取材・文・撮影=高橋森彦

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