ズーカラデル ミニアルバム『ACTA』
で積み重ねたもの、豊かな物語が刻ま
れた7曲を紐解く

昨年、配信リリースされたた「ピノ」「ダダリオ」「都会の幽霊」を含む7曲が収録されているミニアルバム『ACTA』。各々の曲に豊かな物語が刻まれている作品だ。3ピースのバンドサウンドを基調としつつ、高いアレンジ力が発揮されているのも楽しい。今作の制作エピソード、予定されているワンマンライブ、全国ツアーについて、吉田崇展(Gt,Vo)、鷲見こうた(Ba)、山岸りょう(Dr)に語ってもらった。
■“今、外に向かって自分たちのこういうところを見せたい”っていう曲がちゃんと集まった1枚です。(山岸)
――ミニアルバムを作るにあたって、全体のコンセプトとかは何かありましたか?
吉田:コンセプトとかはなかったです。“いい曲を一つひとつ作っていって、それが集まった時にどうなるか?”という作り方でした。
――3ピースのサウンドを基調としつつ、曲によってはストリングスとかのプラスアルファの要素も効果的に盛り込んでいますし、サウンドアレンジ力が高いバンドであることも、すごくよくわかる作品です。
吉田:ありがとうございます。今までもアレンジを頑張ってやってきていたので、そういう部分も出せたと思います。
山岸:最近作っていた曲の中でも、このミニアルバムに入らなかったものももちろんあるんです。“今、外に向かって自分たちのこういうところを見せたい”っていう曲がちゃんと集まった1枚ですね。
鷲見:僕らは3ピースで楽曲を構成していた時期もありつつ、いろんな楽器も加えてチャレンジした時期もあるんです。そういうことを経て、曲に対して必要な音、音色を自分たちで精査する能力が次第に高くなってきているのを感じています。今回は全部で7曲ですけど、各曲ならではの色をつけられて、通して聴きながらすごく楽しめるものになったと思います。
――各曲ならではの色があるというのは、本当にその通りですね。「シアン」は、タイトルもまさに色ですし。
吉田:「シアン」はなんとなく自分が思うがままに、自分が美しいと思う言葉を紡いでいけた感じがしています。そういう意味で、自分の価値観が出ている部分があるんだろうなと思っています。
■去年、活動を続ける中で積み重ねていった感覚に名前をつけるならば、フィットするのが“芥(あくた)”だったんですよね。(吉田)
吉田崇展(Gt&Vo)
――一般的に“ごみ”“役に立たない”“無意味”と位置付けられているものに美しさを見出して、大切にしている人なんだろうなと、「シアン」を聴いて感じました。
山岸:この曲のきっかけは、3人で大昔に『トイ・ストーリー』の3作を観た時のことなんです。その時、初めて観たんだよね?
吉田:うん。
鷲見:2018年とかですね。あの映画って結構みんな観ていると思っていたけど、吉田は1本も観たことがないって言ったんです。
――『トイ・ストトーリー』がきっかけになったと知ると《古いおもちゃを捨てないでずっと仕舞ってる》とか、いろいろ解釈が膨らみます。
吉田:『トイ・ストーリー』、めちゃくちゃいい映画でした。2018年に観た時は、ここまで曲は完成していなかったんです。ずっと自分の中で熟成していって、この「シアン」という曲になりました。“バンドとしてかっこいいサウンドにできるはずだ”っていうのがありつつ、どういう切り口で、どういう歌詞にするのかがなかなか決まらなくて、時間がかかっちゃったんですよね。こうして完成させることができて嬉しいです。
――“いつか完成させたい”という宿題になっている曲は、結構あるんですか?
鷲見:そうですね。吉田がバンドに持ってきた曲でも、然るべきタイミングを待っているものがいくつかありますし、僕らが成長することによって完成させられそうなものもあるんです。
――《全て忘れる 生きるためにいらないものから 渇いたロマンチック ごみ山から拾い集める》というフレーズが「シアン」の歌詞の中に出てきますが、今回のミニアルバムのタイトル『ACTA』は、ここから来ているんですか?
吉田:いや、そういうわけでもなくて。今回の7曲の中で最初に歌詞が完成したのは「ピノ」で、「シアン」の歌詞が完成したのは最後の方だったんです。去年、活動を続ける中で積み重ねていった感覚に名前をつけるならば、フィットするのが“芥(あくた)”だったんですよね。「シアン」の歌詞のその部分は、この『ACTA』というタイトルから来ているのかもしれないです。
――活動を重ねるイメージをこの言葉に結び付けるのって、かなり独特ですね。
吉田:作業を重ねていくこと自体は楽しくて、意味のあるものがどんどんこの世の中に増えていく感覚なんです。でも、その一方で生きていく中で必要のないもの、感じては忘れていくものもたくさん積み重ねているんですよね。思い出しては忘れていく一つひとつの小さい感覚に目が行って、この『ACTA』っていう言葉が出てきました。そういうものの一つひとつは小さいけれど重要ではあるよな、って思って。
■MVの被写体は今までは我々だったんですけど、「ラブソング」の被写体が佐藤栞里さんになったことで、改めてすごさが発揮されたのを感じています。(鷲見)
――なるほど。2曲目の「ラブソング」は、先日配信が始まりましたね。別れた人のことを思い出しながら胸の内で激しい感情を渦巻かせている様子が伝わってくる曲ですが、平熱のトーンで歌っているのが印象的です。
吉田:歌の温度感に関しては、プリプロの段階から何度も歌っていろいろ試しました。そういう中で山岸先生からディレクションが入りまして、“そんなに強く歌ったら駄目なんじゃない?”と。
山岸:そんな言い方してない(笑)。
吉田:そういう意味のことを言ってくれて(笑)。“たしかにそうかもしれないね”って思ったんです。そのディレクションのおかげで、いい歌が歌えました。
山岸:力を抜いて歌ってサビまで行くのが良さそうだなと思ったんです。
鷲見:「ラブソング」を作っている時はとにかく夢中で、楽器のアレンジも試行錯誤がありましたね。作っている時はなかなか客観的に聴けないんですけど、リリースされてからサブスクとかで聴いてみて、“いい曲になったなあ”って思いました。
鷲見こうた(Ba)
――バンドサウンドも温かさを基調としていますが、ほんの一瞬だけフィードバックの轟音が出てきたりするのも、歌詞の世界とリンクしていると思いました。
吉田:アレンジを進めていく最初の段階から、フィードバックのイメージがあったんです。ちゃんと意味を持たせながら全体の調和を作れました。
――この曲は、チェロやバイオリンが加わっていますね。
吉田:はい。バンドがストリングスと一緒にやるのは難しさもあるんですけど、バンドのメンバーとして弦楽器を弾いていただくことができました。“メンバーとして”というのは精神的な意味ではなくて、音の面でのことなんですけど。例えばオアシスの「Whatever」とか、ウィルコの「Jesus, Etc.」もストリングスが入っていますけど、まさにそういう感じがするんですよね。
――「ラブソング」のストリングスも、その感じにしたかったんですね?
吉田:そうなんです。だからストリングスのアレンジをお願いした際にその2曲を挙げて、“こういう気持ちなんですよね”とお伝えしました。でも、“その2曲、全然違うじゃん?”と(笑)。そこからいろいろお伝えしながら丁寧にやり取りをして、とても素敵な弦のアンサンブルを作っていただけました。
――3ピースにプラスアルファするからには、必然性が重要ということですね?
鷲見:そうなんです。ちゃんと意味を持たないといけないですから。それは3人だけでのアレンジでも常に考えていることです。アディショナルのミュージシャンの方々に演奏してもらう時も、“何のために参加していただくのか?”というのをはっきりさせておかないともったいないし、作品としての素敵な着地点に辿り着けないですからね。
――この曲、《羽根が生えているってこと 僕だけは知ってるのに 君は歩いて出て行った》が、ものすごく切ないです。
吉田:僕もそう思います(笑)。ありがとうございます。
――佐藤栞里さんが出演しているMVも良かったです。ズーカラデルは、MVもいつもすごく良いんですよね。
吉田:そうなんです(笑)。
鷲見:横山航監督のおかげです。横山さんはずっと僕らのMVを撮ってくださっているんです。被写体は今までは我々だったんですけど、「ラブソング」の被写体が佐藤さんになったことで、改めてすごさが発揮されたのを感じています。
――素敵な佐藤さんによってインスパイアされるものもあったのかもしれないですね……って、みなさんが被写体だとインスパイアされないっていうことじゃないですよ。
吉田:気を遣わないでください(笑)。
――(笑)。ズーカラデルのMVに関しては、「アニー」の再生回数がすごいですよね?
鷲見:はい。「アニー」は、おかげさまでたくさん観ていただけています。このMVを作った当時は、まだサブスクが今ほど広がっていなかったのもあったので、数字が伸びたんです。佐藤さんに出演していただいた「ラブソング」をきっかけに、最近のMVの再生回数も伸びてほしいです。
>>次のページは、楽曲制作時のエピソードとライブの構想を訊いています。
――「怪光線」は、3人のバンドサウンドのかっこよさがストレートに発揮されている曲ですね。《絡まったイヤホンを解いてはじめる》の部分とか、スキャットと歌詞の言葉のミックスのさせ方がユニークなのも印象的です。
吉田:このスキャット、なんなんですかね? 自分でも“なんなんだろう?”って思っているんですけど(笑)。面白い感じになって良かったです。
山岸:この曲、やってて気持ちいい。
吉田:簡単だしね?
山岸:うん。
鷲見:溌溂と演奏できた気がします。
吉田:レスポールをレコーディングでメインとして使ったのは初めてです。去年、買ったんですけど、“ロックのギターです!”っていう音がして、気持ちよかったです。
鷲見:この曲を作り始めた時は、まだレスポールを持っていなかったんですよね。レスポールを買ってから改めてこの曲に手をつけて、“レスポールのブリッジミュート、合いそうだね?”っていう話になりました。
吉田:予想通り、ぴったりでしたね。
――ギターといえば、去年の9月に配信した「ダダリオ」ですね。ダダリオは、代表的なギターの弦のメーカーのひとつですが、普段からダダリオの弦を使っているんですか?
吉田:いや。ダダリオの弦をギターに張ったことはないです。
――語感でダダリオにしたってこと?
吉田:はい(笑)。
――実際に張っているのは、アーニーボールとか?
吉田:そうです。ずっとアーニーボールです。
――予想外の事実です(笑)。この曲、ギターのアルペジオとか、コードの響きが綺麗ですね。
吉田:せっかくのこういう曲なので、ギターをちゃんと弾きたかったんです。“こういうギター、弾きたかったなあ”って思えるものを弾けた感じもあって、それもとても嬉しかったですね。
――ドラマーとしては、いずれ「ジルジャン」という曲も作りたいんじゃないですか?
山岸:ジルジャンのシンバルはいつも使っているので、あまり使っていない「セイビアン」の方がいいかもしれないです。
鷲見:僕はリチャードココのベース弦を使っているので、「アーニーボール」?
吉田:「セイビアン」と「アーニーボール」、良い響きのタイトル(笑)。
――(笑)。「ダダリオ」も、音の響きが気持ちいいです。
吉田:この曲の着想の元になったのは、地元の先輩バンドのTHE BOIN BOINSなんです。「ダダリオ」っていう、すごくいい曲を持っているんですよ。僕らの「ダダリオ」とは全く違う感じなんですけど。先輩バンドの「ダダリオ」に対する並々ならぬ想いから出てきた言葉でもあります。
――去年に7月に配信した「ピノ」も、気持ちいい音が満載です。穏やかなカントリーテイストで、MVでもバンジョーを弾いていましたよね?
吉田:バンジョー弾きましたけど、“弾ける”って言うと、本当に弾ける人に怒られそうです(笑)。でも、レコーディングでも頑張りました。
鷲見:この曲もデモとしてストックしていた期間が結構長かったんですけど、こうして形にすることができました。冒頭のベースのフレーズは当時、特に深く考えずに弾いたもので、“変えようかな?”とも思っていたんです。でも、結局、これが一番しっくりきたので、最初のフレーズのままです。
――この曲のYouTubeのMVの概要欄で“夏休みがもう半分過ぎたことに気づいて寂しさとか暑さが一気に迫ってくるあの感じを思い出しながらこの曲を書いていました”と解説していましたよね?
吉田:そうでしたね。“終わりに向かっていく”みたいな感覚を、そこはかとなく抱きながら書いた曲です。
――具体的な理由はないんですけど、この曲を聴くと猫のことが思い浮かぶんですよ。多分、《君は僕の知らんところで 食ったり寝たりを繰り返す》という部分を聴いて湧いたイメージだと思うんですけど。
山岸:うちの親もそう言っていました。《まだ小さい 名前もない 形もなんかよくわかんない》が、猫を拾ってきた時みたいだと。
吉田:嬉しいですね。多分、それも一つの捉え方かもしれないです。「ピノ」は、わりと“関係性の歌”みたいなものだと思っているので。だから猫とかと触れ合って暮らしている人が猫と自分のことを思い浮かべながら聴くのは、“なるほど。そうだよな”って思います。
――《写真にしか残らない 美しさもきっとあるのでしょう》も、印象的です。写真には残らない美しさっていうのは、よく言いますけど。
吉田:そこは、頓智が効いていると思います。ブルーハーツの有名な歌詞から着想を得たんですけど。
――あっ! 「リンダリンダ」の歌詞の逆ということですね?
吉田:はい。“これはちょっとずるいよな”と思いながら書いていました(笑)。でも、ふさわしい言葉をこの曲に与えることができたと思っています。
――写真にしか残らない美しさっていうのもあるはずですよね。すごいカメラマンさんは、被写体の本質を引き出す写真を撮りますし。このインタビューの後、写真撮影をしますが、みなさんの“写真にしか残らない美しさ”を捉えてくださるんじゃないでしょうか?
吉田:ありがたいです(笑)。
山岸りょう(Dr)
――(笑)。「流星群」を聴いて改めて思ったんですけど、ズーカラデルの音楽は、フォークの香りもあって、懐かしい雰囲気も漂わせますよね。この曲、フェイドアウトで終わるのも昔のポップス的ですし。
吉田:フェイドアウトは、結構したくなるんです。“アレンジしながら、ここフェイドアウトでいいんじゃない?”っていう話になることがよくあるので。「流星群」は、それがふさわしいアレンジになったと思います。
――アウトロのスキャットのコーラス、かなり凝っていますよね?
吉田:はい。めちゃくちゃスポ根的に体力を使って作った気がします。いろんな音の組み合わせを声で試して、試行錯誤を重ねながら作っていく感じでした。
――「怪光線」もそうですけど、スキャットはお好きなんですか?
吉田:声で面白いことをするのが好きなんです。そういう面白さの追求は、バンドの選択肢の一つになっていますね。
――スキャットのコーラス、ライブでは3人で再現するんですか?
吉田:いやあ、このコーラスは……やらないでしょう。どうなんですか?
鷲見:多分、できない……。
山岸:再現は無理なんじゃないですか?
吉田:そうだね。ここは音源を流すしかない。
鷲見:あるいは、ギターソロをガツン!と弾くとか?
吉田:それもいいね。
鷲見:音源だからできる良さもあるので、そこは無理に再現しようとせず、ライブはライブで考えようかなと思います。
吉田:音源にしか残らない美しさもあるから?
鷲見:その通り(笑)。
――(笑)。昨年の11月に配信した「都会の幽霊」は、永田涼司さんのスライドギター、山本健太さんのピアノが加わっていますね。
吉田:はい。今、ライブは涼司くん、健太さんにサポートで入っていただいて、5人で演奏しているんです。このメンバーで演奏する前提で作っていったのが「都会の幽霊」です。こちらで指定したものはありつつも、全体を通しておふたりのプレイアビリティみたいなものがちゃんと出ている気がします。すごく“バンドの音”という感じがして、気に入っています。今のズーカラデルのライブの楽しさ、気持ちいいところも出せているんじゃないでしょうか。
――都会暮らしの中で抱くやるせなさみたいなことは、度々描いていますよね?
吉田:そうなのかもしれないですね。自分がそういうことを感じているのかはよくわからないんですけど。でも、なにかにつけ都会を敵視している感じはあるのかもしれない(笑)。
――東京は苦手ですか?
吉田:一旦、人が少なくなった東京を見たので、“今までひどいこと言って悪かったな”っていう気持ちはあるんですけど。これから、より仲良くなれていけたらいいですね。
――「都会の幽霊」は、ライブで既に披露していますよね?
鷲見:はい。去年のツアーで演奏するようになって、その後にリリースしたので。これからもやる機会が多いと思います。
――ズーカラデルの今後のライブに関しては、3月に神戸と熊本でワンマンライブ。5月から7月にかけて全国ツアーがありますね。ワンマンライブのタイトル『Knockin’ On Hell’ s Door』は、なんかメタルバンドみたいだなと思ったんですが。
鷲見:我々は、地獄の軍団なので(笑)。
――(笑)。全国ツアーでも、『ACTA』の曲を堪能できそうですね。
吉田:はい。『ACTA』には、バンド演奏が映える曲が入っているし、まだやったことがない曲もいい感じになりそうです。観に来るとすごく楽しくなっていただけるんじゃないかなと思っています。一生懸命やって、みんなにも一生懸命聴いてもらって、楽しくお家に帰っていただきたいです。
山岸:ズーカラデルのライブには、振り付けはありません。
吉田:ライブ中にシンガロングしたり、振り付けを踊ったりするのが肌に合わない人にもぴったりのライブをやっております。
鷲見:お客さんには、とにかく自由に楽しんでいただきたいんです。ライブハウスに一人で行くことに不安がある人もいるのかもしれないですけど、一歩を踏み出す勇気さえ持っていただけたら、あとは僕らが楽しませます。
吉田:ただじっくり観ても楽しんでいただけるライブをしているので、気楽な気持ちで遊びに来てくれたら嬉しいです。

取材・文=田中大 撮影=高田梓

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