手嶌葵の
『The Rose 〜I Love Cinemas〜』は
これからも時代を超えて愛される
不朽の歌集

『The Rose 〜I Love Cinemas〜』('08)/手嶌葵

『The Rose 〜I Love Cinemas〜』('08)/手嶌葵

今週は2月22日に初のライヴアルバム『LIVE 2022 “Simple is best”』をリリースした手嶌葵の過去作品にスポットを当てよう。スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーがその歌声に惚れ込み、いきなり宮崎吾朗監督作品『ゲド戦記』のテーマソングを歌うことになっただけでなく、ヒロインの声優にも抜擢。改めてその歌声を聴きまでもなく、その破格のデビューも当然と思わせる天賦の歌声と、独特のオーラをまとった女性シンガーである。“I Love Cinemas”として過去3作リリースされているシリーズの第一弾である『The Rose 〜I Love Cinemas〜』をピックアップしてみた。

映画主題歌・挿入歌の不変性

このアルバム『The Rose 〜I Love Cinemas〜』リリース前に手嶌葵に取材をさせてもらっていて、だから今週はこの作品をチョイスしたのだけれど、改めて本作を聴いて思ったことは、“もう15年も経ったのか!?”である。 “ついこの間、聴いた”と言えば流石に度がすぎるだろうが、数年前に聴いたくらいの感覚だ。少なくとも古い音源だとは感じなかった。それは、もちろん筆者の加齢によるところもあるだろう。昔のことはよく覚えているにもかかわらず、短期記憶が怪しいことは最近頓に増えた気がする。1980年代とか1990年代とかは昨日のことのようだ…というのは冗談に聞こえるだろうが、こちらとしてはあながち冗談と言えないところもあったりなかったりする(というのはもちろん冗談ですよ)。それは一旦置いておいて、『The Rose 〜I Love Cinemas〜』が古びて聴こえなかったのはその内容によるところが大きいのだと思う。

サブタイトルが示している通り、本作は映画の主題歌・挿入歌のカバー集である。しかも、彼女のデビューアルバム『ゲド戦記歌集』(2006年)が文字通りリアルアイムで公開された映画の楽曲集だったのに対して、こちらはシネマクラシックと言っていい作品から楽曲をチョイスしている。1939年の映画『オズの魔法使』のM5「Over the rainbow」が最も古く、以下、M2「Moon River」(1961年:映画『ティファニーで朝食を』)、M8「Alfie」(1966年:映画『アルフィー』)、M7「What Is A Youth?」(1968年:映画『ロミオとジュリエット』)、M4「Raindrops Keep Falling On My Head」(1969年:映画『明日に向って撃て!』)、M1「The Rose」(1979年:映画『ローズ』)、M3「Calling you」(1987年:映画『バグダッド・カフェ』)、M6「Beauty And The Beast」(1991年:映画『美女と野獣』)というラインナップである(加えて、アルバムラストにM9「The Rose (extra ver.)」が収められている)。

収録曲を相対的に見ると、1987年や1991年辺りは少なくとも当時はクラシックではなかったのでは?…と思う向きがあるかもしれない。それは、本作発売年の2008年を2023年現在にスライドさせてみるといいのでないかと思う。2008年から顧みた1987年と1991年は、21年前と17年前。2023年から見ると、それぞれ2002年、2006年ということになる。2002年と言えば、FIFAワールドカップ日韓大会の年で、2006年はワールド・ベースボール・クラシックの第1回大会が行われた年だ。これだけでも結構過去であることが分かる。映画で言えば、2002年はサム・ライミ版『スパイダーマン』や『猫の恩返し』、2006年は『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』や『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、邦画では『LIMIT OF LOVE 海猿』や、それこそ『ゲド戦記』がヒットした年だ。超古いとまでは言えないものの、ひと昔、いや、ふた昔前という感じであろうか。

本作の話に戻れば、『The Rose 〜I Love Cinemas〜』は発売時点で、クラシックを含めて多くの人たちが懐かしさを感じるだろう名作映画から選曲されているのだ。そこがポイントだろう。そうした楽曲であるがゆえに今も聴き応えが古びていないのではないかと推測する。クラシカルだから古びていない? 矛盾していると思われる方がいるかもしれないので、言い方を換えると、流行にとらわれていないから…と言えば分かってもらえるだろうか。本作収録曲を主題歌や挿入歌としている映画作品はシネマクラシックというだけでなく、長く愛されているスタンダード作品でもある。楽曲は古今東西、多くのシンガーによって歌われ、世界中のリスナーに親しまれてきたナンバーだ。誰でも一度くらいは耳にしたことがあるだろう。“あの時以来、聴いていない”ということは少ないのではないかと思う。聴き応えに古さを感じないのはそういうこともあるのではないだろうか。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着