四星球「僕たち音楽作ってません!
時代作ってます!」 20周年企画ファ
イナル『裸一貫 真冬の野音』をレポ
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四星球20周年企画ファイナル『裸一貫 真冬の野音』が2月23日に日比谷公園大音楽堂で開催された。いわゆる日比谷野音と呼ばれるこの場所はロックの聖地であり、徳島を拠点に活動するコミックバンドでありライブバンドである四星球がここまで辿り着いたというのは感慨深い。開場15時30分開演16時30分だが、朝9時から機材搬入が始まると聴き、ライブレポート担当の私も朝10時に現場に入った。裏口から何気に入ろうとするが、今までのどんな四星球の大きな催し物よりも多い人数のスタッフが見かけられ、思わず違う現場に来てしまったかと勘違いしたほど。楽屋に向かうと既にたくさんの小道具が所狭しと並べられ、U太とまさやんは黙々と弁当を食べている。スタッフが小道具のカラープリントをするためにコンビニを探していると、康雄とモリスも楽屋入り。康雄は到着するやいなや、スタッフに細かく小道具などをチェックしていく。そこから康雄はブランチ的にスープ春雨を食べながら、法被にアイロンをかけるスタッフとブルーハーツの日比谷野音ライブについて話したり、何でもない馬鹿話をしている。11時50分、康雄はPA担当者と打ち合わせをするが、PA担当者は「(きっかけが)多い~」と悲鳴を上げている。その40分前に私含め、全スタッフに構成台本が改めて配られたが、確かにきっかけは圧倒的に多い。
12時から会場内では音出しが出来る様になり、メンバーも法被にブリーフでステージに上がって写真撮影をする。この写真撮影も本番で重要なアイテムとなる。前説を務めるアイアムアイが楽屋入りしたり、この日、大重要となる音符付の黒キャップと黒マスクが私含めスタッフに配られたり、いよいよ緊張感が高まっていく。13時半からはバンドリハが始まるが、真冬を覚悟していたわりには温かく、日比谷公園での祭囃子が聴こえたり、鳥がチュンチュンと鳴いたりと穏やかに過ごせる。こういう何気ない穏やかな雰囲気でも、その場で思い浮かんだアイデアによって新たな構成が組まれたりするから、四星球の現場は気が抜けない。鳥のチュンチュンという鳴き声も本番では大事なポイントになっていく。
リハも落ち着き、ようやく楽屋でメンバーに話を聴く余裕が生まれる。構成台本はデータとしては前日から貰っていたが、読んでの第一印象は難解複雑であり、現場は大変だろうなと正直思った。「舞台感は増していますよね。きっかけも多いし、フリートークも無いですし」とU太は話してくれる。以前のライブレポートでも書いた事があるが、四星球のライブは舞台要素が強い。だから、事前に打ち合わせで確認すべき点が非常に多い。屋内と違い野外だとリハひとつ取っても確認事が多いし、真冬という季節を考えると開演時間も早くならざるをえない。康雄も「16時半から始まるのに12時からしか音出しが出来なかったり、いつもよりタイトですね」と漏らす。そして、私が難解複雑と思った事についても聴いてみる。以前、康雄はインタビューで東西ではライブの演出を変えると話してくれていた。
「東京ワンマンは、いつもきっかけが多いんです。東京はトリッキーで凝っているライブになるし、前のワンマンよりクオリティーが下がっていると思われたくないので。観た事ないもん観せたい…」
「観た事ないもん観せたい…」と言ってから、少し考え込む姿から緊張感と本気感が伝わってきた。考えてみれば、私は東京で四星球のライブを観るのは初めてだ。それも普段のライブハウスとは違いイレギュラー感がある野外。まさやんは開場ギリギリまで急遽追加された音素材を作り続け、モリスは構成台本を確認している。いつもは最初に行われるスタッフ全体打ち合わせも、リハ時間がタイトな為、全てのリハが終わり、開場時間になり、ようやく開始。康雄が構成台本のきっかけをひとつひとつ丁寧に説明していく姿は何度も観ているが、流石に開場してからの打ち合わせなだけに緊迫感がありすぎ。終わってからも、個別でスタッフ打ち合わせと全く息が抜けない。
15時50分。アイアムアイの前説がスタートするが、伝説の盛り上げ師と謳うだけあって、まぁ気持ち良いくらいに盛り上げてくれる。前説なのに30分もあるが、このしっかりと温めてくれる前説は、ギリギリまで細かい打ち合わせをする四星球にとっては心強かったはずだ。前説の間にどんどん観客も増え続け、本当に四星球の日比谷野音が始まるのだなとドキドキする。最後のアイアムアイのこの言葉には感激しか無かった。
「みなさんは、めちゃくちゃ素晴らしい人たちを好きな事を誇りに想って下さい!」
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
こんなに心の込もった前説はあるだろうか…。余談だが、彼らは日比谷野音含め3本の現場を掛け持ちしていたという。そんなにも忙しい中、前説というより、しっかりとしたライブを真正面からやったアイアムアイには拍手しかない。四星球のメンバーは、カイロを貼ったり、縄跳びをしたり、袖から客席を確認したり、そういった準備をしている間に、遂に16時30分開演時間を迎えた。
康雄が影アナで観客席に呼びかけて、21年目で使うアーティスト写真を今から撮影したいと話す。しっかりと前説で温まっていたとはいえ、その上で康雄が影アナでライブが始まる前に直接観客とコミュニケーションを取ったのは大きかった。実際、観客からは大きな拍手が起きたし、客席がより温まって、よりライブ本番への期待が高まっていくのが手に取る様にわかった。法被とブリーフの上にモッズコートを羽織った4人がステージに出て行き、モッズコートを脱いだら、当たり前だが法被とブリーフなわけだが、それだけで客席は沸く。そりゃそうだろ、予想していたよりは温かいとはいえ真冬なわけで、それなのに四星球はいつも通り法被とブリーフでライブに挑むのだから。こんなにも勇敢なコミックバンドは、心から笑って、心から讃えたくなる。無事にアーティスト撮影も終わり、一斉に音を出すも、まさかの初っ端からまさやんの弦が切れてしまう。「弦が切れるほど元気よくやってる!」という康雄の咄嗟のひとことは良かったし、すぐにギターを持ち替えての1曲目「トップ・オブ・ザ・ワースト」での『てっぺんまで駆け上がれ』という歌詞もとても良かった。日比谷野音で聴くと、この歌詞はいつもとはまた味わいが違う。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
続く「運動会やりたい」では、いつも通り観客を紅白に分けて競技をしてもらい勝敗を付けるが、今回は真冬の野外だけに勝者には温かいものとして、おにぎり・こたつ・シチュー(スプーン付き)・ビーフシチュー(スプーン・フォーク付き)が用意される。「勝った方が負けた方にこれ(フォーク)でグーっといく!」というどう考えても、その場で康雄が思いついた本編とは関係ない言葉に思わず笑ってしまう。そんな中、モリスから寒いので相撲を取りたいという唐突な願いがあり、U太行司でまさやんと相撲を取るが、康雄の提案で人間紙相撲とルールが変更されて、観客が椅子などをトントン叩くとモリスまさやんが紙相撲の様に動く。そしたら、その振動で袖からスタッフたちも紙相撲の動きで飛び出してくるのだが、せっかくの日比谷野音で何をやっているんだろうと無性におかしくなる。で、こんなオバカなネタに、これまた咄嗟に康雄が「日比谷野音でモッシュが起きてるんちゃう?!」とひとことで、何だか素敵に意味合いが変わってくる。この御時世、モッシュなんてもってのほかと思われるし、この御時世じゃなくても日比谷野音という聖地でモッシュなんて絶対出来ないと思い込んでいただけに胸騒ぎが止まらない。メンバー3人がずっと紙相撲の動きをしているので、次の「君はオバさんにならない」がすんなり始まらないのだが、いざ演奏して歌われると、さっきまでのオバカなくだりを忘れるくらいに本当に良い曲で沁みてしまう。どれだけオバカなくだりがあっても、本当に良い曲が歌われるからこそ、四星球のライブには尋常じゃない説得力がある。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
「ボーナストラック」が終わり、せっかくなので20周年法被も着ようと着替えるが、やはり寒いので温かいものを求める事になり、温かいものと言えば母親の声をとなって、まさやんの母親へ電話をするが、ピクニックに行っているらしく電波が悪いなんてありつつ、「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」へ。あまりにも寒すぎて途中で曲が凍り、止まってしまい、その凍った状態を観客の熱気で溶かす為、「HEY!HEY!HEY!に出たかった」が鳴らされる。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
そうやってオバカな小ネタを織り込んで進んでいくが、ここで状況が一気に急展開する。康雄の独白によって、寒がる自分たちを大金持ちが楽しんでいるゲームが実は催されていたと打ち明けられる。私含め音符の付いた黒キャップと黒マスクのスタッフが大金持ち集団という設定で、「UMA WITH A MISSION」のレコーディング経費が膨らみ、1億円の借金を抱えた事で大金持ちに泣きついたという、かいつまんで言うとイカゲーム的な展開。この急展開な難解複雑な流れを、一瞬で理解して笑っている観客たち。個人的には、この光景は凄く良いなと思った。というのも、難解複雑な構成を理解しているだけでなく、それを高尚とも捉えておらず、あくまでバカバカしい事だと笑い飛ばしているのが嬉しかったのだ。まさにコミックバンドの観客たちである。で、イカゲーム的な展開としては、借金の担保でライブ中に新曲を1曲作る事になる。康雄は、その大金持ちの提案を無理だと感じて脱落するという事で倒れこんで、「UMA WITH A MISSION」の流れへ。脱落という事から冒頭で撮影されたアーティスト写真から、康雄がいない写真に変更されて登場したりと相変わらず細かい小ネタがあって、もちろん、そういう点は基本的に全て記録しておきたいのだが、「UMA WITH A MISSION」の真意について、去年の四星球主催フェス『徳島ジッターバグ』でも書いたが、再度書き留めておきたい。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
馬に扮した康雄が何度も立ち上がろうとしては立ち上がれない中、まさやんが童謡のような応援歌を振り付きで歌うのだが、康雄は「新しいコール&レスポンス」と言う。観客が馬に声援を送り、それに康雄扮する馬が応える…、声出しが可能になってきた事で、この曲に込められた本来の真意が見えてきたし、この曲は今後ライブを重ねる事で大きな大きな成長をしていくだろう。実はそんな深い歌でありながらも、最後はメンバーがまた凍ってしまう事で、格好良くなりすぎないし、でも、そんな格好つけない姿が一番格好良いのだ。
8曲目「クラーク博士と僕」。四星球の代表曲であり人気曲でもあり、20年前の18歳、19歳の頃から歌っている。
「子供が作った曲をずっとやっているんです、大人になっても。この曲と一緒に大人になりました。大人になってわかったこと、大人になんてなれないこと。ふざけてないと泣いてしまうんです」
東京のど真ん中、それもオフィス街に囲まれた日比谷野音での康雄の言葉は沁みまくった。ぼんやりと上にあるビルを眺めたら、ポツリポツリと灯りがついている。祝日ではあるが、休日出勤の人たちなんだろう。そんな人たちに向かって、ビルを見つめながら、康雄は叫んだ。
「お仕事お疲れ様です!」
「大人のフリして働いて、しんどいと思ったら、四星球のライブに来てもらったらいいので」とも付け加えたが、そんな康雄はフラフープを首で回したり、フラフープで縄跳びの様に飛ぶし、まさやんはブリッジして走ったり、床に転げ回っている。40歳目前の大の大人が本気でふざけている。みんながみんな、彼らみたいに生きられるわけじゃないからこそ、大人のフリして働いて疲れたら、彼らのライブを観に来たらいいのだ。「もう少し大人をしてみましょう!」と言って〆られ、「Mr.Cosmo」へ。この曲も彼らの代表曲であり人気曲である。
「25歳で作って、初めての売れるチャンスがこの曲でした。アホでした。シングル曲にしたら良かったのに、バラードと両A面にしたし、シンプルにしたら良かったのに、コントを入れて8分にしたし。どこのラジオが、どこの有線が、流してくれますか?! 大阪は四ツ橋のLMスタジオでレコーディングしていた25歳の自分のところにタイムマシーンで行って、言ってやろうと思います。「おもろいやんけ!」って!!」
若気の至り、ヤングエラーなんて誰にでもあるし、否定も出来るし、肯定も出来る。だが、康雄は、そんな単純な答えは出さず、でも或る意味、一番単純で痛快な笑い飛ばすという最高の答えを出した。真剣にふざけているから、四星球は最高なのだ。この日、特に最の高だと、むちゃくちゃ大興奮しまくったシーンがあった。「Mr.Cosmo」の曲中で康雄が袖にはけて、全身タイツを着た宇宙人の格好でUFOに乗ってくるくだりだが、そこから小ボケを挟んできたりする。この日は「精子に乗って、大麻持ってきました!」と言って登場。これ前日から構成台本を読んでいたが、何度読んでも全く意味わからなかったし、全く意味わからなさすぎて、何度もひとり大笑いした。タイマセイシ=タイムマシーンって事かと無理やり納得させようともしたが、あくまで、ここはUFOの設定であって、タイムマシーンは全く関係ない。この後も色々と書いていくのだが、四星球には、散りばめられた出来事を最後に回収していく天晴れお見事十八番がある。確かに精子をデザインした段ボールを裏返したらヘタが長いイチゴにはなっていたが、別に本編とは全く関係ないし、本当に何にも最後まで精子も大麻も一切回収されなかった。ちなみに大麻も段ボールで制作されている。意味がない事でも自分がやりたければやるのがロックンロールだし、こういうただただ思いついた暴れる力をぶちかますネタが、私はむちゃくちゃ大好きである。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
さて、こっからであるが、「Mr.Cosmo」の曲中にメンバー間で温かくする事について話し合うが、埒が明かず、関係性が凍りついてしまう。まぁ、そりゃ法被とブリーフでは寒いだろうという事で、康雄仕切りでメンバー3人がブリーフ何枚履けるか対決をする事に。ブリーフで暖を取るというバカバカしさ…、何をしてんのというアホらしさ。モリスは185枚目標にブリーフを履き続け、康雄が「みなさん麻痺してますよね?! ここは日比谷野音ですよ!」と観客に問いかけるのだが、この時、一番後方で観ていた私は何気に、その後ろにある売店を観た。売店に行く観客の気配を感じて何気に観たくらいの事だった。多分もう何十年も売店で働いてるであろうおばちゃん。冷静に商売に徹して店の中で働いているおばちゃんが、何の用事も無いのに、わざわざ店の外に出て来て、ブリーフ何枚履けるか対決をしている四星球を観て爆笑していたのだ。数々のロック聖戦を見届けてきたであろう売店のおばちゃんが、日比谷野音史上一番ふざけている四星球で爆笑している。日比谷野音の女神に四星球が選ばれた気がして、ひとり勝手に大喜びした。あくまで勝手な妄想ではあるのだが、シンプルに嬉しかった。四星球は老若男女関係なく絶対に届くのだ。
気が付くと日比谷野音も陽が落ちてきて、夕暮れになってきた。たくさんブリーフを履きまくった大の大人たちが『たくさん笑えば涙が出るなら たくさん泣いたら笑えるのかな』という歌詞の歌を歌っている。風景と情景のギャップが、よりセンチメンタルで涙腺が緩んでしまう。彼らはメジャーレーベル所属ながら、そのメジャーレーベルの人たちは誰ひとり来てなくて、同じレーベルのDragon Ash25周年ライブ現場に行っているとイジる。彼らが学生時代から大好きなロックヒーローバンドであり、今や交流もあり、年下の彼らを友達と呼んでくれるロックヒーロー。だからこそ、愛あるイジりであり、最後に「25周年おめでとうございます! 聴いて育ちました!」という康雄の言葉にはグッときた…。いつかDragon Ashが同じ日にライブをしていた国立代々木競技場第一体育館で、四星球のライブを観てみたい。ふと空を見上げると月が出ていた。いよいよ終盤。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
リウマチや癌と闘病する方々がファンの中にはいて、大変な病状でも四星球を聴いて元気に生きておられる事を話す康雄。
「医学の事は何もわかりませんが、ひとつだけ確実に言えるのは、ライブがあるから生きていられる人がいるって事。自分らのライブで救える人がいるなら、もっと有名になりたいなと想いました。一緒に長生きして下さい!」
切実であり、これぞエモーショナルであった。「ふざけてないと泣いてしまうんです。だから、ずっとふざけていたい。花団の様に! ドリフターズの様に!」と続けて、「コミックバンド」へ。ここで、この日、随所随所に挟まれるまさやんのお母さんとの電話パートへ。特徴的な電話の呼び出しメロディーを今日作らねばならない新曲のイントロにして、お母さんがずっと節を付けて繰り返してエールを贈る『まさゆき、ファイト!✕∞』というメロディーをAメロにする事に。怒涛の回収が始まっていき、照明の眩しさに手で顔を覆った時に、横にした手の指が五線譜になり、そこに大金持ち集団に扮したスタッフたちの音符付き黒キャップが重なり合い、音階になってBメロも完成。そして、記念すべき初日比谷野音を記録しておきたかったのか、モリスがずっとライブ中の出来事をメモしていたものを読んでいくと、歌詞としてピタッとはまる! 後は大サビを残すのみという時に、リハから気になっていた鳥のチュンチュンという鳴き声が聴こえてくる。どこかアイアムアイふたりの声を想い出す2匹の鳥のチュンチュンメロディーによってサビも完成。テンポはモリスがブリーフ枚数の時と同じく185と設定する。
おにぎり・弦が切れるほど元気よく・コール&レスポンス・てっぺん目指してピクニックなどなど、今日MCで出てきた言葉たちが歌詞に並ぶ。
「大人になってわかったこと 大人になんてなれんてこと 大人になってわかったこと ふざけてナイト泣いちゃうの」
MCで聴いた時もキラーフレーズすぎて震えていた言葉も歌詞へと変化を遂げて、まさやんに「騙しきれない寂しさ 隠しきれない悲しさ」と唐突に電話で訴えかけていたお母さんの謎の名言も歌詞へと進化を遂げる。曲のイメージはドリフターズとの事だが、これ全くお世辞社交辞令抜き癒着抜きで言うが、凄い名曲が生まれた。それも普通にライブでさらりと披露される新曲が名曲というのではなくて、大金持ちが四星球に借金返済の担保としてライブ中に新曲を作れというネタの中で、新曲を、てか、名曲を披露するというのは、あまりにも粋すぎるし、憎すぎる…。日本一泣けるコミックバンド…、この称号に偽りは無い。大金持ちも気に入った上で、Bメロ終わりに「ワオ!」を入れたらという提案もされたりして、気が付くと3回も繰り返して歌われる!!! 純粋に何回も聴きたいと想える名曲だけに、何回聴いても新鮮だし、何回も聴けば聴くほど好きになる。日比谷野音にいた全ての人と四星球との絶対に忘れられない想い出の曲が出来た。その名は「ふざけてナイト」。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
もうすっかり真っ暗の中、「リンネリンネ」、「絶対音感彼氏」が歌われて、メドレー的に曲の途中で凍って中断されていた曲たちも歌われる。馬鹿のひとつ覚えになって申し訳ないが、どうしても、そう想うので書くけれども、四星球のネタ回収は誠に絶品すぎる。もはや名人芸と言っても過言ではない。また、本番前に楽屋で康雄がブルーハーツの話をしていただけに、「これが令和の「リンダリンダ」!」と言って歌われた「薬草」は堪らなかった…。ラストナンバーは「がんばっTENDERNESS」。今年1月の終わりに出来た曲で、まだ録音していないという。ていうか、今日2曲も新曲が聴けているなんて素敵じゃないかと余韻に浸ろうとするが、そうはさせてくれないのが四星球。モリスがまさやんとの相撲の決着がついていないと言い出して、人間紙相撲が再開されて、その紙相撲のトントンとした動きでステージに飾られた音符パネルから部分部分を剥がして、新たなパネルに張り付けていくと『20TH』の文字が浮かび上がり、大団円。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
感動と爆笑で感情が大バグりしているが、ライブレポートライターとしては裏側も観に行かなきゃと、客席後方からステージ裏へと急ぐ。康雄が「行ける人から行って下さい!」とメンバーに声を掛けながら、次の衣装などを探して急ピッチで準備をしている。康雄も含め、息も絶え絶えの4人。気温の寒さと興奮の熱さで、それこそ感情が大バグりしているだろうに、3人は心身整えてステージへと向かう。向かう直前、モリスが私に気を遣って、笑顔で一生懸命に何かを話してくれようとするが、疲弊しきっているので、言葉に上手くならない…。観客に使うべきサービス精神を、裏方の密着ライターにまで遣おうとしてくれる心意気に泣けてしまった…。U太とまさやんも疲弊しているにも関わらず、笑顔でステージに走る。
3人が少しフリートークで繋ぎ、康雄がトレジャーハンターの衣装で「宝をつかみ取れ!トレジャーハンター!」とドナりながら登場。3つの宝箱に温かくなるアイテムが入っており、それぞれ黒幕の後ろで装着して登場するという流れ。ガチで行われる為、誰に何が当たるかわからないが、結果、モリスはペヨンジュン衣装・U太は赤の亀甲縛りランジェリー・まさやんはウォッカが当たる。康雄が「四星球、どうやら日比谷野音、最初で最後になりそうです!」と叫ぶ。確かに日比谷野音史上、ペヨンジュンにランジェリーにウォッカという3点セットが同時に登場した事は無いだろうし、だからと言って、その3点セットで出禁になるとも思わないが、誰もやった事の無い事をやろうとする攻めたカウンターカルチャー精神は凄すぎた。まさやんも別に吞まなくてもいいウォッカの瓶を煽る様にガブ呑みする。
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
「オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの中間地点である地べたを這い回って日比谷やって参りました!」
そう言って、アンコール1曲目に鳴らされたのは「世明け」。『ドロ水だろうがカフェオレと思って飲んできた』と歌われるが、今やドロ水どころかウォッカまで呑み干そうとしている。もはや無敵。2曲目は大学生の時に作ったデモ音源「のっぺらぼう」。いや、もう、これハードコアパンクですやん…。20年前に初期衝動で作ったナンバーを、40歳目前でも衝動でぶっ飛ばせる痛快さ…。康雄はマイクスタンドを持って暴れているし、U太は宝箱を蹴り上げている。ライブハウスで暴れ走り続けてきた彼らが、ロックの聖地である日比谷野音でも、そのまま暴れ走っている。自分たちのホームであるライブハウスに捧げる「ライブハウス音頭」の後は、これまた大学生の時に作った「幸せなら CLAP YOUR HANDS」。オアシスの壮大なミドルバラッドを彷彿とさせる様に、『君にも夜が来て 僕にも夜が来て 君にも朝が来て 僕にも朝が来て』と歌われる。「今夜宇宙の片隅」でなんていうフジテレビの往年の名作ドラマタイトルを思い浮かべてしまう歌詞など、とんでもなく大衆に届きまくるナンバー。これは当時シングルカットされても全くおかしくない楽曲であるし、今からでも遅くないのでリメイクして新たに世の中に発表して欲しい。「のっぺらぼう」もそうだが、10代の時に作ったナンバーを、しっかりと20年後の今も更新してパワーアップさせているのが本当に素晴らしい。
「僕たち音楽作ってません! 時代作ってます!」
そう康雄が宣言して、アンコールラストナンバー「オモローネバーノウズ」へ。その後のMCで康雄は、20周年にまつわるインタビューで20年が短く感じたか長く感じたかという質問が一番出たが、その答えが「ぶっとかったです」だったと話した。
「そのぶっといので常識や憂鬱をどついていくから宜しくお願いします!」
この名MCの間にU太が衝動的にウォッカを煽ったのも痺れたし、康雄も語り終わって、すぐにウォッカ呑んで吐き出したのも最狂だった。アンコールラストナンバーだったはずなのに、この日まさかの4回目「ふざけてナイト」!!!!
「ごめん、こんなバンドやねん」
履き捨てる様に言い放ったU太に、またもや痺れまくった。ここからは、まさやんが靴にウォッカを入れて吞むは、康雄はまさやんとU太のブリーフの中にウォッカを流し込むはと強烈にふざけまくる。ほんでもってウォッカのラベルを観て、ひとこと。
「スピリッツと書いてます!」
そんな最狂スピリッツで、この日まさかの5回目「ふざけてナイト」!!!!! 真冬の野音を裸一貫でやりきった4人はブリーフ一丁の裸一貫で、まぁ詳しく書くとU太は赤の亀甲縛りランジェリーを身に着けているが、それも裸一貫とみなして、とにかく抱き合って温め合う。
「ぶっといです!」
康雄が四星球全員裸一貫で抱き合って、感じて想った言葉が、この言葉だったのは何だか泣けた。どう考えたって泣くべきシチュエーションじゃないのに泣けた。全てが終わった楽屋での清々しい4人の表情も本当に愛おしかった。
「ちゃんと尖ってましたね?!」
康雄が私へ嬉しそうに聴いてくる。充分に尖っていたし、この尖がりは排他的では無くて、大衆的に突き刺さりまくる尖がりだった。よしんば、それでも文句いちゃもんを言ってくる輩が世の中に存在するならば、康雄のステージでのラストメッセージを投げつけたい。
「僕たちに貸した日比谷野音が悪いです! 僕らは、いつものライブをしただけです!!」
これにて四星球20周年終了。おあとがよろしいようで。そして、まだまだ尖がり続けるのみ。

取材・文=鈴木淳史
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=北川成年
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ
四星球『裸一貫 真冬の野音』 撮影=えみだむ

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