SAKANAMON、マカロニえんぴつ、ヤユ
ヨ、WONに、SPRINGMANが仲間入りーー
3年ぶり開催『TALTOナイト2023』で謳
われたロック・バンドの矜持、贈られ
たエール

『TALTOナイト2023』2023.3.3(FRI)東京・Zepp Haneda
今年、設立6周年を迎えるロック・レーベル、TALTOの所属バンドが一堂に会するライブ・イベント「TALTOナイト2023」が3月3日(金)、Zepp Hanedaで開催された。コロナ禍の影響で3年ぶりの開催となった今回、同イベントに出演したのはSAKANAMONマカロニえんぴつヤユヨ、そして新たに仲間入りしたWONとSPRINGMANを加えた計5組。
SAKANAMONの藤森元生(Vo.Gt)は、自分達も含めた5組の顔ぶれの特徴について、「レーベルを学校にたとえると、クラスの中心人物がいない。四隅にいるような人達ばかり(笑)」と語ったが、それは言い換えれば、音楽シーンのメインストリームに易々と与しない個性派揃いということだ。だからこそ、熱心なファンを生むのだと思うが、そんなファンがZepp Hanedaに集まったイベントの模様をレポートする。
■SPRINGMAN
SPRINGMAN
オープニングアクトを務めたのは、murffin discs主宰の「murffin AUDITION 2021-2022」でグランプリを受賞した荒川大輔(Vo.Gt)のソロプロジェクト、SPRINGMAN。自らのルーツをアピールするようにユニコーンの「スプリングマンのテーマ」を流しながら、バンド・メンバーとともにステージに立った荒川が「いえーい!」と声を上げ、演奏は「さよなら北千住」からスタート。コンボ・オルガン風のレトロなキーボードの音色が印象的なポップ・ナンバーと豪快な歌唱の組み合わせが、なるほどSPRINGMANを名乗るだけのことはあると思わせる。荒川がレスポールをバリバリと鳴らしながら弾いたギター・ソロに客席が沸く。大舞台にも関わらず、これっぽっちも物怖じしていないところが頼もしい。
SPRINGMAN
そこからピアノがブギウギ風に鳴るロックンロールの「心境」に繋げ、「はじめまして! この度、TALTOより3か月連続でリリースが決定しました。TALTOを箱推しのみなさん、どうぞよろしくお願いします!」と挨拶すると、早速、3月29日(水)にリリースする第1弾シングル「カポック」を披露。力強いコード・リフを軸にしたパワー・ポップにせつなさや青(春)臭さが滲むところがSPRINGMANならではなのだろう。指を滑らせたスライド奏法にチョーキングで泣かせたフレーズを加えたギター・ソロには、どことなく昭和の香りも(⁉)。
SPRINGMAN
「人一倍悩んで、学んで、みなさんの生活に寄り添える音楽を届けられるよう一生懸けてがんばります!」(荒川)
短い尺ながらも力強いパフォーマンスで存在感をアピールしたステージを締めくくったのは、「still writing…」。葛藤しながら愛を伝えようとするラブソングも、これからの抱負を語ってから演奏したこの日は、ちょっと違う意味に聴こえたかもしれない。ファルセットを交えた歌唱と音数を抜いたアンサンブルで繊細さも印象づけながら、最後はメンバー全員でラララとシンガロングを重ね、演奏を盛り上げた。
SPRINGMAN
■WON
WON
今回、「TALTOナイト」に足を運んだ観客はラッキーだったと思う。なぜなら、WONの「現地ライブ」デビューに立ち会うことができたからだ。楽曲以外はアイコンしか発表していない謎の女性シンガー。バンド編成のライブアクトが多いTALTOにおいては異色と言えるものの、彼女の存在は逆にバンドだけにこだわっているわけではないTALTOの可能性を象徴していると言えるかもしれない。
WON
ステージの前に下ろされた紗幕にシルエットを浮かび上がらせながら、WONが「今日は楽しんでいきましょう!」と声を上げ、一気に「ヘイトキラー」「ギャンラブ」「裏目シアター」の3曲をたたみかけるように披露。楽曲のタイトルに表れた独特の言語感覚を持つ辛辣な言葉を速射砲のごとく歌うWONの歌声と、聴く者の気持ちを駆り立てる煽情的なギターおよびシンセ・サウンドに加え、タテのリズムをスクエアに刻むビートとともに紗幕に映し出された目まぐるしい映像が聴覚と同時に視覚をも刺激しながら、観客を圧倒していった。
WON
もちろん、その間、「みなさん、盛り上がってますか!? 手拍子お願いします!」とWONは歌いながら、客席を煽ることも忘れない。そんな前半とは打って変わって、後半はHOWL BE QUIETの竹縄航太(Vo.Gt.Piano)がアコースティック・ギターを爪弾いた「咲かない」、そしてピアノを奏でた「日記」というバラードを歌い上げ、圧倒的な歌唱力を印象づける。
WON
「現地ライブ初ということで、とても緊張していましたけど、想像の100億倍、温かい会場で、もっとライブをやりたくなりました!」
デビューから2年を経て、ついに実現した「現地ライブ」デビューは、WONにとってライブ活動という新たな可能性を切り拓いていこうと思えるターニングポイントになったようだ。
「またライブをやらせていただくと思います。今日、ライブを見て、気になった方は、これからもWONをよろしくお願いします!」
最後を飾った「日記」は、21年3月に配信リリースしたデビュー・シングル。恋人との別れを歌ったと思しきバラードながら、やり場のない気持ちを込めた言葉をたたみかけるように歌うサビの歌声はとても力強い。作詞はWON、作曲はTALTOの先輩、SAKANAMONの藤森元生(Vo.Gt)。悲痛とも言える歌声が観客を圧倒していることは、身じろぎもせずに彼女の歌に聴きいっている観客の様子からも明らかだった。
WON
■ヤユヨ
ヤユヨ
大阪からやってきた4ピース・バンド、ヤユヨは高校の軽音楽部の友達が結成したという出自どおりバンドの楽しさとともに、この1年のバンドの成長も印象づけた。
「『TALTOナイト』! あなたの心を、愛をつかまえにきました!」とリコ(Vo.Gt)が観客に呼びかけながら、1曲目に演奏した跳ねるリズムとメランコリーがヤユヨらしい「愛をつかまえて」。「自由に踊って、楽しんでいきましょう!」とリコがマイク片手に奔放なパフォーマンスを繰り広げながら歌った「Yellow wave」を挟んでから披露したR&B調の「POOL」。どちらも昨年、配信リリースした新曲だが、ともにギターを弾きながらぺっぺ(Gt.Key.Cho)がキーボードで加えたピアノ、およびアナログ・シンセの音色が新たな音像を求めるバンドの意思をアピールする。
ヤユヨ
キーボードの音色を同期で鳴らさずに1曲の中でギターと交互に演奏したぺっぺのガッツに拍手を贈りたい。さらに「POOL」ではリコのラップに加え、その裏で鳴らしたぺっぺのワウペダルを踏んだファンキーなカッティングや、はな(Ba.Cho)のスラップ奏法が新たな音像を求めるバンドのチャレンジをより大胆に印象づけていた。その2曲が収録されている3月15日(水)リリースの最新ミニアルバム『SPIRAL』ががぜん楽しみになった。
ヤユヨ
「(不実な恋人に対する)強がりを聴いてください」とリコが曲を紹介したバラード「あばよ、」では情感たっぷりに歌い上げたリコの歌が胸を打つ。
「TALTOの一番の末っ子だったのに(新人が加わって)おねえちゃんになっていました。うれしい反面、ギクッとなる部分もあります。おねえちゃんになったヤユヨも見てほしいけど、初心を忘れたくないと思って、この曲を持ってきました」
ヤユヨ
そんなリコの言葉からラストスパートを掛けるように演奏したのが、ヤユヨが注目を集めるきっかけになった最初期からの代表曲「さよなら前夜」だ。すーちゃん(Dr.Cho)が鳴らすビートが心地よく跳ねるロック・ナンバーに観客が手拍子で応える。はながベース・ソロを閃かせると、そこに繋げるようにぺっぺがギター・ソロを轟かせる。まさにライブ・バンドの面目躍如と言える瞬間だった。リコはハーモニカ・ソロも披露。そこからラストナンバーの「futtou!!!!」になだれこむと、リコの歌に3人がコーラスを重ねながら、熱気に満ちた演奏を繰り広げ、ダメ押しで客席を沸かせたのだった。
ヤユヨ
■マカロニえんぴつ
マカロニえんぴつ
開演から1時間50分。一際大きな拍手に迎えられたマカロニえんぴつがこの日、1曲目に選んだのは、TALTOから18年10月にリリースした2ndシングル「レモンパイ」。長谷川大喜(Key)のピアノが跳ねるミッドテンポのポップ・ソングに早速、観客が手を振り始める。そこに繋げたのが、17年2月にTALTOからリリースした3rdミニアルバム『s.i.n』収録の「洗濯機と君とラヂオ」。田辺由明(Gt)がギターをガガガと鳴らすアップテンポのパワー・ポップ・サウンドに煽られ、観客がジャンプ。そして、「待ってたか!?」とはっとり(Vo.Gt)が客席に問いかけると、大きな歓声が上がった。
マカロニえんぴつ
マカロニえんぴつ
曲が終わっても鳴りやまない歓声と拍手に「この感じ、懐かしい。めちゃめちゃ久しぶり!」とはっとりが快哉を叫ぶ。そんな序盤の盛り上がりから、客席には彼らが国民的人気バンドになる以前からのファンが多いことが窺えた。
「これからもこういう素敵なイベントを開催できるようによろしくお願いします。みなさんの応援にかかってますから。ある意味、リスタート。心機一転にふさわしい曲」とはっとりが言って、バンドが演奏したのは、<きみならまだ間に合うよ>と歌う「PRAY.」。
マカロニえんぴつ
3連のリズムがオールディーズ風のポップスを思わせながら、長谷川がキーボードで鳴らすファンファーレや田辺が加えるメタル風のリフを含め、どこかプログレっぽい展開も交えつつ、アンセミックなポップ・ロック・ナンバーに着地するところが、洒脱さとエキセントリックな感性が入り混じるマカロニえんぴつならではか。その「PRAY.」が収録されている最新EP「wheel of love」からもう1曲、テレビドラマ『100万回言えばよかった』の主題歌として書き下ろした「リンジュー・ラヴ」を披露。胸に迫るメロディを重ね、ぐっと盛り上げると、高野賢也(Ba)のドライブするベース・プレイが演奏をひっぱる「星が泳ぐ」で再び観客をジャンプさせる。
マカロニえんぴつ
そして、昨年、バンドが結成10周年を迎えたことに言及したはっとりはロック・バンドを続ける理由について、「好きだからです。1人より楽しいからです」と語ってから、「大事な人がいつまでも隣にいると思わないでください。そして、あなたを輝かせてくれる隣の人を守ったり、お返しに輝かせたりする存在になってください。11年目のマカロニえんぴつ、そして俺の音楽人生はそれを目標に歩みます」と宣言。
この日、彼らがラストナンバーに選んだのは、「なんでもないよ、」。<君といるときの僕が好きだ>と歌うラブソングを、きっと彼らは客席のファンに向け、演奏したのだとステージを降りるとき、照れ隠しにちょっとおどけた調子で客席に投げキッスしたはっとりを見ながら思ったのだ。
マカロニえんぴつ
■SAKANAMON
SAKANAMON
いよいよ大詰めを迎えた『TALTOナイト2023』もあと1バンドを残すのみ。トリを務めたのは、もちろん今やTALTO最古参のスリーピース・ロックバンド、SAKANAMOだ。「はい、いらっしゃいませ。SAKANAMONです。よろしくお願いします!」と開口一番、藤森元生が放った言葉を合図にステージ上手から横一列に並んだ木村浩大(Dr)、藤森、森野光晴(Ba)3人の演奏がスタート。1曲目は16年にライブ会場限定でリリースしたシングル「クダラナインサイド」。最初、リラックスしていたように聴こえた藤森の歌声は曲が進むにつれ、木村の前ノリのドラムと爆音で鳴る森野のベースに煽られるように、どんどん熱を帯び始める。
SAKANAMON
そこからノンストップで鳴らしつづける木村のドラムで繋げたのが14年リリースの3rdミニアルバム『ARIKANASHIKA』のオープニング・ナンバー「幼黄な少女」。「楽しむ元気、残ってます!?」と問いかけた藤森の声に応えるように、観客が手を打ち鳴らす。そして、森野、木村がサビでコーラスを掛け合い、勢いづいた演奏に藤森の激しいトレモロ・ピッキングがさらに熱を加えると、序盤からいきなりの熱演に観客の拍手喝采が止まらなかった。
そんな興奮を鎮めるように昨年10月にリリースした7thアルバム『HAKKOH』から淡い音像を持つ「1988」を、ステージのバックドロップに海や水をモチーフに映像を映し出しながら、視覚効果も狙ったパフォーマンスを繰り広げる。藤森はウィスパー・ボイスの歌を披露した。
SAKANAMON
「本日、『TALTOナイト』久々に行われております。やったぜ! レーベルのみんなで楽しみながら、みんなも楽しんで、よかったと思う」(藤森)
「TALTO6年目、おめでとうございます。TALTOのプロデューサーとはTALTO以前のマネージメントからのつきあい。お互いにまだ新人すぎて、MVもお金を出し合いあいながら作ろうかという(笑)。そんなところから始まって、今日、Zepp Hanedaでできたのはみんなのおかげです」(森野)
「TALTOの長男坊やらせていただいてます。いいイベントとして締めくくれるよう最後まで盛り上げたいと思います」(藤森)
その言葉どおり後半戦はタイトかつアップテンポなロック・ナンバー「ミュージックプランクトン」と、ビデオゲームを思わせる映像を流しながら演奏した爆音のロック・ナンバー「ZITABATA」を繋げ、序盤に負けない熱狂を作りあげる。
そして、SAKANAMONが昨年、結成15周年を迎えたことに加え、マカロニえんぴつの結成10周年、TALTOの設立6周年に言及すると、「まちがいなくみなさんのおかげです。そんなみなさんに感謝を込めて」(藤森)と出来の悪い自分を支えてくれる<君>に対するありがとうとごめんなさいを、胸を焦がすメロディで歌ったバラード「ふれあい」で本編を締めくくった。
SAKANAMON
もちろん、席を立つ観客は1人もいない。アンコールを求める歓声と拍手に応え、ステージに戻って来たTALTOの長男坊は5月12日(金)、新江ノ島水族館で開催する有観客ライブ『えのすいフライデーナイト♪vol.12 ~えのすい✕SAKANAMON~』に加え、長男坊らしく本日の出演バンドのライブも告知すると、「TALTOを代表して!」(藤森)と最後に1曲、「ロックバンド」を披露した。
ギターの単音リフにベースとドラムのリフが絡むアンサンブルがマスロックなんて言葉も連想させるアップテンポでソリッドな演奏に観客が拳を振る。演奏から浮かび上がるように聴こえてきた<流れる様な時代に僕等は続けて居るよ 抗おうと委ねようと其処に偽りは無い筈>という言葉が胸を打つ。それはロック・バンドの矜持を謳いながら、そこにいる全員に贈ったエールのようにも感じられたのだった。
取材・文=山口智男 写真=オフィシャル提供(撮影=酒井ダイスケ)

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