笑って泣けるファンタジー超大作 梅
棒16th showdown『曇天ガエシ』稽古
場レポート

馴染みのあるJ-POPに乗せて、ストーリーのある演劇的な世界観をセリフなしのノンバーバルで創り上げるエンターテインメント集団「梅棒」。本公演に加えて様々な作品の振り付けや演出も精力的に手がける彼らの16作目の本公演『曇天ガエシ』は、サイバーパンクと和が融合する本格的なファンタジー作品だ。
今回は、ゲストとしてw-inds.の千葉涼平や音くり寿、鳥越裕貴、YOU、後藤健流、IG、上西隆史(AIRFOOTWORKS)、泰智(KoRocK)、えりなっちをはじめ、akane、MIKU、Sota(GANMI)と、お馴染みの顔ぶれから初参加のキャストまで、多彩な分野のスペシャリストたちが集結している。
本番まで約2週間のタイミングで行われた通し稽古の様子をお届けしよう。
※ネタバレ防止のため、写真は通常稽古のものとなっています。一部キャラクターやストーリーに触れていますので、事前に情報を知りたくない方はご注意ください。
【あらすじ】
"オウゴン"の採掘により発展した国「ジパングリ」で、王の妻によるクーデターが勃発。跡継ぎだったメツ王子は物心つかないうちに王宮を追われ、行方不明に。
それから十数年…
女王の圧政に苦しむ人々の救いは、国からオウゴンを盗み出し民に分け与える義賊集団「マサゴ」だった。その中に、成長し街を飛び回るメツの姿が。
一方、武力で圧政を覆そうとするテロ組織「クニクズシ」も怪しい動きを見せていた。
ある日、メツは女王の息子であるヌューダ王子と偶然街で出会い、運命の歯車が回り出す。
果たしてこの国の行く末はいかに…
稽古場でまず目を引くのは、これまでの梅棒作品と比べても大掛かり且つ自由度の高いセット。キャスト陣の身体能力を活かした見せ場を作るためのポールやバーも設置され、アクロバットなパフォーマンスも満載だ。
セットによってステージ上がジパングリの街、女王が暮らす王宮、義賊集団のアジトなどに瞬時に変わっていき、各陣営の物語が絡み合う複雑なストーリーも様々な仕掛けによって難なく理解できる。

   撮影:飯野高拓

   撮影:飯野高拓
この日は初の衣装つき通しと言うこともあり、時折着替えや転換が間に合わないことも。だが、誰かの「ごめんなさい!」の声には次々にフォローやツッコミが入り、ドタバタしていても笑顔の絶えない、良い雰囲気の中で稽古が進んでいく。生み出される作品と同じく、稽古場も明るくポジティブな空気に満ちていた。
物語はお決まりの前説からスタート。かつては黄金の採掘で栄えていた「ジパングリ」が活気を失ってしまった理由や作中で登場する重要なアイテムについてなどが、アドリブまじりにテンポよく語られる。
   撮影:飯野高拓
   撮影:飯野高拓
梅棒の作品は全編セリフなしのノンバーバルだが、この前説や時折流れる映像でポイントを抑えられるので、あとは目の前で繰り広げられるものを素直に受け取ればOKだ。絶妙な曲のチョイスとキャスト陣の表情や動きでストーリーを追えるため、ダンスや芝居に関する知識も不要。難しいことは一切なしで楽しめるのが梅棒作品の一番の魅力だと言えるだろう。
梅棒 16th showdown『曇天ガエシ』メインビジュアル
メインビジュアルからも分かるとおり、王子様らしい服装の鶴野やスラリとした軍服を着こなす塩野、悪役然とした多和田と、梅棒ファンにはたまらないだろう衣装も必見。二面性を感じさせるビジュアルが目を引く千葉や傾奇者風の鳥越、高飛車な雰囲気の音をはじめ、その他のキャストもスチームパンク✕和の(そして一部はkawaii文化が詰まった)ケレン味たっぷりな衣装に身を包んでおり、立ち姿だけで格好良い。
激しいアクションや各陣営のキャラクターが入り乱れて繰り広げる殺陣も多くあるが、陣営ごとのカラーがあるビジュアルのおかげで分かりやすく、華やかさ満点のシーンに仕上がっている。
   撮影:飯野高拓
   撮影:飯野高拓
元王子のメツが所属する義賊集団「マサゴ」はビジュアルにもダンスにも歌舞伎的な要素が盛り込まれており、華やかで粋な雰囲気が美しい。息のあったダンスで魅せるのはもちろん、芝居においても大きな比重を占めている。メツとヌューダ王子の交流、育ての親や仲間たちとの絆など、胸を打つシーンも多くあった。
人々を苦しめる女王と臣下たちは、マサゴとは対照的に威厳に満ちた雰囲気。女王は暴君っぷりと息子を溺愛する母の二面性が描かれており、迫力がありつつ上品で愛らしさたっぷり。臣下は軍人らしく統率の取れた動きと、マサゴに翻弄されるちょっぴり間抜けでコミカルな動きのギャップが可愛らしい。
   撮影:飯野高拓
   撮影:飯野高拓
そして、武力で女王に対応しようとする「クニクズシ」の面々はインパクト抜群だ。ダンスもアクションも、チームとしてのまとまりを感じさせる王宮の面々やマサゴと違い、一人ひとりの強烈な個性が前面に押し出されている。突き抜けたキャラクターとクセの強さが、彼らに強者としての説得力を与えていた。

全体を通してキャスト一人ひとりのスキルと強みを存分に活かすダンスや殺陣、芝居がふんだんに盛り込まれているのに加え、この人といえば……な曲が登場したり、音による聞き応えたっぷりなオリジナル曲の生歌唱があったりと、見どころが随所にある。さらに今作では梅棒が得意とするコメディ要素に加えて家族愛や友情、それぞれの矜持といったものも重みを持って描かれており、シリアスな見せ場も多い骨太な物語になっていると感じた。
   撮影:飯野高拓
   撮影:飯野高拓
   撮影:飯野高拓

本公演や各自の活動を通して表現の幅を広げ、新たなチャレンジを続ける梅棒。彼らが生み出す本格的なファンタジーを、ぜひ劇場で体験してほしい。本作は3月10日(金)、なかのZERO大ホールにて開幕。新国立劇場 中劇場でも公演を行ったあと、大阪、愛知でも上演される。
取材・文=吉田沙奈

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