「だんだん闘争心が芽生えてきた」~
久保田紗友×上田 誠『たぶんこれ銀
河鉄道の夜』インタビュー

ヨーロッパ企画とニッポン放送がタッグを組んだエンタメ舞台シリーズ第3弾『たぶんこれ銀河鉄道の夜』が、2023年3月17日(金)に紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで開幕する。
本作は、宮沢賢治による不朽の名作『銀河鉄道の夜』を、SFコメディの名手・上田 誠(ヨーロッパ企画)が令和版として大胆に再構築。ポエトリーラップなどを盛り込んだ音楽劇としてリメイクされる。
事前資料やすでに公開されたインタビューを読むと「銀河鉄道の乗車客がデスゲームに参戦」とあり、その一文だけでも期待が高まるが、あの深淵で難解な原作も上田の手にかかればポップに生まれ変わること間違いなし。
今回、脚本・演出に加え劇中歌の作曲も手がける上田 誠、本作が舞台初主演となる久保田紗友にインタビュー。原作への思い、群像コメディを演じるポイント、稽古場の様子などをうかがううちに、「Breaking Down」「ワナビー」などおおよそ銀河鉄道らしからぬ単語も飛び出して……!?
たぶんこれ宮沢賢治の言いたかったこと
ーー今回の作品は、銀河鉄道✕デスゲーム✕音楽劇と要素が盛りだくさんです。まずは『銀河鉄道の夜』をテーマに選んだきっかけをお聞かせください。
上田:ニッポン放送さんとの企画ではいつも名作のリメイクに挑戦していて、『続・時をかける少女』(2018年)、『たけしの挑戦状ビヨンド』(2020年、公演は中止)と来て、次はどうしようかという時に、僕のほうから『銀河鉄道の夜』を提案しました。
まず音楽劇を作りたい気持ちがあって、『銀河鉄道の夜』に出てくる宮沢賢治さんのパワーワードを音楽に乗せたらいいんじゃないかと思ったのがきっかけです。
ーー上田さんにとって『銀河鉄道の夜』はどんな作品ですか?
上田:家にお仏壇がある、みたいな心持ちになる作品ですね。日々いい加減に生きていても、家にお仏壇があると背筋が伸びる、みたいなことってあるじゃないですか。それと似た感じで、『銀河鉄道の夜』の表紙を見ると背筋が伸びる、みたいな。
「常にその世界に浸っていたい」というような作品ではないかもしれないけど、崇高さを秘めた特別な小説だと思ってます。
ーー久保田さんは『銀河鉄道の夜』にどんな印象を持っていましたか?
久保田:正直なところ、とてもむずかしい作品という印象がありました。だけど今作に出演が決まり、『銀河鉄道の夜』にこんなに深く向き合うことができているので、とてもいい機会をいただきました。
久保田紗友
ーー今回上田さんはこの原作をSFコメディかつ音楽劇にリメイクされていますが、台本を読んだご感想は?
久保田:上田さんの解釈でわかりやすく表現された台本だったので、原作ではわからなかった部分の理解がかなり深まりましたね。
上田:なるほど。それはよかった!
久保田:宮沢賢治さんの思想や死生観、現実に対する切実な思い、当時の社会問題などが込められている作品だとわかりました。
原作は説明が少なくて理解しにくい箇所も多いけど、そこを上田さんがおもしろく突っ込んでくれているのが本当にすごいなって(笑)。
上田:そう、原作はけっこうクチャクチャなんですよ。
久保田:クチャクチャ?
上田:そもそも未完の作品ですし、何度も推敲しながら試行錯誤して書いたんだろうなと思うんです。形容詞がめちゃくちゃ多いし、句読点は少ない。だからやっぱり、わかりにくいんですよ。
いろんな研究者の方が宮沢賢治の人生を紐解いて、そこと結びつけながら『銀河鉄道の夜』を解釈した資料がたくさんあって、そういうものを読むと理解できる部分もあるんです。
と同時に、僕は研究者ではなくて作家なので、僭越ながらも宮沢賢治さんと同じ作家としての目線で解釈できることもあるんじゃないかと思って。
すでに賢治さんの亡くなった年齢を越えている僕が改めて読んでみると……こんなこと言うのもあれだけど、ちゃんと書けているところと、まだ書ききれていないところがあるんです。きっとこの箇所は一旦書いてみてあとで調整しようと思ってたんじゃないかなとか想像して。いや、もしかしたら思い違いかもしれないけど(笑)。
でもね、宮沢賢治さんは決して説明が上手な人ではなかったと思うんです。そこを解説してみたり、わかりやすくほぐしたりする作業をしていますね。
上田 誠
ーー「賢治さん、ここってたぶんこういうことが言いたかったんですよね?」と補足しながら台本を起こしていると。
上田:『たぶんこれ銀河鉄道の夜』ってタイトルは、その意味でもあって。
久保田:そういうことなんですね!
上田:そうやって原作をほぐしていきながら、今は日々稽古場でエチュードをして、さらに大胆にアレンジしているところです。
ーーちなみに、『銀河鉄道の夜』を読んでいない方でも楽しめますか?
上田:もちろん読んでいない方も楽しめるように、劇中で作品説明のフォローも入れます。だけど、もし可能なら事前に原作を読んでもらえるとより楽しめるかもしれないです。青空文庫で無料でも読めるので。『銀河鉄道の夜』に向き合うのは、やっぱりいいことですよ。
久保田:私のようにむずかしくて敬遠してる方もいるかなと思うけど、読んで理解できなかった部分は上田さんがわかりやすく説明してくれているので、安心して観に来ていただけたら!
「Breaking Down」が好き
ーー久保田さんは、稽古でエチュードに参加してみていかがですか?
久保田:みなさんおもしろすぎて、自分が観客になっちゃう瞬間がありますね。
ーー「コメディに苦手意識がある」と他のインタビューでこぼされていましたが。
久保田:稽古を重ねるうちに苦手意識はなくなってきました。むしろ「私もみんなみたいにいっぱいやってやりたい!」って闘争心もだんだん芽生えてきました(笑)。
上田:あの中にいると闘争心が芽生えますよね。
久保田:そうなんです。だけどナオ役は原作のジョバンニにあたる存在なので、あまりにもワイワイしすぎると違うのかなと思って、今はまだ少し控えてます。
上田:今回みたいな群像コメディって、おもしろいことを言うのももちろん大事なんですが、その状況に丸ごと飛び込んでアホになることも大事なんです。
銀河鉄道に乗ることになってめちゃくちゃ喜んでみたり、車掌が登場して「デスゲームを始めます」って言われてブーブー垂れながらもバトルモードになったり。そういう状況に飛び込むことですよね。だから闘争心が芽生えているのは、いいですよ。
久保田:はい、「ガツガツしゃべりたい!」みたいな気分になってます。
上田:めいめいが頑張って原作を読んで準備して、いざ稽古場に来たらなぜかデスゲームをさせられるっていう中ではそうなっていきますよね。
(左から)久保田紗友、上田 誠
ーーギャップが激しいですよね。
上田:演劇✕『銀河鉄道の夜』って危険なんですよ。そもそも演劇の稽古場ってまじめな空気が支配することが多いんです。さらに題材がとてもまじめな作品だから、2つが合わさるともう。だからできるだけその重力圏から離れるのが大事かも、と思ってます。
久保田:そういえば上田さんが稽古の中で「Breaking Down」(「1分間最強を決める。」がコンセプトの格闘技イベント)を始めて(笑)。
ーー『銀河鉄道の夜』からかけ離れていますね(笑)。
上田:稽古前の顔合わせで、久保田さんが「Breaking Down」が好きとおっしゃっていたので、その後見てみたらすごくおもしろくて。特にオーディションの場面がおもしろかったんでエチュードでやってみたら、みんなけっこう見てることがわかって。
久保田:ナオとして「Breaking Down」に参加するのはむずかしいかもしれないけど、ぜひ本番にも残してほしいです!
ミュージカルをやりたい奴らがミュージカルっぽくしてる劇
ーー今回は音楽劇なので歌やポエトリーラップもたくさん盛り込まれています。歌の練習も順調ですか?
久保田:一曲一曲先生に教わりながら練習しているところです。でも、ただ歌うんじゃなくナオとして歌うので、そこをどう表現するのか模索している最中ですね。
上田:久保田さんの歌、素敵ですよ。これからいろんなプロセスを経れば、ナオとして歌うことがだんだん腑に落ちてくると思います。
ーー上田さんが劇中音楽の作曲も担当されていますが、作・演出に加えて作曲の作業があるのは大変ではないですか?
上田:僕、中学高校の時は音楽を作る人になりたかったんです。
久保田:へーっ!
上田:学生の頃にパソコンでゲームとか音楽を作ってたのがものづくりの原点なんです。だけど、高校の時に頼まれてクラスの劇を書いてみたらめちゃくちゃ盛り上がったし、自分でもうまく書けた感触があって。それで、そのまま劇作家になってしまった感じで。
久保田:そうだったんですか!
久保田紗友
上田:一昨年劇団に入った藤谷理子さんが歌える人なので、それで最近またちょこちょこと音楽も作るようになって。ミュージシャンとして単体でリリースする音楽は作れないけど、劇中音楽なら作れるみたいです。
それで今、久保田さんにはいろんなパターンの曲をお渡しして、どんなものがハマるか試してもらってるところですね。好きな曲とか、逆にむずかしい曲ってありましたか?
久保田:最初はしっとりしたバラードの方がうまく歌えるかなと思っていたんです。でも、中森明菜さんっぽい力強い曲も意外と歌えるかもって。
上田:いざ歌ってみないと、自分に合ってる曲ってわからないですよね。でも、何でも前向きに挑戦される姿が頼もしいです。助かります。
ーーところで、歌のパートは多いけど、ミュージカルではなくて音楽劇なんですよね。
上田:えっと、ミュージカルをやりたい奴らがミュージカルっぽくしてる劇、ですね。
久保田:(笑)!
上田:ワナビー。ミュージカルワナビーです。でも、それがいいんですよ。
音楽の専門教育を受けた人たちだけが、日本の音楽を引っ張っているわけではないですよね。独学でバンドを始めた兄ちゃんたちの音楽が盛り上がることもあれば、家のデスクトップで作った音楽がネットをにぎわすこともある。結婚式の余興で新郎新婦の友だちが披露した自作の曲がやけに感動的だったり、カラオケで友だちが歌った歌になぜか心が動かされたり。かと言ってそれをCDにして売り出すのはちがう、っていう。
だから、劇に登場する歌も多様性があっていいのかなと思ってます。うまく歌うだけがすべてではないので。一旦うまく歌えるように訓練はするけど、「この人は歌下手なキャラクターだな」と思ったら歌を崩すだろうし。
上田 誠
ーー多様な歌表現、楽しみです。舞台美術についてもうかがえますか?
上田:今回は、鉄道に乗ったあとの銀河の風景をいかに具体的に作るかが勝負かなと思ってます。銀河鉄道を映画や演劇で表現しようとすると抽象的に描かれることも多いけど、ここは具象でしょう、と。原作には電車の中のしつらえも丁寧に描かれているので、せっかくならできるだけ忠実に再現したいですね。
ーーどんな銀河鉄道が出現するのか期待が高まります。最後の質問になりますが、今回の作品のコピーに「やりきれない夜のための、SF音楽コメディ」とありました。おふたりはやりきれない夜をどう過ごしますか?
久保田:やりきれない夜は、泣きますね。犬を飼っていて、落ち込んでる時は察してそばに来てくれるんです。犬に顔を埋めて泣くとスッキリします。
ーーなんとやさしいワンちゃんでしょう。上田さんはいかがですか?
上田:僕は割と、お客さんが作品の感想を書いてくれたブログとか、賞をいただいた時の劇評を読みますね。エネルギーが湧いてくるんですよ。どうにもならない夜は、そういうものを読んで奮起してます。
ーー観た作品の感想を書くこと、大事ですね。
上田:めちゃめちゃ大事ですよ。
久保田:感想知りたいですよね。良くても悪くても、とにかくどう思ったのか知りたいです。
上田:作り手も出演者も、読んで力にしてる人は多いと思いますよ。今回も観に来てくださった方には、感想を書いてもらえたらうれしいですね。
(左から)上田 誠、久保田紗友

■久保田紗友 衣裳クレジット
ANOGH
COEL
MANA/CONCORDIA
<問い合わせ先>
ANOGH
渋谷区千駄ヶ谷3-23-8 B1階
03-5785-1118
COEL
(株)DMI
渋谷区南青山5-4-27バルビゾン104 6階
03-6824-9048
MANA
株式会社CONCORDIA
台東区蔵前4-20-10 SCOP21 7階
03-5829-6611

取材・文=碇 雪恵       撮影=中田智章

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