MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』銀
杏BOYZ・峯田和伸と考える、表現の本
懐ーー「自分の生み出した物が誰かを
傷つけているかもしれない」【後編】

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第三十四回目のゲストは、前回に引き続き銀杏BOYZ峯田和伸。表現は時として誰かの支えになったり、感動の涙を誘ったりする一方で、誰かを傷つけることだってある。峯田は言う「自分の生み出した物が誰かを傷つけてる。その可能性の方が大きいかもしれない」と。じゃあ、なぜ2人は表現を続けるのか? そもそも歌うとは何なのか? ボーカリストであり、ソングライターでもある2人が表現の本懐について話し合う。
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
思い出す記憶が溜まってるから、ちょっと街を出るかみたい感じで浅草に来た
(対談を実施した日、関東では大雪警報が発表された)
峯田和伸(以下、峯田)::どうせなら、もっと雪が降ってほしかったですね。
アフロ:地元で見た時はありがたみがなかったのに、どうして東京で雪を見るといい気持ちになるんですかね。
峯田:いいよね! それはわかるな。
アフロ:前に大雪が降った日、東京の人の雪かきの下手さに笑ったんだよな。
峯田:笑った笑った。雪が降った時に自転車で30分かけて高校に通学していたと言ったら、みんなから嘘だって言われたけど行けちゃうよね。
アフロ:普通に行けました。
峯田:全然行けるよね。スキーとかスノーボードはやってました?
アフロ:スキーは転ばずに上から降りてこれるぐらいですね。峯田さんは?
峯田:昔はすっごい好きだったけどな。でもスキーは30年やっていなくて、きっと下手になってるだろうな。
アフロ:仕事に支障をきたすとかで、今は怪我のリスクを考えちゃいますか?
峯田:それはないかな。でも、あんまり家から出ようとしない。
銀杏BOYZ 峯田和伸、MOROHAアフロ
アフロ:家にいる時は何をしてます?
峯田:映画ばっかり観てますね。あとは落語を聞いてます。
アフロ:今泉(力哉)監督の『街の上で』は観ました?
峯田:あ、観てないな。
アフロ:下北沢が舞台の映画なんですよ。今は少し離れた浅草に住んで、高円寺とか下北沢をどんなふうに見てますか?
峯田:高円寺駅前にあった噴水広場はなくなっちゃったけど、あの辺はいまだににグッとくるね。20代、30代の時の友達だったり、付き合った人だったり、下北に行くとその人たちが歩いてるのが見えて、それがねキツいんです。もう俺は井の頭線に乗れないんですよ。アフロさんもね、これから乗れない電車とか増えてきますよ。
アフロ:俺は今の彼女と付き合うようになって「一緒に、高円寺に住もうか」と言ったら、彼女が「もう長く住んでるでしょ。それに元カノとの思い出もあるでしょ? だからここには住まない」と言われて。
峯田:それで浅草に来たんですか?
アフロ:その前に三軒茶屋へ行きましたね。三茶に4年住んで浅草に来ました。
峯田:僕も三茶にいたんですよ。東京に来て最初は梅ヶ丘で、そこから若林に3年いて、そこから中野に15年。
アフロ:中野に15年はすごいですね。
峯田:震災の時はどうだっけな? やっぱり中野にいたかな。
アフロ:俺、震災時は大和町にいましたね。
峯田:大和町もキツくて行けないんですよ。最初に付き合った佳代ちゃんが大和町だったから、いまだに歩くのは怖いですね。
アフロ:ゴイステ(GOING STEADY)の曲に出てくる、あの佳代ですか!? それこそ当時の彼女とアイスを買いに純情商店街に行った時、大和町に住んでいたんですよ。もっと詳しくいうとマルエツの裏。
峯田:え、あの辺!?
アフロ:そこから自転車に乗って。
峯田:同じですよ、俺も自転車で二人で。あーキツイわ。
アフロ:そうなんだ。昔の思い出は月日と共に少しずつ溶けて、柔らかくなって土に帰っていくんじゃないですか?
峯田:どうだろうね。中野もね……辞めちゃったメンバーのことを思い出しちゃうし、あまりにもあの街にいたので。思い出す記憶が溜まってるから、ちょっと街を出るかみたい感じで浅草に来たんだろうね。
自分のバンドのライブよりキツい経験はなかったな
銀杏BOYZ 峯田和伸
アフロ:中野を出る時は切なかったですか。
峯田:うん、まるっきり逆のところに来ちゃったからね。映画館に行くのも昔は新宿だったけど、今は有楽町だし生活圏内がだいぶ変わりました。 
アフロ:下北は今も好きですか?
峯田:ちょっと外から見るようなったけど、やっぱり好きですね。あの街の雰囲気って、何かやりたいけど、どうすればいいか分からなくて酒飲むしかない、レコードを買うしかない、服を買うしかないみたいな人がブワーっていてさ。あの感じはなんかいいよね。
アフロ:いいですよね。俺も千葉じゃなく19、20の時に下北に住みたかったな。でも、その時に東京に住んでいたら、俺はラップをやっていなかったと思うんですよね。
峯田:そうかもね。俺も千葉に4年間いなかったら音楽をやってないかも。バンドメンバーとも知り合ってないしね。
アフロ:どこで点と点が繋がるかわからないものですよね。
峯田:それこそ銀杏BOYZを始めたのは、映画『アイデン&ティティ』に出てからですからね。ゴイステが解散してすぐ撮影に入って、当時26歳ですけど、映画に出られたからもう一度バンドを頑張れたのがあった。だからね、思わぬところで跳ね返ってきますよ。
アフロ:お芝居をされる上で、スイッチの切り替えってあるんですか?
峯田:あんまりないかな。
アフロ:それは役者じゃなくて、ミュージシャン・峯田和伸という人間が現場に入ることで違和感が生まれたりとか、プロじゃないからこその青臭さみたいなのが作品に必要だから呼ばれてるんだ。だから、ここでプロフェッショナルさが求められてない、という開き直りがどこかにあるんですかね?
峯田:そうですね。『アイデン&ティティ』の撮影前、リハーサルを2週間やったんですけど、すごくもがいてて。「こんなんじゃ全然ダメだ」と思っていたら、監督の田口トモロヲさんが「峯田くんは歌手なんだから、役者にならなくていいですからね」と言ってくれて。そこから、うまくやろうと思わないようにしようと。それが功を奏したというか、結果的によかったのかなと思ってますね。今でもたまにお芝居の仕事が入ると、役者にならないようにしようと心がけてます。この感じで行けたら一番いいなと思うし、それを求めてるから誘ったんだろうなって。こっちがうまくやったとしても、向こうはそんなの求めてないんじゃないかな、と思っちゃうよね。
アフロ:そっか、自分を懸命に出せばいいんですね。
MOROHA アフロ
峯田:もしアフロさんも芝居をやるなら、このままでいいんじゃないかな。何よりアフロさんは何やってもアフロさんになると思う。CMでナレーションをやっても、他の誰でもないアフロさんの声なんで。むしろ声だけじゃなくて、何でもそのままでいけるような気がする。分かると思いますけど、ライブが一番キツいじゃないですか? あれよりキツいことは多分ないと思いません? 演劇で2ヶ月間、毎日本番をやりましたけど、自分のバンドのライブよりキツい経験はなかったな。ライブの大変さを味わってるということは、多分何やってもいけるんじゃないかなと、変な度胸がついてますね。しかもMOROHAはギタリストと2人だけでステージに立ってさ、何もないところで、ゼロから音を出す事を何年もやってる。ということは、何やっても大丈夫じゃないかと思いますけどね。何人もの聴衆が腕を組んで「さあ、何を見せてくれるんだ」という、それがどれほどキツいか。しかも何年も続けてるわけだから。ちなみにライブの前日って何やってます?
アフロ:イメージトレーニングをしすぎちゃいけないから、なるべく空っぽで挑まなきゃいけないと思ってますね。それこそライブが終わった後はどうされていますか?
峯田:基本はラーメンを食ってさっさと帰りますね。
アフロ:反省しないようにしてます?
峯田:反省というかね「あの時こうすればよかったな」とか「ちゃんと歌えていたかな」みたいなことばっかりですよ。結局一番当てになるのはスタッフの声で。ずっと俺を見てるマネージャーに「今日はよかったですね」と言われると「じゃあ、そう思っていいのかな。この人が言うんだったらいいか」みたいな。自分の中だけで考えても一週間寝れなくなっちゃうから、マネージャーの声を聞けばそれでいいやって。
アフロ:峯田さんの中でいいライブってなんですか。
峯田:オカルトなんですけど、俺とお客さんの間の空気がグワ~っと動くんですよ。そうなっていたらOK。逆に、一番キツいのは何も動かない時。そうなったら自分に醒めちゃうんだよね。客観的になって、すごい醒めた目で自分のことを後ろから見てるの。そうすると疲れるよね。
アフロ:夢中の状態は、寝てる時の状況に近いですよね。
峯田:近いかもね。自我がないというか。
アフロ:もはや「現象」になってるというか、俺も極々稀に歌ってる人じゃなくて歌になってる状態がやってくるんですよ。うまく歌おうとか作為的なものが抜け落ちると「現象」になれるんです。で、その境地にたどり着くためにこそ曲を書くんですけど、曲作りはとことん作為的なものなので真逆ですよね。準備と本番が逆。それを突き詰めてライブで空になれる。空という言い方もちょっと違うんですけど。
峯田:なんか分かります。本当に無我夢中になってるということですよね。あの感じはいいんだよな。作り出そうと思って作り出せるわけじゃないしね。何回かに1回ありますよね。
自分の生み出した物が誰かを傷つけてる。その可能性の方が大きいかもしれない
銀杏BOYZ 峯田和伸
アフロ:ライブ中、あの子が来てんじゃねえかと思うことはあります?
峯田:聞かないようにしてる。スタッフに「「今日あの人来てますよ」とか言わないでください」って。
アフロ:時折思うんですよ。すごい前に作った曲とか、当時その子に向かって作った曲を歌ってる時に「あれ? 今日来てる気がするな」と。
峯田:気配を感じるの?
アフロ:願いなのかもしれないですね。
峯田:実際に来てた時はあるんですか?
アフロ:それはないんですよ。とはいえ、確かめる術がないんですけどね。
峯田:さっきの話じゃないけど、生まれて初めてできた彼女と別れて、その思い出を書いた「佳代」という曲があって。2000年ぐらいにその曲をライブでやったんですよ。そしたらライブで歌ってると噂を聞きつけた、佳代の姉ちゃんから電話がかかってきて。「あなたは曲を作って気持ちよく歌ってるかもしれないけど、佳代の気持ちを考えたことあります?」と言われて「ごめんなさい、もう歌いません」と。怒られたのを機に、一度も歌ってなかったの。それから時が経って2016年に初めて中野サンプラザでワンマンをやる時、メンバーとなんの曲をやろうか話していたら「昔の曲どう? 「佳代」をやってみようか」となって、思い切ってやったんですよ。ああ、久しぶりに歌っちゃったなと思って。当時はまだコロナじゃなかったから、終演後に関係者挨拶があってさ。集まってくれた知り合いや仕事関係の人と中野サンプラザのロビーでひとりひとりに挨拶をしていたら、入り口のところに佳代がいて。20年ぶりに会ったんですよ。俺の友達が仕事上の知り合いで連れてきたらしくて「さっき歌っちゃってごめんなさい!」って。
アフロ:すごい話だなぁ! 相手は喜んでたんですか?
峯田:喜んでたのかな? あれ、どうなんだろう?
アフロ:またお姉ちゃんから電話かかってきますよ(笑)。
峯田:本当に! もう、なんであんな時にいるんだよ! 
アフロ:いやぁ、お姉さんの話は本当そうで。こっちは「幸せになれ」みたいな曲を作るじゃないですか。でも本当に思っているんだったら、お前が歌うなよと自分でも思うんですよね。
峯田:勝手に思い出を美化しちゃうから。
銀杏BOYZ 峯田和伸
アフロ:歌なんか作らないでそっとしとけよ!という話で。彼氏といるところに、もしかしたら俺の曲が流れて「あ、元カレの歌だ。しかも私のことを歌ってる曲が流れてる」って気まずく思うかもしれないし。
峯田:そう! 自分の生み出した物が誰かを傷つけてる。その可能性の方が大きいかもしれないよ。自分の曲が人を救う場合もあるかもしれないけど、傷ついてる人の方が多いかもしれない。でも、それが怖いから「何も歌えないです」じゃなくて、傷つけてる自覚を持って作るしかないのかもね。だって、何も歌えなくなっちゃうもん。「99人が悲しんでも1人の命を」と考えたらいいのかも。
アフロ:そしてそれをやりたいんだもんね、俺らがね。
峯田:そうだよ。そういう意味では、自分本位でいいのかもしれない。
アフロ:やっぱり「自分がこれをやりたい」が最終的な着地ですよね。
峯田:そうじゃない? 
アフロ:しかし、姉ちゃんが電話してくる感じはめちゃめちゃいいな。
峯田:本当に切実ですよ。「あなたは勝手に思い出を美化して歌って、それで消化されてるかもしれないけど、残された佳代の気持ち考えてよ」と言われたもん。人ってそういうことだなと。となるとさ「パーソナルな歌」とか「聴く人に刺さる歌詞」とか、聞こえはいいし、観念よりも具体の方が聴いてる人の心には迫るかもしれないけど、危険を孕んでいるよね。
アフロ:身を削って書くというのは、きっと自分だけじゃなくて、自分の身の中にある誰かのことも一緒に削って書いてるということですもんね。まさに俺、最近家族の曲を作ったんですよ。俺は、今まで家族の曲はいいことばっかりを書いてたんです。でも、良いところも悪いところも両方あるじゃないですか。黒い部分を全然書いてこなかったので、ちゃんと向き合うために黒を書こうと。それで出来上がった曲を姉ちゃんに聴かせたら「こんなもん家族の恥だから出すな」と言われて。で、曲の中にじいちゃんだけじゃなくて、親父と母ちゃんも出てくるので両親にも聴かせたら、一番じいちゃんに近かった親父が「悪いところも書いてるけど、奥底にちゃんとお前も傷ついてるし、じいちゃんに対しての愛情も感じる。これはいい曲だから出した方がいい」と言ってくれて。
峯田:いい父ちゃんだなぁ!
アフロ:じいちゃんが酒を飲んで暴れてる時に、親父は麻雀行ったりパチンコ行ったりして家から逃げ出したんですよ。そういうところも曲にちゃんと書いてて。……これは俺の思い上がりかもしれないですけど、親父的には俺が歌にして自分の息子の表現の糧になったということで、親父自身がどこか救われていたら良いなと思うんです。
顔を出して、その人の生きてきた人生も公になった状態で発せられる言葉は、演芸になり得る
MOROHA アフロ
峯田:小説でもいろんなジャンルがあるけど、自分の子供時代から、家族のことも根こそぎ書いちゃう「私小説」というジャンルがありますよね。文字にすることで家族から勘当されて、周囲の人にも絶縁されたりもするけど、「それでも書かなきゃいけないんだ」という人がいてさ。一方で、みんな傷ついて苦しそうなんだ。中には親が自殺したことも詳細に書いちゃう人もいるからね。きっと「これが俺の表現なんだ」という覚悟なのかもね。 
アフロ:俺の場合は、自分の書いたその1曲で判断されることも、当然受け入れなきゃいけないですけど、ライブ1本を通して観てもらったら、この曲が俺の中の一部であることが伝えられる。それがライブの良いところだなと思うんです。俺の本当の気持ちはこの90分のステージで判断してほしい、なんてことを贅沢に思ってしまいますね。
峯田:極論を言えば、ステージに上がった人が音楽の力を借りて言葉を発した時点で、何を言っても良いと思ってるんですよ。例えば、日常の中でこれを言ったら駄目だとか、それはモラルに反すると言われるようなこととか、そういう言葉でさえも壇上に上がってマイクを持って発することで演芸になると思う。言っちゃいけない言葉はあるかもしれないけど、歌っちゃいけないことは絶対にないと思うんです。最近はスシローの問題が騒がれているじゃないですか。やらかしちゃった人を擁護すると叩かれる風潮があるけど、いろいろやらかした高校生を「お前なんか極刑だ」というのはやっぱり厳しい言葉で。だけど、それをマイクをもって歌うことによって、二重の意味も含まれて、それが新しい意味を持つメッセージになるかもしれない。壇上であれば「あの高校生は悪くない」と言っちゃいけない、なんてことはないと思うんですよ。その力を音楽は持ってるような気がする。
逃げても逃げきれないものだったり、親とのいろんなしがらみだったり、これを言ったらあの人が殺されるかもしれないとか、あの女の人とひどい別れ方をしたけど、詳細まで言ってしまったら何かやられるかもしれない。だけど、それを壇上でメロディを通して発表することによって報われるというか。体験した人の思いも曲に込めれば、裏側の景色も見る人は見てくれるし、そういうのも含めて演芸になるんじゃないかなと思うんですね。まだ形にはできないんですけど、俺もお母さんの歌を書きたくて。これを歌にしたら、お母さんは結構キツいだろうと思うけど、歌詞にしないと、そのお母さんの曲は成り立たないんで。あと、俺と同じような境遇というか、思いを持った人がその曲を聴くことによって「なんか私と一緒だ」とか思ってくるかもしれない。
MOROHA アフロ
アフロ:引き受けるという覚悟を持った人間がちゃんと顔を出して、発するならそれはアカペラでもいいと思いますよね。その覚悟の裏にみんなが深く考える余地が生まれるというか。ネットニュースの言葉だと、どうしても平面的で、フォントも一緒だし筆圧もないから、何かを考える隙が生まれない。やっぱり顔を出して、その人の生きてきた人生も公になった状態で発せられる言葉は、演芸になり得る。ちゃんと矢面に立って物を言うっていうことが、演芸の第一歩ですよね。
峯田:そうですね、そう思います。
アフロ:よくSNSでエゴサーチをするんですけど、詩人がいっぱいいるんですよ。俺よりも多くの言葉を知っていて、上手い言い回しで自分の気持ちを吐露してる人がたくさんいる。SNSやYouTubeのコメント欄もそう。でも、今話した演芸にはなりえないのは、顔を出して「自分の人生はこうですよ」と表に立って、それを発表するっていうことができるかできないか。それだけの差でしかないような気がしてて。そういう意味で峯田さんが言った「言っちゃいけないことでも、その場で声を発して、それを引き受けるところに立っていれば、それが演芸だ」という。最近、俺がすごく思っていることにリンクします。
峯田:やっぱりフォントが一緒だとね、どういう内容であれ「ん?」となっちゃうよね。自分の顔を出して、自分の声で、自分の歌い方で歌ってほしいなと思う。そういう人は何を歌ってもすごいし、どんな内容であれ面白い。どういう形であれ、やってほしいと思うんだよね。
麻生さんとは、切っても切れない運命の糸みたいなものがあった
銀杏BOYZ 峯田和伸
アフロ:思い出したんですけど、『アイデン&ティティ』でヒロイン(麻生久美子)が主人公の中島(峯田)にシャンプーを買ってあげるシーンがあるじゃないですか。あれも純情商店街ですね。
峯田:そうですよ。あそこが撮影最終日のラストカットだった。
アフロ:俺はあのシーンの麻生さんが大好きで。前に飲み会で「どんな女の子がタイプか」という話になったんですよ。俺が『アイデン&ティティ』の話をしたら、そこにいた女の子に「私、あのシーンの麻生久美子を好きだっていう男とは絶対に付き合いたくない」と言われたことがあって。あれは男が求めている女性像だったと、時間が経ってから分かりましたね。
峯田:麻生さんなぁ……。俺ね麻生さんとは、切っても切れない運命の糸みたいなものがあったんですよ。
アフロ:どういうことですか?
峯田:大学時代は千葉にいたと言ったでしょ? 当時はお金がなかったので、近くのバッティングセンターによく行ってたの。そこのバッティングセンターは端っこにストラックアウトのコーナーがあるんだ。そこでパーフェクトを出すと、隣の焼肉屋さんのタダ券をもらえたの。俺、中高時代に野球部だったから何度もパーフェクトを出していて、周りからも「峯田はすごい」となって、知り合いに連れて行かれるたびに、毎回パーフェクトを出して。それでタダ券をもらって隣の焼肉屋で食いまくってたのね。そしたらさ、パートのおばちゃんが「あんた、今日もすごいね!」と声をかけてくれて、その人とすごい仲良くなるんだ。で、大学卒業して4年後ぐらいに俺が『アイデン&ティティ』に出るわけ。それで麻生さんと共演して仲良くなって、撮影が終わってしばらくしてから「これ、最近私が出た映画なんだけど観て」とDVDをもらって。「私の実家とお母さんが映ってるから」と言われて観たら「このおばさん……どこかで見たことあるな。あ! あの人だ!」みたいな。それで電話して「麻生さんのお母さん、バッティングセンターの隣の焼肉屋でパートやってないですか?」「なんで分かるの!?」って。
MOROHA アフロ
アフロ:めちゃめちゃすごい話っすね! お母さんも峯田さんの出た映画を観て、気づいていたかもしれないですね。
峯田:そうなんだよ。「このアフロの子……あれ? 毎回タダ券持ってきたあいつだ!」みたいな(笑)。やっぱり覚えていたみたい。
アフロ:そこで食べた焼肉が血となり肉となって。
峯田:そうだよ。麻生さんのお母さんのおかげだよ。
アフロ:俺は松岡茉優さんも好きで、又吉(直樹)さんの書いた『劇場』の映画も良かったな。
峯田:学生時代に好きだった人いますか?
アフロ:安田美沙子さんです。
峯田:おーそうなんだ!
アフロ:純情商店街でアイスを買いに行った女の子は、安田美沙子さんに似てたんです。周りは全然違うと言ってましたけどね。
峯田:いいっすね。
アフロ:でも、峯田さんはお仕事でそういう人に会うわけじゃないですか?
峯田:いや、会わないですよ。
アフロ:俺の中では日本一女優さんと会ってるバンドマンだと思いますよ。石原さとみさんもそうだし、長澤まさみさんだって会ったでしょ?
峯田:そう考えたら会ってる方か。ただ、何も繋がりはないですよ。連絡先も交換しないし、何もない。そもそも現場で喋らないもん。いつも一人で喫煙所へ行ってタバコ吸ってるし、自分をアピールしようとか全くないので。もはやエキストラみたいなもんですよ。隅から見て、あの子可愛いなと思ってるだけ。というか芸能人と付き合いたいとか全くないですね。やっぱ緊張しちゃって無理だもん。
歌いたい言葉はあるんだよ、だけど基本的には人前には立ちたくない
MOROHA アフロ、銀杏BOYZ 峯田和伸
アフロ:例えば、アイドルと付き合うのはどんな感じなんでしょうね。
峯田:すごいよね。だってさ、SNSでファンの人に「今日はこんな食べました」と投稿したら、それに対してリアクションもくるわけじゃん。そういうのを意識して付き合うのすごくないですか?
アフロ:アイドルのライブを観ても、一生懸命好きにならないようにしますね。
峯田:そうだよね、苦しいもんね。
アフロ:だからこそアイドルのファンはすごいなと思う。わないと言ったら夢がないですけど、前提としては叶わない片思いをずっとしてるわけじゃないです。いや、そういうことじゃないのかな?
峯田:ファンの人も、どこかで恋愛要素は入ってるでしょうね。応援する気持ちから、恋愛として好きな思いを抱いてる人もいっぱいいると思うし。
アフロ:それは切ないじゃないですか。
峯田:分かった上で、それも踏まえて行くしかないんですよ。止められないですよ、自分の気持ちは。
アフロ:だからこそ、ライブとかでアイドルを本気で推してるお客の姿を見て感動するんですかね。
峯田:そうだと思う。あの目の輝きは、やっぱり音楽ファンと違うもん。音楽ファンの目はみんな淀んでるでしょ?(笑)。
アフロ:そんなことはないわ!
峯田:どろーんとしてますよ! あんなのに比べたらアイドルファンの人は、目がキラキラでね。
アフロ:そうなのかもな。この前、峯岸みなみさんの卒業公演を観に行ったんですよ。その時のお客さんの目がすごかった。あの子は坊主の時期もあったりとか、いろいろあったじゃないですか。過去の振り返り映像とかが、ビジョンに流れるんですよ。もちろん坊主の場面はないですけど、その辺の頃の映像に差し掛かった時に、隣にいた客の目がクッとなったんです。で、今の峯岸みなみさんがキラキラの衣装でステージに現れたら、すごい泣いていて。全ての想いを見届けて今日ここにいる、というお客を横で見て、たまらない気持ちになりました。
峯田:お客さんの方がアイドルだよ。もはや日本の重要文化財だと思うな。
アフロ:そういうのを峯田さんは、自分の映像に残そうとしますよね。
峯田:お客さんの方が見たいよね。
アフロ:銀杏のMVもそうですよね?
峯田:そうそう、俺が映らなくていい。
アフロ:銀杏BOYZのいろんな映像を観て思うのが、MVに関してはBGMになろうとしてません?
峯田:うん。曲を聴かせたくないと言ったら大袈裟だけど、まさにBGMだね。
アフロ:映像に出てくる人たち全員が曲よりも前にいる感じがして。それを峯田さんも受け入れて作ってるように思えるし、それこそが銀杏のMVの特色な気がするんですよ。
峯田:ジャケットにしてもそうだけど、MVもあんまり自分が映りたくないんですよね。やっぱり自分以外の人が映ってほしい。もちろん音楽は自分が伝えたくて始めたことだから、すごい矛盾してるかもしれないけど、基本的には人前に立ちたくないんですよ。でも伝えたいという矛盾。今日この飲み屋に入って、最初の話題で僕が言いたかったことなんですけど、学生時代は本当にね……例えば学園祭とか、同級生でライブをやってる奴がいるでしょう? 「絶対こいつらにみたいになりたくない」と思っていたぐらいモブでいたかった。誰からも目立ちたくない。自分の存在を消す中高の6年間だったので、たまに地元へ帰ると友達から「まさかお前がこういう仕事をすると思わなかった」と言われる。本当はね、前に出たくないタイプなんです。でも、前に出ないと歌えないし伝えられない、ということでなんとかやってるんですね。歌いたい言葉はあるんだよ、だけど基本的には人前には立ちたくない。ライブも映画に出ることも楽しいんだけど、本当は嫌なんだ。でも何もしたくないってわけじゃなくて、このまま何もしないと存在が消え去るから、存在を残すために「じゃあ、お前が好きでやりたいことは何か?」というと音楽を聴くのがすごく好きなんです。もしかしたらね、歌うことよりも好きかもしれない。これを自分もやったらどうなのかな?みたいなところから始まってるので、それが辞められなくて今も続けてる感じかもしれない。だから映像にしてもね、お客さんとかの方が可愛いしカッコいいし、そっちの方を出したいと思っちゃう。
アフロ:そういう意味でもお客さんがアイドルなんだ。確かに、共演するにあたって楽しみなのは銀杏BOYZを観に来たお客は、どんな顔で銀杏を観ているんだろうかというのと、MOROHAを観に来たお客が、どんな顔で銀杏BOYZを観てるんだろかと。それが銀杏のライブを観るのと同じくらい楽しみなんですよ。
峯田:それはいいよね。
アフロ:今のMVの話だったり、峯田さんの本当は人前に出たくないけど表現したいから出る、そして聴いてくれている人の方がアイドルという話に繋がるというか。自分の中ですごくしっくりきました。対バンが楽しみです。
峯田:本当は1人で出ようと思ったんですけど、ちょっとやってみたいことがあって、それで今回は3人編成でやろうかなと。
アフロ:楽しみです。自分達も精一杯やります。しかし、今日の大和町の話はたまらなかったな。
峯田:こうしてちゃんと長く喋るの初めてで、もっと喋ったら面白いかもしれない。とはいえ、初回でこれだけ喋れたら俺の中では上出来だな。
アフロ:そうなんですか? だって峯田さんはお話し上手じゃないですか?
峯田:そんなことないよ(笑)。定期的に会うようになったら、もっとぶっ込んだ話題とかさ、自分の話ができるかもしれないけど、初めては緊張するよね。
アフロ:いつか、浅草ロック座で一緒にストリップを観に行きたいな。
峯田:今度行きましょっか? 昼間は東洋館でナイツの漫才を観て、夜はストリップを観て、最後にコーヒーでも飲みに行きましょう。
アフロ:嬉しいです、ぜひ!
文=真貝聡 撮影=suuu

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