マシュー・ボーンの『くるみ割り人形
』劇場公開記念/ニュー・アドベンチ
ャーズ アーティスト、友谷真実氏が
語る、“マシュー・ボーン作品の面白
さ”

マシュー・ボーンの『くるみ割り人形』が、2023年3月10日(金)より、TOHOシネマズ 日本橋/大阪ステーションシティシネマ/TOHOシネマズ ららぽーと福岡にて公開される(1週間限定公開)。
日本ではマシュー・ボーンと言えば、世界的に大ヒットした、男性ダンサーが白鳥を踊る新解釈の『白鳥の湖』で知った人が多いかもしれない。だがイギリス本国では、その作品よりも前の1992年に、モダンな解釈をした『くるみ割り人形』が発表され、話題を集めた。そのマシュー・ボーン版『くるみ割り人形』初演から30周年を迎えた記念として、昨年2022年1月にイギリスのサドラーズ ウェルズ劇場にて上演された舞台を収録した映像作品が、このほど日本で劇場公開される。
【動画】マシュー・ボーンの『くるみ割り人形』予告編

公開を前に、マシュー・ボーンの世界をよく知る、コンテンポラリー・ダンサー/振付家の友谷 真実(ともたに まみ)氏に、マシューについて、そして『くるみ割り人形』の見どころについて話を聞いた。彼女は、15歳で劇団四季に合格し、ミュージカルで活躍した後、マシューの率いるイギリスのニュー・アドベンチャーズに日本人で初めて入団し、『くるみ割り人形』では主役クララを演じ、『エドワード・シザーハンズ』『Highland Fling』(愛と幻想のシルフィード)『白鳥の湖』『ザ・カー・マン』『眠りの森の美女』に出演した経歴を持つ。
友谷 真実氏

■マシュー・ボーンとの作品作り
はじめに彼女は、マシューとの作品作りのスタートについて教えてくれた。マシューは、物語を伝えるダンスのリハーサルの最初に、振付を教えることからは始めない。まずダンサー達は「キャラクターシート」をもらい、例えば『くるみ割り人形』の場合、第一幕の自分の孤児の役名、年齢、性格、どうして孤児院に入ったかなどを書き、皆とシェアする。そこでクララ以外のキャラクターにも皆、名前が決まり、演技のワークショップが始まる。友谷氏によると、この『くるみ割り人形』では、「それぞれの孤児の子達の特徴を見るのも楽しいですよ。自分に似た子がいるかも」という。確かに、マシュー作品の全てに言えることだが、細かい役まで念入りに作り込まれたキャラクターには、それぞれ個性が輝き、どの役も見逃せない面白さがある。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson

■友谷氏の大好きなシーン
友谷氏自身も出演したことがある『くるみ割り人形』の中で彼女の大好きなシーンは、第一幕のクララとくるみ割り人形のデュエット・シーン。雲の上で流れるようなデュエットは「夢の中で踊っている気分になる」のだそうだ。彼女いわく「今回の新たなヴァージョンでは、リフトが少し変わり、その分ゆっくりした印象になっています。気持ちが高鳴ったクララが、チャイコフスキーの音楽に合わせて大きく動くと、そこに必ず相手のくるみ割り人形がいて、クララを優しく導いてくれる感じを受け、クララがホッとする気持ちを観客も共有できます。最後に男性陣が登場してくるシーンでは、クララを演じた私も含め、どのクララ役の人も絶対全員と目を合うようにするので忙しかったです(笑)。とてもワクワクしたのを今でも覚えています」
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson

■ダンスにはセリフがない
演劇と違い、ダンスにはセリフがない。しかし、言葉を使わずに物語を伝えるのがダンス。友谷氏によれば、ダンサーは、ジェスチャーのみならず、心の中で伝えたいセリフを言っているという。「でも、口は絶対に動かさないようにと、マシューから言われています」。理由は「お客様が口に目がいってしまうから」。そして「マシュー作品の素晴らしいところは、あたかもチャイコフスキーの音楽が話しているように聞こえるところです。マシューが奏でる素晴らしい魔法の一つだと思います。キューピットとクララのやり取りは、会話が全部心の中にあり、それを目と全身を使って会話しています。どんなセリフが聞こえてくるのかを、ぜひ皆さんが自分なりに当てはめてみて下さい」と、鑑賞の楽しみ方もアドバイスしてくれた。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
彼女は、クララだけでなく、ミセス・ドロス、キューピット、リコリッシュレディー、マシュマロと演じてきた。「どの役もそれぞれ全く異なり、同じ振りでもキャラクターによって、柔らかく幼く、シャープに命令するように、イタズラっぽく色っぽく、等々、演じ分けることがとても楽しかったです」と当時を振り返る。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson

■個性的で注目してほしい衣装デザイン
次に友谷氏が見どころとして挙げたのは、デザイン。「『くるみ割り人形』の見どころの一つに、アンソニー・ワードによる素敵なデザインがあります。マシューはレズ・ブラザーストンとよく仕事をします。今回のアンソニー・ワードとの作品は珍しいと思います。第一幕のモノトーンから第二幕へのカラフルなスィートランドへの変化、そして最後の戻るシーンの変化は新しくなっています!」と、各シーンによってこだわった色使いが楽しめるという。セットだけでなく、個性的で可愛い衣装も目を惹く。「皆さんならどの衣装を着てみたいですか? キューピッドのパジャマはいちばん踊りやすかったです」と、踊りやすさの情報まで教えてくれた。たしかに、どの衣装も素敵なので、自分だったらどの衣装が着てみたいか、などと考えながら鑑賞するのも楽しいだろう。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
■マシュー・ボーンの振付はキツい?!
続いては、振付について。「第一幕のミセス・ドロスと子供達のダンスはのダンスをもとに、そのニュアンスで踊っています。そして、のシーンはスケート靴を履いた昔のハリウッド映画のイメージで、足先はスケート靴を表すためにフレックスで上半身は前屈みで足も90度以上上げないように指示されていました。衣装のスカートの下にも大きな骨組みが入っておりスカートが膨らむようになっています。子供役で始まるのでテンションを上げていて、しかも早い音楽に合わせてずっと走っている感じなので、衣装も結構締め付けられます。男性陣は『白鳥の湖』よりも体力的にきついと言っていました」と友谷氏は裏話まで語ってくれた。
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson

■1作品で味わえるたくさんの変化
マシュー・ボーンの作品はクラシックバレエとは違い、モダンな印象もあり、特定のジャンルにあてはめることが難しい。実際、「コンテンポラリー、バレエ、ジャズの要素がたくさん入っています」と友谷氏も述べる。そして、それ故の難しさも伴うという。「コンテンポラリーの動きにジャズの動きが入るかと思えば、急にバレエのポジションでポーズをするなど、とても難しかったです。また衣装、シューズ、ウイッグを短い時間で着替える早替えも多く、第一幕から第二幕は休憩時間にウイッグとメイクアップも変更で大変でした」と、振付以外の慌ただしさも半端ないのだそう。だが、出演者側としてこの“変化”を体験してみて彼女は「とても楽しかった」とも付け加えた。
“変化”といえば、最後に友谷氏のお勧め鑑賞ポイントも“変化”に関わるところだ。「同じダンサー達が第一幕は子供を、第二幕では大人の“ティスティー”な世界を演じるところです。その“変化”もぜひ楽しんでみて下さい」
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson
MATTHEW BOURNE’S NUTCRACKER! (Photo)Johan Persson

【友谷 真実(ともたに まみ)氏プロフィール】
15歳で劇団四季に合格し、ミュージカルで活躍後、英国マシュー・ボーンのニュー・アドヴェンチャーズに日本人で初めて入団。『くるみ割り人形』では主役クララを演じ、『エドワード・シザーハンズ』『Highland Fling』(愛と幻想のシルフィード)『白鳥の湖』『ザ・カー・マン』『眠りの森の美女』に出演。現在は、マシュー・ボーンのインターナショナルツアーの「前座公演」振付、指導を担当。また『ドリアン・グレイ』日本公演のリハーサルアシスタントも経験する。
振付家としては、N.Yの全米No.1のラガーディア芸術高校で『サウンド・オブ・ミュージック』や芝居、ミュージカルの振付、N.Yと日本のコンクール、公演でコンテンポラリー作品の振付で受賞を果たす。NYのthe Museum of Art and Designのオンラインで、レジデンスアーティスト、Kazue Taguchiのアート作品と踊ってもいる。アカデミー賞、エミー賞受賞者を多数排出しているネイバーフッド・プレイハウスのジャズダンス講師、アジア初のホリプロ、TBSの「ハリー・ポッターと呪いの子」日本アソシエイトムーブメントディレクター。NYのミュージカル、バレエ短期留学のMid Manhattan Perfoming Artsの芸術監督、New York Dance Artistry、ジョフリーバレエでコンテンポラリー、シアターダンスを指導、カーネギー・メロン大学、プリンストン大学など 全米、日本でワークショップを開催している。その他出演作品には『王様と私 』(ロイヤルアルバートホール)、 劇団四季『キャッツ』、『ジーザス・クライスト=スーパースター』、『アスペクツ・オブ・ラブ』、『ウエストサイド物語』、『オペラ座の怪人』、『ハン ス』、『オンディーヌ』、スイセイ・ミュージカル『フェーム』、『ピアニスト』。 オーストリア、州立バレエ・リンツにてロバート・プール、オルガ・コボス、ピーター・ミカなどのコンテンポラリー作品などがある。

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