世田谷パブリックシアター「2023年度
ラインアップ発表会」レポート~白井
晃、小林香、前川知大、女屋理音、横
山拓也、瀬戸山美咲、森新太郎が登壇

世田谷パブリックシアターが2023年2月24日(金)に「2023年度ラインアップ発表会」を行い、同劇場で芸術監督を務める白井晃、そして2023年度に作品がラインアップされている小林香、前川知大、女屋理音、横山拓也、瀬戸山美咲、森新太郎が登壇した。
発表会では、まず初めに白井から「オリジナル作品の創作、新しい芸術表現の開拓、アートファーム(農場)である劇場を目指して活動していきたいと思います。この地域の皆さんにとってのコミュニケーションの場として活動をしていけるように、より活発に活動していきたい」と抱負が語られた。
白井晃
その後、2023度の主催公演が時に映像も交えて紹介された。
4月29日(土)~5月7日(日)には、2020年~2022年は新型コロナウイルスの影響により休止していた、ゴールデンウィークの恒例事業『フリーステージ2023』を実施。今年度は「音楽部門」と「ダンス部門」の2部門で開催される。
5月19日(金)~21日(日)は、イスラエルを拠点に世界中で活躍する振付家で演出家のインバル・ピントの新作『リビングルーム』を上演。チェリストで歌手のマヤ・ベルシツマンのオリジナル楽曲にのせて、二人のダンサーが不思議な未来の物語を作り上げる。この日、インバル・ピントからはビデオメッセージが届き、「二人の驚異的なダンサーが、長編コメディーを務めます。新しい現実を探し出していく作品です」とコメントが寄せられた。
6月21日(水)~7月9日(日)には、白井が上演台本と演出を務める音楽劇『ある馬の物語』をラインアップ。同作は、2020年6~7月に上演予定だったものの、新型コロナウイルスの影響で公演中止となった作品で、3年越しの念願の上演となる。白井は「1975年にサントブルクで上演されたものを元に、音楽監督に国広和毅さん、振付に山田うんさんを迎えてリメイクしようという意欲作です。成河さんを始め、主なキャストは3年前と同じメンバーに揃ってもらいました。人間に使われる馬が、“人間はこうだ”と強烈な批判を持って描く音楽劇です」と説明した。
7月・8月は「せたがやこどもプロジェクト2023」を開催。7月17日(月祝)は春風亭一之輔プロデュース・出演の『せたがや 夏いちらくご』を上演する。
7月・8月には、これまで数々のミュージカルを手掛けてきた小林香による新作ミュージカル『カラフル』が決定。直木賞作家・森絵都のベストセラー小説を原作に、家族や学校をテーマとしたストーリーを展開する。主演は鈴木福、共演を川平慈英が務める。小林は、「不登校やいじめという重い題材を背景に持っている作品ですが、ミュージカルの力を使って明るくユーモラスな再生の物語にしたいと思っています」と意気込んだ。また、今回、「せたがやこどもプロジェクト」の一環として上演されることから、「子どもから大人まで楽しむ作品を作るのはとてもハードルが高いことですが、若い方に向けて語ることができる貴重なチャンスをいただいたと思っています」と思いを語った。
小林香
7月28日(金)~30日(日)は、3D映像を使ったダンスパフォーマンス、ラルンベ・ダンサ『エアー~不思議な空の旅~』を予定。3Dメガネをかけて、飛び出す絵本の中に入り込んだような感覚になる不思議なステージだ。構想・振付・演出のダニエラ・メルロは、ビデオメッセージで「3つの理由から特別な作品になっています。1つ目は、1番貴重な資源の一つである空気を大切にしたいという思いを込めている作品で、その気持ちを共有したいと思っていること。2つ目は、子どもたちに捧げた作品であるということ。特に今回は、日本の愛らしい子どもたち、そしてご家族のために公演を行います。そして、3D映像とのコラボです。ダンス公演でありながら、3Dメガネをかけて観ることで特別な魔法をかけることができるのです」と話した。
続く8月には、白井が演出する『メルセデス・アイスMERCEDES ICE』が上演される。同作は、イギリスの劇作家フィリップ・リドリーの児童小説を舞台化したもので、白井が2012年にまつもと市民芸術館を拠点として活動する劇団TCアルプのために創作した作品だ。今回は、細田佳央太、豊原江理佳ら旬の俳優たちとリクリエイションする。白井は「リドリーらしいブラックなファンタジーで、3世代の親子の物語です」と明かした。
10月21日(土)・22日(日)には、毎年秋恒例のフェスティバルとして親しまれている世田谷アートタウン2023『三茶de大道芸』が実施されるが、これに関連して10月27日(金)~29日(日)にはフランスと日本の現代サーカス交流プロジェクト『フィアース5』を上演。同作は、フランスの現代サーカス界を牽引する一人、ラファエル・ボワテルを演出に迎え、日本のサーカスアーティストとの国際共同制作によって2021年秋に上演された作品をリクリエイションするもの。ラファエル・ボワテルは、日本のことわざ「七転び八起き」をテーマに、サーカスの世界に生きる人々が幾度となく不可能を可能にしようとする“粘り強さ”を描いていると話し、「非常にエモーショナルで壮大な作品」だと説明した。
そして、11月には前川知大の新作公演を予定している。前川は「世田谷パブリックシアターさんとは、2009年から一緒に作品を作らせていただいています。そのときは、日本の古典を翻案し、現代の感覚で語り直すことをテーマにした『奇ッ怪』という3部作を創りました。それと同じやり方で西洋の古典にアプローチしてたのが、(2019年の)『終わりのない』でした。今回の新作は、その延長線上にあるイメージです」と話した。内容については、古代ギリシャ劇の大テーマである「運命」を扱うと説明すると、「人生の中での重要な決断や、自分の力でどうしようもならないものに対してどう向き合っていくのか。日常的なものが舞台になると思います。そこで運命と自由意志がどう拮抗するのかを描けたらと思っています」と力を込めた。
前川知大
12月は、シアタートラム・ネクストジェネレーション初のフィジカル部門選出者である女屋理音の振付・演出によるroom.Onaya Rion『Pupa』(仮)だ。女屋は、「『Pupa』はサナギを意味した言葉です。今回、昆虫がテーマのキーワードになっていて、痛覚を持たないとされる昆虫と、自分の体内を感じることができる人間との違いや比較、そこから他者と身体感覚を共有できるかに着目して作っていきたいと思います」と語った。
女屋理音
2024年2月~3月は、近年目覚ましい活躍を見せる横山拓也作、瀬戸山美咲の演出による強力タッグで贈る『う蝕』(仮)を上演。脚本を担当する横山は「最初の打ち合わせで、瀬戸山さんから『ストーリーにいかなくていいですよ』と言っていただいたんです。そこから、セリフだけで進んでいく物語を作れないかと思い、“不条理”に辿り着きました。徹底的に会話で押していけば面白いものが生まれるのかなと思います」と意気込みを述べた。今回は、キャストは全員男性。荒廃した土地に集められた歯科医と彼を見張る役目を担った人物が、どうしてここに集められたのをみんなで探り合って物語が展開していく。演出の瀬戸山は「世の中全体が不条理だと言われている中で、現実を変えていけるような不条理ができたらいいなと思います。わからないことが面白いと思ってもらえる作品にしたいです」と思いを明かした。
横山拓也
瀬戸山美咲
2024年3月には、アメリカダンス界の超新星Ate9が、代表作『Exhibit B』『Calling Glenn』を披露する。『Calling Glenn』は、オルタナティブバンド ウィルコのドラマーでもあるグレン・コッチェが音楽も担当する。
同じく2024年3月には、脚本・フジノサツコ✕演出・森新太郎のタッグで『メディア/イアソン』を上演する。本作は、劇作家・エウリピデスが記したギリシャ悲劇の傑作『王女メディア』で広く知られるメディアの人生を描いた作品だ。森は、「復讐劇として知られる『王女メディア』から、復讐を取ったら、二人の新しい物語が見えてくるんではないかと思います」と話す。メディアと夫のイアソンの出会いや蜜月の時が描かれることはあまりない。しかし、今回、これまであまり知られていなかった彼女たちの姿を描くことで、「凄惨、残酷と語られがちな二人ですが、絆や悲しみなども含んだ愛の物語が生まれるんじゃないかと期待しています」と森はコメントした。
森新太郎
さらに、2024年3月には、ワークショップから作品を創り上げる『地域の物語2024』を予定している。
主催公演と並行して、同所が公共劇場ということから、より学芸事業にも力を入れる。また、近年大きな課題となっているハラスメントの問題についても、真摯に受け止めて解決法を模索していると言及。主催公演では、稽古初日に専門家を呼び、ハラスメント講習を実施する。白井は、「25年前から実施してきた学芸事業は非常に大きな活動の一つだと思っています。世田谷区民の皆さんにパブリックシアターがランドマークだと思ってもらえるように、広げていくような活動をいていきたいと思います」と話して、発表会を締めくくった。
取材・文・写真撮影=嶋田真己

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