ナイロン100℃結成30周年記念公演第
一弾『Don't freak out』を松永玲子
と村岡希美が語る

劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が主宰するナイロン100℃が2023年に結成30周年を迎えるにあたり、記念公演第一弾として、2023年2月下北沢ザ・スズナリにて新作『Don't freak out』が上演される。
下北沢 ザ・スズナリでの公演は、ナイロン100℃としては2013年上演の劇団若手公演『SEX,LOVE&DEATH ~ケラリーノ・サンドロヴィッチ短編三作によるオムニバス~』から10年ぶり、本公演としては97年の『カメラ≠万年筆』『ライフ・アフター・パンク・ロック』二本立て公演から26年ぶりとなる。
本来2020年冬にザ・スズナリでの公演が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け中止となった経緯もあり、今回が満を持してのザ・スズナリ公演となる。
今作に出演する松永玲子と村岡希美に、新作に挑む思い、そして劇団への思いを聞いた。
ナイロン100℃ 48th SESSION 『Don't freak out』チラシビジュアル
26年ぶりにスズナリでの劇団公演「小さな劇場は試されている感じがする」
――ザ・スズナリ公演が、2020年の中止を経てようやく実現されますが、改めて公演が決まった現在の心境を教えてください。
松永:中止になったときは、みんな大変落ち込みました。「いつか上演できたらいいね」という話はしていましたが、当時は本当にできるかどうかもよくわからない状態だったので、今回改めてスズナリ公演を実現できるのは非常に嬉しいと同時に、まだコロナの波も落ち着いていないので、いろんな意味でドキドキです。
村岡:スズナリで劇団公演をできることは本当に本当に嬉しいことで、この人数の出演者というのもとても贅沢ですがもちろんリスクもあるので、本番を迎えられるように慎重に、公演の実現にむかって一歩一歩すすんでいければ、と祈る気持ちでいっぱいです。
――ナイロンの本公演としてはスズナリは26年ぶりだそうです。
松永:スズナリ自体が非常に好きな劇場なんです。やっぱり小劇場の人間にしてみたら、聖地なんですよ。ナイロンとしてはホームグラウンドはやっぱり本多劇場だという意識があるのですが、劇場って小さくなればなるほど、試されてる感じがするんです。「お前はまだ生のものをそこでやるだけの体力・気力・知力を備えているのか」と。客席も本当に目の前で舞台上からお客様のことが割とはっきり見えるので、それはそれは恐ろしい空間ではあるんです。でも、こういう仕事をしている人の性(さが)なのかもしれませんが、恐怖を感じると、同時にちょっと笑っちゃうみたいなところがあって。「怖いな」「逃げたい」という気持ちと、それを面白いと思う気持ちというのが、同時に混在してしまうことがあるんですね。この公演のときは53歳になるのですが、スズナリに立ったときに自分がどういうふうに感じるのだろうというのを、今から楽しみにしています。
村岡:26年前にスズナリで上演された『カメラ≠万年筆』は、1995年の新人公演でもやっているので、合計2回出演しました。私はまだ右も左もわからない状態のときに松永さんとコンビのような役をやらせてもらえた思い出深い作品なんです。またスズナリで、26年って聞いてぶったまげましたけれども、その年月を経てまた松永さんの横でお芝居ができるのはとても「萌える」気持ちと「燃える」気持ちの両方でワクワクしています。
松永玲子(撮影:江隈麗志)
――今回お2人の共演にあたり、どんなことを楽しみにされていますか。
松永:今、村岡ちゃんが言ったように、26年前にやっていたお芝居でこの2人はコンビだったんですね。やっぱり自分にとって、あの公演は原点なんですよ。お互い当時は新人とか若手の部類で、外部からのゲストも含めて世代的に近い人たちが多かったので、みんなでKERAさんから特訓を受けました。
村岡:出来るまでワンシーンを1日かけてやってたりとかしましたね。
松永:それは今にして思えば贅沢な時間だったし、KERAさんもよく辛抱して私たちに指導してくださいましたね、と思います。『カメラ≠万年筆』では、私が田中という役で、村岡ちゃんは日爪という役だったんですけど、やっぱりいまだに意識のどこかで村岡ちゃんを見ると「日爪だ」って思うんです。
村岡:わかります。私も松永さんのことを「田中だ」って思います。
松永:あのとき共に特訓を受けていた人たちは戦友のような、深いところの信頼関係みたいなものがあると思います。それ以降も村岡ちゃんとは共演してきましたが、「村岡がいる」という信頼と安心たるや、という感じです。
村岡:私はナイロンに入ったときは、俳優として生まれたてのヒナみたいな状態だったので、そんな状態で松永さんと最初にパートナーのようなお芝居をやってもらって、だから松永さんには本当に何もできなかった頃から自分のことを見てくれている、という思いがあります。松永さんは私の特訓にずっと付き合ってくれて、すごく引っ張っていってくれたことをすごく覚えています。その後ももちろん共演はしてきましたが、がっつり2人で芝居をするシーンとかはそんなにはなかったので、今回そういう意味でも本当に楽しみです。
村岡希美(撮影:江隈麗志)
ズッコケの練習やツッコミの練習をしていた若手時代
――劇団のかなり初期のころから所属されてきたお二人にとって、劇団にいてよかったなと思うことと、逆にこれはデメリットだなと思ったことがあったら教えてください。
松永:メリットは、やっぱり帰る場所があるっていうことだと思います。特にコロナ禍になって、自分が出演する予定だった公演が中止になっていって、それでナイロンのスズナリ公演も中止になってはいるんですけど、劇団にいればいつかはきっと公演をやるだろう、出演できる機会があるだろう、ということが心の支えになっていたので、劇団にいてよかったなと思いました。劇団にいてデメリットは……なんだろう。劇団公演に出られることがデメリットになる場合もあるかもしれないですね。劇団外部のお話が急に来ても、劇団員だから劇団公演を優先しなければならないということでお断りをしたということは、恐らく劇団員全員が経験していることだと思います。でも、それが嫌なら劇団を辞めればいいだけのことですから。
村岡:私はこの劇団で生まれ育ったという感じなので、私にとっては実家のような感じです。劇団員たちと一緒にKERAさんの作品をやるというのが、一番たまらない瞬間なんですよね。KERAさんの書いたものを劇団員たちの体を通して作り上げるという場所に自分が参加していることがたまらない瞬間だし、そう思える場所というのはなかなかないので、こうやって劇団を続けて来られたのも、そこに至福の感覚があったからかな、と思っています。デメリットは、松永さんがおっしゃったようなことぐらいだと思います。
――長くKERAさんの作品に出ていらっしゃるお2人にとって、改めてKERA作品に出演する面白さはどのようなところにあると思われますか。
松永:長いこと一緒にやってきまして、まれにひっくり返るようなダメ出しがやってくるんです。ズッコケの練習とかも……。
村岡:してました!
松永:若い時、ズッコケの練習とか、ツッコミの練習とか、さんざんやったよね。「笑いが取れない俳優はダメだ」と言われて、家の鏡の前でずっと面白い顔の練習とかをしてきた人間なんです。そうやって育ってきたにも関わらず、あるときKERAさんに「松永さん、そこは笑いじゃないから」って言われて(笑)。「えっ!」って、途方にくれたことがあります(笑)。私達の想像の斜め上を行ってるんですよ、KERAさんは。
村岡:(爆笑)
松永玲子、村岡希美(撮影:江隈麗志)
松永:『イモンドの勝負』のときは、本番の幕が開いてからずいぶん経ったある日、KERAさんから「松永さん、ちゃんとセリフが当たってるから当てないで、会話になっちゃってる」って言われて「えぇっ!?」ってなりました。「立ち稽古の初日みたいに、ただセリフがなんとなく頭に入っていて、会話にもならずうまくいってないぐらいの、ぼんやりした感じにして」と極めて難しい要求をしてくるんですよ。うちの師匠はすごいですよ(笑)。
村岡:KERAさんの現場はいろんな意味で何が出てくるかわからないので、今回も予想はできないですね。もう立ち向かうしかないのかなと。でも、松永さんは明確なダメ出しを受けることが多いんですけど、私は結構ぼんやりしたダメ出しを受けることが多くて。「村岡は妖精みたい」っていうダメ出しをされたりとか(笑)。その後どうしたかは私もよく覚えていないのですが、しばらくしたら言われなくなったので、妖精っぽさはなくなったんだろうと思います。
――KERAさんのコメントによると、今作は「ちょっと怖い芝居」とのことで、その中でお2人がどのようにがっつりとお芝居されるのか楽しみにしているのですが……。
村岡:そんなシーンなかったりしてね(笑)。
松永:ない可能性もあるね(笑)。「時代設定としては大正時代もしくは昭和初期ぐらいの設定で行くかな?」ということと、「サイコホラー・サスペンスのような感じで行くかな?」ということと、「時代も加味されて口語体ではない」ということと、「基本的には不条理劇だが『イモンドの勝負』のように笑いに特化した不条理劇ではなく、シリアスな方向である」ということと、私たち2人が姉妹役です、とはお伝えしておきます(笑)。
ナイロン100℃ 48th SESSION 『Don't freak out』チラシビジュアル
ナイロンの公演はゲスト出演者の色に染まる
――今回ゲストがユニークな面々であるのに加え、劇団員の方もなかなか珍しい取り合わせのメンバーだと思います。
松永:私は、尾上さんとご一緒するのは初めてです。岩谷さんは舞台ではご一緒したことないですが、ドラマで夫婦役をやったことがあるので、今回舞台でご一緒できるのが楽しみです。入江さんに関しては、私たちは若手のときに本当にお世話になったし、教えてもらったし、守ってもらったし、劇団員ではないけれども私たちにとって演劇の先生であり、レジェンドです。まりかさんは、私自身は3回目の共演ですし、ナイロンにも出てもらったことがあるので、まりか色に染めてください、という感じですかね。
村岡:ナイロンって元々、ゲストで出てくださる方の色に染まるんですよ。ゲストの方がナイロンの色に染まってくださるというよりかは、私たちがゲストの方によってちょっとカラーが変わるという感じです。むしろ、ナイロンだからこうだ、っていう決まった感じはないと思います。
松永:だから今回も、まりかさんと尾上さんと岩谷さんと入江さんよろしくお願いします、染めてください、という感じです。
村岡:私は劇団員の大石くんとは以前にナイロンで共演はしていたんですけど、セリフを交わすシーンがなかったので、11月に新国立劇場『私の一ヶ月』で共演したときに夫婦役で初めてセリフを交わしました。新国立劇場の公演が終わって、またすぐに一緒にやれることを楽しみにしています。
松永:劇団員に関しては、赤塚不二夫さんが亡くなったときにタモリさんが弔辞をお読みになって「私もあなたの数多くの作品の一つです」とおっしゃったと思いますが、ナイロンの劇団員たちは良くも悪くもKERAさんの作品だと私は思っています。よかったときは大いに素晴らしいと褒めていただいて、悪かったときは私たちはKERAさんが作った作品なので、ということでひとつよろしくお願いします!(笑)

公演は、下北沢、ザ・スズナリの公演後、大阪、近鉄アート館での上演が予定されている。
取材・文=久田絢子

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