『HIGH FIVE 2023』福岡公演でOmoin
otake×iriが打ち上げた音楽という花

次世代を担うアーティストがヘッドライナーに立ち、彼らが今一番共演したいアーティストをスペシャルゲストに迎える音楽イベント『HIGH FIVE 2023』。Omoinotakeがヘッドライナーを務め、iriを共演に迎えた福岡公演が2月12日Zepp Fukuokaで開催され、そのオフィシャルレポートが到着した。

花火の玉は、勢いよく空に飛んでいき、放射線状の軌跡を描きながら、大空で美しく色とりどりの光を放つ。今まさに、空で広がっていく花火の光に見えた。2023年2月12日Zepp Fukuokaで行われた『HIGH FIVE 2023』。今年2回目を迎えるイベントの福岡公演でヘッドライナーを務めたのはOmoinotake。彼らが対バン相手に指名したのは、2015年、渋谷のライブハウスでの自主企画に招いて以来、8年ぶりの共演となるiri。
それぞれの音楽を知っている者にとっては、メロディアスで切なくも美しい楽曲をつくるOmoinotakeとソウルフルでジャジーな音楽を魅せるiriとでは、ベクトルが違い過ぎるのでは?と感じた人も多いだろう。『HIGH FIVE』は、札幌を皮切りに、福岡、大阪、東京、名古屋の5会場のZeppで行われる。その年の各地のヘッドライナーが、今一番対バンしたい相手と共演するというのが醍醐味のひとつ。いい意味で期待を裏切ってくれたこの組み合わせが、どう融合するのか期待に胸が膨らむ。
先手で登場したのはiri。ギターを抱えて登場し、ブルーライトに照らされると途端に会場が沸き立った。まだコロナ禍の余波で、立ち上がり手拍子や身体を揺らすことは解禁になっても、継続的な声援ができないことが本当に残念だが、着席したままの昨年のそれよりも、はるかにライブ感が蘇った印象を受けた。
ギターを弾きながらディスコサウンドに乗せて切ない恋心を唄う「ナイトグルーヴ」から始まった。その歌声が会場に響き渡ると、会場全体がiriのナイトグルーヴィングへと一気に引き込まれた。音楽に呑まれるように、誰もが自然に身体を揺らす。ライブのスタートダッシュといったところだ。2曲目はギターをおろし、CMソングとしても話題となった「Sparkle」。ソウルフルでパワーのある歌声でありながらも、どこかポップさを感じるのは、『揺れる、肝銘な未来』という不安を抱えつつも肯定的に終える歌詞を、楽しみながら歌う姿がそこにあるからだろう。この人は、本当に楽しそうに歌を歌う。低音でブルージーな歌声と、英語のようにも聞こえる日本語の歌い方は、まさに音(曲)と歌詞を紡いでいるようだ。続いて沈みがちな心境の時、自らを奮い立たせるために作ったという「渦」。憂いを感じながらもサビで躍動的になる。その感情がダイレクトに身体に入ってくるようだった。
MCでは「明けましておめでとうございます。今年初のライブなので、やっとみなさんに会うことができて、うれしいです」と年末から制作活動をしていたので、と少し遅めの新年の挨拶。Omoinotakeとの縁について「8年前、デビュー前で大学生の頃以来なので、挨拶をした時にとても感慨深かった」と思い出を語った。
続いてデビュー前から歌い続けて今でも人気が続くラブソング「会いたいわ」、iri自身が「一日の終わりに崩れかけていく女性のメイクに、その人が1日をどれだけやりきったかが出ていて美しさを感じる」として制作した「Corner」と切ないバラードが続き、後半はヒップホップのビートに疾走感のあるトラックがmixした「friends」「STARLIGHT」などアップテンポの楽曲が続き、ライブ初披露の「Roll」で会場をさらにヒートアップさせる。iriというアーティストの存在を世に知らしめたひとつは『井上陽水トリビュート』で「東へ西へ」がある。日本人離れしたリズム感とブルージーな歌声、類を見ない日本語リズムの捉え方だ。観客がiriの波に乗ってきた瞬間を見逃さず掬い上げて巻き込んでいく。iriのファンだと公言するOmoinotakeが、今回のゲストに彼女を選んだのは、彼らの音楽と対局にありながらも、自身の音楽で観客の心を掴んで放さないという火種が同じだからだろう。
そのまま「24-25」と続きMVの再生回数が2300万回を超える人気曲「Wonderland」で締めくくった。
そして、iriから受け取ったライブの高揚感をヘッドライナーのOmoinotakeが登場しデビュー曲の「EVERBLUE」でのっけからトップギアを入れてさらに会場に火を放った。
最初にこの曲を聴いたときに清涼感とポップな感じがお気に入りだったのだけど、ライブで聴くそれが、ここまで“君をさらって行くよ!”感があるとは思いもよらなかった。往年のシティーポップミュージックの表情をしながらも力強く疾走していく声と音楽は、グイグイと彼らのコアスポットに引き込む。よく“沼落ち”というが、Omoinotakeの沼の深さと幸福感は簡単には抜け出せないんだ、と改めて知ることになった。さらに追い打ちを掛けるように名曲「彼方」へ続く。巧妙に構成された楽曲を、透明感と安定感と繊細でありながらも力強いレオの歌声は、彼方まで届いているかのようだ。Omoinotakeは、ギターレスのスリーピースバンド。ステージには前面に下手からベースのエモアキ、ヴォーカル&キーボードの藤井怜央、ドラムのドラゲ、後方下手にサックス柳橋玲奈、パーカッションぬましょうの配置。このセッティングがどうも気になっていたら「僕らの音楽を正面から浴びて欲しいから」とのこと。きっと観客は、真っ正面から音楽を浴びる快感を得ることだろう。そしてファンにはたまらないドラマチックな名曲「この夜のロマンス」。この前半のセトリはズルい。誰だって好きにならずにはいられない(あくまでも女子目線)。Omoinotakeのメンバーは、どこか“安全な男子”感があるのだが、こういう楽曲が並ぶのだから、むしろ危険な男たちだ。ただ人間とはそうそう自分の心を思い通りに操れるわけではないので、危険な方へと惹かれていくのだ。
MCでレオは今回のゲストiriについて「3人全員が大好きだというアーティストは、そうそういないけど、ゲストを決める時に満場一致でiriさんに決まりました。8年前に渋谷で対バンをした時からなんてカッコいいアーティストなんだ!と全員が思って、普通にいつも聴かせてもらってるんです」と全員がファンだということを公言した。さらに「福岡でのヘッドライナーであることがうれしい。負けないように最後まで楽しくやりたい」と語った。
中盤はラテンのリズムにのせながらも切なさが漂う「空蝉」、インディーズ時代からライブで何度も披露している「雨と喪失」。失った大切な人のことを想い綴った曲でファンからも人気が高い。80年代のエレクトロニカを彷彿させるビートがより切なさを演出しているようだ。サックスの響きが楽曲の奥行きを増幅させるほどジャジーで躍動的な「Blanco」から劇場アニメ『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』の主題歌として書き下ろした「モラトリアム」。憂いを帯びたレオの声が本当に切ない。Omoinotakeの楽曲の中でもトップクラスに壮大でありながらも脆く泣きそうに切ない。思わず“好きだ…”と噛みしめたい名曲として常にプレイリスト入りしている(個人的に)。
この日、レオはかなり緊張していたようで、後半に突入する前のMCで、ものすごく真面目に今回ヘッドライナーに選ばれた感謝を語り始めるが、途中で自身の超マジメ発言に気恥ずかしくなり、「っていうようなことを、もっと楽しく言って」とエモアキに無茶振り。歌っている時とは裏腹なレオの緊張が、今ここでライブが出来ていることの心からの喜びを表現しているようで、観客も“レオがんばれ!”という空気になっていたところに笑いが起こった。たとえおもしろくMCができなくても、言葉が詰まっても、会場全員がレオの気持ちを受け取っていたに違いない。
そんなほっこりムードから、オレンジの夕暮れを思わせるライトを浴びて「心音」から終盤に入った。会場が両手を挙げて手拍子をしながら身体を揺らす。サンバのようなポップさとEDMが融合した「トロイメライ」から、さらに会場がひとつになって盛り上がっていく。携帯電話会社とコラボ企画で誕生した「By My Side」ではハンドクラップで完全に一体となり、ラスト「トニカ」では、まさに“胸を打つ音を今響かせ”の歌詞どおり、今ここにいる全ての人を肯定してくれるポップソングで、大団円を迎えてZepp Fukuokaでの『HIGH FIVE 2023』が幕を降ろした。
音楽が好きで、音楽で誰かをハッピーにしたい、音楽で表現する幸せを火種にして、真っ直ぐに打ち上がったOmoinotakeとiri。火花が広がった方向は異なるが、この福岡で大きな打ち上げ花火が上がったことは間違いない。きっと彼らの想いは次の場所へ繋がっていく。
TEXT BY 筒井あや
PHOTO BY 新保勇樹

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