MONOの第50回公演『なるべく派手な服
を着る』主宰の土田英生が語る。「承
認欲求と思い込みからの解放を描いた
、お気に入りの作品」

コロナ禍にも負けず、この2年で8本もの新作を発表した劇作家・演出家の土田英生が主宰する、京都の劇団「MONO」。2019年の劇団結成30周年に続き、今回で第50回公演という節目を迎える。その記念すべき演目『なるべく派手な服を着る』は、2008年に東京・大阪の2都市のみで初演。なぜか存在をなかなか認識されない男とその家族たちが、彼らを縛り付けていた鎖から解き放たれていく様を、コメディタッチで見せるホームドラマだ。1月31日に土田のリモート会見が行われ、その内容をざっくばらんに語ってくれた。

5人兄弟の久里家には「結婚はするな」「海外には行くな」などの、謎のルールが存在し、実際配偶者のいる者は、全員内縁状態だ。ある時父が危篤となり、ツギハギのような増改築がなされた実家に、兄弟が集合。四男の一二三(尾方宣久)は彼女(立川茜)とともに帰省したが、彼は昔から家族の中では存在を忘れられがちで、自分をアピールするために、いつも派手めの服を着ている。そして父が臨終を迎える直前、兄弟に衝撃の事実が伝えられた……。
この作品が生まれた背景は、よほどの自信家ではない限り、誰もが感じそうな「自分は誰からも気にかけてもらえてない存在ではないか」という、後ろ向きな自意識。土田はこの意識が特に人一倍強かったと自負していて、その気持ちに正直に向き合ったのが、この作品だったという。
MONOの前回公演『悪いのは私じゃない』(2022年)。 [撮影]藤本 彦
「以前『白樺派』の人たちの集合写真を見た時に、有島武郎さんや志賀直哉さんなどの名前が載っている中に『一人飛ばして』という記述があったんです。この飛んだ彼は、どこに行ったんだろう? と。当時はみんな同じ情熱で文学に取り組んでいたはずなのに、後世になって一人飛ばされちゃうんだなあ……と考えると同時に『飛ばされるのは私だ』って思ったんです。
90年代に、京都の劇作家に注目が集まって「京都派」と呼ばれた時期がありまして。僕は彼らとよくしゃべって、会話のにぎやかし担当のようになっていたけど、周りがあまりにも活躍するんで、僕は重要視されてないんだろうな……というコンプレックスを持ってました。将来、京都の小劇場の人たちの写真が載った時に『マキノノゾミ、松田正隆、一人飛んで鈴江俊郎』って書かれるんだろう、みたいな。
そんな自分に決別したい……というわけじゃないですけど、そういう感情と少しハッキリ向き合ってみようと思って、書いた面はあったかもしれません。でもそのおかげで、自分が意識していたことを、ちゃんと形にすることができました。だからこれ以降は『あるがままの自分を受け入れよう』みたいに考えることができるようになったし、無理に目立とうとする気持ちがなくなったと思います……なんて、セミナーみたいな言い方になってますけど(笑)」。
MONO『なるべく派手な服を着る』初演(2008年)。 [撮影]谷古宇正彦
50周年の記念演目に本作を選んだのは、上記のような理由で「自分でも非常に気に入った作品」だということが一つ。さらに初演は、元「ヨーロッパ企画」の本多力などの4名のゲストを招いたが、4年前に若い俳優たちが加入して、劇団員だけの上演が可能になったことも、大きな動機となっている。
「登場人物の人数がちょうど(劇団員の数と)一緒なので、今のメンバーで作り直して、代表作にしたいと思いました。あと初演の時は、僕が忙しかったこともあって、大阪と東京でしか上演しなかったんです。もっと全国で発表したかったという思いが、ずっとあったことも大きいです。
あとこの作品で気に入っているのは、抽象性と具象性のバランスがいい所。ストレートプレイを普通に書いていると、割と現実的な設定に落ち着いてしまうんですけど、これは存在感のなさを割とバカバカしく書いたというか、最初の設定がちょっとありえない所からスタートしてるので。ほどよいコント感と、いつものMONOのテイストが上手に混ざって、着地したという印象があります」。
MONO『なるべく派手な服を着る』初演(2008年)。 [撮影]谷古宇正彦
基本的には、脚本も美術もほぼ初演とは変えないというが、さすがに15年も経つと、時代の風潮や劇団員の年齢に合わせて、変えざるを得ない所もあったそうだ。
「夕食の準備なんかで、男たちがまったく動こうとしないんですね。これは男たちが、変な風習に縛られているからなんですけど、今だったら『ジェンダー問題への視点が欠けている』と見られてしまうかも? と思って、ちょっとセリフを付け足しました。また男女の年齢差が大きくなって、このままだとすごく気持ちの悪いおじさんの話になっちゃうので(笑)、家のルールにそのことを追加しています」。
ここ最近の、SNSを使った飲食店テロが象徴するように、「なるべく派手な行動」によって目立つことで、自意識を満たそうとする人が、明らかに15年前よりも増加した。その問題を先取りしたような内容に、感心させられることは間違いないが、再演の稽古を進めるうちに、隠れテーマみたいなものも見えてきたと、土田は指摘する。
MONO第50回公演『なるべく派手な服を着る』稽古風景。 [撮影]西山榮一(PROPELLER.)
「承認欲求のあり方みたいなものが、今は本当に顕在化して、逆にそれがさほど恥ずかしいことじゃなくなってるんです。15年前は、承認欲求ってもっと恥ずかしいことだったような気がする。でもさっきも言ったように『どうにかして認められたい』という感情を、割と抽象性のある設定で描いてるので、それを今現在どのように感じ取ってもらえるか? というのは、正直未知数です。
人の目を気にして目立とうとすると、余計に存在感が薄くなる……という所からスタートしたんですけど、結果的には家族の問題にもなりました。親によって植え付けられた思い込みは、大人になっても根強く残っている。でもこの家族は父の告白をきっかけに、だんだんみんながその思い込みから解放されていくんです。自分でも気づかなかった非常識やトラウマから、いかに解放されるかということを、色濃くデフォルメして書いた作品でもあると思います」。
MONO第50回公演『なるべく派手な服を着る』稽古風景。 [撮影]西山榮一(PROPELLER.)
劇団30周年を迎えた時「僕以外のメンバーが、無欲だったからここまで続けられた」的なことを話していた土田。50回公演以降の目標を改めて聞かれて出てきた答は「やりたくないことはやらない」という、一見ネガティブだけど、実は他の劇団も参考にした方がいいかもしれないと思える言葉だった。
「僕らは具体的にやりたいことを持たずに、ここまでやってきたけど、やりたくないことは結構あったんです。すごく華やかな演劇祭に呼ばれたけど、嫌だったから出なかったとか。演劇界の中での評価や、先輩方との付き合いなどに、あまり頓着せずにやってきた。そうやって『やりたくない』ということを大事にしてきたのが良かったんじゃないかと、今になって思います。とにかくこれからも『やりたくないことはやらない劇団』でありたいです」。
15年前の初演は、確かに土田が述べた通り、MONOの歴代の作品の中でも「んなアホな!」という部分と、「ああ、こんな気持ちあるある」という部分が、割と高い位置でクロスした作品という印象だった。しかも今回は、出演者の約半数がゲストだった初演と違って、土田作品の命である「リズムとテンポ」がしっかりと埋め込まれた劇団員のみの舞台だ。新たなMONOの代表作が生まれる瞬間を、ぜひその目にとどめておきたい。
土田英生。 [写真提供]MONO
取材・文=吉永美和子

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