鍵

【鍵 インタビュー】
不完全が許されることを
伝えていきたい

大きなものですくった時に
こぼれた人たちに対して歌いたい

そして、今回初のアルバムが完成したわけですが、当初から書きたいテーマは決まっていたのですか?

テーマは決まっていました。僕は自分の悪いところばかりに目がいってしまう人間なので、同じような人に向けて歌いたいんです。自分自身のことが好きでなくても、なんとか自分を明日につないでいってもらいたい。僕自身が自分の人生をできればやめたくない。幸せで終わりたい。僕みたいな人でも歌を歌っていい、生きていてもいいというメッセージは伝えたいとずっと思っていました。

アルバムのタイトルは“燐光”ですが、なぜこのタイトルになったのか教えてください。

このタイトルにしたのは、光に関する曲が多かったからです。1曲目の「フォトン」は光の分子という意味で、次の「エピシタル」はもともと「傷だらけの光」という曲だったんですよ。3曲目の「赫々」も意味は太陽が昇って輝いてるさまのことで、4曲目の「夜々」ももともとは“光の屈折”というタイトルでした。ただ、光といっても、僕が伝えたいのは表舞台で輝いてるような光ではないんです。燐光は物質が発する光で、暗くしないと光っているのか分からないくらい弱いものです。そういった光が弱い人に向かって歌いたい。あと、“燐”が少し“隣”という字に似てるんでですよ。“ひとりでいる人、苦しみの中にいる人の隣にいるようなアルバムになってくれたら”という想いでそのタイトルにしました。

まさに鍵さんがやりたい活動の方針が、アルバムのタイトルになっているんですね。1曲目の「フォトン」は普通でないことに引け目を感じながらも、生きることを諦めたくないと訴えている内容となっていますが、どういう経緯で出来上がった曲なのでしょうか?

最後に自分の想いを一番込めた曲を作りたいと思ってできたのが「フォトン」なんです。アルバムで伝えたいメッセージがこもっているので、長い曲なんですが最初に聴いてもらいたくて。それで1曲目に持ってきました。

2曲目は“エピシタル”というタイトルですが、言葉の意味を調べてみても該当するものが見つからなくて。

“エピシタル”は造語ですね。幼い時にガラスの破片を拾って集めていて、それを友達と“エピシタル”という名前で呼んでいたんですよ。

そうだったんですね!?

そのエピソードをレコーディング中に話したら、“その話、いいね”となって。傷が入ったガラスに、僕が歌いたい人が重なったというか。僕が大切に思っている人がいるんですけど、その人は過去につらい出来事があって、自分を傷つけてしまっていたんです。でも、僕はその傷があったからこそ生きてこられたんだと思っているんです。ただつらいだけの曲ではなく、少し明るいものを伝えられたらという気持ちも込めています。次の「赫々」も「エピシタル」と同様です。自分を傷つけてしまうのは悲しいことですが、その傷もちゃんと肯定できるってことを曲にしたかったんです。

5曲目の「希求と供給」は、愛されない悲しみ、愛を欲する気持ちが正直に綴られています。どういった想いで作られたのでしょうか?

これは僕から見た母に対する曲です。僕の母は子供に対してあまり干渉しなくて。それで寂しい想いをしてきたんで、きっと同じような人もいると思い、そういった人に届いてほしいという願いを込めて、僕自身のことを歌おうと決めました。僕自身の歌ではあるんですけど、誰かに向けた曲でもあります。世の中にはたくさんの音楽があふれていますが、その中でも本当に小さいところに向けて歌う人は少なくて。僕にとってはそれでも世界が続くならがそうだったんで、大きなものですくった時にこぼれてしまった人たちに対して歌いたいし、歌える自分になりたい。それでも世界が続くならとの出会いが、僕の楽曲の方針になっていると思います。

「告白」は《僕も君も強くはないけど それでよかったんだな》と歌っていますが、この曲を最後にした意図を教えていただけますか。

この曲ではまだあまり自分自身を肯定できていなくて、相手がいるから自分が許されるかたちの曲になっていて。僕自身がそれに当てはまっているんですよ。大切な人がいるから僕も生きていたいし、その大切な人が僕に生きていってほしいと言ってくれたので、僕もその人のために生きていたいと思っているんです。ただ、まだ僕の中では解消しきれてない状態の曲なので、それをループで聴いてもらえるように、最後にしたというか。最初に戻ってもらうために、「告白」を最後に配置しました。

ちなみに鍵さんはMVなどでイラストも描いていますが、絵を描くことは昔から得意だったのですか?

絵についても、父が絵を描く関係の仕事をしていたんです。それで僕も小学校の時は美術の成績が良くて。子供の時は絵描きになりたいと思っていました。でも、家庭が崩壊した問題もありまして、“自分にはできない”と諦めてしまったんです。ただ、それでも絵を描くことは好きで、続けていたという感じです。

その絵は他の人に見せたりしていたのですか?

たまにTwitterに載せたりしていました。Twitterが自分のやりたいことを吐き出す場所になっていたと思います。学校に行っていなかったから友達が全然いないんですよ。なので、フォロワーさんのほうが僕のことを知っていてくれているかなと。引きこもっている人たちには、SNSをやって自分のことを曝け出してみると、案外と自分のことを見てくれる人はいるってことを伝えたいです。

ご自身にとって初のアルバムは、どんな作品になったと思われますか?

このアルバムは不完全な状態ででてきたものだと思っています。ただ、その不完全さは悪いことだとはとらえていません。人は何かしら欠点も悩みもあって、そういったものを許したい。僕自身、まだまだまだ不完全であるからこそ、もっと自分を研ぎ澄ましていきたいと思っています。

これからどんなことに挑戦していきたいですか?

このアルバムを作ったことで、僕の中ではひとつ区切りができました。ただ僕は不完全であって、それが許されるということが伝わってこそだと思うんです。だから、僕は不格好なまま、不完全なままで音楽を続けることで、それが伝えられればいいなと考えています。ライヴもこれから続けていって、ダイレクトに僕を見てもらいたいと思いますし、アルバムに込めたメッセージを届けたい。これから自分を肯定できる曲をもっと作って、僕自身が人生を歩いていくさまを見てもらえるように活動を続けていきたいです。

取材:キャベトンコ

配信アルバム『燐光』2023年3月9日配信リリース YouSpica alpha

【ライヴ情報】

『反撃文化祭実行委員presents「反撃文化祭2 〜アライ実行委員長がやるって言ってたよ〜」』
3/05(日) 東京・吉祥寺daydream
※出演者多数

『それでも世界が続くなら篠塚将行ONE-MAN LIVE 2023「白昼夢から覚めるまで 〜もう一人で名古屋に行く〜」』
3/10(金) 愛知・名古屋 鑪ら場
出演:篠塚将行(それでも世界が続くなら)
オープニングアクト:鍵、shinkai

鍵 プロフィール

カギ:2023年1月1日にMV「フォトン」の発表を機に正式に活動を開始した、インターネット在住の匿名シンガーソングライター。Twitterのアカウント名だった“鍵”がそのままアーティスト名となった。22年7月より作曲を開始し、同年9月の初ライヴでそれでも世界が続くならの篠塚将行に“技術や小手先ではない、不器用という名の心の伝達率と成長する姿そのものが、本物のアートを生んでいる人”と評され、23年3月にそれでも世界が続くなら主催レーベル『You Spica』の育成/配信部門『YouSpica alpha』より1st アルバム『燐光』でデビュー。今後はリアルでのライヴ活動も定期的に行なっていく。 鍵 オフィシャルTwitter

「フォトン」MV

OKMusic編集部

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