L→R 水野良樹(HIROBA)、橋本愛

L→R 水野良樹(HIROBA)、橋本愛

【HIROBA×橋本愛 インタビュー】
HIROBAは自分が今まで
出会ってないものと出会える

自信を持って自分たちで
作ったものが好きだと話せる

そして、おふたりのやりとりが始まっていったわけですけど、HIROBAは歌詞が先のことが多いんですか?

水野
参加いただいたアーティストさんに歌詞を書いていただく場合は詞先のほうが多いかもしれないですね。今回の橋本さんの場合は特殊でした。僕が小説(清志まれ『おもいでがまっている』(文藝春秋)/3月22日発売)を書いていまして、その小説に曲をつけたい、曲を生み出したいと思っていたので、本当ならその書き上がった小説をお渡ししたほうがいいんですけど、作詞を依頼したタイミングではプロットの状態で。なので、そのプロットを読んでいただいて内容をコピーするのではなく、“ここで感じたことやご自身が考えていたことを含めて、新しい歌詞を作っていただきたいです”という投げ方をして、一緒に作っていった感じですね。結果的に橋本さんに詞を書いていただいてからメロディーをつけました。そこから2カ月間くらいかけて何度もキャッチボールをしましたね。

橋本さんは水野さんからのプロットを最初に受け取った時、どんな感想を抱かれましたか?

橋本
読後に自然と涙が出たんです。スッと涙が流れて。すごく感動しました。
水野
今、小さくガッツポーズしちゃいました(笑)。
橋本
(笑)。本当にプロットなんですけど、一冊の小説を読み終わったような読後感があって。感動したと同時に…春の風みたいな、すごくさわやかなものが自分の中に満ちていくのを感じて、“曲にするのならこの春の匂いや、この読後感を曲にも閉じ込めたい”という気持ちが最初に湧いてきました。

水野さんはガッツポーズをされてましたけど、“しっかりと伝わった”という感じでしょうね。

水野
そうですね。それと同時に小説が書き上がったばっかりなんですけど、“プロットのほうが良かったです”って言われたらと思ってドキドキしています(笑)。この小説の大もとというか、自分なりのヒントになったのが鷲田清一さんの『「待つ」ということ』で、それについても“これを参考文献にしました”と橋本さんにお伝えしたら、しっかりと読み込んでくれて。“待つ”というのがキーワードなんですけど、お互いにテーマを擦り合わせながら言葉でやりとりをしていった感じでしたね。

一作品を読んで、それに対するインプレッションを共有するのではなく、作者が書こうとしている小説の核となるもの、物語の最初の段階を共有するというのは面白いやり方ですね。

橋本
そうですね。一番最初から本当に真っさらな状態で歌詞を書くとなると、自分自身の話しか出てこなかったと思うんです。でも、水野さんはいっぱい材料を与えてくださって、その中で勝手に膨らんでいくもの、自然発生的に生まれてきたものを歌詞に落とし込めば良かったので、すごく助けられました。

なるほど。真っ白な状態なところには何を描いでいいか分からないけど、主線があればという感じですね。で、その橋本さんが歌詞を書いた「ただ いま」。歌詞の中の具体的な物語ははっきりと分からないのですが、逆に言うと物語を綴ったものではないということは明確だと思うんですね。そこはかなり意識されたのでしょうか?

橋本
物語を書こうとは思ってはいなかったです。物語は水野さんが小説で書かれていて、すでにあるものですし。水野さんのプロットと『「待つ」ということ』という文献を材料にして歌詞を作るにしても、そのふたつのコピーになってしまっては何の意味もないので、それにプラスアルファとして、自分自身からしか生まれないものをうまくミックスさせられれば、“ちゃんとオリジナルのものです”と言えるんじゃないかと思いました。

個人的には説明過多じゃないところが映画的だと思いましたね。シーンとシーンとの間を説明せずにそれを聴き手に想像させるような手法なのかなと。

橋本
なるほど。
水野
第一稿は表現されている部分がもうちょっと長かったんですよ。それこそシーンの数で言えば、もうちょっと多かったかもしれないです。ですが、やりとりをする中で彼女がどんどん削ぎ落としていくんですね。“これは無駄なんじゃないかな?”とか“ちょっと蛇足になるんじゃないかな?”って。その判断がすごく潔くて的確で。今、おっしゃったとおり、聴き手に想像させるかのように、聴き手の考える余地がある、そういう素敵な曲になったんじゃないかと思いますね。

かつてにかなり大きな喪失があったことを想像させつつも、決してネガティブなままにしていないという印象もあります。先ほど、橋本さんは“春の風”とおっしゃられましたが、その辺がまさにさわやかだと思います。

橋本
嬉しいです(笑)。そんなふうに受け取ってくださって。

確認しますが、歌詞を書かれたのは「ただ いま(with 橋本愛)」が初めてなんですよね?

橋本
初めてなんです。でも、本当に助けていただいたので。

この歌詞は前向きな内容ではあると思いました。前向きと言っても、それは闇雲な前向きさではなくて。その辺は水野さんの小説にも関係しているのでしょう。そして、橋本さんの歌詞がある程度出来上がった段階で、水野さんがそれにメロディーをつけたのですか?

水野
実は第一稿にメロディーをつけて、それを橋本さんに返して、そこから歌詞の修正をしてもらったものに合わせてメロディーの変更もしました。なので、一緒に砂山を整えるみたいな作業をずっとやっていましたね。

そうでしたか。そうしますと、歌への感情の込め方といったものも、これまでとは違ったのでないですか?

橋本
全然違いましたね。今まで歌った曲は歌詞にしてもメロディーにしても、“みなさんが作ってくださったものをどう歌うか?”を工夫するだけで良かったんですけど、今回は歌詞もメロディーも自分で気になったところをやりとりさせていただいて、その上で歌も工夫したからこそ、考えることも多かったです。あと、歌う時の感覚が“この曲は自分の身体に全て入っているから何の心配もない”という感じ。緊張はしているんですが、どこかで大丈夫だという安堵感みたいなものを持ちながら臨めたことはすごく大きかったですね。

「ただ いま」のメロディー、サウンド面について、橋本さんはどんな印象をお持ちですか?

橋本
本当に抽象的で申し訳なかったんですけど、音楽作りの工程の中で、“とにかく春の風の匂いがする楽曲にしたい”という、本当に面倒な提案と気持ちを伝えさせていただいて(苦笑)。結果的には、まさにそうなったと思います。
水野
僕が最初に作ったデモではサビ前にもうちょっと“これからサビに入りますよ”的な展開を少し作ってあったんですけど、“もっとすんなりとサビに行ったほうがいいんじゃないか”みたいな的確な提案をくれて。“春の風の匂い”というのも抽象的な言葉のように思えますけど、僕のデモで最後にフレーズがリフレインしていくところを指して、“桜の花びらが散っていくようなイメージが好きです”とおっしゃってくれたんですよ。その辺をサウンドプロデュースしてくれた鈴木正人さんにも“この繊細さをうまく保ったバンドサウンドにしてほしい”とお伝えできて。なので、橋本さんはすごく的確なことを言ってくださいましたね。
橋本
嬉しいです。

絶妙に不安定なサウンドが風景や場面を想像させるところでもありますし、緊張感もめちゃめちゃありますよね。おふたりでやりとりを重ねる中でこういう楽曲が生まれたことは、何よりも喜ばしいことでないかなと想像しますが、こうして完成してリリースを待つ今のお気持ちはいかがでしょうか?

橋本
こうやって取材を受けさせていただく時も、ちゃんと自信を持って自分たちで作ったものが好きだという気持ちを持ってお話できることが嬉しいですし、本当に心から早く聴いてほしいと思えるものが出来上がったことがとても嬉しいと思います。

OKMusic編集部

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