ロバート・パーマーが誰よりも早く
ニューオリンズ・ファンクに
挑んだ傑作
『スニーキン・サリー・
スルー・ジ・アリー』

ローウェル・ジョージ
(リトル・フィート)の才気、
ミーターズの熱気、端正なパーマーの
センスが結実した傑作

冒頭のリトル・フィートの「セイリング・シューズ」のカバーでいきなり掴まれる。これはパーマーの希望で演ることになったのだろうか。オリジナルのリトル・フィートのバージョンに比べて、多分にセカンドラインのファンクビートを意識した作りで、ドシンと腰に来る後打ちのリズムがやたらかっこいいのだ。リトル・フィートのほうは72年リリースのアルバムのタイトルチューンで、もっとゆったりしたテンポで、ローウェル・ジョージのスライドギターが冴えるアーシーなアコースティックサウンドだった。パーマーはローウェルと対話しながら、この曲のアレンジを苦心したのだろうが、これはほんとうに素晴らしい。ローウェルはギターで参加しているが、控えめに、だが耳をすますといかにも彼らしいスライドが左から聞こえてくる。コーラスとベースだけのエンディングからそのまま次曲、パーマーのオリジナル「ヘイ・ジュリア」に続く。そして継ぎ目なく「スニーキン・サリー・スルー・ジ・アリー」(アラン・トゥーサン作)がスタートする。バックは1曲目に続きミーターズがつとめており、その格好良さったらない。また、この3曲をシームレスにつなぐ編集センスがなんとも見事なのだ。4曲目の「ゲット・アウトサイド」からニューヨークのリズムセクションがバックをつとめる。となると、シャープに切れるフュージョンサウンドかと思いきや、この曲も微妙に南部系のサウンドにまとめられている。パーマーのヴォーカルも黒い。続く「ブラックメイル」がパーマーとローウェルの共作で、だからなのかバックはニューヨーク組ながら、これまたニューオリンズ風のファンキーなサウンドで、ゴードン・エドワーズのベースラインが独得のグルーヴを生むなか、ホーンセクションとバックの女性コーラスが盛り上げる熱いナンバーに仕上がっている。

LP時代は「ハウ・マッチ・ファン」 からB面に移る。これまたニューオーリンズ・ファンクを意識したとおぼしき、イントロからドクター・ジョン、プロフェッサー・ロングヘアが弾いていそうなローリング・ピアノ、そしてミーターズが弾き出すビートが作るセカンドラインのうねり、そこに女性コーラスが絡むなか、パーマーがソウルシンガー然とした持ち味たっぷりに熱く歌う。そして、熱気が冷めやらぬまま、続くアラン・トゥーサン作の「フロム・ア・ウィスパー・トゥ・ア・スクリーム」もバックはザ・ミーターズとローウェルが固める。スケール感のあるゆったりとしたナンバーで、ワウワウペダルを使ったギターはノセンテリだろう。その上を這うようにローウェルがスライドを滑らせる。このコンビネーションも卒倒ものだ。そして、アルバム最後を飾るのはパーマーのオリジナルで12分を越えるジャム風の展開で聴かせる曲。セッションはニューヨーク組を中心に行われるが、ゴードン・エドワーズのシンプルだがよくうねるベースが全体を引っ張る中、ハモンドオルガンとエレピをスティーブ・ウィンウッドが弾いている。バーナード・パーディのドラムがスイッチを入れるように、後半はかなり熱いファンクジャムになる。ウィンウッドは時期的には自分のバンド、トラフィックの最後のアルバム『ホエン・ジ・イーグル・フライズ』(’74)を出す頃だが、そのアルバムでもここで聴けるようなファンク風のインプロヴィゼーションをやっている。パーマーのヴォーカルからはスライ&ファミリー・ストーンの影響も感じさせる。

アルバムはビルボード200で最高位107位、シングルカットの「Get Outside」が105位、母国イギリスではチャートインしなかった…というと惨憺たる結果に終わったように聞こえるが、そんなことはない。下位ながらもアメリカではアルバムは15週にわたってチャートに入ってその後の根強いファンを獲得したし、何よりパーマーは評論家筋に高い評価を得ることになった。これは始まりであったのだ。

OKMusic編集部

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