【ポップしなないで インタビュー】
聴いてくれた人の
一部になるようなものを作りたい
私たちが今まで持っていたものも
削ることなく作れた
「どうすんの?」はジャジーな要素があり、ライヴでも場の雰囲気がガラッ変わるのが印象的です。
かわむら
この曲は昨年の春くらいにできていたので、3月のLIQUIDROOM公演からライヴでやっていましたね。本当はもうちょっと自分の中でクールな打ち込みの曲にしたいと思っていたんですよ。ただ、歌の精神性とかサビのメッセージを考えていった時に、どんどん有機的なサウンドにしたくなって、結局は生ベース生ギター、ピアノヴォーカルが入ってきました。試行錯誤的にライヴでやるようになって、最終的にはライヴで育った曲になりましたね。だって、ライヴでやり始めた時にはアレンジも定まっていなかったよね?
かめがい
そうだった気がするし、私はこの曲のピアノはかなり苦労しました。低音のメロディックなところを作ってみたり、音数を限りなく少なくするけど、そのぶん音の詰みを面白くするとか、個人的には今までとは違うアプローチをしています。
かわむら
すごくイージーな曲を作ろうとしたら、すごく難しかったよね。そこはサポートベースのカワノアキさんとギターの山内かなえさんがほぼ作曲に参加してもらうくらいに入ってもらって。ライヴを前提に出来上がった曲ですね。
また、「不登校少年少女」のストーリー調だけど、すごく現実味を感じる歌詞も印象に残っています。毎日ピアノを練習している女の子と、家にいる時にその音が聴こえてくる男の子がいて、《もしも君がピアノをやめたら/君に聞こえるような手拍子を/ありがとうの花束を》という歌詞がありますが、ピアノを続けている限りはお互い接点がないという。
かめがい
この曲は2017年の1月に新曲って言っていたみたいだよ。6年前か。
かわむら
その時は今よりもストーリー調の曲をやりたいと思っていた時期だったので、その時の精神性でできた歌詞ではあるんですけど、すごく今の自分たちにハマる内容だと思ったんですよね。お話を作りたくて音楽をやっているわけではないですし、ストーリーに現実を入れ込んでいるというよりかは、自分たちの言いたいことを伝えるために考えて、結果的にストーリーが生まれているのが現状で。
かめがい
こういうストーリー調の歌詞は「ロケットダンサー」(2016年12月発表のアルバム『Faster, POP! Kill! Kill!』収録)とか初期の曲に多いかもね。
そして、最後に収録された「火花」は“セカイ系おしゃべりPOP”を掲げているバンドの曲とは予測できないくらい雄大な一曲で、神秘的なコーラスとピアノとドラムの迫力に驚きました。和テイストな歌も力強く、《垂れた命が灯りとなって/永遠に灯りますように》というポップしなないでの願いにも似た意気込みを感じます。
かわむら
最後は我慢できなくてしゃべっちゃいましたけど。この曲はほぼかめがいさんが作った曲なんです。
かめがい
昨年の11月に喉の手術をしていたので、1カ月半くらいはまともに歌うことができなくて。でも、アルバムのRECが近づいてきていることもあって曲を作ろうとしたんですけど、声が出ないと歌モノを作るのがすごく難しかったんです。メロディーを一切歌えない中、それを頭で補うことが私はできなくて、最初はインストのつもりで作っていました。ピアノが完全にできた状態で、そこにドラムだけ入るイメージでかわむらくんに送ったんですよ。そしたら、かわむらくんが“ここに歌詞を乗っけたほうがいいんじゃない?”ということで、歌詞は書いてもらいました。ピアニックな曲だけど、自分の中では世界観のある感じで作りつつ、ちょっと現実世界ではないようなイメージがありました。
かわむら
曲作りの方法も最近はいろんなことができるようになっていたんですけど、この曲はかめがいさんのアイディアをスタジオで合わせて、そこに歌が乗って、タイトルがつくという原初の曲作りのやり方でできましたね。
かわむらさんは最初にピアノだけの曲を聴いてどんな印象を持ったのでしょうか?
かわむら
ピアノだけの状態で送られてきた音源が単純にめちゃくちゃ良かったんですよ。インストで考えてはいたんですけど、一緒にスタジオで演奏した時に、あまりにイメージが湧いて、それはライヴでのイメージもそうだし、音源でもそう。ここで歌ったら気持ち良いし、カッコ良いということで歌詞を書きました。それまでは喉の手術をしてから、完全なるプー太郎状態で心配だったんですけど。
かめがい
ちゃんと曲を作ってきて良かったね(笑)。声が出せないと何もできないから、自分の価値を見失っていくんですよね。社会に貢献ができるわけでもなく、万が一誰かに迷惑をかけたらどうしようと思うとなかなか外にも出られなかったですし、“私って何なんだろう?”と思っていたところがあって。少ししたら声が出せるようにはなるんですけどね。そんな時にできた曲で、自分にあるものを再発見したというか、前に進むというよりも“それでもいいか”と思って作った曲でした。だから、声が出せていたらできなかった曲だと思います。
「火花」を聴き終えた時、このアルバムに奮い立たせられたような気持ちになりました。おふたりにとってはどんな作品になりましたか?
かわむら
僕は音楽をひとつの記憶装置だと考えていて、誰かにとってそういう存在の作品になったら、いいアルバムの証だと思うんです。“あの期間、ずっとあのアルバムを聴いていたな”とか、しっかりとその人とともに歩んでいけるアルバムになったらいいなと思います。
かめがい
“自分がこう思うから”だけのところから一歩前に進んで、“自分の思っているものを伝えるのはどうしたらいいのか?”ってことを考えて作ったアルバムです。音楽は自分たちと聴いてくれる人をつなぐ唯一の方法だと思うので、尖りきったものをぶっ刺すというより、一緒に感じやすい方法を考えながら、私たちが今まで持っていたものも削ることなく作れたと思うので、自分なりに一歩進めた一枚になったと思います。
取材:千々和香苗
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アルバム『戦略的生存』2023年2月22日発売
日本コロムビア
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『ポップしなないで presents 「合言葉はトキメキ」ツアー』
3/25(土) 福岡・Queblick
w)超能力戦士ドリアン
3/26(日) 宮城・仙台spaceZero
w)板歯目
4/02(日) 北海道・札幌Crazy Monkey
w)和田輪
4/08(土) 大阪・アメリカ村DROP
w)塩入冬湖
4/09(日) 愛知・名古屋CLUB UPSET
w)ネクライトーキー
4/22(土) 東京・LIQUIDROOM
※ワンマン
ポップしなないで:2015年結成のかめがいあやこ(Key&Vo)、かわむら(Dr)による、セカイ系おしゃべりPOP。かわむらの作るどこか寂しげだが前向きな歌詞世界と、かめがいの表情豊かでクセの強い魅力的なヴォーカルで、ミニマムな構成ながら完成された音楽性を持つ。独自の楽曲哲学に沿ったMVや、確かな表現力により世界観を再現するライヴパフォーマンスが話題となっている。23年2月に日本コロムビアよりメジャー1stアルバム『戦略的生存』を発表した。ポップしなないで オフィシャルHP
「ローリンソウル・ハッピーデイズ」
MV
「UFOを呼ぶダンス」MV
「月の踊り子」MV