L→R かめがいあやこ(Vo&Key)、かわむら(Dr)

L→R かめがいあやこ(Vo&Key)、かわむら(Dr)

【ポップしなないで インタビュー】
聴いてくれた人の
一部になるようなものを作りたい

無邪気さと切なさを併せ持つポップしなないでが、アルバム『戦略的生存』で日本コロムビアよりメジャーデビューを果たす。言葉数の多い歌詞がドラマチックに駆け抜ける痛快な「ローリンソウル・ハッピーデイズ」からダイナミックなピアノに胸を打たれる「火花」まで、全12曲が隈なくリスナーの心を引き込むだろう。

その曲の世界に
巻き込まれていく感覚があった

前作ミニアルバム『美しく生きていたいだけ』(2021年12月)はポップしなないでが持つ痛みや切なさを生々しく感じた作品でしたが、今作『戦略的生存』はそういった部分がありながら、サウンド的にかなり弾みのある仕上がりに感じました。CDとしては1年振りのリリースですが、制作に取りかかる際の心境の変化はありましたか?

かわむら
メジャーデビューってやっぱりいろんな人が喜んでくれて、後押ししてくれるきっかけになるもので、喜んでもらえることがすごく嬉しかったです。このタイミングで自分に向き合うということだけを追求するよりも、その音楽を聴いてくれた人の一部になるようなものを作りたいというのは改めて思いました。ポップしなないでの音楽は言葉がベースにあって、その言葉は内向的というか、痛みやしんどい気持ちを見つめ直すってところがあると思うんです。でも、聴いてくれた人の一部になるためには独りよがりではなく、誰かの人生の一部分を切り取るようなサウンドであるべきだなと。それがポップしなないでの音楽とどう親和するのかってことをすごく考えて作りました。聴いてもらった時にしっかりと残るサウンドっていうのは、常に心がけていたと思います。
かめがい
歌で言うと私は心のままに歌うところがあるんですけど、今回はそれだけじゃなく狙いを定めて、“どう歌いたいか?”“どう歌うべきか?”みたいな、外側を固めた上で戦えるようになった気がしています。

一曲一曲の出だしの掴みがしっかりしていて、全曲余すことなく序盤から引き込まれました。

かわむら
自分のポップス論としては出だしが一番大事というか、出だしがちゃんとしたキャラクターになっている曲が好きなんですよね。それはCDの試聴機から音楽を聴いていた世代だからなのか分からないですけど、頭から“この曲だ!”と分かるものが好きなので、全ての曲においてキャラクターをつけているつもりです。もうちょっと自分が成長したら、ヌルッと始まる曲もできるのかもしれないですけどね。

1曲目の「ローリンソウル・ハッピーデイズ」はTVアニメ『農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。』(以下、『農民関連』)のEDテーマとして書き下ろされた曲ですが、アルバムではこの曲の爽快感がしっかりオープニング曲と化しているのも面白いです。

かわむら
タイアップありきでの制作ではあったんですけど、『農民関連』のチームの方が伸び伸びとやらせてくれたので、自分たちのやりたいことをぶつけられて、一緒に協力して作れたような気がしているんです。自分たちのサウンドや言いたいことと『農民関連』のマインドをかけ合わせて、お互いが得をするように作れたような。書き下ろしじゃなかったらここまで振りきれなかったかもしれないという部分もあります。改めて聴いた時に、“これはアルバムの1曲目だ”と思いましたね。

言葉数が多いのに、曲で聴くとあっと言う間に駆け抜ける感じはポップしなないでらしさでもありますね。

かめがい
特にこの歌詞はうんざりするくらいに(笑)。4曲分くらいあります。

「衛星十七号」はピアノとヴォーカルのクールな入りに引き込まれつつ、シナリオどおりに成功するはずだと思っていたロケットが海に落ちてしまうというサビの描写が印象的で、そのサビが何度も繰り返されるのを聴いていると、ポップしなないでの歩みを表現しているかのように感じました。

かわむら
メジャーデビューだからってどんどん洗練されていく感じにはしたくなくて。自分たちの過去のサウンドやマインドから引っ張っていきたい気持ちがあり、それを落とし込んだ曲ではありますね。
かめがい
私は結構歌詞を文字どおりに受け取るタイプなので、「衛星十七号」で言えば本当に衛星があって、ロケットはロケットで、それが飛び立つのを信じている人がいる…自分の体験に置き換えるのではなく、その曲の中で生きているイメージがあるんです。だから、自分自身とは別に主人公の感情や芯が強くあって、それになりきる感覚で歌っていたんですけど、この曲ではそこに自分が巻き込まれていく状態になるというか…サウンドもそういうふうに感じられるかもしれないんですけど、自分から離れて、その曲の世界に巻き込まれていく感覚があったのは自分の中で発見でした。

サビの歌詞は同じまま進んでいきますが、最後のほうの渦の中に潜っていくような感じは、出だしで聴いたサビにはまったくなかったものでした。ところで、「メデューサ」「でいだら」と怪物がタイトルになっており、さらに「地獄快速」にはゾンビが出てきますが、今作はなぜこんなに怪物が多いのでしょうか?

かわむら
この一年間での僕の気持ちによるものですけど、人間もいわゆる化物と紙一重だと思っているんですよ。見たものを石にするような特殊能力があるわけではないですし、実際に体が腐り落ちているわけでもないんですけど、精神性や生き方とか、考え方についてはそれぞれの化物みたいだなと。そういう意味で人間ではないものと人間を重ね合わせるというのは、フランクに自分の中でしっくりきたんですよね。

そんな「メデューサ」は陶酔感があり、その透明感に酔いしれるような感覚でした。

かわむら
この曲は結構作るのに試行錯誤しました。透明感と安っぽさはすごく似ていて、危ないバランスだと思っていますし、サウンドの調整はすごく難しかったんですけど、最終的には“ポップしなないでの音楽を伝える新しいサウンド”というところでシンプルにしようと思っていたのでこれに至りました。
かめがい
サビとAメロ、Bメロでサウンドが違うし、歌声も別モノに聴こえるかも知れないんですけど、私の中ではつながったままで、新鮮な気持ちでも歌えたし、根底にあるポップしなないでらしさはしっかり敷かれた曲ではあると思います。

続く「地獄快速」はシティポップ感があり、歌詞に《ゾンビだらけの東京》とありますが、東京を言い表す楽曲で舞台になるのは渋谷や新宿が多いイメージなのに、この曲では《錦糸町に新小岩》なのはなぜですか?

かわむら
“東京”と聞くと、みなさんぼんやりとした東京のイメージを思い浮かべると思うんですけど、東京に住んでいる人間は東京駅を思い浮かべると思うんです。で、東京駅と言ったら? そう、あの青い電車、総武線快速。総武線快速って独特な空気がありますよね。“なぜこんなに地下に行かないといけないんだ?”っていう。他はみんなJRで同じ階なのに、総武線快速に乗る人だけホームが奥深くにある。

確かにそうですね。

かわむら
自分の送別会みたいなもので死ぬほど酔っ払ったことがあって、餞別としてもらった…もらった覚えのないチューバッカのフィギュアを枕にして、東京駅の総武線快速のホームで寝ていたことがあったんですよ。その時にすごく東京を感じました。だから、みんなもっとしっかりとイメージをして東京を歌うべきだと思っています。
かめがい
タイトルのとおりに快速なんだね。私は地上の各停の駅を想像していたから、NewDaysがあったな。
L→R かめがいあやこ(Vo&Key)、かわむら(Dr)
アルバム『戦略的生存』

OKMusic編集部

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