『ONE PIECE』104巻

『ONE PIECE』104巻

マンガ『ONE PIECE』全巻を読んでレ
ビューしてみた

 1997年の連載開始から25年を超え、大人気のまま邁進するマンガ『ONE PIECE』。フィリピンのルフィも逮捕されたことだし、途中で飽きてドロップアウトした読者のためにも単行本を全部読んで、内容をまとめてみた。
とはいえ、まとめても長い。
1〜10巻「東の海編」 世にも珍しい「悪魔の実」を食べ、ゴム人間になった少年ルフィ。特殊能力を得た代わりにカナヅチになったルフィを助けるため、海獣に片腕を食いちぎられる海賊シャンクス。名のある海賊団の船長がザコキャラに腕を食われるとか、設定がテキトーすぎる。実際、10年後にルフィがこの海獣を一撃で倒している。
 海賊として出航したルフィは1巻でゾロ、3巻でナミ、5巻でウソップを仲間に。ちなみにウソップ登場時のエピソードは、イソップ童話『オオカミ少年』の丸パクり。7巻ではサンジが登場。赫足のゼフが空腹から自分の足を切断して食べるシーンは、少年漫画としては発禁レベルに残酷。
 序盤の中ボス、魚人族のアーロンが登場する8〜11巻では、重すぎる奉貢(税金)や韓国のウリナラ思想を思わせる種族主義などが背景に。少年漫画に社会問題を持ち込むという作者の説教臭さが早くも現れている。そのくせ、村を丸々買い取るという私欲のために多くの人を騙し、金品を盗んできたナミをヒーローサイドで描くという理不尽。盗品を政府の役人に没収されて逆ギレするナミだが、「罪人が偉そうな口をたたくな」という役人の主張が正論。
 窮地に陥ったナミは、泣きながら「ルフィ…助けて」と懇願。平成の毒婦・木嶋佳苗ばりの名演技に騙され、船員の命をも危険に晒してアーロンに挑むルフィ。血まみれになって戦う麦わらの一味の姿をただ見物しているだけの村人もナミに負けず劣らずのクズ人間。

11〜20巻「東の海編」「アラバスタ編」 アーロン一味を倒し、グランドラインへ向けて出航する面々。最初の目的地、ローグタウンへ着くと、かつて倒したバギーにあっさり捕らえられるルフィ。死刑台で首を斬られる寸前、笑いながら「わりい おれ死んだ」とこれまたあっさり。死にものぐるいでアーロンとしぶとく戦った男とは思えない。かつて処刑寸前に笑ったゴールド・ロジャーと重ね合わせるためとはいえ、この無抵抗ぶりはあまりに不自然。
 ローグタウンを抜け出したのち、12巻でウイスキーピーク、13巻でリトルガーデンに立ち寄り、15巻でドラム島へ。ここで「ヒトヒトの実」を食べたトナカイのチョッパーと出会う。
 気になるのは、当初は極めて珍しい品として描かれていた悪魔の実が、千疋屋のフルーツぐらいのレア度になっていること。主要キャラになるチョッパーはいいとして、単なる守備隊隊長のドルトンが「ウシウシの実」の能力者というのは扱いが軽すぎ。しかもわざわざ能力者にしておきながら、ドルトンが牛に変身して力を活用するのは、馬から降りて自分の足で走るときぐらい。そもそも、牛より馬の足の方が早いのでは?
 作品の人気が出て調子に乗ったか、設定や展開の雑さが目立ったのが15〜17巻辺り。苦悩のなか仲間入りを断るチョッパーに、「うるせエ!! いこう!!」というルフィのセリフも雑すぎ。いいセリフが思いつかなかったんですね、尾田先生。そして舞台はアラバスタ、クロコダイルとの戦いへ。

21〜30巻「アラバスタ編」「空島編」 アラバスタ乗っ取りを阻むため、クロコダイル&バロックワークスと戦う麦わらの一味。主人公が勝つのが既定路線とはいえ、世界政府も認める七武海のひとりを、出航してひと月少々のルーキーが倒すのはさすがに荒唐無稽。
 23巻、アラバスタに残るビビに向け、腕のバツ印を掲げるシーンはシンプルにダサい。こんなシーンに感動するのは、本作ファンの木村拓哉ぐらいだろう。24巻でロビンが仲間入りしたのち、上昇海流に乗って空島に到着した一行。上層のスカイピアを支配する「ゴロゴロの実」の能力者・エネルらと対決する流れに。29巻、遺跡を壊しながら戦う神兵にブチ切れる考古学者のロビン。「二度としませんから…」と許しを請う神兵にも、「許さない」と怒りは収まらず。慈悲のかけらもなく、背骨を砕きながら崖から落として殺す残忍ぶり。誰も利用していない廃墟を壊すことより、暴力や人殺しの方が余程悪質に思えるのだが? 不祥事芸能人の謝罪にも耳を貸さず、正義の使者面して引退まで追い込む昨今のネット民のようだ。あげく死者に唾を吐きかけるがごとく、「ひどい事をするわ…」の捨て台詞。どっちが!?
 30巻ではルフィとエネルが直接対決。電気を通さないゴム人間のルフィは、エネルにとって唯一の天敵。「ほかの人もゴムで防御すればいいのに」というツッコミから逃げるためか、「この地にはゴムが存在しない」というセリフが言い訳臭くて実に見苦しい。

31〜40巻「空島編」「ウォーターセブン編」 400年前のグランドライン、のちに空島の一部となるジャヤへやってきた探検家のモンブラン・ノーランド。ジャヤでは深刻な疫病が蔓延していたが、住民たちは大蛇を神と崇めて生贄の女性を差し出すだけ。疫病の存在を説くノーランド一行を殺そうとするジャヤの住民たち。未開の部族民をことさら無知で野蛮に描いた差別的表現が不快。
 32巻、空島からグランドラインへ戻ってきた麦わらの一味。立ち寄った島でフォクシー海賊団と「デービーバックファイト」をすることに。空島編のような大きなエピソードが片付くと、あからさまに手抜きになるのが本作の特徴で、このフォクシー海賊団との対決はワンピース史上随一の駄作。1〜2話程度なら息抜きにもなるが、お笑い番組の対決ゲームのようなズッコケバトルを、15話(足かけ3巻)にわたってダラダラ続けられるとただただ退屈。
 34巻、ゴーイングメリー号の修理と船大工探しのために水の都ウォーターセブンへ。仲間の安全を確保するため、世界政府の諜報機関「CP9」の陰謀に手を貸すロビン。全世界すべての人間の命よりも仲間の命を優先するロビンの言動が感動的に描かれているが、教育上はいかがなものだろうか?
 40巻、CP9に連行されたロビンを助けるべく、ギアセカンドを発動するルフィ。「お前はもう…おれについて来れねェぞ」のセリフが中2病的でうすら寒い。木村拓哉ならやはり喜びそうなセリフだが、それこそが寒さの証左。

41〜50巻「ウォーターセブン編」「スリラーバーク・シャボンディ編」 司法の塔に立つ旗を撃ち抜き、世界政府に宣戦布告する麦わら海賊団。ロビンにかけられた手錠を外すため、船員とフランキーそれぞれがCP9メンバーと対決。剣士のゾロや改造人間のフランキーがCP9に対抗できるのはいいとして、ただの調理人のサンジが生身の蹴りだけでゾオン系能力者のCP9を倒すのは説得力に欠ける。高速回転による摩擦で打撃に高熱を加える「悪魔風脚(ディアブルジャンプ)」が必殺技として描かれているが、「一番熱いの、サンジ本人じゃないんですか?」という小学生読者の疑問にはどうやって答えるつもりなのだろう。オハラを壊滅させたというバスターコールを受けても、エニエスロビーに乗り込んだ全員が助かるというのも無理がある。
 45巻、ウォーターセブンに戻った一行は、新たにフランキーを仲間に加えて魚人島に向け出航。その途中のスリラーバーグで七武海のゲッコーモリアを倒すが、戦い直後、これも七武海のバーソロミュー・くまが出現。ルフィの代わりに自分の首を差し出すゾロに、「これで麦わらに手を出せば 恥をかくのはおれだな」といとも簡単に了承。
 34巻でルフィとの一騎打ちを受け、「他の奴らに手を出せばヤボだな」と引き下がる青キジ同様、この程度の理由で見逃すのはぬるすぎない?
51〜60巻「スリラーバーク・シャボンディ編」「インペルダウン・マリンフォード編」 魚人島へ向かう途中、人魚のケイミーを人身売買集団「トビウオライダーズ」から救うルフィたち。戦闘機のように空を飛び回る魚に乗った人身売買集団は、魚ごと体当たりで突っ込む特攻を仕掛けてくる。この戦法を作者は「ゼロファイト」と表現。これは第二次世界大戦時の「日の丸特攻隊」と「零式戦闘機(通称ゼロ戦)」をモチーフとしているのはあきらか。現実にあった悲しい歴史をコミカルな漫画に用いるのは、さすがに不謹慎甚だしい。
 シャボンディ諸島で再び人身売買集団に捕らえられ、奴隷を売買する「人間オークション」に出品されてしまうケイミー。ネタにつまるとすぐに社会的な問題を持ち出す作者の悪い癖がまたしても発動。その後に訪れる女ヶ島のエピソードも含めて、人種差別、選民思想、人身売買、奴隷制度などが題材になっている。子供たちに偏った認識を植え付けないためにも、社会問題を安易に取り扱うのはほどほどにして欲しい。
 54巻、兄・エースの危機を知ったルフィは、大監獄インペルダウンを経て海軍本部のあるマリンフォードへ。海軍、七武海、白ひげ海賊団らが入り乱れる「頂上戦争」のなかからエースを救い出すも、大将・赤犬の攻撃からルフィをかばったエースはその場で死亡。白目をむいて精神が崩壊するルフィの姿とともに、子供たちの心にトラウマを作るショッキングなシーン。

61〜70巻「インペルダウン・マリンフォード編」「魚人島・パンクハザード編」 ルフィからの暗号を理解し、2年後に再集結した麦わらの一味。それぞれの成長を見せつつ、到着したのは魚人島。61〜66巻に渡って展開する魚人島編では、人間との友好を望む魚人と、恨みを抱えたまま人間を敵視する魚人との、魚人同士の分断がテーマ。連載当時、とかく取り上げられていた日韓関係がモチーフであるのは言うまでもない。人間への復讐心に突き動かされるホーディに、直接人間から酷い目を受けた実体験はなく、上の世代から聞かせられた怨念を受け継いでいるだけという点も、韓国の若者層とダブる。
 もともと文字量多めのワンピースだが、こうした小難しい題材を扱う際には、さらに文字が増えて読む気が失せる。大量の文字を使わないと伝えられないのなら、漫画という表現手法はふさわしくないのでは? 66〜70巻のパンクローザ編でも、化学兵器、人体実験、児童虐待、覚せい剤など、現代社会とリンクするテーマがてんこ盛りで、説明台詞もびっしり。ページを開いただけでウンザリするし、重い話で読んでいると気分が陰鬱としてくる。

71〜80巻「ドレスローザ編」 71巻から丸々10巻分続くドレスローザ編。終盤のルフィvsドフラミンゴの最終対決こそジャンプの冒険漫画らしい内容だが、全体的には「差別」や「迫害」といったヘビーな話がしつこいぐらいに続く。ヴィランサイドのドフラミンゴは、元々「天竜人」として生まれたが、父親がその地位を放棄したため一般市民から非人道的な迫害に遭う。その恨みは父親にも向き、自らの手で父親を射殺。兄の異常な凶暴性に気づき、海軍のスパイとなって止めようとした弟のコラソンも射殺。
 一方、ヒーローサイドのローも、有害物質が原因で発症する病気のせいで医者からも拒絶されるほどの差別と迫害を受けて育つ。要は、どっちがより酷い目に遭ってきたかを競う不幸自慢のような戦い。作者としては、ヘビーな問題を漫画にして考えさせているつもりなのかもしれないが、「勧善懲悪」というステレオタイプの答えしか出さないなかでは、逆に問題を矮小化させる自慰行為でしかない。

81〜90巻「ゾウ・ホールケーキアイランド編」 ゾウでナミたちと合流したルフィだが、サンジだけはビッグ・マムの娘と政略結婚させられるために、ホールケーキアイランドに連れて行かれていた。仲間の安全のため、望まない場所に同行するというお涙頂戴的展開は、ロビンがCP9に協力したときとまったく同じ。80巻も超え、さすがにネタ切れか。この頃から設定の混乱がチラホラ。
 決定的だったのが81巻、錦えもんがイヌアラシ、ネコマムシと再会する場面。ワノ国で仲間だったはずなのに、「拙者 錦えもんと申す者」と初対面のように名乗る。早期から緻密な伏線が張られていると激賞されがちな本作だが、実は後付けも多いことが分かる。82巻で「ログポース通りに進まなくてもいい。ロジャーもやり直した」と説明したり、「サンジが強すぎる」という指摘への言い訳として「特殊体質の戦闘一家の息子」というキャラを盛り込んだりと、設定の調整に四苦八苦?

91〜104巻「ワノ国編」 麦わらの一味、ハート海賊団、赤鞘九人男、かつての侍たち。打倒カイドウに向け、ワノ国に潜んで準備を進める連合軍の面々。カイドウはカイドウで、ビッグ・マムとの同盟を電撃結成。
 決戦直前、物語は光月おでんの歩みを回想するが、作品完結までのタイムリミットに焦り、急いで進行させているのが明々白々。冗長でスピード感のない展開は退屈だが、やたらと急ぎ足でどんどん進行し、丁寧なストーリー展開や細かな心理描写がおろそかになるのも興ざめ。
 95〜96巻あたりは、ほとんど伏線の回収が目的化しているようにも。さらに黒炭オロチに歪んだ恨みを植え付けた黒炭ひぐらしが、ボン・クレーの「マネマネの実」の前能力者であったり、黒炭せみ丸がバルトロメオの「バリバリの実」の前能力者であったりと、キャラクター設定の使い回しも目立つように。
 尾田栄一郎大先生自身が連載を続けることにすっかり飽きていて、新しい設定を創造する意欲がなくなっているのでは?
初出/『実話BUNKA超タブー』2021年10月号

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