連載『ワンフェス』海洋堂・宮脇修一
×グラウンドワークス・神村靖宏対談

『Wonder Festival 2023 Winter』(以後『ワンフェス』)が2023年2月12日(日)、幕張メッセ国際展示場の1~8ホールすべてを使い開催される。『ワンフェス』は造形メーカー海洋堂が主催する、世界最大のガレージキットのイベント。今回は『ワンフェス』に関わる様々な方々にご登場いただき、「ワンフェスとはなんなのか?」を掘り下げていこうと思う。連載第2回は『ワンフェス』の運営を手掛ける海洋堂の宮脇修一氏(通称センム。以後センム)とワンフェスに第一回から参加してるグラウンドワークス代表の神村靖宏氏にご登場いただいた。

――今回、海洋堂のセンムさんと、株式会社グラウンドワークス代表の神村靖宏さんにお越しいただきました。ワンフェス運営側のセンムさんと、ワンフェスをずっと愛して深いところにいらっしゃる神村さんということで、僕らもちょっと緊張しております。改めてなんですけど、ワンフェスを最初にやろうと思ったきっかけからお聞きしたいです。
センム:やろうと思ったきっかけですか。もともとは1984年にゼネラルプロダクツさんが始めたんですよ。
神村:ゼネラルプロダクツというのは、ガイナックスの前身となったSFショップ、今でいうならキャラクターショップですね。当時はファンの要望に応えられる製品もお店もまだ世の中になかったので、ファン活動出身のメンバーが、じゃあ自分たちでやろう、と大阪で立ち上げたお店です。キャラクターショップの先駆けだったんですよ。開店が82年はじめで、84年にワンフェス……あの時はもうガレージキットって名前はありましたっけ?
センム:どうやったかな?もう既にあったと思いますね。
神村:ちょうど海洋堂さんとゼネプロが大阪で切磋琢磨してて。
センム:切磋琢磨、聞こえはいいですね(笑)。泥沼の血まみれでしたよ(笑)。
神村:仲良く喧嘩しながら、かな(笑)。それぞれ腕を磨き、お客さんを育ててたわけです。僕はその頃、ゼネプロのお手伝いをしている一ファンだったんですけど。
センム:ゼネプロ派の人だったね。
神村:当時はどちらの会社もアマチュアファン目線で物作ってるから、最初は版権も気にせず、作ったもん勝ちや!みたいなところがあったし、俺らさえ面白いものを出してたらいいや!みたいなことがあったんですけど。
――インディーズ精神感じますね。
神村:徐々にそのキャラクターのライセンスについてもちゃんとせなあかんな、って考え始めて。海洋堂さんは東宝さんと話して「海底軍艦」、ゼネプロは円谷さんと話して「ジェットビートル(ウルトラマンに登場する科学特捜隊の戦闘機)」の権利をいただいて段々ちゃんとしたビジネスにしていったんですね。それで一社ごとにがんばってもあかん。もっとこの業界、広げないかんということで……言い出しっぺは岡田斗司夫さんなんですよね。
センム:岡田さんだね。それまでの海洋堂とゼネプロはいうたら「楽しく喧嘩」。楽しいオタクの抗争を何やかんやとやってたんですよ、よくいうと「切磋琢磨」で、悪く言うと「罵り合い」(笑)。
神村:ゼネプロはオタク評論家で有名になった岡田斗司夫さんが起業した会社なんです。その後岡田さんはガイナックスも立ち上げましたが、その岡田さんが海洋堂さんにもお声掛けをして。
センム:岡田と武田(康廣。ゼネラルプロダクツ共同設立者、元ガイナックス取締役)の二人が海洋堂にやってきて、「手打ちをしましょう」と。「これまではいろいろあった。これからはガレージキットも世界に広げていかなあかんじゃないですか」という事で仲良くしましょうとなったんです。それでちゃんと「一緒になってやりましょう」と言われて「はいわかりました。それは面白いです」ということでね。
神村:第0回のプレイベントは、大阪環状線の桃谷駅近くにゼネラルプロダクツの店があって、そこでやったんです。店は町工場の二階にあって。
センム:そんな広くなかったですよね。でもまあまあようさん入って……10何ディーラーぐらい来てたんちゃいます?
神村:そうですよね。20坪ちょいぐらい?そこに、ディーラーさんが10弱ぐらい集まったようですね。アマチュアの人もいたし。僕は当時、設営をちょっと手伝ったくらいですけど、狭いところに折りたたみの机を並べてやったんですよね。意外とお客さんも来てくれて。で、第一回が。
センム:もう浜松町でしたね。記念すべき一回目。
神村:第1回、第2回は僕は参加してないんです。自主映画(『八岐大蛇の逆襲』)の制作で忙しくて。
センム:当時のマップありますけど、30以上のディーラーが来てました。ホールがだいたい埋まった感じでした。海洋堂とゼネプロさんと初めましてさんとズラッと。
神村:やっぱりスタートすぐの時期はまだインディーズの、いわゆる無版権ものもいっぱいあったんですよ。当日版権始めたのは……。
センム:三回目ぐらいやっけ?
神村:その頃にはやはりきちんとしたビジネスにしようと。なにせ東京でやってますからね(笑)。 東宝さんや円谷さんも見に来るわけですから(笑)。
センム:まあ僕ら大阪とは違うと(笑)。一応プロのメーカーは大体みんなライセンスをとって売ってるんですけど、まあアマチュアディーラーが結構ね。勝手に版権もの作っちゃったり、いや、懐かしい話ですけど。
神村:これも「ゼネプロの大発明」なんですけれども、アマチュア当日版権というのを始めたわけです。イベント主催者のゼネプロが出展者の販売物について各版元さんに許諾を取る。アマチュアの人のものを、僕らが代行して許諾取ってあげるよ。正規に売れるんだよ!っていうのを始めたんです。東宝さんや円谷さんなど、たくさんの版元さんに協力してもらって。
センム:当時はサンライズさんもですね。だって僕らも最初はガンダム作れたんですから。
神村:最初はそうですね。
センム:バンダイさんに色々と協力してもらって、バンダイホビー事業部が作ってた模型情報紙のB-CLUBさんも協力してもらって、僕らガンダム作ったんです。小田(雅弘)さんのキュベレイ作ってすごいバカ売れしました。300個完売でしたからね。すごかったなあ。
――当日版権って改めてすごい発明ですよね。
神村:大発明だと思います。
――その日だけはオフィシャルということで売れるという、それがあったからここまで大きくなった気もしています。
神村:当時はガンダム作れたんですけどね。
センム:セーラームーンはあかんかったし、ガンダムもあかんことなったね。あれはJAF-CON(バンダイとホビージャパンが主催していた模型イベント)専売になったから、作れなくなった。
神村:当日版権って当時はかなり画期的なことで、版元さんも、面白がって許諾を出してくださってたんです。結果的に昔の作品が見直されたり、キャラクター人気が再燃したりという効果がありました。
センム:「フイギュア業界」って今はよく聞く言葉ですけど、うちらとゼネプロさんがやるまでは、フィギュアショップなんて世の中になかったですからね。うちが1984年に茅場町に作った、海洋堂のガレージキットショップが初のフィギュア屋さんなので。フィギュア業界で今生きている人間はわしらにみんな感謝しろと思ってますよ(笑)。フィギュア業界を作ったのは海洋堂とゼネプロやでという思いはありますね。フィギュアというビジネスを始めたのは、この大阪の二つの会社やで、と。
――それは間違いないでしょうね。
センム:ワンフェスをやったから今フィギュア業界あるんやで。みんなそこんとこよろしく。漢字で“夜露死苦”の当て字にしといてください(笑)。
――僕は45歳なんですけど、オタクになって、フィギュアに興味持っても、今みたいに沢山お店があるわけじゃなかったんですよね。渋谷にB-CLUBの店舗があって見に行ったり、秋葉原のラジオ会館行ってみるぐらいしかなかった。
神村:実際、バンダイさんもハイエンドユーザーがいるのは分かってんだけど、どうしたらいいのかわからん! みたいな状況だったわけですよ。最初にバンダイさんが(当時の販売メーカーはポピー、バンダイに吸収合併されていた)リアルホビーシリーズのバルタン星人を出したとき、ものすごいみんな驚愕したんですよ。バンダイがこんなもん出したって。
センム:ちゃんと原型師の名前を入れてたんですよ、小田雅弘とかね。
神村:バンダイにあの辺紹介したのはゼネプロの武田さんですからね。
センム:そうなんですね。
神村:アマチュアの人達がパッションを持ってフィギュアを作れる状況をワンフェスが作ったんですよね。正規の許諾をもらって作れて、それをイベントで多くのファンに見てもらえて買ってもらえるという状況を。それに、これは今でもそうですが完成品フィギュアを商品化するのには、結構な初期投資と時間とかかかるじゃないですか。でもアマチュアのガレージキットやったら「好きだ!」「作ろう!」って1~2ヶ月で世に出せるわけですよ。
センム:原型ができたらもう僕ら海洋堂は、翌週にはバラバラにして、シリコン型とって量産して……岡田斗司夫にボロカス言われながらやってましたね。アマチュアディーラーと一緒ですよ。
神村:だから旬のものも作れるし、世の中に10人しか買う奴がおらん! みたいなマイナーなものでも、作ったらそれがちゃんと売れて、売り手も買い手も双方大喜びみたいなことも起きるし。作りたい奴は一生懸命やるから、どんどん上手くなるわけですよね。今ワンフェス初期の写真見ると、一個一個のフィギュアのクオリティは今よりずっと低いですよ。正直「これ買ってたやつおんの?」みたいな出来のも多い(笑)。
センム:泥人形と言われてましたなぁ……(笑)。
神村:それでもその時は、もうそれが出たことだけでも嬉しくて、みんなこぞって買ってたし、俺も俺もって作り始めたんですよね。
――その熱量みたいなものはすごいわかりますね……。
神村:それまでなんとなく「何か欲しいなあ」と思ってただけの潜在的なハイエンドユーザーを掘り起こして、「ここに市場があるんだ」っていうのを大手メーカーにも気付かせたし、作り手側も作ったらなんか商品にしてもらえるんだ! みたいな土壌も提供したし、やっぱり作り手とそれを見て欲しがる人が交流するっていうのは、ものすごい大きいものがあったと思いますね。
センム:でも1984~5年ぐらいのワンフェスが始まった頃って、結構年齢層が低かったんですよ。なんか面白そうな事に、頑張って付き合おうとする若い子らも多かった。うちも茅場町時代に声優の関智一が入り浸ってました。当時小学生でしたけど、みんなに作り方とか教えてもらってたと言うのは結構有名な話ですね。結構優秀で目立つ子でしたな。神村さんだって今から40年近く前やから20代ですよね?
神村:そうですよ。僕はゼネプロの最初期のレジンキットをアルバイトで生産してましたから(笑)。
――神村さんは現在グラウンドワークス代表として、『エヴァンゲリオン』シリーズ等の著作権管理を行われていますが、今お話にあった通り、黎明期からワンフェスに参加されている側ですよね。参加する魅力みたいなものを改めてお聞きできれば。
神村:僕は当時はお手伝いにすぎなかったんですけど、ファンとして楽しいイベントだったし、半分関係者としても面白いことに参加してる感はありましたね。やっぱり生の感じというか。作り手のそのオーラがそのままそこに漂っている感じですよね。自分で今でもアマチュアディーラーさんのキットは毎回けっこう買いますし。まあ、なかなか忙しくて作るところまではいけないんですけど、買うときには必ず作るつもりで買ってますね。
センム:結構買うてるんですよね。
神村:やっぱり作ってる人と話をすると、すごい楽しいですよね。これ、どうやって作った? みたいなことを聞くと、もう向こうも目の色を変えてうれしそうに話してくれる。
――コミックマーケットさんもたぶんそうだと思うんですけど、その場所でしか合わない友達もいると思うんです。「お久しぶり!」が言える場所がすごくありがたいと思ってて。
神村:コミケかワンフェスかSF大会か、みたいな感じですよね。産業貿易センターでやってた頃は、会場の設営や撤収もあまり業者を使わずに自分らでやってましたね。
海洋堂さんは主催者でもないのに、設営や撤収を手伝ってくれてましたよね。原型師さんまでふくめてあのクソ重たい机を運んでもらったり、大量のゴミ捨てまで付き合ってもらって。
センム:なんか僕らが一番のディーラーでありたいと思うんですわ。ディーラーとしての存在感がないとあかんから、最初から会場の設営と撤収も掃除まで絶対手伝う。僕ら自身も「主催者を応援する気持ち」がないとやっぱあかんで、と思ってましたね。当時は段ボール全部集めて、これはまだ使えますよって言ってみたり(笑)。まあ、あの頃はゼネプロさんも僕らも全員手作りでやってた時代やから。
神村:で、まあ結局そのゼネプロ組は新しいことも好きだけど、わりと飽きっぽいたちもあるわけで。1991年にいきなりワンフェスやめます! と。
センム:いきなりやめはったんですよ。佐藤(裕紀、ガイナックス元取締役、ゼネラルプロダクツ時代は東京店店長)店長も知らなかった。
神村:店の担当者にも伝えないままに、イベント中に館内放送でいきなり「ゼネプロはワンフェスを今回限りで終わりにします」とか流して。館内放送で流してから海洋堂さんに行って「続きをやりませんか?」みたいな相談をしたんですよね。
センム:武田さんはムスっとして反対してたな。
神村:岡田さんと赤井(孝美)さんがその日の朝、決めたと聞きました。
センム:その後、宮脇さん! って呼ばれて、なんですかコレとか言ったら「引き継いで」とかいきなり言われて、何を言ってんだこの男はって(笑)。 まぁ岡田さんってああいう人やから。
――ゲリラで言ったってことですよね。
神村:当時はゼネプロ-ガイナックスは、自分たち自身で『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』をやり、これからも作品をがんばって作ろうっていう時期だったんです。だから、他社さんの権利を貸してもらってワンフェスをやるのではなく、自分たちは発信者としてやっていくんだと宣言したと理解してます。
センム:ちょうど『プリンセスメーカー(ガイナックス制作、ゼネプロ発売の世界初の育成シュミレーションゲーム、赤井孝美が監督、キャラクターデザインを手掛けている)』が大ヒットしたタイミングでしたから、赤井さんの気持ちも強かったんでしょうね。
神村:海洋堂さん社内でもワンフェスを引き継ぐのは反対もあったらしいですね。
センム:僕はやるつもりだったけど、周りからは「何ゆうてるんですか? 海洋堂がイベント運営なんてできるわけないでしょ」って、海洋堂はディーラーとしては一番になれるけど、いや、主催者なんてできるわけないじゃんって言われて。
――反対意見もでたんですね。
センム:岡田にだまされてる!とかね(笑)。岡田さんたちも「宮脇さんがやらへんかったら、もう全部どこにも渡さずやめます」って言うんですよ、「ワンフェスが終わってしまっていいんですか?」って(笑)。
――その交渉術すごいですね。
センム:めちゃくちゃですよ本当。だからこっちも「うーん……」と言いながら、まあとりあえず即答は無理やけど……って感じでしたね。
神村:どのぐらいいきなりかって言ったら、その夏の会場はもう押さえてあったんですよ。「もう次の会場押さえてあるから」って。
センム:それだけじゃなくて、ゼネプロさんが潔すぎるのは、それまで作ってたガレージキットの原型から、金型も全部お譲りします、ただであげますって言われたんです。持ってってください、お金いりませんとかって。
神村:そうですね、当時ナディアのガレージキットなんか、まだゼネプロで出し続けていたものを、いきなり海洋堂から出せって話になって。だから初期ロットはゼネプロ名義ですけど、再販は海洋堂から出てる商品もありますね。
センム:だから僕らもそのまま引き継いで、次の夏ワンフェスを開催したんです。
――逆にその無茶振りを受けてから、今まで続けてるわけじゃないですか。センムさんの中でのやる意義みたいなものはどのへんにあるんでしょうか。
センム:僕はもう二代目襲名したようなもんですから。引き継いだ以上、昔気質なところもありますからね。僕らはものを作る会社なんで、もう変なことは考えずに、まあ愚直に場の提供に徹しているつもりですね。
――それだけの思いを持ってずっと続けてらっしゃるんですね。今は新型コロナウイルスの影響もあると思います。2020年はオンラインの開催もありました。
センム:そうですね、その前に一つだけ。そのゼネプロ~ガイナックスからの流れがあって、今のワンフェスがあるのは、(背後にある『エヴァンゲリオン』のフィギュアを指さしながら)この『エヴァンゲリオン』なんですよ。今から25年前にエヴァが生まれて、それまでマニアな世界だったフィギュアの認知度や売上というものが超右肩上がりですよ。僕はフィギュアを作っているオタクであっていいんだ!ここにいてもいいんだ!って(笑)。『エヴァンゲリオン』のお陰で僕たちはこれをやってていいんだというものになった気がしますな。
神村:メカが好きな人は初号機、二号機。美少女系が好きな人はアスカ、綾波、怪獣好きにも使徒っていう棲み分けもね。メカと女の子と怪獣とぜんぶ出て来る作品ですから。
センム:『エヴァンゲリオン』のおかげでワンフェスは価値を持ったと思ってます。ゼネプロ~ガイナックスが作った『エヴァンゲリオン』が、またワンフェスをあっという間に突き上げてくれたというのが良かったな。それがなかったら……って思うとこもありますな。
撮影:荒川潤
――ちょっとここでエヴァが与えた各方面の影響を語るには、ちょっと時間がなさすぎますよね(笑)。
センム:エヴァのことはまた別に語らなあかんけど!ってやつですよね。まあエヴァのおかげでそうやってガッと広がったよって事は言っておかないとな、と。
神村:エヴァって当時、プロデューサーさんが某大手メーカーにスポンサーになってくれって頼みに行ったら、こんな細くて足の小さい紫色のロボットなんか売れるもんかって説教されて泣きながら帰ったという逸話が残っているんですよね。どこまで本当か知りませんけど。(笑)
センム:それがああなった(笑)。それでワンフェスは順調右肩上がりになっていって、フィギュアの世界は広がっていったと思ってます。あとはもう一つは、今回文化庁でBOMEが、文化庁長官から「令和4年度文化庁長官表彰」をもらったんです。彼は美少女フィギュア専門の造形師、所謂「肌色」系のモノを作る人間なんやけど、肌色が受け入れられる文化をワンフェスで作ったというのは本当にとんでもないことだと思ってるんです。最初は特撮とかロボットとかが中心だったのに、ものすごい売れるし、人気もあるから女の子フィギュアがどんどん作られるようになった。女の子を可愛く作るノウハウっていうのがワンフェスで育てていた感じはしていますね。
神村:BOMEさんって、言葉悪いですけど、いわゆる「天才」ではない人ですよね。
センム:そうですね、BOMEってひたすら作り続けたことによって、今の地位を得た。今はもう文化庁から認められる肌色フィギュアリストですよ。夢ありますよね。
――ずっとお話聞いていられるので、無理やりコロナの影響の話に戻します。改めて影響というのは……?
センム:めちゃくちゃありましたよ。2020年の2月のワンフェスの頃はまだ中国からも参加者が来れたんですよ。で、ちょっと控えようかなという気分も出てきて、これは辛抱せなあかんね、と思ったら夏にドンと流行って、もう春過ぎからは中止にせざるを得なくなった。わりと4月5月辺りにすぐに中止を決定しましたね。「今回無理です」ってことでね、早いこと言うてよかったと思ってますが。
――それが2020年の夏。2021年はオンライン開催でした。
神村:一応、オンラインの形で急遽やりましたね。秋もやるぞってなってたんですけど、それも中止になって。違う形のオンライン開催でした。
センム:もともと夏はオリンピックがあるから。だから秋にしようと言う話をしてたんですが、それも結局はできなかった。
――2020年は『エヴァンゲリオンワンフェス』だけは開催してもらえましたね。
センム:たまたま流行のはざまやったんですよね。でも入場も何もかもすごく規制しなければいけない。
神村:規制まみれではありましたけれどもね。やっていただけて本当に嬉しかったです。
センム:高橋洋子さんにも来ていただいて、2回ステージやってもらいました。正直、人は少なかったけど、やれてよかった。とりあえずイベントの灯は消したくはないというのもありましたから。
神村:もともと『シン・エヴァンゲリオン劇場版‖: 』公開前連動企画だったんですけどね。
センム:公開も思いっきりのびましたもんね。
撮影:荒川潤
――そして、これはセンシティブな話になると思うんですけれど、フィギュア、プラモも含めて転売問題というものも普通に取り上げられるニュースになってきたなと思っています。これについてお二人のご意見を伺えればとも思っています。
センム:ワンフェスはコロナの影響で、入場者の人は登録制になったので、全部素性もわかってるし、入る順番も前みたいに早いもん勝ちではなくなったので、そういう意味ではそういう競争が少なくなった部分があるんですよ。ただ、悪者の考える力はすごいですから。本当にいたちごっこですな。いろんな規制はやるんだけど、規制し続けても嫌だしね。
神村:そもそもなぜそれがいけないのか?って話からなんですけどね。そこから買っちゃってる人っていうのは、やっぱり自分が欲しいものの入手方法がないからですよね。買えたら「うれしい」わけだし。でもなにがいけないかって、一つは不当な利益を得ている奴がいるってことですよ。1万円のフィギュアを買って3万円で転売して大儲けみたいな。
――そうですね。
神村:結局、1万円で買えるはずのものを+2万円出してる消費者がいるわけですよね。で、その2万円は本来ユーザーさんが出すべきじゃなかったものなんだけど、もし発生するのだとしたら、それは作った人に還元されるべきお金だと思うんです。不法利益を得ている人がいるっていうのが、やっぱり腹立たしいですね。
――製作者に還元されるべき、というのは納得ですね。
神村:もう一つは、限定20個しか売らないものがあったとして、買える人と買えない人が出てくる。でもこれはお祭りだから、それをどう手に入れるかも含めて高級な遊びなんですよ。「頑張ってワンフェスに来ました。だから買えました!」っていうイベント感はやっぱり大事にしたいと思うんですよ。全員に渡らないということに関してはいろいろ考え方があると思います。みんなが買えるように再販に再販を重ねるものもあれば、わかってくれる20人だけに渡したいんです! っていうディーラーさんの気持ちもわかります。そういう人もやっぱり多いんですよ。品質管理がここまでしかできませんとか。
センム:あとライセンスの上限があったりね、そういったものもあるんですよ。
神村:だから適正に頑張った本当に好きな人に渡ってほしいなあと思うんですよね。
――購入する側としては、値段が上がるほどハードルが高くなっちゃうので、余計手が伸びづらくなるというか……。
神村:だから投機目的で買うとかっていうのはやっぱり駄目ですよね。
センム:まあディーラーの方もいろいろ手を考えたりしますよね、抽選販売にするとか、あとキャラクターをどれだけ知っているか。イデオンクイズってのもありましたな。
神村:もう買うとか買わないではなくて、イデオンクイズやりたくて並んだな(笑)。
センム:ぱっと見てシルエット見て、ガルボジックって分かるかとか、ザンザ・ルブとガンガ・ルブはどう違うんだとか、答えられたらカララ様を売ってあげるよってやつ(笑)。
神村:そういうのは僕はどんどんやってほしいですね、ワンフェスはお祭りだから、ファン優先の不公平とかあってもいいと思うんですよね。
センム:そういう限定だから楽しいんだよ、っていうのはあるんですよ。でも買えなくて怒るお客さんもいれば、間に入って儲けようとしているやつも腹黒いやつもいる。やっぱりルールを一本化するのは難しいですよね。ケースバイケースでこれからもどんどん変わってくると思いますね。
神村:これは怒られるかもしれんけど、ワンフェスに関して言うならば。モノが買えたのは会場に来た人のお手柄だと僕は思うんで。通販が無いのはしかたないですよ。だってこれ、お祭りの場所に来たご褒美なんやから。
センム:当日版権は当日販売するためのものだから、版権取れてるわけです。一期一会なんですよ。その場でしか認めてくれんものが通販ありきで売ってたら、それは違うやんって。
神村:だったら許諾のレギュレーションだって変わってくるよって話なんです。
センム:グラウンドワークスさんが管理しているものもそうですけど、個人の版権って多少自由度が高いんですよ、そこではっきりさせると結構大変なものがある。
神村:版元の意見もね。いろいろありますから。
撮影:荒川潤
――ワンフェスは一期一会っていいですね。もう少し質問させてください。フィギュアも含めての話なんですが、いわゆるオタクカルチャーって、比較的マニアのものだったと思うんですが、いま結構メインカルチャーにとって変わってきている気がしています。
センム:今ってさげすまれないの?そんな感じになってんの?
神村:小学生の話題が、昔の僕ら世代の男の子は八割野球、二割芸能だったじゃないですかね。それが完全に逆転してますが、八割、アニメですよ。
センム:ええ~そうなんですか。
――今アニメの仕事してると羨ましがられるんですよ。その辺どう思われますか?
神村:ざまみろ!ですかね(笑)。いろんな意味で(笑)。
センム:さっきのBOMEくんの話もそうですしな、商売で見たらワンフェスに出してる人らも効率の悪いことやってるからね。限定30個売ったところでどれだけ儲けるって、儲かるわけないやんけ(笑)。
神村:版権元にしてみたら当日版権の許諾業務って事務にかかる労力考えたらどうしたって赤字ですよ。何千万円も商品売れるって話ならともかく、2000円のフィギュアを20個売ったロイヤリティいくらって話ですもん。
センム:ひと仕事なん千円?へたしたらもっと少ないってのもありますよ。
神村:何万円にもならないのがほとんどですよ。すごい手間のかかる仕事だから、純粋に売上だけ考えたら当日版権なんて許諾できるもんじゃないです。でも、それを多くの版元さんがやってくれてるのは、ワンフェスっていう場所があの作品のプロモーションとして重要な場所だって分かってるくれてるからですよね。
センム:そういうファン活動もちゃんと認知してもらってるのは、素晴らしいことなのですよ。
神村:ファンを大事にしたいっていう意識はどこの版元さんにもあります。ユーザーに大事にしてもらって作品なんぼですから。そういった意味で、当日版権っていうのは、稀有なシステムで、稀有な作品プロモーションですよね。
――作品自体もすごく増えてるし、作品のプロモーション、コンテンツのプロモーションという意味でも、意味があることだと思います。作品が増えるということは需要が増えているということでもあると思いますし。
神村:僕らが好きだったものがメインストリームになってるぞ、と。でもまたすぐに変化もすると思いますよ。アニメが好きなファンの自己表現方法も変わってくるし。視聴方法だって、僕らはまだDVDやブルーレイを一所懸命買いためて棚に並べてますけど、そんなことする若い人もいなくなってきた。
――もうサブスク視聴が多くなりましたね。
神村:そうなると、どうやってお金を儲けるかっていうのは変わってくる。自分の手でフィギュア作る人より「いや、もう完成品しかいりません」みたいな方が多くなってきた。かと思うとコロナのおうち需要でプラモデルがギュッと伸びるとか。わかんないことが多いですけど、今の商売形態はまた数年たったらガラっと変わっていくと思いますね。
――センムさん的には、今回初参加してみようと思っている人に、どういうふうに遊びに来てもらいたいとかありますか?
センム:そうですね。ディーラーさんが「これを見てくれ、良いと思ったら買ってくれ」と見せに来る。そういうものが眼の前で見ることができる。「作りたい」っていう衝動というか、パッションを感じてほしいですね。あとはディーラーの演出とかもですかね。どういうプレゼンテーションをしているのか。フィギュア売るだけだからって、ポツンとテーブルにフィギュア置いてるって、そんなやつはおれへんわけですよ。やっぱりいかによく見せるか。二千近くもあるテーブルの中で自分の作ったものを出すってことは「俺を見てくれ」という衝動の塊ですよ。その現場を見て、そこで見たテーブル・ディーラー・顔……そういったもの全部含めてワンフェスの魅力なんじゃないかなと。まあうろうろ見てるだけで、「こんな素晴らしいもんないで」と思ってもらえるんじゃないですかね。
神村:デジタルメディアやカタログだけ見てると、結局自分の好きなものしか探せないんですよね。ワンフェス会場をぶらついていると、こんなジャンルぜんぜん興味なかったけど、これおもろいみたいなのがたくさんありますよね。
センム:そういうものに出会える場所なんです。ワンフェスは何が出てくるかわからんっていうのが面白いですわ。ライセンスものもキャラクターものもあれば、けったいなものもいっぱい出てくる。前は造形するってゆうたら紙粘土やプラ板とかやったけど、今はもう3Dプリンターがありますからね、絵を描く感覚でフィギュアの作家としてデビューできる。最近の出てくる子らの八割以上はアナログじゃなくて、デジタル造形作家だと思いますね。すごいものが見れると思います。女性のディーラーもかなり増えてますが、まだまだお客さんが女の子少ないですから、女性にも遊びに来てもらいたいですね。
神村:女性の原型師、みんなうまいですよね。
センム:みんなうまいね、繊細な物を作りますよ。この市場、コミケと比べたらまだ1/10ぐらいしかおれへんからね。これからですよ。
神村:見に行くだけで面白いですから。
センム:いや、いつも思うんやけど、秋葉原にも池袋にもあんだけ自称オタクがいるわけじゃないですか。アニメも漫画もキャラも好きな子達がたくさんいる。でもワンフェスは行ったことないですって人が九割だと思うんですわ。ああいう人らに足運んでほしいですね。こんな素晴らしい世界があるんだよって感じてもらいたいですね。
撮影:荒川潤
取材・文:加東岳史 撮影:荒川潤

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