藤巻亮太の5年ぶりアルバム『Sunshi
ne』リリース記念ライブに見た、彩り
と深みを増していく音楽

藤巻亮太 4th Album「Sunshine」リリース記念ライブ『Prism』

2023.1.25 I'M A SHOW
1月25日、約5年ぶりとなる4thアルバム『Sunshine』をリリースした藤巻亮太。その発売日当日、同作のリリース記念ライブ『Prism』が、東京・I’ M A SHOW(アイマショウ)にて開催された。2012年2月29日にソロデビューし、昨年3月9日には10周年を記念したライブを開催した藤巻だが、本作について「10年という節目にギリギリ間に合いました」と、笑顔でコメント(なお、『Sunshine』の初回盤には、DISC2として『ソロ10周年記念BEST』が付属されている)。「リリースできた喜びと、楽しさを共有できる幸せを噛み締めながら演奏したいと思います」と、この10年間を振り返りながら、最新作に込めた想いを丁寧に紐解きながら、世に放たれたばかりの楽曲たちをオーディエンスに届けていた。
サポートを務める近藤寿(Gt)、宮田‘レフティ’ リョウ(Ba)、片山タカズミ(Dr)の3人と定位置につくと、藤巻がテレキャスターをかき鳴らして始まったのは、アルバムの1曲目でもある「この道どんな道」だ。どこまでも続く長い道を一歩一歩踏みしめながら、この道の先で待つ見たことのない景色を想像して、自然と笑みがこぼれてくるような……そんな画がありありと浮かんでくる楽曲を、豪快なバンドアンサンブルで転がしていくと、そのまま2曲目の「Sunshine」へ。タイトル通り、温かな光を感じさせるサウンドが耳に残るが、端的に“明るい”とは一言では片付けられない、その裏にある影もどこか内包している感じがあり、それは、真夜中を想起させるような薄暗い青色の照明が、少しずつ明るくなっていくというライティングにも表れていたと思う。いろいろな物事が複雑に入り組み、足を踏み出すことを躊躇ってしまうような現実はそこにはあるけれども、それでも夢や希望は忘れずにいたい──。『Sunshine』というアルバムには、そんな願いや祈りが結晶化したような楽曲たちが収録されている。
この日のセットリストは、アルバム『Sunshine』の収録曲順通りに進行していったのだが、リリース日当日の公演ということもあり、オーディエンスが事前にアルバムをじっくり聴き込むことが難しい状況に対して、“無茶な企画”と話す藤巻。しかし、ステージからまっすぐに届けられる音を、笑顔で楽しそうに受け取っていたオーディエンスの姿を見た彼は、「みなさんうろ覚えの中でも見様見真似でノってくれて、いきなりグっときてしまいました」と、少し照れ笑いをしながら、いまの心境を素直に伝えていた。「Sunshine」のサビには、《いつまでも 僕たちは友達さ》という一節があるが、これまでの道のりで築き上げてきた藤巻とファンの関係にも当てはまるように思えて、胸が熱くなった。
『Sunshine』は、聴くと心にかかっているもやが晴れていく感覚を覚える楽曲たちが収録されているが、それらが熱量の高いバンドサウンドで構築されているところも特徴のひとつだ。瑞々しくて爽快感のある「裸のOh Summer」はもちろんのこと、アコースティックギターが柔らかに響く「僕らの街」も、オーディエンスのクラップが軽快なサウンドに花を添えた「まほろば」も、とてつもなく骨太で、タフで、パワフルな演奏で繰り出されていき、その音像にただひたすらに高揚させられた。藤巻も、サポートメンバーたちと音を合わせることを心から楽しんでいて、それがオーディエンスに伝播し、場内にまばゆいまでの光が満ちていくという、なんとも幸福な時間が続いていく。
「この10年間、お互いいろいろな物語があって、変わったこともあると思います。僕は変化していくことを前向きに捉えて、新しい出会いを噛み締めながら、音楽でみんなを応援できたらいいと思っています」。そんな言葉の後に届けられた「ゆけ」や、目を閉じ、柔らかなアルペジオを奏でて歌い始めた「オウエン歌」は、藤巻のその想いがそのまま音と言葉になったかのよう。躍動するビートに合わせ、ギターをカッティングしてグルーヴをグっと高めてから突入した「千変万化」でも、人生を謳歌しようと言葉を畳み掛けるように連ねていき、「Heroes」では、《前へ 前へ 前へ》と、いまを生きるすべての人たちを鼓舞し、讃えるように音を響かせていた。
曲を終えた後、藤巻がこの10年間を振り返る。ソロを始めた当初は、自分のために頑張らねばと考えていたが、誰かのために頑張ることで生まれる強い力があることがわかった。だからこそ自分は、ライブに集まってくれた一人ひとりのために、楽曲を依頼してくれた方のために、そこでの新しい出会いを大切にして音楽をしていこうと決めたと、ゆっくりと客席に語りかけていた。
「新しい出会いの中で、自分にはなかった価値観に出会って、気付きがあったり、自分自身が揺さぶられて、少しずつ成長できたなと、いま改めて思います。出会いも別れも、なかなか自分の思い通りにはいかないものですが、だからこそ、出会いと別れの中にある限られた時間を大切に、命を燃やすように、その一瞬一瞬を生きていけたらいいなと思っています」
アルバムの後半には、そんな出会いと別れを描いた楽曲たちが収録されている。いつか必ず訪れる別れを見つめながらも、《サヨナラからまた歩こう》と、感傷的でありながらも力強く音を高鳴らす「サヨナラ花束」や、別れに打ちひしがれたときも、《思い出してね 君の好きだった あの歌の中に僕らは生きてる》と歌う「花びらのメロディー」を情感たっぷりに届け、ラストナンバーの「大地の歌」へ辿り着いた。この曲は、あるラジオ番組で痛ましい災害に見舞われた各地を訪れ、そこで暮らす人たちとの出会いや会話が元になって生まれたそうだ。ときに無音になる瞬間も生まれる緊迫感のあるアンサンブルに、それまで淡々と続いていた生活がある日突然すべて崩れ去ってしまうように、いつ何が起こるかわからない不確かな世界の中で私たちは生きていることを再認識させられる。そして、そんな抗えない現実の中でも確かに続いていく生活があることを、そこで育まれ、繋がっていく生命の尊さをドラマティックな演奏で描いていく。そんな壮大な生命賛歌を、ギターを強くかき鳴らしながら、目の前にいる一人ひとりに目を向けながら、藤巻は歌いかけていた。
アンコールに応え、“もう少しやらせてください”と藤巻がチョイスしたのは「日日是好日」。ポジティブなメッセージをずっしりとした音に乗せて放つと、“ヨッシャ!”とオフマイクで気合いを入れた後、ドラムの4カウントから始まったのは、レミオロメンの「フェスタ」。4人がギアを一気に上げてアッパーに駆け抜ると、その勢いをさらに増していくように「ハロー流星群」へ。そして、光が乱反射するように煌めくギターフレーズをたたえた「指先」の余韻が残る中、この日の楽曲がすべて終了……と思いきや、最後に「この道どんな道」を急遽追加。笑顔溢れる大団円でライブを締め括った。
藤巻亮太は、2月25日から全国7ヵ所9公演を廻るツアー『Live Tour 2023「Sunshine」』、3月9日には『THANK YOU LIVE 2023』をI’ M A SHOWにて開催する。サポートメンバーは、今回のライブと同じ布陣になるとのことで、さらに息の合った力強いアンサンブルを聴かせてくれるだろう。また、この日のアンコールで披露された既存曲は、どれも『Sunshine』という作品に込めた想いやメッセージと繋がっている楽曲であり、生々しいバンドサウンドが強烈に映えるものばかり。それらが最新楽曲と混ざり合うことで見えてくる新しい景色に、そして、10周年という節目を越え、さらに彩りと深みを増していく藤巻亮太の音楽に、胸が高鳴らずにはいられないステージだった。
取材・文=山口哲生 撮影=大橋祐希

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