ドレスコーズが日比谷野音で見せた新
境地とは? 音楽的アプローチの変化
を分析

(参考:ダイノジ大谷がロックを語り続ける理由「こっちだっていい曲だ、バカヤローって足掻きたい」)

 ドレスコーズにとって初めての日比谷野音でのワンマンは、先ほどの曲名から当てられたであろう「ゴッドスピード・サマー・ヒッピーズ」というタイトルがつけられていた。そこに集ったオーディエンスは、バンドが叩き出すロックンロールに身を委ねながら、「僕は絶対正しい!」「この(日比谷の)森にはロックの神様がいるんだ!」といった志磨の言葉に熱いリアクションを起こしながらも、彼らの新境地に対しては、やや戸惑う気配があったのは否めない。それだけ現在のドレスコーズは「ロック」という言葉ではくくれない場所にいるのが明白だった。

 その一番の回答は、9月リリースの5曲入りの『Hippies E.P.』にある。この作品では、アレンジャーに□□□の三浦康嗣(MEG、平井堅、環ROY等)、長谷川智樹スピッツピチカート・ファイヴあがた森魚、宇宙人等/映画、アニメの音楽も多数)、エンジニアには渡部高士(電気グルーヴ石野卓球等)を招聘。そしてドレスコーズはこの日プレイした全19曲のうち、本EPからは4曲を披露した。しかもアンコールではゲストで三浦が参加するという、まるでリリース記念のライヴかと思えるほど、すっかり今のバンドのあり方を見せていたのだ。

 その兆しは、2時間に及ぶライヴの幕開けが、同作からの「ドゥー・ダー・ダムン・ディスコ」だったことにもあった。志磨が珍しくキーボードを弾き、轟音のノイズまみれで始まったこの曲のアップテンポのビートは、その激しいリズムを継続しながら「誰も知らない」、そして「Automatic Punk」へとつながれていった。この中で、とくに「Automatic Punk」は、一昨年のデビュー・アルバムのリリース後の全国ツアーの時からテクノ的なニュアンスを多分に含みながら発展させられてきた曲だ。菅 大智(ドラムス)と山中治雄(ベース)のリズム隊が加熱したトグロを巻くような律動を奏で、そのリフレインの連続性の中で丸山康太(ギター)が暴れ、志磨が叫ぶ。こうしたアプローチをさらに強化し、進化させたのが、この日の冒頭の3曲だったと感じる。

 そして三浦が加わった1回目のアンコールでの、EPからの3曲だ。「メロディ」はダウナーなリズムの上で記憶と記録についてのライムを志磨と三浦がラップをするもの。「Ghost」は口笛のようなセンチな音色のくり返しがはかない情感をもたらすグルーヴ・ナンバー。さらに軽やかにリズムを刻む「ヒッピーズ」である。□□□の三浦はクラブ・サウンドに寄ったポップソングのプロデュース/アレンジを行ってきた才能だが、『Hippies E.P.』での彼はバンド側とアレンジャーという立ち位置以上の関わりをしたのではないだろうか。というのも、三浦はステージで志磨と多くの言葉を交わし、メンバーそれぞれに話を振りながら各人の元に自分の缶ビールを持っていって飲ませ、丸山にはそのビールを頭からかけてしまったほどだったのだ(そう、暑い日だった)。

 気がつけばこの日のライヴは、ドレスコーズが4月にレーベル移籍をした際の志磨の「そしてこの移籍発表をもって、ぼくらのあたらしい季節の幕開けをここに宣言します。新しいテーマは“ダンスミュージックの解放”です」というコメントをしっかりと裏づける内容になっていたのだ。それがまずは『Hippies E.P.』という形になり、さらにライヴの場でこうして姿を現したわけである。

 とはいえ、この新作からの曲以外では、まったく今までどおりのドレスコーズがいた。「トートロジー」や「Trash」で衝動を爆発させ、エイトビートの鼓動の上で激しくシャウトする志磨。それだけに今度のEPの世界は、新生面としての印象をさらにくっきりと残すことになった。

 今回のライヴ後、志磨は自身のブログを更新し、そこで「やっと聴かせることができた新曲群は、フアンの方に賛否両論だって聞く」「気に入っているぼくらからすれば、それはとても愉快なことだ!」と綴っている。つまりバンド側は今度のアプローチがファンに波紋を与えることを予想していたわけである。

 このことから思い出すのは2010年から2011年にかけてのことだ。そう、毛皮のマリーズを率いていた頃の志磨遼平が巻き起こした、あの一連の騒ぎである。荒々しいロックンロールを打ち鳴らしていたマリーズが、一転して人なつっこいメロディを唄い、スタジオ・ミュージシャンを動員しながら作り上げた一大ポップ・アルバム『ティン・パン・アレイ』。バンドの終わりをテーマに見据えて制作された最終作『ジ・エンド』。そしてこの2作の前後に起こったさまざまなことだ。ファンの期待をかわし、バンドとしての体裁を超越し、その危うさのまま突っ走った当時の志磨は、それでも自分の衝動に忠実に音楽を鳴らすことを遵守したのだった。ちなみに彼は奇しくも、これも先月のブログで、□□□が2011年に発表したアルバム『CD』について「個人的には、同時期にぼくが作った『ティン・パン・アレイ』というアルバムの兄弟作だと思っている」と触れている。

 もっとも現在のドレスコーズとあの時のマリーズでは、状況があまりに異なるのも確か。バンドとしての終わりを自覚し、捨て鉢の状態で激走した後期マリーズに対し、現在のドレスコーズは音楽的な新たなアプローチをアレンジャーを含めた全員で模索し、有機的なグルーヴに結実させるよう意識しているのだから。このへんはドレスコーズがミュージシャンとしての意識が高いプレイヤーを集結させたバンドであることの強みだろう。

 ということは、9月にEPをリリースしたドレスコーズは、その後も「ダンス・ミュージックの解放」に向けて突き進んでいくのだろうか? ……いや、ことバンドの方向性については自分のもくろみ通りに進まないことが多い志磨のこと、そう易々と、わかりやすく事が運ぶような予感は、あまりしない。果たしてこのバンドの新段階がどう展開していくのか、注視していきたいところだ。「ヒッピーズ」の<ああ 始めないと終われない/ああ なにもないとなくせない>というフレーズが、ないものねだりの、駄々っ子の志磨らしいなと思いつつ。(青木優)

リアルサウンド

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