工藤美桜、次は江戸の心中者をゼロへ
ーー映像と舞台が融合した映画『まく
をおろすな!』から始まる2023年は「
良い年になりそう」

『仮面ライダーゴースト』(2015〜16)とスーパー戦隊シリーズ『魔進戦隊キラメイジャー』(2020〜21)に出演し、二大特撮ものでヒーローに変身した初の女性キャストとなった工藤美桜。日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(2021)の「死者は……ゼロです!」というセリフで注目を浴びてからは、さらに活躍の幅を広げている。そんな工藤は1月20日(金)に全国ロードショーとなった超デラックス時代活劇『まくをおろすな!』に出演中だ。同作で工藤は、ふぉ~ゆ~の越岡裕貴が扮するブン太(紀伊国屋文左衛門)とバディを組み、江戸でブームとなった心中を未遂にさせるべく奮闘するモン太(近松門左衛門)役を務めた。日光江戸村で撮影したロケシーンと劇場で撮影されたシーンが融合するという、挑戦的な内容の同作の魅力、そして工藤にとっての越岡の存在とは。
工藤美桜
●実在した近松門左衛門を演じる難しさ
ーー『まくをおろすな!』の台本を初めて読んだ時の感想を教えてください。
2022年の2月に映像の撮影をして、8月に上演した『まくをおろすな!LIVE』で舞台パートの収録をしたのですが、最初から台本にはどちらのパートも書かれていました。内容も時代物なのに今風だし、「これは一体どうなるのだろう」というのが率直な感想です。でも今まで観たことのない、芝居とミュージカルがうまく融合しているところが魅力だなと思っています。歌、ダンス、殺陣と、いろんなエンターテインメントがぎゅっと詰まっているので、観た後にハッピーな気分になってもらえるはずです。時代物に堅い印象を抱かれる方もいらっしゃいますが、気軽に観ていただける作品になりました。​
ーー今回工藤さんは、越岡さん演じるブン太とともに心中希望のカップルに芝居を打たせ、遊女を新吉原から逃がすためのストーリーを書いているモン太役を務められています。工藤さんから見たモン太はどんなキャラクターですか?
『曽根崎心中』を書いて、江戸に心中ブームを起こしてしまった元凶は自分だということで、罪滅ぼしとして「心中コーディネーター」をしています。あんなに良いストーリーを書けないけど、私も不器用で感情がうまく出せなくて、考えて考えて行動するタイプなので、モン太と似ている面があるなと思います。自分が死のうとしたときに手を差し伸べてくれたブン太には感謝してるし、でも不器用だからこそ強くあたっちゃう。でも人の気持ちはわかるので強くは当たるけどそこには愛があって。繊細ではあるのですが、喜怒哀楽はハッキリしていて表情がコロコロ変化するので、観ていて飽きない子です。

工藤美桜
ーー今作は演劇ユニット30-DELUXを主宰する清水順二さんが、初めて監督を務められました。清水順監督からの要望で印象的だったことはありますか?

リアクションを素早くするとか、反応が速い子であってほしいとかを言われていました。ブン太に対する「は? こいつ何言ってんの?」という返しを速くすることを心掛けて欲しいということだったので、監督とも相談して実写版の『銀魂』の神楽を演じた橋本環奈さんをイメージしていました。あとは作戦会議で自分の台本について考えている時に、好きなことをしているので、夢中になっている感情を溢れ出して良いとも言っていただきました。
ーーモン太は女性だけど男性として過ごしています。そのあたりも何か指示はありましたか?
郭で育っているので、嫌な扱いを受けたはずです。だから強く生きたいという思いで男勝りな面があるのではないかなと思っていて。男の子に振った方が良いかと監督にも聞いたのですが、「そこはあまり気にせずそのままやってくれて良いよ」と言ってくださったので。近松門左衛門は男の子、私は女の子で、でもモン太はちょっと男勝りなところもあるし。本当に難しいところです。
『まくをおろすな!』
ーー実在する偉人を演じられているのでより難しいですよね。近松門左衛門について勉強はされましたか?
一応作中の実在する人物は全て、どんな人なのかなというのは多少調べてみたのですが、難しくて。こんな事件だったんだなというのは調べつつ、台本を読んだ方がわかりやすかったので、台本から勉強した部分もありました。『曽根崎心中』は買って読みましたが、難しいですよね。それも古文のものを買っちゃったんですよ(笑)。難しくて難しくて、ネットで解説を調べてみたりしました。でもストーリーがおもしろかったので、今でも流行ると思います。
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工藤美桜
●人と比べないことが挫折を乗り越えるポイント
ーーブン太とモン太がコンセプトにしている「人生の幕は自分でおろすな」。このご時世においてメッセージ性が強いなと思うのですが、観た方にどんな気持ちになってもらいたいとかはありますか?
この時代に私が生きていたら、多分ブン太とモン太のように明るく「やってやろうぜ!」とはならなかったと思うんですよ。自分自身もこの作品を観て、「この人たちが今の世界よりも生きづらい世界で一生懸命生きているから、今の私も生きれるんじゃない?」と思ったので、そう感じていただきたいです。最後のエンディングのMVぽくなっているところは楽しそうで、自分で観ていてもニヤニヤしてハッピーな気持ちになれましたし、観客の皆さんにも笑顔が伝染していたので、同じようにおもしろかったなと思っていただけたら嬉しいです。
ーー作中では、「幕をおろす=心中で命を落とすこと」ですが、今の時代では挫折した時にも「その道の幕を下ろす」、「幕を閉じる」という言い方をすることもあります。そういう意味で、挫折しそうになっている人にもこのメッセージは響きますね。
私は小学4年生の時にスカウトをされてからこの仕事をしていますが、何度も辞めたいと思っていたことがありました。同年代の子がどんどん先に行くのを見るたびに、自分と比べて「私はこのまま続けていて意味があるのかな?」と。一般のお友達も新しく進路を決めている中で、自分はずっとそんなに変わらずな状態で。そういう時は辞めたいな、私も別の勉強をした方がいいのかなとか思ったりしていました。
工藤美桜
ーーどんどん知名度も人気も獲得していってらっしゃる印象だったので、挫折しそうになっていただなんて驚きました。
そう言っていただけることが多いのですが、少し前まではよく辞めたいと思っていましたね。でも辞めようと思ったタイミングで『仮面ライダーゴースト』や『魔進戦隊​キラメイジャー』などのレギュラー番組が決まっていったので、まだ辞めるなと言われているのかなとポジティブに解釈していました。やっぱり人それぞれのペースがあるから、自分はスロースターターで、自分のペースでやっていけばいいやと思って。そう思えてからは人と比べることもなく、辞めたいとも思わずお仕事できています。人と比べず、自分らしくあろうと思えたからこそ、乗り越えられました。
ーー挫折から乗り越えた今、何か目標はありますか?
今回共演させていただいた竹中(直人)さんや、岸谷(五朗)さんのように、周りを見れるような役者になりたいですね。あと2023年は、良い年になりそうだなと思っていて! 別にこれといった根拠があるわけじゃないですが、2022年にお仕事をして自信がついてきたので、それに驕らず、もっともっといろんなことに挑戦して頑張っていきたいなと思っています。2023年はもっと良い年にできるようになるように頑張ります!
●越岡は「全てにおいてブン太と同じように助けてくれた」存在
工藤美桜
ーーストーリーだけでなく歌、ダンス、殺陣がひとつの映像作品に融合しているところも見どころですよね。それぞれ経験はありましたか?
戦隊モノに出ているのでやっているイメージがあるかと思うのですが、作品の中で歌うことと殺陣は初めてでした。ダンスは『魔進戦隊​キラメイジャー』のときにちょっとしていたのですが、まあ下手くそで……。越岡さんが普段歌って踊られているので、撮休の日にも越岡さんに「このダンスどうやってやるんですか?」と聞いて、ダンスを練習していました。殺陣も重心を下にするなど男性の形でしなければいけないので、普段より気を遣うことが多くてすごく苦労して。休みの間も現場に行って殺陣を練習させてもらって、越岡さんとも何回も合わせて撮影に挑みました。
『まくをおろすな!』
ーー動きがダイナミックで男性的でした。その他に越岡さんからアドバイスはありましたか?
めちゃくちゃありますね。周りがすごく見えている方で、主演の方が現場にいらっしゃることでこんなに空気が変わるんだと思いました。お芝居の時も掛け合いが多かったので、何回も台本をあわせて「このセリフはこっちの方が良いんじゃない?」というアドバイスをくださったり。ダンスも私が悩んでいても「楽しんでやればいいから、失敗しても全然大丈夫」と言ってくださって、心が軽くなりました。殺陣も「全然俺のことを切っちゃっていいから」と言ってくださったので、思いっきり刀を振れましたし。普段も人見知りで、男性が多い現場だったので最初は馴染めませんでしたが、引っ張ってみんなの輪に入れてくださったり、全てにおいてブン太と同じように越岡さんも助けてくださいました。
ーーチームワークが出来上がってから舞台を上演されたのですね。映像で演技された役を舞台で再演することはあまりないと思うのですが、難しさはありましたか?
思い出せー! と(笑)。その間に他の役もやっていたりするので、「あれ? どんな感覚でやっていたっけ?」と頑張って思い出していました。やっぱり他のキャストの方と掛け合いしているとだんだん思い出してきて、コツを掴んできました。
工藤美桜
ーー映像と舞台のどちらも演じてみて、得意不得意はありましたか?
中学の頃に演劇部に所属してはいたのですが、私は映像の方が得意だなと思いました。舞台を観にきてくださった方の感想で「私は映像の女優さんだなと思った」という声が多くて。舞台に慣れていないというのもあって、癖で目とかちょっとした表情でお芝居をしがちなのですが、それだと客席からは見えないから(笑)。「そうか、ダメだな」と思いつつ、普段は大きく動かないので、どう舞台で動いていけばいいのか悩むところですね。
ーー舞台では動きを変えてみたり?
リアクションだけじゃなくて、ちょこちょこブン太と一緒に動いたりとか、強引さを大きな動きで表現することは舞台でやっていました。
ーー映画の中で流れる舞台映像でも、大きな動きをされていると感じ取れました。映画で初めて『まくをおろすな!』の世界に触れて、「舞台版も観たかったな」と思われる方もいらっしゃると思います。
もし再演の機会があれば、またやりたい! ほんとですよ! 舞台では毎回ビデオを撮っていただいているのですが、いつもそれを観て「もっとここはこうした方が良かったな」と反省していました。また私自身がちょうど千秋楽の前にコロナになってしまって、千秋楽に立つことができなかったので、もう一回みんなで集まってできたらいいなと思います。
工藤美桜
取材・文=川井美波 撮影=ハヤシマコ

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