劇団papercraft 第8回公演『檸檬』は
半年後に口が消える女性を描いた物語
~海路×伊藤歌歩×伊藤寧々インタビ
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2023年1月25日(水)~1月29日(日)浅草九劇にて、劇団papercraft第8回公演『檸檬』が上演される。
劇団papercraftは2020年の立ち上げ以降、ハイペースで作品を発表し続けている。毎回特殊な設定の物語に驚かされるが、今作は半年後に口が消える女性とその周囲を描いている。
口が消える女性・里奈役で主演を務めるのは、映画『裸足で鳴らしてみせろ』など話題作に出演している伊藤歌歩。里奈の友人・美雨役には、元乃木坂46のメンバーで、現在は映像、舞台と幅広く活躍している伊藤寧々。
今作について、作・演出で劇団主宰の海路と、伊藤歌歩、伊藤寧々に話を聞いた。

■海路さんは役者を信頼して尊重してくれる人
――まず、歌歩さんと寧々さんは海路作品への出演は初めてとのことですが、これまで作品をご覧になったことはありましたか。
歌歩 知り合いの俳優さんが出演されていたりして、ずっと見に行きたいとは思っていたのですがなかなかタイミングが合わなくて、残念ながら舞台を拝見したことがないんです。出演されていた俳優さんから、海路さんはこういう人だよ、みたいな話は聞きました。
――ご本人がいる前では言いづらいと思いますが、どんな人だと聞いていたのでしょうか。
歌歩 役者に任せてくれるというか、役者を信頼して考えを尊重してくれる人だよ、と聞きました。舞台の稽古場は座組によって空気が違うものだと思いますが、海路さんは和やかな人だから、そんなにピリッとした空気になることもないよ、と聞いて「楽しくやれそうかな」と思いました。
劇団papercraft『檸檬』 伊藤歌歩
寧々 私も作品を見たことはなかったんですが、海路さんとは以前にすれ違ってたんですよね?
海路 そうなんです、3年ぐらい前にラジオ局ですれ違っていて。
寧々 それぞれ別の作品の宣伝で局に行っていて、私の収録の後の回に海路さんが出演されていたそうです。今回のキャスティングのときにそのことを思い出してくださったそうで、おかげでオファーをいただくことができました(笑)。
――海路さんは、今回このお2人をキャスティングされたのはどういったところからだったのでしょうか。
海路 歌歩さんは、知り合いの役者さんが出演しているので見に行った映画『裸足で鳴らしてみせろ』にご出演されていて、それで見たときに今作の主演の役が合いそうだな、と思ってお声がけさせてもらいました。寧々さんは、さっきも話がありましたが、ラジオ局ですれ違ったときに一方的にすごく印象に残ったんですよね。今回のキャスティングを考えているときに寧々さんがふと浮かんで、出演された映像とかを見てみたんですけど、いい意味で派手すぎないというか、普通の人を普通に演じられる役者さんじゃないかな、という気がして今回ご一緒できないかと思いました。

■今回の座組は空気感がホンワカしている
――歌歩さんは舞台への出演は今回が2回目だとうかがいました。
歌歩 舞台は元々好きで結構見に行っていたので、やりたいなという気持ちはずっとあります。でも、今回稽古に入ってみて改めて、舞台は難しいなと思っています。映像だと撮影した後に編集の作業などが入ったりしますが、舞台は目の前にいるお客さんにその場で全身を見られているから、そこに対する開き方というか、伝える範囲みたいなものが違う気がするんです。私は舞台に慣れていないので、もっと広い意識みたいなものを持たなくてはいけないと思いますし、物理的に声量の問題もあるし、難しいなと感じています。
――寧々さんはこれまで数々の舞台に出演されて来ましたが、改めて舞台に出演することについてどんな思いを持っていますか。
寧々 全部が生の空間で起こることで、それが舞台の一番の魅力だと思っています。稽古中は悩むこともあるので苦しいこともありますが、座組のみんなで一つのものを作っていくというのは素敵なことだと思うし、その時間がとても好きなので、「苦しい楽しい」みたいな感じですね(笑)。
劇団papercraft『檸檬』 伊藤寧々
――今回の座組に関してはどんな印象を持っていますか。
寧々 皆さん空気感がホンワカしてます。
歌歩 確かに!
寧々 全員が同じラインの上に立っている感じもありますし、いいメンバーだなと思います。海路さんの雰囲気が稽古場を作ってるところもあると思うんですけど、空気的には柔らかいですね。
歌歩 お芝居していてやりにくいとかもないんですよ。みんな温かく見守って「一緒に作ろう」みたいな雰囲気があったから、最初からすごくやりやすかったです。
――海路さんから見た今回の座組はいかがですか。
海路 2人が言ってくれたようにアットホームな感じはしていて、だから打ち解けるのも結構早かった気がします。気づいたらみんなすごい仲良くなっていて、ヤバイ僕だけ取り残されたかも、って焦ったりして(笑)。
劇団papercraft『檸檬』 海路

■「これが自分の作品」と言えるものを作りたい
――これは海路さんに毎回聞いている質問ですが(笑)、今作の設定はどんなところから思いついたのでしょうか。
海路 これは毎回言ってる気もするんですけど(笑)、本当にパッと「口が消える」っていう1行が自分の中で出てきたんですね。それがちょっと面白いなと思って、そこから話を膨らませられないかな、と作っていったのが今回の話です。でも、皆さんへ出演依頼をする際の企画書の段階で本当にその1行くらいしか説明がなかったんですよね。よくみんなそれで受けてくれたな、と思います(笑)。
歌歩 最初、あらすじだけ来たんですよね。
海路 結果全然違う話になっちゃったけど(笑)。あとは今回はどちらかというと、自分の中で総決算みたいなところもあるんですね。昨年の作品では、同時多発的な会話にチャレンジしてみたり、オムニバスにチャレンジしてみたり、いろんな書き方を試してみたり、自分の創作の引き出しを増やすみたいなことを意識しながら書いていたので、昨年自分が培ったものや、手に入れた技術や、考え方というものを総動員してひとつ新しく「これが自分の作品」と言えるものを作れたらな、と思って作った作品です。
――キャストのお2人は、実際上がってきた台本を読んだ率直な感想はいかがでしたか。
歌歩 率直な感想は……一回読んで、もう台本開きたくないな、って(笑)。
(一同爆笑)
歌歩 ちょっと1回置いておこう、ってなりました(笑)。私の演じる里奈は、自分の感情が抑えきれないというか、感情をどう扱っていいのかわからなくて、人の愛し方も愛され方もわからない、みたいなところがある子なんです。私自身そうではない部分が多いですが、「こういう気持ちになったことはあるな」という部分もあって、里奈にはどこか動物的なエネルギーを感じるところもあるし、現実世界ではできないことができたり、言えないことが言えるんだな、と思ったらこの役をやるのがすごく楽しみになりました。
劇団papercraft『檸檬』 伊藤歌歩
寧々 私は誰の気持ちもわからないな、というのが正直なところです(笑)。口が消えるという設定もそうですけど、それ以外のことも現実にあったら絶対嫌だなと思うことばかりです。でも、私が演じる美雨の気持ちになって読んでみたら、みんなそれぞれ自分の思うやりたいことがあったり、正義があったりするんだな、と腑に落ちる感じはありました。こういう視点で世の中を見られるのってすごいな、という思いもありましたね。
――海路さんの作品は、今回だったら「口が消える」という特殊な設定が一つ大きくあるのですが、舞台のベースになっている世界は今の現実世界とほとんど変わりがないというのが特徴だと改めて思いました。
海路 そこは結構意識はしているところです。シナリオスクールに通っていたときに、講師から「何かひとつフィクションの設定を置くんだったら、その周りは全部リアルにしないと駄目」と言われたことがあって、それがずっと自分の中に残っているんです。フィクションの物語をやるときは他はリアルに作っていく、っていうのが自分の中の固定概念みたいになっていて。
――演じる側としては、今回のように設定があくまで現実ベースの方がやりやすいのか、それとも完全に現実とは異世界の設定の方が逆にやりやすいのか、どう思われますか。
寧々 私は、こういう現実にはありえない設定の物語をやるのはほぼ初めてですが、その周りの肉づけがリアルなので、あまり違和感がなかったというか、結構設定を理解しやすかったなと思います。台本を読んだときも、あまり引っかかるところがなくサーッと読めたので、自分にとってはわかりやすかったんだと思います。
劇団papercraft『檸檬』 伊藤寧々
歌歩 私は今回みたいにリアルが多い方が、やっていてしんどいですね。例えばハリーポッターみたいに全部現実と違う世界だったら、自分とは離れた部分でやれるかなという思いがあるんですけど、今作みたいにリアルに近いと、どうしても自分の経験と重なって考えてしまうところとかもあって……(海路の方を向いて)すごいしんどいですよ(笑)。
寧々 クレーム入った(笑)。
海路 ……ごめん(笑)。
寧々 今はまだ稽古中で、確かにしんどいところが多いかもしれないですね、わかります。

■劇団としても代表作にしたい
――今作もきっと見終えた後に、いろんなことをぐちゃぐちゃと考えながら帰ることになるんだろうな、と思いました。浅草九劇からの帰り道だから、美味しいお店もいっぱいあるけど、人形焼とか買う感じじゃないな、みたいな……。
寧々 そんな気分じゃない、みたいになるかもしれないですね(笑)。
歌歩 お客さんにそういう気持ちになってもらえるようにしたいです(笑)。
海路 見た後に引きずってもらえるような、人形焼に負けない芝居を作りたいです(笑)。
劇団papercraft『檸檬』 海路
――最後にお客様へのメッセージをお願いします。
歌歩 私は今作を読んで、割と共感性が高いんじゃないかなと思いました。いろんな人が出てくるので、共感するキャラクターとか、共感してもらえる部分は何かしらあるんじゃないかなという気がしています。なかなか衝撃的な物語だと思うので、駅までの帰り道でザワザワした気持ちになってもらえれば、こちらとしては幸いです(笑)。
寧々 設定が突飛な感じがするけれど、設定だけに引っ張られて欲しくない、っていうのはすごく思います。いろんな状況の登場人物がいて、いろんなことを思って、いろんな行動をするところを見て、お客さんは何を一番感じたかぜひ聞いてみたいです。何かが良くて何が悪いのか、多分人によってそれぞれの基準があると思うので、ぜひ劇場で観て感想を教えてください!
海路 いろいろな作品を今まで作ってきた中で、これが自分の作品だと言えるような、劇団としても代表作にしたいな、というつもりで書いた作品です。そういう意味でも自信作なので、まだ自分の作品を見たことがない方でも見たことがある方でも、楽しんでいただけるような作品になっていると思うので、もし迷っている方がいたらぜひ見に来て欲しいです。
――海路さんの代表作になる、という手ごたえを感じていますか。
海路 ……代表作にしたいな、という段階です(笑)。
寧々 手ごたえまではいってないみたいです(笑)。
歌歩 代表作にしましょうね。
寧々 ね、そうなるように頑張りましょう。
歌歩 頑張ります!
劇団papercraft『檸檬』 左から伊藤歌歩、海路、伊藤寧々
取材・文・撮影=久田絢子

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