「M-1のウエストランドへの賛否を彷
彿とさせる映画!?」[Alexandros]川上
洋平、カンヌで最高賞を受賞した『逆
転のトライアングル』を語る【映画連
載:ポップコーン、バター多めで P
ART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は、セレブリティを乗せた豪華客船が無人島に到着したことで、サバイバル能力抜群のトイレ清掃員が全員を支配し始めるという“逆転劇”をブラックユーモアたっぷりに描き、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール受賞した『逆転のトライアングル』について語ります。
『逆転のトライアングル』
――『逆転のトライアングル』はどうでした?
皮肉炸裂でかなり強烈でしたね。俺は好きでしたよ。
――ブラックユーモア満載で風刺もすごく効いてますよね。
原題は『Triangle of Sadness』なのに、なんで邦題が『逆転のトライアングル』なんだろう?って思っていたんですが、映画を観てわかった。ヒエラルキーが逆さになるってことかーって。冒頭でカメラマンがモデルに対して「眉間に皺を寄せないで」って言ってるんだけど、眉間の皺のことを“Triangle of Sadness”って表現していて、そこからもう繋がってたんだなーという驚きもあった。
――難破した豪華客船が無人島にたどり着き、船上ではセレブリティたちが我が物顔で振舞っていたのに、トイレの清掃係の女性・アビゲイルがサバイバル能力の高さによって乗客や客室乗務員の頂点に立つという展開が面白いですよね。
そうそう。皮肉な展開でしたね。でもさ、乗客たちがもっと暴力化するのかなと思ったんだけど、意外と冷静にアビゲイルに従ってましたよね。
――ああ。
例えば、「取ってきた魚をよこさないと殺すぞ」みたいな感じで脅すこともできたのかなと思うけど。でも、上流階級の人たちだからそういう品のないことはしなかったのかな。
――確かに。大人しく従って、そのまま社会が築かれていってましたよね。
ね。アビゲイルがいなかったら自分たちも食べ物にありつけなくなっちゃうしね。
『逆転のトライアングル』より
■『ザ・メニュー』も富裕層に対するブラックユーモアを描いた映画でしたけど、それを思い出しました
――無人島という文明がない世界だと、富や名声や外見の美しさが全く意味をなさなくなることを描いています。
ああいう状況になると、結局人間ってそうなるんだなーって思ったり。去年の秋に公開された『ザ・メニュー』も富裕層に対するブラックユーモアを描いた映画でしたけど、それを思い出しました。
――富裕層が窮地に追い込まれるという面で通じますね。
そうそう。『逆転のトライアングル』は、冒頭の男性モデルたちがバレンシアガとH&Mの撮影における表情の違いを揶揄しているシーンから良かったです。
――完全に小馬鹿にしてますよね。
ね(笑)。あと、船中で酔っぱらった船長とロシア人の富豪が共産主義と資本主義について語るシーンとか。そういうわかりやすい対比がちりばめられていた。序盤の、女性モデルと男性モデルのカップルがレストランでどっちが食事代を払う/払わないで気まずくなるシーンも好きだったなー(笑)。
――リューベン・オストルンド監督によると、女性モデルのギャラの相場は男性モデルの3倍なので、モデル兼人気インフルエンサーのヤヤの方が男性モデルのカールより明らかに稼いでるのに、ヤヤはデート代は当然男性が払うものだと思っている。そういう風刺だそうです。
ヤヤの方が人気だからってわけじゃないんですね。ハリウッドでは俳優のギャラが男女でものすごい差があるってよく問題提起されるけど、モデル業界は逆なんだなー。そういう意味では音楽業界は割とフェアかも。
『逆転のトライアングル』より
■人間社会のシステムそのものを皮肉っている感じが良かった
――前半で現代のインフルエンサーのライフスタイルとかを描きつつ、後半で無人島に流れつくという構成になってます。
無人島だからもう金持ちとか貧乏とか関係なくなっていく展開は面白かったですね。日本には階級制度がないじゃないですか。インドのカースト制度やイギリスの労働階級とかと比べると、日本ではヒエラルキーって割と無縁なのかなって思いがちだけど。でも生活している中で「割と身近だな」って気づかされたかも。
――なるほど。
監督のインタビューで興味深かったのが「僕でもビジネスクラスに乗れば、エコノミーの時とは違う優雅な行動を取る。優越感も感じる。特権に影響されないのはほぼ不可能だよ」みたいなことを言ってて、本音言うね~って思いました(笑)。でもだからこそこの映画って、「それって人間の性(さが)だから仕方ないよね」っていうようなことを描いてる気もしていて。そこが僕が好感を持ったところでしたね。
――そうですよね。
アビゲイルもヒエラルキーが下だからって善人かというとそうじゃない。無人島では、唯一釣りが得意だから、ヒエラルキー的には逆転してトップになる。でもみんなに食べ物を平等に渡すわけでもないから善人としては描かれてないんだよね。だからあからさまな上流階級への批判とか、誰が良い/悪いとかじゃなく、人間社会のシステムそのものを皮肉っている感じが良かったな。
――確かに。
話逸れますけど、昨年末のM-1でウエストランドさんがYouTuberとか港区女子みたいな人たちをいじったようなネタで優勝しましたけど、あれを思い出したんですよね。結構賛否あったじゃないですか? あの時点でのウエストランドさんの立場からのヒエラルキー上部の人たちへのネタはディスりなのか? いじりなのか?みたいな。
――ああ。
あのネタを大御所がやるとまた違うじゃないですか。これから頂点目指します、這い上がっていきますっていう人たちだから、あのいじりがブラックジョークに聞こえた。でも「悪口言うなんてひどい!」みたいな人もいたわけで。あのネタをどう受け取るかによって自分の立場やスタンスがわかる、踏み絵的なところもあるのかもしれないですね。
『逆転のトライアングル』より
■ウエストランドのネタに対しての感じ方で自分の立場がわかるのかも
――川上さんはどう思いました?
僕は好きでした(笑)。「いいねえ」「言うねえ」みたいな(笑)。
――(笑)。
例えば、ダウンタウンさんがまだ新人だった頃、大物芸人や俳優の頭をはたいたりしてたじゃないですか。「えー! 浜ちゃん、そんなことして大丈夫…!?」みたいな感じで周りも驚くんだけど、なんか痛快だったし、応援したくなった。且つ、もちろんしっかり笑えて。下から攻めるから可愛げがあったし、親近感も覚えたし。「大物俳優とか大物芸人って言われてる人に対しても突っ込める俺たちの浜ちゃん!」みたいな感じで。
――活きの良い若手みたいな。
そうそう。ウエストランドのネタに対して、それに近いものを感じるか、「いや悪口でしょ」って感じるかで、自分の立場がわかるのかもしれない。
――なるほど。
で、『逆転のトライアングル』はというと、どの登場人物に一番感情移入できるかで、自分の立場が理解できるわけなんですよ。だからちょっとウエストランドとこの映画に近いもの感じません?

『逆転のトライアングル』より
■『ザ・スクエア』は明確に特定の人に対する批判があった気がするけど、今回は割と人間そのものに対してって感じだったのが好きでした

――ああ、そうかも。リューベン・オストルンド監督は前作の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でもパルムドールを取っているので、2作連続という快挙を成し遂げています。
あの映画は何の前情報もなく観ていて。ヨーロッパのオシャレな雰囲気の映画やなーと思ってたらいつの間にか薄気味悪くなっていって。皮肉とメタファーがオシャレにわからないように盛り込まれていてかっこいい映画でしたね。でも『逆転のトライアングル』ははっきりと描いてる。それに、『ザ・スクエア』は明確に特定の人に対する批判があった気がするけど、今回は割と人間そのものに対してって感じだったのが好きでした。
――さて、次回2月22日公開回は、予定では2022年カワカミー賞の発表なんですが。
そうなんですが、アカデミー賞のノミネート作品とかが気になるので、次回じゃなく、3月以降の発表にしましょう(笑)。とりあえず『バビロン』観たい!(笑)。
取材・文=小松香里
※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!

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