“運命が変わった” あの入賞から時
を経て――ショパンコンクール歴代日
本人入賞者たちがランチタイムに登場
!【出演ピアニスト&プログラムを紹
介】

若手ピアニストのための世界最高峰の登竜門、ショパン国際ピアノコンクール。2021年第18回の開催では、日本人として反田恭平さんと小林愛実さんが入賞したことでも大きな話題となった。そんなショパンコンクールの歴代日本人入賞者たちが、ランチタイムの浜離宮朝日ホールに次々と登場! その出演者とプログラムの魅力をご紹介する。

5年に1度、ポーランドのワルシャワで開催されるショパンコンクールは、その開催間隔がオリンピック以上に長いこと、結果によっては、一夜にして運命が変わってしまうということもあり、高い実力を持つ若手ピアニストがこぞって挑む夢の舞台だ。プログラムは当然ショパンのみ。祖国の大作曲家を誇りに思う地元の聴衆でギュウギュウの満員になる客席、国内外から集うたくさんのメディアに囲まれる緊張感も手伝って、会場には、世界のどのコンクールよりも特別な雰囲気が漂う。
そんなショパンへの深い理解と卓越したピアニズムが求められる場で、かつて上位入賞を果たした日本人ピアニストたちが、『ショパンランチタイムコンサート』に出演。休憩なし約70分間の特別なショパン・プログラムを披露する。
1月の公演に登場するのは、山本貴志。2005年、ショパンの再来といわれたポーランド人、ラファウ・ブレハッチが優勝した回のショパンコンクールで、第4位となったピアニストだ。同じく日本から参加した関本昌平との同位入賞でも話題となった。当時まだ小学生で、のちに自らも入賞者となる反田恭平は、日本人として世界の舞台に立つ二人の姿を見て、ショパンコンクールに憧れるようになったと話している。
山本貴志:恩師パレチニ氏と
山本は桐朋学園大学で学んだのち、20歳でワルシャワのショパン音楽院に留学。自らもショパンコンクール入賞者であるポーランド人教授、ピオトル・パレチニの愛弟子としてコンクールに参加(ちなみにパレチニは反田の師でもあるので、二人は兄弟弟子ということになる)。ショパンの育った地で研鑽を積んだ山本による、エモーショナルで表情豊かに歌うショパンは、地元の聴衆から熱い喝采を受けた。
コンクールから18年。一度は日本に帰国するも、再びワルシャワに拠点を戻した山本は、今も“ポーランドのこころを伝えるピアニスト”として、大好きなショパンの作品に向き合い続けている。
そんな彼が今回のランチタイムコンサートで演奏するのは、コンクールの舞台でも演奏した、「葬送ソナタ」、「舟唄」、「英雄ポロネーズ」に、エチュード「別れの曲」やノクターン遺作、4つのマズルカOp.41を加えた名曲レパートリー。年月を経てますます深まるショパンへの愛情を、存分に見せてくれるだろう。
Takashi Yamamoto – Etude in E minor, Op. 25 No. 5 (2005)
Takashi Yamamoto – Etude in C sharp minor, Op. 10 No. 4 (2005)
ショパンコンクールは世界中のピアニストにとって特別だが、なかでも日本人にとってはその憧れが特に大きい。それにはやはり、1985年に優勝したスタニスラフ・ブーニンが、社会現象といわれるほどの人気を博したことの影響もある。その記憶が新しかった1990年代のショパンコンクールでは、入賞した日本人ピアニストへの注目度は今以上に高く、1990年第5位の高橋多佳子、1995年第5位の宮谷理香は、“入賞して周りを取り巻く環境が一変した”と当時を振り返る。
宮谷理香:ショパンコンクール表彰式
入賞時、まだ日本で学ぶ桐朋学園大学の研究生だった宮谷理香は、「自分の演奏は何も変わっていないのに、入賞したら一夜にしてプロのピアニストとして扱われるという大転換に戸惑いもありました」と話す。しかし彼女はそのチャンスを着実に生かし、多彩な演奏活動を続けてきた。ポーランド出身のピアニスト、ハリーナ=チェルニーステファンスカとアンジェイ・ヤシンスキーに薫陶を受け、巨匠・園田高弘の最晩年の愛弟子として磨き上げた宮谷理香のピアニズムは、ショパンの詩情を豊かに歌い上げ、多くの人々を魅了し続けている。
宮谷が披露するのは、ショパンコンクール当時の再現プログラム。それも「幻想ポロネーズ」、3つのマズルカOp.59、ピアノソナタ第3番という、深みのある後期作品ばかりを集めたものだ。晩年を迎えたショパンの生への憧れ、故郷への想いが、宮谷によってどのように表現されるのか。しなやかかつ伸び伸びとしたピアニズム、真摯な音楽性が伝わるステージに期待したい。
Rika Miyatani – Nocturne in C sharp minor, Op. 27 No. 1 (1995)

Rika Miyatani – Etudes, Op. 25 No. 4 in A minor & No. 8 in D flat major (1995)

高橋多佳子は、桐朋学園大学卒業後、ワルシャワに留学。入賞したのはショパン音楽院在学中のことで、ポーランド文化を身近に感じる暮らしを送る中、“ホーム”で挑んだコンクールだった。あまりの緊張で演奏中の記憶ははっきりしていないそうだが、ワルシャワの聴衆の熱気、憧れの舞台で弾く喜び、そしてなにより、そこに向かう準備の過程の濃密な時間のことはしっかりと覚えているという。
ピアノ協奏曲演奏終了時の写真

左:マルガリータ・シェフチェンコ(4位入賞) 正面:高橋 多佳子(5位入賞) 右:アンナ・マリコヴァ(同位5位入賞)

音楽で祖国への愛を表現しようとしたショパンに寄り添うことの大切さは、今の世界情勢もあってより強く感じていて、「ショパンは難しいと未だに思う」と話す。文化に深く入り込んだからこその、さらなる深遠を求めようとする気持ちで、長らくショパンに取り組んできた。
高橋が演奏するのは、ショパンが作曲家人生にわたって書き続けたノクターンから第4番、第10番、第16番と、詩情と歌心が存分に発揮されたバラード全4曲。それらを作曲年代を追いながら交互に組み合わせることで、作風の変遷が見えるプログラムだ。
スペシャリストのピアノで、ショパンの歌心と望郷の念がたっぷりつまった作品を聴くことができる。楽曲の新たな魅力も発見できるかもしれない。
Takako Takahashi – Impromptu in F sharp major, Op. 36 (1990)

Takako Takahashi – Mazurek in C major, Op. 24 No. 2 (1990)

お三方とも、“運命の変わった”あの入賞から一層ショパンへの愛着を深め、さらなる高みを目指して音楽性を磨いてきたピアニスト。そしてプログラムは、いずれもランチタイムに楽しむのにぴったりの耳馴染みの良いものでありつつ、ショパンのロマンティックかつ複雑な精神にも触れられる、充実したものだ。
シリーズを通して聴くことで、3人のピアニストたちがショパンの作品に求める音色、歌い方、そして解釈の違いを感じてみるのも、興味深い経験になるだろう。
文=高坂はる香

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