『音楽殺人』は
YMOを経た高橋幸宏が
そのカッコ良さを
全開に放ったポップ作

ニューウェーブ感とヴォーカルの妙味

『音楽殺人』は高橋幸宏のソロ1st『Saravah!』からより進化、深化した作品という見方が大勢だと思う。『Saravah!』が1978年6月発売。2nd『音楽殺人』はそのちょうど2年後である1980年6月発売と、それほどインターバルは空いていないというところもあるが、言うまでもなく、YMOの影響が大きい。そう言うと、どちらも細野、坂本両名が参加しているので、詳細を知らない人は“何で?”と思われると思うが、1stがYMO前、2ndはYMO後である。YMO『イエロー・マジック・オーケストラ』が1978年11月、『増殖』が1980年6月であって、『音楽殺人』はYMOの大ブレイク後の作品である。

『Saravah!』制作時点ではYMOの結成が決まっていたそうで、テクノポップへの実験というか、試行錯誤のようなものが感じられる一方、『音楽殺人』はニューウェーブの傾向が強いと言われている。あと、これは個人的な感想でもあるけれど、何かハツラツとしている印象がある。歌が、である。幸宏氏がメインヴォーカルを務めたのは『Saravah!』が初であったそうで、そこでは未だ不慣れなところもあったのだろう。ヴォーカルについては、YMOを経てより自信を持って取り組んでいたように感じられる。独特の揺れを持った声質だし、“歌い上げる”といったタイプの歌唱ではないけれど、幸宏氏にしか出せない味わい深い歌声である。筆者もその良さをはっきりと認識したのは『音楽殺人』からであったように思う。(『Saravah!』については以前、当コーナーで取り上げているので、よろしかったらこちらもどうぞ)
アルバム冒頭から、そのニューウェーブ感とヴォーカルの妙味はいかんなく感じられる。M1「SCHOOL OF THOUGHT」。イントロでの“BRAINCHILD BRAINCHILD WELCOME TO THE SCHOOL OF THOUGHT”のモノローグ(?)もいいのだが、冒頭も冒頭、それ以前に聴こえてくるノイズと規則的に鳴る信号音っぽい(おそらく)シンセの響きはいかにも近未来的(今となってはレトロフューチャー的)である。それに続くメロディーはポップそのものであって、始まって30秒でやはりテクノポップを意識してしまう。『イエロー・マジック・オーケストラ』『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』『パブリック・プレッシャー/公的抑圧』『増殖』というYMO作品を貪るように聴いていた自分にとっては、“これこれ、これだよ”という安心感にも似た感触があったことを思い出す。M1は坂本龍一の作曲で、そのまったりとしたメロディーを幸宏氏が歌うスタイルもこちらにしてみれば慣れた感じだったし、サビの歌声が若干処理されているようなところも、織り込み済み…というのは変な言い方になるが、聴いていて気持ち良かったものだ。サビのリフレインの長さもむしろ好意的に受け止めたように思う。

で、M2「MURDERED BY THE MUSIC」である。これも無類にカッコ良い。サウンドは基本がR&Rである故か、アンサンブルはシンプルで、イントロやサビで一部デジタルを取り入れている点にテクノポップブームの渦中らしさはあるものの、意外と捻ったことはやっていない。それだけに幸宏氏が歌うメロディーがより浮き出ている印象が強い。その辺は共同作曲者であるシーナ&ザ・ロケッツのギタリスト、鮎川誠がいい仕事をしていたとも想像できる。とにかくサビのキャッチーさがいい。アルバムタイトルをこれだけポップに歌われると、問答無用に作品全体に親しみを持ってしまう。少なくとも筆者はそうした想いを抱いたし、“高橋幸宏=ポップ”が決定的になったのはその瞬間だったのかもしれない。今回、聴き直してそんな風にも思った。

あと、そこを補足的に述べるのもカッコ悪い話で幸宏氏に謝らなくてはならないが(幸宏さん、すみません)、ドラミングのシャープさもまた冒頭からありありと分かる。スネアの音の抜けがいい。それは録音技術の良さもあろうが、間違いなく元の音がいいからだろう。フィルイン、所謂オカズのキビキビとした入れ方がカッコいいのもさることながら、そもそも歌のバックで刻むリズムがいい。幸宏氏の声が艶っぽかったり、その声で歌われるメロディーがキャッチーであったり、さらにYMO由来のニューウェーブ感といったものに真っ先に耳を奪われるが、当然の如く冒頭からドラマー・高橋幸宏の真価も発揮された『音楽殺人』である。

OKMusic編集部

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