REPORT / Craft Alive AI x Live Pe
rformance Nao Tokui、石若駿、BIGY
UKIがみせた“AI × 人間”による音
楽表現の未来

『Craft Alive AI x Live Performance Presented by Dentsu Craft Tokyo』が12月9日(金)、東京・代官山UNITで開催された。

“即興音楽における人間とAIの共創”をテーマに掲げる本イベントにはBIGYUKI、石若駿、Nao Tokuiが出演。それぞれが傾向の異なるパフォーマンスで、音楽表現における未来の可能性を示した。

本企画をプロデュースしたのはDentsu Craft Tokyo。デジタル・テクノロジーを起点に新しい表現や体験を開発するクリエイティブ・ハウスだ。彼らが第一線のミュージシャンと人工知能をどのように邂逅させるのだろう。

そこに好奇心をそそられた、多くの人々が代官山UNITに集結。実験的な場に人が集まる光景は、コロナ禍以前を軽々と通り越して、UNITがオープンした00年代初頭さえも彷彿とさせた。

Text by Naoya Koike(https://twitter.com/naoyakoike)
Photo by Naoya Suzuki
鳴り響いた轟音。最初に登場したNao Tokuiは、プレ・レコーディングしたシークエンスを使わずにその場でAIが生成した音像を混ぜ合わせる。どうやらベース・ラインを生み出すモデル、リズム・パターンを生み出すモデルなど、多様なプログラムが走っていたようだ。

それぞれの音は当初、無関係に鳴っているだけだったが、段々とビートらしきものを形成。映像も人体や瞳に形を変えた。しばらくした瞬間にグルーヴが発生した。それは分裂を繰り返した細胞がヒトになったようでも、虚無にビッグバンが生じた瞬間のようにも見える。
音がパターンにまで発展すると、いよいよTokuiはフィルターをかけたり、フレーズをミュートしたりとDJ的にプレイを展開。ときおり見せる笑顔に溢れる、AIによる音楽と対照的な人間味が興味深かった。

最終的にハウス風なリズムからBPMを下げ、小惑星のようなグルーヴたちは再び轟音のブラックホールに消えていく。
続いて登場したのはジャズ・ドラマーを基軸に、多彩な活動を見せる石若駿。彼のライブ・セットは2022年6月に山口情報芸術センター[YCAM]で初演されたパフォーマンス『Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち』の再演となる。“自分と共演すること”をテーマに、自身の演奏データをもとにしたAI「エージェント(代行者)」とのセッションだ。
演奏はライド単体の連打から始まり、次第にハイハットやキック、続いてセット右側のタムなどにスティックが移行する。段々とセット全体を使ったアブストラクトなビートが走り出し、それとともにおもちゃ箱のような装置が作動。中に入った物体がマラカスのような音をランダムに鳴らしつつ、それに光を当てた映像は万華鏡のようなビジュアルを描く。

そして突然鳴り出すシンセ。無人機材にスポットライトが当たる。電子音が乱入すると、一気にアンサンブル感が生まれた。石若は音色を楽しむような手数少なめの演奏や同じ音が連打されるシンセと戯れたりと多様な質感で表現。さらにスプラッシュ・シンバルにマイクを近づけたり、シンバルを弓で弾いてノイズを出す、音響的なアプローチの特殊奏法も飛び出す。
続いて明確なビートが出たかと思えば、再びわからなくなる、その往復からラッシュへ。刻まれるリズムに規則性があったかは定かではない。だが首の振り方を見るに、石若が無計画に打ち込むのではなく、パルスを感じていたことは理解できた。

パフォーマンス終盤では、無人シンセによるコードや現代音楽的なシークエンス、トーンクラスターが現れ、演奏の熱量が上がる。最終的にノイズとスナッピーを外したスネアのロール、シンバルの弓奏法で倍音を操作したメロディ、キックの連打で幕切れ。石若は“共演者”の「エージェント」たちにエールを送ってステージを去った。
トリを飾るのはBIGYUKI。ステージ上の彼は平面的には鍵盤に、立体的にはDentsu Craft Tokyoが演出を手がけたLEDのキューブに包囲されている。オーディエンスに向けて背中を向ける彼の姿は、Miles Davisを彷彿とさせた。

三部制で進行する彼のライブの導入はピアノの音色によるペンタトニック、またはアルペジオ調の音使いで上降。続いてメランコリックな香りのメロディが奏でられる。Tokuiのカオスからコスモスに至る展開、石若のフリー・ジャズ的なアプローチとは明らかに違い、メロディやハーモニーを知覚させるアティチュードだ。

そこにAIオーディオ・プラグイン「Neutone」(*)が挿されると、リアルタイムで音色が変化。さらに鍵盤を叩く指をキャプチャーした映像も絡んで観客の視聴覚は奪われた。

*最新のAIモデルを使い、革新的な音楽表現を生み出すためのプラグインを軸として、AI開発者・リサーチャーと音楽クリエーターの距離を縮めるための新しい取り組み。このプラグインはDAW上で動作し、深層学習を使ったDSP(デジタル音処理)モデルをリアルタイムで駆動。これまでアーティストやクリエーターにとっては敷居の高かったAIの利用を、汎用的なプラグインを通じて、簡単に創作プロセスに導入することができる。また、AIの研究者やエンジニアは、本プラットフォームを通じて、新規に開発されたモデルを、簡単に音楽・サウンドクリエーターと共有することができるようになる。Dentsu Craft TokyoのメンバーであるQosmoが開発。
ひと呼吸して、第二部は包まれるようなシンセで始まる。床が振動するほどの低音に続き、BIGYUKIは導入したばかりだというループ・ステーションを駆使。8小節にディレイの効いた太い低音フレーズやシンセ・ブラスなどを重ね、虹色のビートを編む。ループには少々タイミングの歪みが含まれていたが、J Dillaの手法と同じくズレに中毒性を感じた。

ハイライトは浮遊感のある2小節のコードの繰り返しのなかで、2拍5連のリズムがレイヤーされた瞬間。さらにポリリズミックなグルーヴ上に天国的な音色が降り注ぐ。思わず漏れる感嘆のため息。繰り出すトーンのすべてが最高だ。音色のマジックにとろけた。
第三部はTokuiが別タイプのAIによるリズムマシンを鳴らして先行する。映像はひとつの宇宙の中心にBIGYUKIがいるかのようなビジュアルに変化。ビートのリヴァーブが消え、ドライになってから、若干レイドバックしたベース・ラインとキャッチーなモチーフが出現。次第にソロらしき展開も混じる。
 
ここで石若が途中合流。だが意外にも既に鳴っているビートにフィルインで乗り込む際、若干の躊躇を見せた。これについて彼は演奏後「AIのビートが聴こえずにズレてしまった」と回想するが、正確無比なテクノロジーに人間が対峙した際に逆説として現れるのは、自らの“不完全性”というバグである。

ステージの陣形が“ヒト × ヒト × AI”に変わり、ぐっと演奏の雰囲気が変化。BIGYUKIは饒舌な右手、蛇の様にうねる左手でスパークする。それに石若はダンサブルなビートでフロアを刺激しつつ、おいしいタイミングでリズムをオフして応戦。さらにピアノへの音色切り替えに対し、シンバルでスネアをプリペアドして対応するなど息の合ったアンサンブルを見せた。
AIが浮き彫りにする「人間とは?」への答えは、彼らのインタープレイのなかに片鱗が現れていたと思う。企画の総評としてそんなことも考えながら、演奏はBIGYUKIが無調なフレーズで漂い、美しく儚いマイナーなメロディを半音ずつ転調させてエンディング。互いを称え合う出演者たち。その温かい光景に大きな拍手が贈られイベントは幕を閉じた。
「AIとはまだ対話ではないのかもしれない」とBIGYUKIはライブを振り返る。確かに彼と石若、AIを伴ったそれぞれのソロ・パフォーマンスは自己と人工知能による内省のように見えた。とすれば、まるでマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドやポケモンのような存在を各自が携え、対話としてのライブに臨む未来が来るのかもしれない。

これは与太話に過ぎないが、本企画がオーディエンスに来るべき新時代の音楽表現を見せてくれたことは確か。AIテクノロジーの進歩、それに負けじと進化する人間の未来に注目したい。そしてAIを通して、我々が授かった“人間性”を再発見できるのかもしれない。この日は、そんなことを考えさせられた。
【イベント情報】

『Craft Alive AI x Live Performance Presented by Dentsu Craft Tokyo』

日時:2022年12月9日(金) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・代官山UNIT
出演:
BIGYUKI
石若駿
山口情報芸術センター[YCAM]
Nao Tokui
MOODMAN
Sountrive

主催:Dentsu Craft Tokyo

■ イベント詳細(https://www.dentsu-crx.co.jp/news/2022/3933/)
『Craft Alive AI x Live Performance Presented by Dentsu Craft Tokyo』が12月9日(金)、東京・代官山UNITで開催された。

“即興音楽における人間とAIの共創”をテーマに掲げる本イベントにはBIGYUKI、石若駿、Nao Tokuiが出演。それぞれが傾向の異なるパフォーマンスで、音楽表現における未来の可能性を示した。

本企画をプロデュースしたのはDentsu Craft Tokyo。デジタル・テクノロジーを起点に新しい表現や体験を開発するクリエイティブ・ハウスだ。彼らが第一線のミュージシャンと人工知能をどのように邂逅させるのだろう。

そこに好奇心をそそられた、多くの人々が代官山UNITに集結。実験的な場に人が集まる光景は、コロナ禍以前を軽々と通り越して、UNITがオープンした00年代初頭さえも彷彿とさせた。

Text by Naoya Koike(https://twitter.com/naoyakoike)
Photo by Naoya Suzuki
鳴り響いた轟音。最初に登場したNao Tokuiは、プレ・レコーディングしたシークエンスを使わずにその場でAIが生成した音像を混ぜ合わせる。どうやらベース・ラインを生み出すモデル、リズム・パターンを生み出すモデルなど、多様なプログラムが走っていたようだ。

それぞれの音は当初、無関係に鳴っているだけだったが、段々とビートらしきものを形成。映像も人体や瞳に形を変えた。しばらくした瞬間にグルーヴが発生した。それは分裂を繰り返した細胞がヒトになったようでも、虚無にビッグバンが生じた瞬間のようにも見える。
音がパターンにまで発展すると、いよいよTokuiはフィルターをかけたり、フレーズをミュートしたりとDJ的にプレイを展開。ときおり見せる笑顔に溢れる、AIによる音楽と対照的な人間味が興味深かった。

最終的にハウス風なリズムからBPMを下げ、小惑星のようなグルーヴたちは再び轟音のブラックホールに消えていく。
続いて登場したのはジャズ・ドラマーを基軸に、多彩な活動を見せる石若駿。彼のライブ・セットは2022年6月に山口情報芸術センター[YCAM]で初演されたパフォーマンス『Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち』の再演となる。“自分と共演すること”をテーマに、自身の演奏データをもとにしたAI「エージェント(代行者)」とのセッションだ。
演奏はライド単体の連打から始まり、次第にハイハットやキック、続いてセット右側のタムなどにスティックが移行する。段々とセット全体を使ったアブストラクトなビートが走り出し、それとともにおもちゃ箱のような装置が作動。中に入った物体がマラカスのような音をランダムに鳴らしつつ、それに光を当てた映像は万華鏡のようなビジュアルを描く。

そして突然鳴り出すシンセ。無人機材にスポットライトが当たる。電子音が乱入すると、一気にアンサンブル感が生まれた。石若は音色を楽しむような手数少なめの演奏や同じ音が連打されるシンセと戯れたりと多様な質感で表現。さらにスプラッシュ・シンバルにマイクを近づけたり、シンバルを弓で弾いてノイズを出す、音響的なアプローチの特殊奏法も飛び出す。
続いて明確なビートが出たかと思えば、再びわからなくなる、その往復からラッシュへ。刻まれるリズムに規則性があったかは定かではない。だが首の振り方を見るに、石若が無計画に打ち込むのではなく、パルスを感じていたことは理解できた。

パフォーマンス終盤では、無人シンセによるコードや現代音楽的なシークエンス、トーンクラスターが現れ、演奏の熱量が上がる。最終的にノイズとスナッピーを外したスネアのロール、シンバルの弓奏法で倍音を操作したメロディ、キックの連打で幕切れ。石若は“共演者”の「エージェント」たちにエールを送ってステージを去った。
トリを飾るのはBIGYUKI。ステージ上の彼は平面的には鍵盤に、立体的にはDentsu Craft Tokyoが演出を手がけたLEDのキューブに包囲されている。オーディエンスに向けて背中を向ける彼の姿は、Miles Davisを彷彿とさせた。

三部制で進行する彼のライブの導入はピアノの音色によるペンタトニック、またはアルペジオ調の音使いで上降。続いてメランコリックな香りのメロディが奏でられる。Tokuiのカオスからコスモスに至る展開、石若のフリー・ジャズ的なアプローチとは明らかに違い、メロディやハーモニーを知覚させるアティチュードだ。

そこにAIオーディオ・プラグイン「Neutone」(*)が挿されると、リアルタイムで音色が変化。さらに鍵盤を叩く指をキャプチャーした映像も絡んで観客の視聴覚は奪われた。

*最新のAIモデルを使い、革新的な音楽表現を生み出すためのプラグインを軸として、AI開発者・リサーチャーと音楽クリエーターの距離を縮めるための新しい取り組み。このプラグインはDAW上で動作し、深層学習を使ったDSP(デジタル音処理)モデルをリアルタイムで駆動。これまでアーティストやクリエーターにとっては敷居の高かったAIの利用を、汎用的なプラグインを通じて、簡単に創作プロセスに導入することができる。また、AIの研究者やエンジニアは、本プラットフォームを通じて、新規に開発されたモデルを、簡単に音楽・サウンドクリエーターと共有することができるようになる。Dentsu Craft TokyoのメンバーであるQosmoが開発。
ひと呼吸して、第二部は包まれるようなシンセで始まる。床が振動するほどの低音に続き、BIGYUKIは導入したばかりだというループ・ステーションを駆使。8小節にディレイの効いた太い低音フレーズやシンセ・ブラスなどを重ね、虹色のビートを編む。ループには少々タイミングの歪みが含まれていたが、J Dillaの手法と同じくズレに中毒性を感じた。

ハイライトは浮遊感のある2小節のコードの繰り返しのなかで、2拍5連のリズムがレイヤーされた瞬間。さらにポリリズミックなグルーヴ上に天国的な音色が降り注ぐ。思わず漏れる感嘆のため息。繰り出すトーンのすべてが最高だ。音色のマジックにとろけた。
第三部はTokuiが別タイプのAIによるリズムマシンを鳴らして先行する。映像はひとつの宇宙の中心にBIGYUKIがいるかのようなビジュアルに変化。ビートのリヴァーブが消え、ドライになってから、若干レイドバックしたベース・ラインとキャッチーなモチーフが出現。次第にソロらしき展開も混じる。
 
ここで石若が途中合流。だが意外にも既に鳴っているビートにフィルインで乗り込む際、若干の躊躇を見せた。これについて彼は演奏後「AIのビートが聴こえずにズレてしまった」と回想するが、正確無比なテクノロジーに人間が対峙した際に逆説として現れるのは、自らの“不完全性”というバグである。

ステージの陣形が“ヒト × ヒト × AI”に変わり、ぐっと演奏の雰囲気が変化。BIGYUKIは饒舌な右手、蛇の様にうねる左手でスパークする。それに石若はダンサブルなビートでフロアを刺激しつつ、おいしいタイミングでリズムをオフして応戦。さらにピアノへの音色切り替えに対し、シンバルでスネアをプリペアドして対応するなど息の合ったアンサンブルを見せた。
AIが浮き彫りにする「人間とは?」への答えは、彼らのインタープレイのなかに片鱗が現れていたと思う。企画の総評としてそんなことも考えながら、演奏はBIGYUKIが無調なフレーズで漂い、美しく儚いマイナーなメロディを半音ずつ転調させてエンディング。互いを称え合う出演者たち。その温かい光景に大きな拍手が贈られイベントは幕を閉じた。
「AIとはまだ対話ではないのかもしれない」とBIGYUKIはライブを振り返る。確かに彼と石若、AIを伴ったそれぞれのソロ・パフォーマンスは自己と人工知能による内省のように見えた。とすれば、まるでマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドやポケモンのような存在を各自が携え、対話としてのライブに臨む未来が来るのかもしれない。

これは与太話に過ぎないが、本企画がオーディエンスに来るべき新時代の音楽表現を見せてくれたことは確か。AIテクノロジーの進歩、それに負けじと進化する人間の未来に注目したい。そしてAIを通して、我々が授かった“人間性”を再発見できるのかもしれない。この日は、そんなことを考えさせられた。
【イベント情報】

『Craft Alive AI x Live Performance Presented by Dentsu Craft Tokyo』

日時:2022年12月9日(金) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・代官山UNIT
出演:
BIGYUKI
石若駿
山口情報芸術センター[YCAM]
Nao Tokui
MOODMAN
Sountrive

主催:Dentsu Craft Tokyo

■ イベント詳細(https://www.dentsu-crx.co.jp/news/2022/3933/)

Spincoaster

『心が震える音楽との出逢いを』独自に厳選した国内外の新鋭MUSICを紹介。音楽ニュース、ここでしか読めないミュージシャンの音楽的ルーツやインタビュー、イベントのレポートも掲載。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着