REPORT / Craft Alive AI x Live Pe
rformance Nao Tokui、石若駿、BIGY
UKIがみせた“AI × 人間”による音
楽表現の未来
“即興音楽における人間とAIの共創”をテーマに掲げる本イベントにはBIGYUKI、石若駿、Nao Tokuiが出演。それぞれが傾向の異なるパフォーマンスで、音楽表現における未来の可能性を示した。
本企画をプロデュースしたのはDentsu Craft Tokyo。デジタル・テクノロジーを起点に新しい表現や体験を開発するクリエイティブ・ハウスだ。彼らが第一線のミュージシャンと人工知能をどのように邂逅させるのだろう。
そこに好奇心をそそられた、多くの人々が代官山UNITに集結。実験的な場に人が集まる光景は、コロナ禍以前を軽々と通り越して、UNITがオープンした00年代初頭さえも彷彿とさせた。
Text by Naoya Koike(https://twitter.com/naoyakoike)
Photo by Naoya Suzuki
それぞれの音は当初、無関係に鳴っているだけだったが、段々とビートらしきものを形成。映像も人体や瞳に形を変えた。しばらくした瞬間にグルーヴが発生した。それは分裂を繰り返した細胞がヒトになったようでも、虚無にビッグバンが生じた瞬間のようにも見える。


最終的にハウス風なリズムからBPMを下げ、小惑星のようなグルーヴたちは再び轟音のブラックホールに消えていく。


そして突然鳴り出すシンセ。無人機材にスポットライトが当たる。電子音が乱入すると、一気にアンサンブル感が生まれた。石若は音色を楽しむような手数少なめの演奏や同じ音が連打されるシンセと戯れたりと多様な質感で表現。さらにスプラッシュ・シンバルにマイクを近づけたり、シンバルを弓で弾いてノイズを出す、音響的なアプローチの特殊奏法も飛び出す。


パフォーマンス終盤では、無人シンセによるコードや現代音楽的なシークエンス、トーンクラスターが現れ、演奏の熱量が上がる。最終的にノイズとスナッピーを外したスネアのロール、シンバルの弓奏法で倍音を操作したメロディ、キックの連打で幕切れ。石若は“共演者”の「エージェント」たちにエールを送ってステージを去った。

三部制で進行する彼のライブの導入はピアノの音色によるペンタトニック、またはアルペジオ調の音使いで上降。続いてメランコリックな香りのメロディが奏でられる。Tokuiのカオスからコスモスに至る展開、石若のフリー・ジャズ的なアプローチとは明らかに違い、メロディやハーモニーを知覚させるアティチュードだ。
そこにAIオーディオ・プラグイン「Neutone」(*)が挿されると、リアルタイムで音色が変化。さらに鍵盤を叩く指をキャプチャーした映像も絡んで観客の視聴覚は奪われた。
*最新のAIモデルを使い、革新的な音楽表現を生み出すためのプラグインを軸として、AI開発者・リサーチャーと音楽クリエーターの距離を縮めるための新しい取り組み。このプラグインはDAW上で動作し、深層学習を使ったDSP(デジタル音処理)モデルをリアルタイムで駆動。これまでアーティストやクリエーターにとっては敷居の高かったAIの利用を、汎用的なプラグインを通じて、簡単に創作プロセスに導入することができる。また、AIの研究者やエンジニアは、本プラットフォームを通じて、新規に開発されたモデルを、簡単に音楽・サウンドクリエーターと共有することができるようになる。Dentsu Craft TokyoのメンバーであるQosmoが開発。



ハイライトは浮遊感のある2小節のコードの繰り返しのなかで、2拍5連のリズムがレイヤーされた瞬間。さらにポリリズミックなグルーヴ上に天国的な音色が降り注ぐ。思わず漏れる感嘆のため息。繰り出すトーンのすべてが最高だ。音色のマジックにとろけた。






ここで石若が途中合流。だが意外にも既に鳴っているビートにフィルインで乗り込む際、若干の躊躇を見せた。これについて彼は演奏後「AIのビートが聴こえずにズレてしまった」と回想するが、正確無比なテクノロジーに人間が対峙した際に逆説として現れるのは、自らの“不完全性”というバグである。
ステージの陣形が“ヒト × ヒト × AI”に変わり、ぐっと演奏の雰囲気が変化。BIGYUKIは饒舌な右手、蛇の様にうねる左手でスパークする。それに石若はダンサブルなビートでフロアを刺激しつつ、おいしいタイミングでリズムをオフして応戦。さらにピアノへの音色切り替えに対し、シンバルでスネアをプリペアドして対応するなど息の合ったアンサンブルを見せた。




これは与太話に過ぎないが、本企画がオーディエンスに来るべき新時代の音楽表現を見せてくれたことは確か。AIテクノロジーの進歩、それに負けじと進化する人間の未来に注目したい。そしてAIを通して、我々が授かった“人間性”を再発見できるのかもしれない。この日は、そんなことを考えさせられた。

『Craft Alive AI x Live Performance Presented by Dentsu Craft Tokyo』
会場:東京・代官山UNIT
出演:
BIGYUKI
石若駿
山口情報芸術センター[YCAM]
Nao Tokui
MOODMAN
Sountrive
主催:Dentsu Craft Tokyo
■ イベント詳細(https://www.dentsu-crx.co.jp/news/2022/3933/)
『Craft Alive AI x Live Performance Presented by Dentsu Craft Tokyo』が12月9日(金)、東京・代官山UNITで開催された。
“即興音楽における人間とAIの共創”をテーマに掲げる本イベントにはBIGYUKI、石若駿、Nao Tokuiが出演。それぞれが傾向の異なるパフォーマンスで、音楽表現における未来の可能性を示した。
本企画をプロデュースしたのはDentsu Craft Tokyo。デジタル・テクノロジーを起点に新しい表現や体験を開発するクリエイティブ・ハウスだ。彼らが第一線のミュージシャンと人工知能をどのように邂逅させるのだろう。
そこに好奇心をそそられた、多くの人々が代官山UNITに集結。実験的な場に人が集まる光景は、コロナ禍以前を軽々と通り越して、UNITがオープンした00年代初頭さえも彷彿とさせた。
Text by Naoya Koike(https://twitter.com/naoyakoike)
Photo by Naoya Suzuki
それぞれの音は当初、無関係に鳴っているだけだったが、段々とビートらしきものを形成。映像も人体や瞳に形を変えた。しばらくした瞬間にグルーヴが発生した。それは分裂を繰り返した細胞がヒトになったようでも、虚無にビッグバンが生じた瞬間のようにも見える。


最終的にハウス風なリズムからBPMを下げ、小惑星のようなグルーヴたちは再び轟音のブラックホールに消えていく。


そして突然鳴り出すシンセ。無人機材にスポットライトが当たる。電子音が乱入すると、一気にアンサンブル感が生まれた。石若は音色を楽しむような手数少なめの演奏や同じ音が連打されるシンセと戯れたりと多様な質感で表現。さらにスプラッシュ・シンバルにマイクを近づけたり、シンバルを弓で弾いてノイズを出す、音響的なアプローチの特殊奏法も飛び出す。


パフォーマンス終盤では、無人シンセによるコードや現代音楽的なシークエンス、トーンクラスターが現れ、演奏の熱量が上がる。最終的にノイズとスナッピーを外したスネアのロール、シンバルの弓奏法で倍音を操作したメロディ、キックの連打で幕切れ。石若は“共演者”の「エージェント」たちにエールを送ってステージを去った。

三部制で進行する彼のライブの導入はピアノの音色によるペンタトニック、またはアルペジオ調の音使いで上降。続いてメランコリックな香りのメロディが奏でられる。Tokuiのカオスからコスモスに至る展開、石若のフリー・ジャズ的なアプローチとは明らかに違い、メロディやハーモニーを知覚させるアティチュードだ。
そこにAIオーディオ・プラグイン「Neutone」(*)が挿されると、リアルタイムで音色が変化。さらに鍵盤を叩く指をキャプチャーした映像も絡んで観客の視聴覚は奪われた。
*最新のAIモデルを使い、革新的な音楽表現を生み出すためのプラグインを軸として、AI開発者・リサーチャーと音楽クリエーターの距離を縮めるための新しい取り組み。このプラグインはDAW上で動作し、深層学習を使ったDSP(デジタル音処理)モデルをリアルタイムで駆動。これまでアーティストやクリエーターにとっては敷居の高かったAIの利用を、汎用的なプラグインを通じて、簡単に創作プロセスに導入することができる。また、AIの研究者やエンジニアは、本プラットフォームを通じて、新規に開発されたモデルを、簡単に音楽・サウンドクリエーターと共有することができるようになる。Dentsu Craft TokyoのメンバーであるQosmoが開発。



ハイライトは浮遊感のある2小節のコードの繰り返しのなかで、2拍5連のリズムがレイヤーされた瞬間。さらにポリリズミックなグルーヴ上に天国的な音色が降り注ぐ。思わず漏れる感嘆のため息。繰り出すトーンのすべてが最高だ。音色のマジックにとろけた。






ここで石若が途中合流。だが意外にも既に鳴っているビートにフィルインで乗り込む際、若干の躊躇を見せた。これについて彼は演奏後「AIのビートが聴こえずにズレてしまった」と回想するが、正確無比なテクノロジーに人間が対峙した際に逆説として現れるのは、自らの“不完全性”というバグである。
ステージの陣形が“ヒト × ヒト × AI”に変わり、ぐっと演奏の雰囲気が変化。BIGYUKIは饒舌な右手、蛇の様にうねる左手でスパークする。それに石若はダンサブルなビートでフロアを刺激しつつ、おいしいタイミングでリズムをオフして応戦。さらにピアノへの音色切り替えに対し、シンバルでスネアをプリペアドして対応するなど息の合ったアンサンブルを見せた。




これは与太話に過ぎないが、本企画がオーディエンスに来るべき新時代の音楽表現を見せてくれたことは確か。AIテクノロジーの進歩、それに負けじと進化する人間の未来に注目したい。そしてAIを通して、我々が授かった“人間性”を再発見できるのかもしれない。この日は、そんなことを考えさせられた。

『Craft Alive AI x Live Performance Presented by Dentsu Craft Tokyo』
会場:東京・代官山UNIT
出演:
BIGYUKI
石若駿
山口情報芸術センター[YCAM]
Nao Tokui
MOODMAN
Sountrive
主催:Dentsu Craft Tokyo
■ イベント詳細(https://www.dentsu-crx.co.jp/news/2022/3933/)
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