【追悼 ジェフ・ベック】
ロック史上最高のギタリストとして
世界を魅了し続けた人生

ジャズ、ブラックミュージックを
消化したジェフ流の
ハイテク・クロスオーバー

『ワイアード』 のほうは冒頭の「Led Boots」から激烈に攻め上がるふうである。新たにドラムスにナラダ・マイケルウォルデン、シンセサイザーにヤン・ハマーが加わり、演奏力はより強固なものとなり、さらにマイケルウォルデンが4曲、ミドルトンとバスコムも楽曲提供するなど、セッション・メンバー間の協調もかつてないほど良い。ちなみにマイケルウォルデンはこの時期は元マハヴィシュヌ・オーケストラのドラマーという認識が一般的だったが、この後ソングライター、プロデューサーとしてR&B界の重要人物になっていく。曲を続けるとチャーリー・ミンガスの曲に挑んだ「Goodbye Pork Pie Hat」、ミドルトンのクラビネットを生かしたファンキーな「Play With Me」、ジェフが珍しくアコギを弾く美しいエンディング「Love Is Green」まで、全曲ジェフのギターを堪能させてくれるアルバムだ。なお、ここで紹介した2枚のアルバムのライヴ盤とも言うべき『ライヴ・ワイアー(原題:Jeff Beck With The Jan Hammer Group – Live)』(‘77)というアルバムもある。演奏は超強力だが、ヤン・ハマー(キーボード)の弾くシンセの音色に時代がかったものを感じないでもない。

ベックのコンサートには大人になってからも何度か足を運んだ。後学のためとして洋楽に興味を持ち始めた息子を連れて行ったこともある。「すごすぎてどうやって弾いてるのか分からなかった」と言っていたっけ。それは私だって未だに分からないのだ。アルバムもいろいろ買ったが毎回違うことに挑戦しているベックには感嘆しきりだった。昔はメンバーをすぐクビにしたり、バンドをつぶしたり、あまり笑顔も見せず、どこか近寄りがたい一匹狼、ギター求道者のようで、そんなイメージも彼の魅力だったけれど、近年のライヴ、『ライヴ・アット・ロニースコッツ(原題:Performing This Week...Live At Ronnie Scott's)』(‘08)や『ライヴ・アット・ハリウッド・ボウル(原題:Live At The Hollywood Bowl )』(‘16)などを観ると、共演者に屈託のない笑顔を向ける場面が多い。まあ、ベックの共演者もひと筋縄ではいかない凄腕の持ち主ばかりなので、均等の力量を称え合うシーンに見えなくもないのだけれど、本当は心優しい人だったと聞く彼の素の部分が見え、またベックのことが好きになった。

パッケージ作品ばかりでなく、動画サイトのおかげでベックのライヴを好きな時に探し、観ることができる便利な時代になった。それでも、48年前、遠くから見たあの姿、神がかった演奏の記憶は消えることなく、今もなお頭の中で残響している。

今は感謝の気持ちしかない。ありがとうジェフ、あなたは私たちにギターはもちろん、音楽の素晴らしい世界の、その視界を広げてくれた偉大なアーティストのひとりです。これからも、あなたのサウンドは響き続けるでしょう。

TEXT:片山 明

アルバム『Blow by Blow』1975年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. 分かってくれるかい/You Know What I Mean
    • 2. シーズ・ア・ウーマン/She's a Woman
    • 3. コンスティペイテッド・ダック/Constipated Duck
    • 4. エアー・ブロワー/Air Blower
    • 5. スキャッターブレイン/Scatterbrain
    • 6. 哀しみの恋人達/Cause We've Ended as Lovers
    • 7. セロニアス/Thelonius
    • 8. フリーウェイ・ジャム/Freeway Jam
    • 9. ダイヤモンド・ダスト/Diamond Dust
アルバム『Blow by Blow』1976年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. レッド・ブーツ/Led Boots
    • 2. カム・ダンシング/Come Dancing
    • 3. グッドバイ・ポーク・パイ・ハット/Goodbye Pork Pie Hat
    • 4. ヘッド・フォー・バックステージ・パス/Head for Backstage Pass
    • 5. 蒼き風/Blue Wind
    • 6. ソフィー/Sophie
    • 7. プレイ・ウィズ・ミー/Play With Me
    • 8. ラヴ・イズ・グリーン/Love is Green
『BLOW BY BLOW』('75)/Jeff Beck
『WIRED』('76)/Jeff Beck

OKMusic編集部

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