「今までになかった一面を」なきごと
が語る、1stフルアルバム『NAKIGOTO
,』(後編)ーーNHK『みんなのうた』
提供「ぷかぷか」などA面の新曲を深
掘り

​​疲れ切った日常にほんの少しのなきごとを。(バンドのウェブサイトより)
2018年9月の結成以来、そんな思いとともにリスナーに寄り添う歌と楽曲を、オルタナ以降の感性を持つ振り幅の広いバンド・サウンドとともに奏でてきた水上えみり(Vo.Gt)と岡田安未(Gt.Cho)からなる2人組ロックバンド・なきごとが、2018年9月の結成から4年を経て、待望の1stフルアルバム『NAKIGOTO,』をリリース。新曲10曲からなる【A面】と過去曲12曲からなる【B面】をカップリングしたその『NAKIGOTO,』は1枚目にして、早くも集大成の趣も。それはなきごとがこの4年間、濃密な活動を続けてきたからこそなのだが、インタビューの後編となる今回は、【A面】収録の新曲をさらに深堀りしながら、『NAKIGOTO,』の聴きどころを水上と岡田に訊いた。

MV『 Summer麺 』

ーーさて、【A面】の全10曲、いろいろな振り幅を楽しませながら、確固たるなきごとの世界観を印象づけているという意味で、とても聴き応えがありました。アルバムのリリースに先駆け、配信リリースした「Summer麺」と「自転車」もなかなかの振り幅だと思うのですが、それぞれにどんななきごとを見せたいと考えたのでしょうか?
水上:「Summer麺」は、今まであったようで、なかったなきごとを見せたいなと。歌詞も含め、今までのなきごととは一味違ったテイストで、こういうなきごとあるんだよというところを意識しました。「自転車」は逆にツアー中、遠征先で見たり、聴いたり、食べたりして、感じたことを曲にそのまま素直に落とし込んでいます。シングルと言うよりは、アルバム曲かなというつもりで書いたんですけど、チームからはシングルにしたいと好評だったんですよ。
ーー「Summer麺」はラテン・ミュージックのテイストも感じられますね。
岡田:それは細かく16分で刻んでいるドラムの効果ですね。
ーーなるほど。<サマーヌードル>と歌っているのに、タイトルは「Summer麺」とヌードルが麺という漢字表記になっているところが気になるのですが(笑)。
水上:「Summer Noodle」と英語にしたらかっこよくなかったんですよ(笑)。
岡田:「Summer麺」もかっこいいとは思わないけど(笑)。むしろ、ちょっとネタっぽい。
水上:私はそう思わなかった。
岡田:それこそ水上ワールドだよね。そのセンスは。
水上:曲にサブリミナルみたいな感じで、あれ、こういう意味なのかなというのを混ぜるのが好きなんですよね。過去曲も含めて。そういうところで、麺をヌードルと読むことで、いろいろ想像できるのかなみたいなのも含めて、いろいろな受け取り方をしてほしかったので、漢字にしてみました。
ーー水上さんが書く歌詞には麺も含め、けっこう難しい漢字が出てきますが、意識的に使っているんですか?
水上:難しいけど、字面を見たとき、意味はわかるとか、意味はわからないけど、目にしたことはあるという漢字の言葉を選ぶようにしています。むしろ、わかりやすいことを意識しているんですけど(笑)。
岡田:漢字、書ける? 私はあやしい。
岡田安未(Gt.Cho)
ーーけっこう難しい漢字が出てきますよ。たとえば、「私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない」の<泥泥寧寧>とか、「ハレモノ」の<粗雑(ぞんざい)>とか。
岡田:無理無理。書ける?
水上:書けないかも(笑)。基本的に、今まではノートに歌詞を書くことが多かったんですけど、iPadを買ったんですよ。で、最初はi Padにペンでメモ書きをしていたんですけど、最近は文字を打ち込むようになりまして。それで、字面としてすっきりするようになったと言うか、ノートに書いていた時は丸っこい歌詞の印象だったのが、カクカクしはじめたっていうのはあるかもしれないです。
岡田:あぁ、確かに。
水上:そこは私がどの媒体を使うかによって変わるみたいです。
岡田:丸っこい歌詞を書きたい時はノートに手書きするんだ?
水上:そう。「自転車」はノートに書きました。
岡田:その違いが歌詞に出るっておもしろいね。
水上:意外と視覚的に書いているんですよ。
ーーあ、それは感じます。
水上:「ぷかぷか」もノートに書きました。
岡田:歌詞カードを見ながら、曲を聴いてもらうと、世界観が伝わりやすいですね。
水上えみり(Vo.Gt)
ーー「ハレモノ」の歌詞を読みながら、ひしゃくは漢字で<柄杓>と書くんだとか。ひしゃくという言葉は耳馴染みがありますけど、それを歌詞カードで見たとき、<柄杓>と漢字で書いているところには何か意味があるのかなと、深読みも楽しめますよね?
水上:意味があったりなかったりも含めてですけどね。
ーーノートに手書きしたという「ぷかぷか」はNHK「みんなのうた」に提供した曲ですが、書き下ろしなんですか?
水上:そうです。水というテーマだったり、イメージで書いてくださいとオファーがありまして、何曲か書いてみたんですけど、あんまりしっくりこなくて。もしかしたら水というのが広すぎるのかもしれないと思って、海とか川とか、実際に水があるところに足を運んで、そこで思ったことを盛り込んでみました。
ーーなぜ水だったんですかね?
水上:私が水上だからだと思います(笑)。
ーーえっ、ほんとに!?
水上:そうだと思います、たぶん(笑)。あと、なきごとを泣き言というふうに漢字にすると、さんずいが入っているし、なんとなく青っぽい印象もあるから、それで水上だしということで水になったんじゃないかな。
ーー曲調についてリクエストは?
水上:「みんなのうた」からなのか、チームからなのかわからないですけど、子供向けだから、明るい曲でと言われたので、曲の意味合いとしても、前に進んでいけるようなちょっとマーチみたいな始まり方をしたいと思って、こういうアレンジになっています。
なきごと / 『私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない』【Music Video】
ーー頭打ちのドラムから印象的ですよね。さて、【A面】の1曲目は「私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない」というタイトルから、おやっと思わせます。今まで象徴的な言葉をタイトルにすることが多かったことを考えると、タイトルがステートメントになっている曲を、【A面】の1曲目に持ってきたのは、何かしらの意思表示なのかなと想像したのですが。
水上:この曲に関しては、それ以外のタイトルがなかったと言うか、元々、こういう長々しいタイトルをつける癖はあるんですよ、(仮)として。
ーーあ、そうだったんですか。
水上:そうなんですよ。長い仮タイトルをつけておいて、曲ができあがった時に正式にタイトルをつけることも多くて、今回、収録されていないんですけど、「忘却路」も仮タイトルが「忘却曰く爆発」だったんです(笑)。実は、以前からそういう傾向があるんですけど、それが今回、身ぐるみはがされましたね(笑)。たとえば、これが「愛している」というタイトルだったら違うなと思うし、自分の中では、これ以外なかったんですよ。
ーーなきごとはなきごとにしかできない表現をしていくぞという気持ちの表れなんじゃないかと。
水上:それに通じていたらいいなと思いますけど、いろいろな聴き方をしてほしいですね(笑)。
ーー余談ですけど、日本人の文化に、愛しているという言葉はちょっとそぐわない気がするんですよ。だって、欧米のようにアイラブユーは、日常的に言わないじゃないですか。
水上:アイラブユーを愛していると訳すと、ちょっとイコールではないかな。ニアリーイコールかもしれないけど、そういう節はありますよね。この曲を書こうと思ったキッカケが、猫は愛していると伝えるとき、ゆっくり瞬きするらしい、という話を聞いたことなんですよ。それはたしかに、すごく愛しているという気持ちを伝えてくれているってなりません? でも、こっちから伝えるとき、愛してるよと言葉で言うのもなんかちょっと違うように思うんですよ。だから、タイトルの通りなんですけど、日本人もそうだし、自分自身もそうだなと思うところはありますね。
岡田安未(Gt.Cho)
ーー演奏も感情表現も熱を放つ「Summer麺」「シャーデンフロイデ」「ハレモノ」「luna」の流れがアルバムのハイライトなんじゃないかと思うのですが。
岡田:序盤で助走をつけて、真ん中で突っ走って、ちょっと落ち着いてっていう印象ありますよね。
水上:個人的には「ハレモノ」と「luna」の流れがすごく気に入ってます。急にギターのカリーンって音で、それまでの世界観を切り裂いて、「ハレモノ」の世界観にぐっとひきこむっていう。「ハレモノ」、かっこいい曲になっちゃったなって自分でも思いますし、「ハレモノ」で荒々しくなった後に「luna」でちょっと落ち着いて、また「luna」の世界にぐっと入るっていうこの流れはすごくお気に入りですね。
ーー「luna」は曲調こそ落ち着くのですが、リバービーなリフ、後半のギター・ソロがすごくダイナミックで、単純に穏やかな曲と言いきれないところがかっこいいですね。
岡田:この曲のギターはリバーブを深めにかけているんですけど、それは「luna」って月のことだから、月の光で包み込むような世界観を表現したかったからなんです。後半のギター・ソロは、がっつり歪ませてほしいというオーダーがあったので、がっつり歪ませて、あなたに会いたいけど、会えないという悲しい気持ちで弾きました。
ーーギターと言えば、「おまじない」も忘れることができません。これこそギターが大活躍していますね。
岡田:イントロから2本のギターがうまく歯車のように噛み合っていますよね。
ーーギター・ソロも弾きたおしていますね。
岡田:ライブがちょっと心配なんですけど、なんでギター・ソロ入れたんだろ?(笑)。
水上:19年からある曲なんですけど、初期曲ほどギター・ソロがあるんですよ。ミックスの話をすると、この曲はギター・ソロだけ、バッキングのギターが2本鳴っていて、ソロだけぐっと広がる感じになるんです。だけど、サビの後、リードとバッキングが1本ずつになる。だから、ソロだけギターが3本鳴っていて、それ以外は2本っていうちょっと気持ち悪い感じになっているところも聴きどころだと思います。
ーーギター・ソロの直前に長めのブレイクが入っていて。
水上:ドキドキしますよね。ラジオで流したら放送事故なんじゃないかっていうくらい。
岡田:ギリだよね(笑)。
ーー【A面】の最後の「あいかわらず」と【B面】の最初の「癖」。同じモチーフを歌っていることを考えると、この曲順はもちろん狙っているんですよね?
水上:そうです。私個人としては、【B面】を【A面】にして、【A面】を【B面】にしたかったんですよ。古い曲からなきごとが辿っていった道筋を曲順でも表現したかったんですけど、さすがに【A面】は新曲だろうということになって、だったら【B面】と【A面】の繋がりとか、【B面】を聴いてもう一度、【A面】を聴いてもらったとき、それがわかるようにしたいと考えました。だから、【A面】の最後は「あいかわらず」、【B面】の最初は「癖」と決めてました。なんなら、「あいかわらず」の仮タイトルは、「癖2」だったんですよ。続編なんです。
ーーなるほど。<「待ってる。」>と歌っている「癖」の最後が、「あいかわらず」の最後では<ここで待つのも終わりにするんだ>と歌っているところが大事なんですよね?
水上:はい。
岡田:力強い返事(笑)。
水上:「癖」は弱々しくて、感傷的になっている女の子が主人公なんですけど、月日とともに人って成長していくし、成長したくなくても、進んでいくものだし。そういうことを2曲並べることで落とし込めるかなと思って、曲のコードもほぼほぼ同じで、キーも同じにしているんですよ。そんなふうに変わらないものもあるけど、変わっていくものもあって、かなり主人公の心情が変化しているので、2曲セットで聴くことで、より物語がおもしろいものになると思います。
水上えみり(Vo.Gt)
ーー最後に、それぞれに推し曲があったら教えてください。
岡田:「ハレモノ」です。重ためでマイナー調の曲が好きという私の好みにバチコーンとハマっててかっこいい。イントロのギターは、やっぱり好きですね。
水上:どれも好きなんですけど、一個人としての思い入れが強いのは「luna」。「スプートニクになる」という飼っていたハムスターが亡くなった時のことを書いた曲があるんですけど、「luna」もそのハムスターが亡くなった時のことを書いた曲があるんですけど、「luna」も大事な家族が亡くなった時のことを書いているんです。「スプートニクになる」の時は、悲しいけど、前向きという印象の曲になったんですけど、「luna」は前向きに聴こえるけど、どこか悲しくて、違和感があるところを意識しました。変拍子を使っているところもそうなんですけど、自分が死んで、昇天する時にこの曲が流れていてほしいと思うくらい好きなんです。
ーー<いまに僕の番も来る その時に迎えに来るのは、luna…君がいいよ>という歌詞の<君>は、そのハムスターなんですか?
水上:そうです。あれ、何かおかしいですか?(笑)。
ーーいえ、この歌詞を聴いたとき、僕も以前飼っていた猫達に迎えにきてほしいと思ったんですよ。
水上:めっちゃいいですね。私もそういう気持ちなんです。
ーーだから、この曲を聴くと、猫達のことを思い出してちょっと泣けるんです。すみません、個人的な話で。
水上:ペットは家族と言うか、生活の一部になりますからね。でも、それはこの曲でも歌ってますけど、猫ちゃんやハムちゃんの<輪廻(サイクル)>が終わっただけで、自分にもいつかその<輪廻(サイクル)>の終わりが来る。だから、そんなに悲しむことはないとわかってはいるのに受け入れられないじゃないですか。それがこの曲の違和感に通じていて、変拍子になっていたりするんですよ。ただ、そういう<輪廻(サイクル)>があるなら、自分の<輪廻(サイクル)>が終わったとき、あなたに迎えにきてほしいなと。ギター・フレーズも輪廻感があって、すごく泣けるんです。特にアウトロを聴いていると、本当にこのまま天国に行けるんじゃないかと思うんですよ(笑)。
ーー岡田さん、水上さんはそうおっしゃっていますが。
岡田:そこまで言ってもらえると、ギタリスト冥利に尽きますね。
取材・文=山口智男 撮影=高田梓

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