ととのうイメージ(pixabay)

ととのうイメージ(pixabay)

君は映画で「ととのった」ことがある
か?

 君は映画で「ととのった」ことがあるか? ここで言う「ととのう」とは、最近使われるようになったサウナ用語。サウナ→水風呂→外気浴を行うことで得られるトランス状態のことを指す。脳内麻薬が分泌され、なんだか気持ち良くなるゾーンに入るわけだが、サウナが流行っている今、この「ととのう」をご存知のかたも多いことだろう。
 映画でととのうとは。それは、睡魔との戦いの先に訪れるトランス状態。
 つまらない映画→睡魔→つまらない映画→睡魔…ととのったー! つまりはそういうことである。
 これだけでは意味がよくわからないかもしれない。実例をあげて、詳しく説明していこう。
『SF・SEX/異星人のえじき』の場合 監督はB級映画の巨匠、ジェス・フランコ。代表作はこれといってないが、『人喰い魔神・裸女狩り』『バージン・ゾンビ/悪魔の死霊軍団』などと、いかにも頭の悪そうな作品を出し続けていた(2013年逝去)。その気が狂ったパッケージと異様なタイトルで、監督の存在自体は知っている人も多いのでは。
 その監督の劇場未公開作品『SF・SEX/異星人のえじき』(原題『Shining Sex』)が上映されるという奇跡が昨年末にあったのだ。これはその鑑賞の記録である。
 開始早々、スクリーンいっぱいに映し出されるツルツルの無毛女性器(剃り跡が痛そう)。医学書以外で、こんなに堂々と無修正の局部を見られるとは…しかも令和に。
 ストリッパー役のリナ・ロマイ(ジェス・フランコ作品常連の女優)が胸と股間を曝け出し、いささか盛り上がりに欠ける観客を前に、牧歌的なダンスを繰り広げるのが序盤。女性同士でのセックス、裸でのマッサージというか愛撫などが展開されているのだが、これが無駄に長い。もちろんストーリーの筋とは一切関係のない無駄な映像だ。映画を最低限の尺に到達させるために、間延びに間延びを重ねているのだろう。 
 眠さに負けて数分寝落ちした後に見ると、無毛女性器の寄りのアップ。「まだ話進んでないのかよ…」とまた寝そうになり、また数分で目を覚ますと次は挿入シーン。
 日頃は2回も寝落ちしたら目が覚めるものだが、入眠効果抜群のイージーなBGMが後ろでずっと流れており(これまたジェス・フランコ作品常連の作曲家、ダニエル・ホワイトによるもの)、さらに寝落ち。
 それを繰り返していると、パッと目の前が幻想的な世界に。「あれ、今目の前に映ってるのは現実…?」そういう不思議な感覚に陥るのだ。「せん妄」という麻酔を使った手術後に幻覚を見る意識障害があるが、あの感じとおそらく同じ(多分)。寝落ちを繰り返す間に、夢と現実の狭間に入り込んだ感覚になって、あれなんだか気持ちがいいぞ?? そう、これが映画における「ととのったー!」なのである。
 映画の後半になると、「そしてアフリカに行った」というナレーションとともに、どう見てもアフリカとは思えない海を、船が移動する場面に。もうその展開がぶっ飛びすぎていて、キマった状態の意識はさらなるフェーズへと到達。
おかげでより深い「ととのい」を体験できた…とまあこんなところである。一応あらすじをざっくりと言っておくと、ストリッパー(リナ・ロマイ)が異星人に操られ、SEXのオーガズムによって相手を死なせていくという物語である。
家でなく映画館で観るべし! つまらない映画の鑑賞中に寝落ちすることは悪いことではない。寝落ちを繰り返すことで、サイケデリック空間に突入するのだから。そのためには、VHS時代のチープなホラー映画がおすすめだ。つまらなすぎて配信もされてないようなやつ。コクリ、コクリと寝落ちをして、半分夢の中に入ったら、それは立派な「ととのい」体験だ。
 日活ロマンポルノとか、あのくらいのゆるさがちょうどいいかも。家だとぐっすり眠ってしまうので、できれば劇場がベストだ。サウナでととのうのは古い。今は映画でととのう時代なのだ。
文/づぼらや英二写真/ととのうイメージ(pixabay)、『Shining Sex』ポスター

アーティスト

ブッチNEWS

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」