【独断による偏愛名作Vol.1】
氷室京介、布袋寅泰、玉置浩二…
J-ROCKの巨人たちが
奥田圭子に佳作を捧げた『cresc.』
玉置浩二、秋元康&見岳章も楽曲提供
その他の楽曲となると、のちに美空ひばり「川の流れのように」を手掛けることになる “作詞:秋元康/作曲:見岳章”のコンビによるM2「真赤なシューズを飛ばす時」、M3「地下鉄におけるスタンリーキューブリック的考察」、M7「なんて…」が聴きどころだろうか。いずれも元一風堂の見岳章がアレンジも手掛けているだけあって、ニューウェイブ色が強い。M2はロック、M3は幻想的なミッドチューン、M7はレゲエと、それぞれベースとなっている曲のタイプは異なるものの、いずれもエフェクトをかけることがマストであったかのようなアレンジで、今となってはレトロフューチャーを感じるところではある。手元に歌詞がないので、M3は映画『ロリータ』の影響なのか、何がどうキューブリックなのかは分からないけれど、若き秋元康のユーモアを感じるところだし、秋元、見岳両名のチャレンジ精神のようなものを見出せるのではないかと思う。
ここまで紹介してきたナンバーが前半、アナログ盤ではA面に集まっているので、後半=B面は相対的にやや地味な印象ではあるものの、他にもファンキーなM6「ため息の予感」、ジャジーなM8「悲しみのアベニュー」、AORな匂いがするM9「Bay Sideロマンス」、M10「想い出の傘の下で」と、『cresc.』はバラエティーに富んだ作品集である。しかしながら、BOØWY、玉置浩二、秋元康&見岳章と、豪華が座組で制作されたアルバムではあったが、セールスは芳しくなかったようだ。Wikipediaによればチャート最高位は90位だった模様。それまでにリリースされていたシングルはいずれも30位前後と健闘していたっぽいが、アルバムで失速したという見方もできる。いい作品であってもそれが成功するかどうか分からないのは世の常。奥田圭子の『cresc.』もその例に漏れないアルバムと言える。その後、廃盤となり、なかなかCD化されることがなかったが、2008年にシングル曲を加えた『cresc. and singles』として再発。マニアを喜ばせたようだが、それもまた廃盤となったようである。さっき調べたらCD版の中古での取引価格は15000円程度となっていた。つまり、それなりに需要はあるのだろう。『cresc. and singles』にも収録されていない「Single Woman」と併せてサブスクに上げてくれたらいいのになぁ…と切に願う。
TEXT:帆苅智之