中川晃教が16歳のチェーザレを見事に
体現 明治座が総力をあげて臨むミュ
ージカル『チェーザレ 破壊の創造者
』観劇レポート

2023年1月7日(土)、ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』が東京・明治座にて開幕した。
惣領冬実による大ヒット歴史漫画「チェーザレ 破壊の創造者」(監修:原 基晶 講談社刊)を原作に、脚本・作詞を荻田浩一、作曲・音楽監督を島健、演出を小山ゆうなという豪華クリエイター陣の手によってミュージカル化された本作。明治座にとって初となるオリジナルミュージカルであり、1993年に新設された幻のオーケストラ・ピットが本作で初めて使用されることにも注目が集まっている。本来であれば2020年に開幕が予定されていたのだが、コロナ禍の影響で全公演中止に。明治座創業150周年の節目となる2023年に、満を持しての上演を果たすこととなった。
主演を務めるのは、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』での名演が記憶に新しい中川晃教。脇を固めるのは橘ケンチ(EXILE)、藤岡正明、今拓哉、丘山晴己、横山だいすけ岡幸二郎、別所哲也ら豪華な面々。さらに、チェーザレと共に学ぶ学生たちには期待の若手俳優陣が起用され、山崎大輝・風間由次郎・近藤頌利・木戸邑弥による【スクアドラ ヴェルデ】と、赤澤遼太郎・鍵本輝・本田礼生・健人による【スクアドラ ロッサ】の2チームでWキャストとして加わる。
以下、1月7日(土)初日公演(スクアドラ ヴェルデ出演回)の模様をレポートする。

物語の舞台は激動のルネサンス期のイタリア。教皇と皇帝の二大勢力の権力争いが続きヨーロッパ中に不穏な空気が漂う中、チェーザレはローマで生を受ける。本来であれば結婚して子を持つことは許されないはずの聖職者ロドリーゴ・ボルジアが、娼婦との間に作った“罪の子”であった。
ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』舞台写真
混迷を極める世に生まれたチェーザレは「世界をより良いものにするためにどうあるべきか」「真のリーダーとは何なのか」を自問自答し、葛藤し続ける。本作はそんなチェーザレの青年期に焦点を当て、彼の心情の変化を壮大なスケールの歴史と音楽と共に描いていく。セットは舞台上に大階段が鎮座し、盆の回転によって場面が切り替わるというシンプルな構成。時折映像演出が組み込まれ、映画さながらの臨場感溢れる乗馬シーンやヨーロッパの美しい景観が映し出されていた。
1幕では当時のヨーロッパ諸国の関係性や、憎悪渦巻く政権争いの状況、そんな世の中の縮図のようなピサ大学の学生たちの姿が中心に描かれている。一度の観劇のみで本作の歴史的背景や人間関係を理解しきるのは難しいため、できれば事前に予習しておくのがおすすめだ。原作を読むのがベストかもしれないが、公式サイトの人物相関図の確認や、「ダンテの神曲」「ボルジア家」「メディチ家」「プリマヴェーラ」等のキーワードを調べておくだけでも作品理解が深まるだろう。2幕になると一転、物語が動き出し、サスペンス要素もあるドラマチックなシーンに引き込まれていく。
豪華キャスト陣が随所に登場する本作だが、中でも16歳のチェーザレ・ボルジアを見事に体現する中川の好演が光っていた。チェーザレの発する言葉や一挙手一投足からは知性と気品が感じられ、役に確かな説得力がある。学生同士の争いが起きると言葉巧みに戒めるが、時に大胆不敵な行動で周囲を驚かせることも。中川は歌唱の面でもまた新たな魅力を感じさせてくれた。圧倒的な歌唱力で情熱的に歌い上げる姿が彼の持ち味のひとつだが、本作では非常に繊細な歌声でチェーザレという役を表現しているように感じられた。一音一音を丁寧に響かせながら歌を紡いでいく姿が印象的だ。
ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』舞台写真
そんなチェーザレを支える腹心のミゲル・ダ・コレッラを演じたのは、本作がミュージカル初出演となる橘。ユダヤ教徒でありながらキリスト教社会に身を置くという複雑な状況にあるミゲルを、橘は誠実に演じていた。端正な顔立ちはもちろん、凛とした美しい立ち姿に思わず目を惹かれる。2幕冒頭で見せるキレのあるダンスやアクションシーンでは、持ち前の身体能力を遺憾なく発揮していた。
チェーザレが通うピサ大学では、個性豊かな学生たちの活気が溢れる。入学して間もないアンジェロ・ダ・カノッサは、その名の通り天使のような純真無垢な青年。平民出身で世間知らずな彼と共に、我々観客は物語の人間関係や世の中の情勢を理解していく作りになっている。山崎が演じるアンジェロは、瞳をキラキラと輝かせながらチェーザレを見つめる様子が愛らしく、重厚な芝居の中で野に咲く一輪の花のような癒やしの存在となっていた。
ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』舞台写真
アンジェロが大学で所属するのは、フィレンツェ出身の学生たちによるフィオレンティーナ団。信頼の厚い団長ジョヴァンニ・デ・メディチ(風間)、その取り巻きのドラギニャッツォ(近藤)、何かとアンジェロの世話を焼いてくれるロベルト(木戸)らが青春群像劇を盛り上げる。また、ピサの大司教でありながらもチェーザレを支援するラファエーレ・リアーリオ役の丘山は、コミカルな演技を織り交ぜながら華やかな存在感を放っていた。
チェーザレが生まれる約200年前を生き、彼の思想に大きく影響を与えた重要人物であるダンテ・アリギエーリとハインリッヒ7世。二人は登場シーンこそ決して多くはないものの、強烈な印象を残していった。ルネサンスの先駆的存在の詩人・哲学者・政治家のダンテを演じた藤岡は、情念のこもった迫真の演技で客席を圧倒。ダンテが信頼した神聖ローマ帝国の皇帝ハインリッヒ7世を演じた横山は、神々しい歌声を劇場中に響かせた。時空を超えて彼らとチェーザレが存在する空間を生み出せるのは、ミュージカルならではの醍醐味かもしれない。
ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』舞台写真
時の権力者を演じ、本作の芝居に重厚さを持たせていたのは、ロレンツォ・デ・メディチ役の今、ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ役の岡、ロドリーゴ・ボルジア役の別所らベテラン役者陣だ。絢爛豪華な衣装を着こなし、熾烈な権力争いを繰り広げる様はそれぞれに違った迫力がある。特に、各々のソロ歌唱シーンや、敵対し合うジュリアーノとロドリーゴが対面で火花を散らすシーンは見応えも聴き応えもたっぷりだ。
島健が手掛ける音楽は、優美な旋律にうっとりしたかと思えば、ロックやダンサブルなナンバーが登場し、時にヨーロッパ諸国の情緒を感じる音楽が取り入れられるなどとにかくバラエティ豊か。いい意味でミュージカルらしく、明治座初のオーケストラ・ピットを使った贅沢な生演奏を存分に堪能することができる。
ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』舞台写真
上演時間は1幕75分、休憩30分、2幕90分の計3時間15分。東京・明治座にて2月5日(日)まで公演が続く。明治座が総力を上げて臨む壮大な歴史ミュージカルを、その目で確かめてほしい。

取材・文=松村 蘭(らんねえ)

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