坂本真綾『火狩りの王』公開直前イン
タビュー「押井さんから「俺のこと覚
えている?」と話しかけてくださった
んですよ」

日向理恵子のハイ・ファンタジー小説を原作に、2023年1月より放送・配信されるWOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』は、監督に西村純二、構成/脚本に押井守、そして他スタッフもアニメ業界における歴戦の猛者たちが名を連ねる作品だ。
SPICEでは要注目である本作にて明楽(あきら)役を演じると同時に、エンディング主題歌「まだ遠くにいる」を担当する坂本真綾にインタビューを決行。『火狩りの王』という作品への印象や、主題歌制作の背景、そして押井守氏との再会エピソードに至るまでを訊いている。
すでに公開された綺羅(きら)役の早見沙織、炉六(ろろく)役の細谷佳正へのインタビューとともに楽しんでほしい。
■作詞作業をしていた時は、自分が出演することになるなんて思っていなかった
――まずは『火狩りの王』という作品に携わることとなった経緯から伺えればと思います。坂本さんは本作において、出演と主題歌を担当されていますが、決まったのはどちらが先だったのでしょうか?
主題歌を担当することが先でした。作詞が終わった段階で「明楽役の候補として挙がっているんです」というお話をスタッフの方から伺って、その後正式に出演オファーをいただくという流れでした。
――ホームページに寄せられているコメントに、原作を読まれたという話も書かれていましたが、いつ頃読まれたのでしょう?
主題歌の制作を行うために読んだので、出演が決まるより前ですね。当時は自分が声優として本作に関わることになるなんて思ってもいませんでした。
――原作を読まれた印象はいかがでしたか?
もう夢中になってしまって一気に読み切ってしまいました。序盤は全く違う場所にいる灯子と煌四が交互に描かれて、この二つの物語がどこでクロスするんだろうかということにワクワクしました。そして出会ってからの展開が……この先はネタバレになってしまいますね。とにかく読む手が止まらなかったです。
――世界観もまた魅力的だったかと思うのですが、いかがでしたか?
和服に似た服装、どこかで聞いたことのある方言、歴史を感じる街並み、まるで昔話のような趣がある。でも、そこで描かれるのは過去に最終戦争を経験した世界……。過去と未来が入り混じったようなあの場所は、私たちの未来を予見しているかのように感じさせるんですよね。すごく不思議な感覚に陥らされました。
――確かに、SFっぽさもありながらも、身近さも感じさせられますよね。それがいかに映像になるかも気になるポイントだったのではないでしょうか?
原作が小説ということもあって、文字情報からでは追いきれないところもありますし、やはりそこはすごく気になりました。どんな景色の中で、キャラクターたちはどんな表情をしたのか、そこは映像にならないと味わえませんから。
――原作小説からどのようにアニメ化、映像化されるのかは気になるところですよね。ではこのシーンの映像化が特に楽しみ、というところはありますか?
多くの人たちが一斉に動くアクションシーンが楽しみですよね。そこの動きは文章だけでは追いきれませんから。
■普通の少女らしさと火狩りとしての強さ、その両方を持っているのが明楽の魅力
――再びホームページに書かれていたコメントの話になってしまいますが、坂本さんが一番好きなキャラクターはご自身が演じる明楽ということでした。
どのキャラクターも好きなんですけどね(笑)。明楽には共感する部分が多かったといいますか……。私が『火狩りの王』を初めて読んだ時点で、それなりの年齢だったので、同じ大人である明楽に自然と感情移入して、思いれが強くなった感じです。もっと若い時に読んでいたら灯子のことが一番好きになったかも、とは思います。
――明楽は大人の女性ですよね。では明楽のどんなところに魅力を感じているのでしょうか?
普通の少女の部分と、火狩りとしての強さとワイルドさ、その両方を持っているところですね。あとは誰に対しても態度を変えることがなく、オープンに接するところなんはかも素敵だと思っています。
――確かに人との接し方も魅力ですよね。他のキャラクターとの関係性からもその魅力は感じますよね。
狩り犬であるてまりとの関係性もすごく素敵ですよね。あとは、物語の中で描かれる彼女の家族を想う気持ちもすごく惹かれるものがある。その辺りは是非放送をチェックして欲しいです。
――明楽を演じるうえで、若林音響監督からのディレクションで記憶に残っているものはありますか?
明楽が登場したばかりのシーンの時に、音響監督の若林和弘さんから「賢すぎる」と言われたのはすごく印象的でした。じっくり考えて発言するのではなく、もっと思ったことをズバズバ言っている感じを出してほしい、もっと反射で喋っている感じを出してほしいと。
――なるほど。坂本さんと若林さんの明楽像に違いがあったと?
私自身、先に原作を全て読んでしまっていましたからね。後半の、この物語を通じていろんな人と出会った後の明楽を思い描いて演じてしまった。若林さんからも「物語を先読みしすぎないで、今この瞬間の明楽を感じて」と言われて、確かにそうだと反省しました。
■『火狩りの王』を通じて、押井守さんとは初めてゆっくり話ができました
――本作では構成/脚本に押井守さんがクレジットされています。坂本さんは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』以来ですよね?
そうなんですよ。あれ以来ご縁がなかったので、こうやって久々にご一緒できたのは光栄でした。長く声優を続けてきてよかったとすら感じましたね。
――押井さんの作品に出演することはどこか特別感があった?
ありました。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』では一言二言しか喋っていない、にも関わらず世界中の人が私のことを「あの声の人だ!」って把握してくれているんですよ。本当にインパクトがある作品だったんだ、改めてそう感じていますから。
――『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が坂本さんにとって名刺がわりの作品となっているということですね。押井さんとは出演以降お話をするタイミングはあったのでしょうか?
全くなくて、もう私のこと忘れられているんだろうな、そう思いながら過ごしていました。それが今回久々にお会いしたところ、押井さんから「俺のこと覚えている?」と話しかけてくださったんです。そして、作品を制作していく中でゆっくりお話する機会も作れたんです。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の頃はきちんとお話もできなかったので、すごくいい機会をいただけたと思いましたね。
――『火狩りの王』に関わることで押井さんとゆっくり話すことができたと。
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』に出演した頃は私はまだ中学生でしたから。押井さんも、何て話しかけていいかわからなかったでしょうし、私も何を話していいかわかってなかった。ほぼ話をしてなかったんですよ。正直なところ、声優として出演したというよりも、作品に運良く紛れ込ませていただいたって印象でしたしね(笑)。
――そんな印象だったとは(笑)。今回演じる明楽と『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』で演じた素子、共通点を感じるところはありますか?
ないですね! 一見どちらも孤高で強い女性に見えるかもしれませんが、内実は真逆のキャラクターとすら言えると思っています。素子は真に独り、対する明楽は一匹狼に見えても実は仲間想いで、仲間に支えてもらっている部分も大きい。根っこのところが全く違うんですよ。強いて言えば戦闘能力の高さだけは共通しているかも、とは思いますけど(笑)。
■主題歌「まだ遠くにいる」制作、テーマ決めが難航したその理由は……?
――ここまで『火狩りの王』という作品についての話を伺ってきました。主題歌「まだ遠くにいる」のお話も伺えればと思います。本楽曲はどういった切り口から制作しようと考えたのでしょうか?
まず考えたのが、『火狩りの王』の登場人物たちが生まれた世界で必死に生きる姿を描写したいということ。ただ、ここが決まるまでかなり悩みまして……。
――最初のテーマ決めが難航した。
そうなんですよ。何せ『火狩りの王』ってテーマがすごく壮大じゃないですか。どうしても曲の切り口も壮大にならざるを得ない。でも、そこを突き詰め過ぎると聞いた人が共感できない歌になってしまうんですよね。そこのバランスが難しかった……。作品に寄り添って、その上で聞いた人が共感できる、そのギリギリのバランスを見極めないといけませんでしたから。
――その苦悩の結果できたのが今回の楽曲ということですね。坂本さんは作詞も担当されていますが、苦悩の末、最初に浮かんだフレーズはどの部分だったのでしょうか?
「生まれた時代を生きるだけ」という部分ですね。こここそが「まだ遠くにいる」のテーマ全体を示しているように思います。今の時代を生きる私たちも、『火狩りの王』の世界ほどではなくても、生きづらい世界を生かされている。生まれた環境を嘆くことなく、その場所でいかに咲くかを考えて生きてほしい。そんなメッセージを込めています。
――壮大かつ、身近なテーマですね。そんなテーマにぴったりの曲もつきましたが、こちらはどのようにオーダーされたのでしょうか?
世界観に沿った壮大でクラシカルなサウンド。そして、途中でガラッと展開が変わってほしい。そんな内容でオーダーをしました。この『火狩りの王』の世界を描くのにポップな印象は合わないと思いましたから。
――なるほど。そんなオーダーした内容をもとに曲が完成したと。
もうオーダー通りで。ただ、一つ困ったことが……この曲すごく難解でして。「これ、本当に私、歌えるの……?」と思ったんですよね。
――坂本さんが歌える自信がなくなるほど難しい曲というのはすごいですね。
もうすごいんですよ。ブレスのタイミングはないし、音の飛び方もすごい。人間が歌うようにはできていないと言いますか……。既にライブでも披露しているんですが、自分で満足できるレベルに歌えるようになるまであと2年はかかるかな、なんて思っています。ただ、この人間離れした感じが『火狩りの王』の独特な世界観ともマッチしている気もして、歌えるようにするしかないなって感じもあるんですけどね(笑)。
――難しさをクリアしていくだけの価値はあると。そんな本楽曲が『火狩りの王』という作品の終わりに流れる、これはすごく印象的な演出になりそうです。
アニメのエンディングってしっとりした曲が多い、私が担当している曲は特にその傾向が強いんです。でも、「まだ遠くにいる」はしっとりと始まりながらも、最後は壮大に締めくくられる。アニメ全体の締めくくりがこの壮大なサウンドになるのはすごく新鮮だな、そう思っていますね。
――エンディングの演出含めて『火狩りの王』、見逃せない作品となりそうです。では最後に本作はどんな人にオススメしたいですか?
もう老若男女全ての人にオススメしたいです。どんな人から見ても感じるところのある作品になっていると思いますから。もちろん原作を読んでいない人でも楽しめる作品になっていますし、作品を読んだ人には「あの作品がこんなビジュアルで!」という感動を与えられると思っています。是非とも放送をお楽しみに。
インタビュー・文=一野大悟 撮影=池上夢貢

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