映画『窓辺にて』主題歌など収録、ス
カートの最新アルバム『SONGS』に光
る極上のポップミュージック魂

音楽ファンはもちろん、映画監督やミュージシャンたちからも熱烈なラブコールを集めるシンガーソングライター、澤部渡のソロプロジェクト、スカートが約3年半ぶりとなるオリジナルアルバム『SONGS』を発表。今作には、映画『窓辺にて』の同名主題歌の他、ドラマ『絶メシロードSeason2』の主題歌「架空の帰り道」、テレビアニメ『オッドタクシー』OP テーマ「ODDTAXI feat. PUNPEE」など、数々のタイアップ曲を収録。来年3月には待望のアルバム・ツアー『スカートライヴツアー2023 “SONGS”』が東名阪にて開催。公演への期待も高まる中、極上のポップ作品が収録された『SONGS』に貫かれたその揺るぎないポップアートの魂について話を訊いた。
スカート
■これはもう、絶対『SONGS』
ーー今回の『SONGS』というアルバム・タイトル、まるでスカートの本質を表現したかのような言葉ですね。
実はタイトル決めることが本当に苦手で。一言でまとめるのは難しいんですよね。かと言って、長いタイトルだと意味を限定していかざるを得なくなっちゃうのかなとか、いろいろ考えてしまって(苦笑)。とくに今回のアルバムは、タイアップ曲がとても多くかったのと、音源制作と同時に、ジャケットの方の制作も進行しなきゃいけなかったという事情もあり、「とりあえずアルバムのタイトル決めなきゃなんない!」みたいな感じだったんですよ。その時点では、いろんなタイプの曲をひとつにまとめたという意味で、『SONGS』とタイトルをつけたんです。もちろん、アルバムのキッカケとなった「海岸線再訪」や「駆ける」とか、アルバムの軸になる「窓辺にて」のような曲のイメージは自分の中にあったんですけど、印象の異なる曲がたくさんあるアルバムを、例えば「窓辺にて」という一言じゃ言い切れないなっていう気がして。なので当初はもっとこう、抽象的な言葉というか。何とでも言えるタイトルにしたいな、という気持ちがどっかにあったんです。
ーーそんな葛藤が想像つかないほど、通して聞くと一枚のアルバムとしての一貫した世界観が感じられるというか……。
僕もそう思いました。アルバムとしてこうもまとまったか、という奇妙さが自分の中にあり「なるほどこれはもう、絶対『SONGS』だな」と感じました。
ーータイアップ曲であっても、ここ1~2年の澤部さんの心境が詞曲のどこかに反映されているからでしょうか?
それはもう、アルバムとしてまとめるんだと意識しながら作っていたからかもしれないですね。もちろん、最近の心境に関しては多少は反映されているとは思いますけど、正直、コロナ禍で傷ついた俺を見てくれ、みたいな感覚はとてもじゃないけど持ってなくて(笑)。自分自身の心境は全体の1割ぐらいにしてますね。
■『窓辺にて』は、物語の最後に何を添えるか?
スカート
ーー例えば、映画『窓辺にて』の主題歌はどんなことを心がけて制作されたのですか?
映画の主題歌は、物語の最後にかかることが多いですよね。だから「その物語の最後に何を添えるか?」みたいなことは考えますね。「窓辺にて」の場合だと、物語というよりは、主演の稲垣吾郎さんの佇まいみたいなものに向かって投げかける……みたいなことはしたつもりです。『窓辺にて』という作品自体、見た人によって結構、捉え方が違う映画だと思うんですよね。だから、それに寄り添えるように努力したって感じなんです。
ーーそれぞれの捉え方に寄り添う……。悲惨な終わり方をした映画でも、最後に流れる曲に気持ちが救われることがありますもんね。
そこは視覚を伴わない音楽の強みでもありますからね。例えば、『時計仕掛けのオレンジ』の最後に「雨に唄えば」がかかるみたいな、ああいう痛烈なこともできるし。
ーー確かに! 『窓辺にて』の主題歌は、今泉力哉監督から何かリクエストがあったのですか?
具体的にはなかったですね。澤部さんのこういう曲が好きで……みたいな打ち合わせもあるんですけど、今泉監督は、とにかく映画を観てもらって、それに対して書いてもらえればという感じで、かなり自由にやらせてもらいました。あ! もしかしたら打ち合わせのメモがあるかも……(バッグの中からノートを取り出して)。監督にはまず、エンドロールが具体的に何分になるかとかを聞いていますね。あとは、早過ぎずゆっくり過ぎずとか、そういう塩梅を聞いたりして。その映画で監督がどういうことを伝えたいのかも聞きますけど、今回は、映画がこういう内容だからこういう言葉を書こうとは思わなかったはずです。なんかもっと俯瞰した物に出来ないかなと思ってましたね。普段だと、それこそセリフから何か一つヒントをもらったりすることもあるけど、「窓辺にて」という曲はそうじゃないやり方をしました。
■漫画が歌詞のモチーフになることは多い
スカート
ーー澤部さんはポップミュージックであるために、楽曲の長さを短くすることを心がけていらっしゃるそうですね。歌詞の言葉数をすごく厳選されているのも同じ理由から?
それは本当に個人的な好みの話なんです。すごい上手に歌詞に起承転結をつける方もいらっしゃいますよね。それはそれで僕もすごい好きな作品がたくさんありますし、キリンジさんとか、さだまさしさんとかもそうだろうし。ただ自分の場合はそういう、歌の中で物語を作る、みたいなのではなく、その起承転結のどこかを切り取ったような歌詞にしたいとは常々思ってますね。
ーー「海岸線再訪」や、ドラマ『絶メシロード』の主題歌「標識の影・鉄塔の影」のように、一人称が使われてない歌詞が多いのも具体性を避けるためでしょうか?
そこはあんまり気にしたことなかったですね(笑)。ただ、僕が! 僕が! みたいなのが全然なくて。なんかよく、スカートが好きな人に話を聞くと、「何かいいとしか言えないんだよね」という(笑)。具体性を欠いてるかもしれないけど、でもそれは、個人的には成功してるなと思うんですよ。
ーーかと思えば、「粗悪な月あかり」の<時間をかけて/台無しにするにはどうすればいい?/僕らは ここにいるのを/選んだはずだった/諦めではない>というフレーズみたいな、ぞくっとする言葉が歌われたりもするわけですよね。
個人的には全部フィクションだったりはするんです。例えば、「粗悪な月あかり」は市川春子さんという漫画家さんの『日下兄妹』を読みながら書きました。漫画が歌詞のモチーフになることは多いですね。僕の好きなミュージシャンもやっぱり漫画好きな人が多いみたいで。それこそ、はっぴいえんどあがた森魚さんが林静一さんにジャケットを描いてもらうとか、何かそういうのが僕の根底にあるんだと思います。
■名前のない感情を呼び起こす曲
スカート
ーー今作に新たなアレンジバージョンが収録されているアニメ『オッドタクシー』のテーマ曲「ODDTAXI feat. PUNPEE」もそうですが、スカートは共演のオファーも多いですよね。澤部さんはその理由を、ご自身でどんな風に考えてますか?
頼みやすいんですかね(笑)。ただ、こういう音楽をやってる人があんまりいないからだといいな、とは思ってます。こういう、極端なまでに派手な装飾をしていない曲というのも本当、珍しい気がするので。もしそういうところに共鳴して声をかけてくださってるんだとしたらいいな、とは思ってますね。なんかちょっと変な言い方なんですけど……自分がポップミュージックに何を投げるか、ということはすごく考えるんです。自分の中ではやっぱり、ポップミュージックはある意味で百面相的というか、ああいう派手さとはちょっと違うかもしれないですけど、そういうものでありたいなと。ただ、こういうやり方だとどうしてもカリスマにはなれないじゃないですか(笑)。
ーー確かに(笑)。ただ、澤部さんもお好きな、ポップとカリスマの両方を実現しているスピッツみたいな稀有なバンドもいますからね。
そうですね。スピッツは異形のカリスマだと思います。実は際どい言葉だったり表現を歌ってるのにみたいなことを隠せたり、何でもないように見せることが出来るのも、やっぱりポップミュージックの醍醐味だと思います。
ーー『SONGS』も、さりげなく実験的な試みが満載されたアルバムですよね。先程例に挙げた「粗悪な月あかり」も、中盤のソウルミュージック感のある洒落たギターソロも、微妙にズレながら歪んでいったり……。
「粗悪な月あかり」は自分の中でも結構変な構成をしていますね。大サビも変なところ飛ぶし、それちょっといびつなことをやってたりはします。
ーーそういったさり気ない違和感って、生きている上でも感じるものであって、スカートってそういう、見過ごしそうな感覚を音楽で代弁してくれているようなとこがあるかもしれない。
そうだといいなと思いながら作ってますね。僕やっぱり、何も名前がついてない感情を、どうにか呼び起こさなければという気持ちで曲を作ってます。
■ツアーでは『SONGS』はもちろん、『アナザー・ストーリー』の楽曲も
スカート
ーーそんなスカートの世界が堪能出来るアルバム・ツアー『スカートライヴツアー2023 “SONGS”』はどんなツアーになりそうですか?
『SONGS』の楽曲は全部やりたいと思ってます。あと、2020年の12月に出た前作『アナザー・ストーリー』の時に各地を回るツアーができなかったんで、今回のツアーでは、『アナザー・ストーリー』の楽曲もやれたらなとは思います。
ーー濃密な時間が楽しめそうですね。さりげなくいびつなことにチャレンジしながら、スカートはこれからもポップミュージック、ポップアートであり続けたい?
僕は、音楽というのはやっぱりポップアートだと思っている節があって。わかりにくいことをいかにわかりやすく、わかりやすいことをいかにわかりにくく見せるか!?みたいなね。そういうことはやってるつもりです。おかげで、いまだにスカートって、カルトなのかオーバーグラウンドなのか、アンダーグラウンドなのかカウンターカルチャーなのか……そこのどこにもまだ収まれてない気がしたまま、12年経ってしまったという気がしています(笑)。それがこうやってポニーキャニオンさんというメジャーなレコード会社でやらせてもらっているというのは、本当に文化的にもめちゃくちゃいいことだと思ってます。
取材・文=早川加奈子 撮影=高村直希

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着